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第48話(依頼達成/やさしい闖入者5/ペアリング)

[四十八]


 アスピスが発する低気圧により二日間も不機嫌な空気で包まれた馬車を走らせ、ようやく王都に到着する。

 王都に入る直前で、みんなは馬車を下りると、アネモスとエルンストに馬車をしまってもらい、それから冒険者ギルドに向かって行った。

 受付窓口で、トロコスに押してもらった拇印を見せ、カロエは任務の完了を報告をする。その間に、エルンストは地下へ行き、一回目の野営で遭遇した魔物たちを倉庫へ放り込んでくる。

 そして、残りの3人と1匹はイートインコーナーにて、座って待っていた。

「アスピス、足の具合はどう?」

「まだちょっと攣る感じがあるけど、かなりいいよ」

「そう。ならよかった。でも、無理は禁物よ」

「うん」

 フォルトゥーナの忠告に素直に頷くと、アスピスは買ってもらったジュースを一口飲み込む。

「それにしても、今回はあたしのせいで帰って来るのが延びに延びちゃって、本当にごめんなさい」

「あら? なに謝ってるの。治せる部分は治さないとでしょ。せめて、王城へ歩いて行けて、王城内を歩き回れるくらいには治るといいわよね」

「うん。それが理想かな。それくらい歩ければ、買い物だって自分の足でできるようになるし」

「いい笑顔だわ。私は、アスピスのそんな笑顔が見れて嬉しいわ」

 ねぇ、レイス。と、同意を急に求められ、レイスは慌てて頷いた。

「そうですよ。アスピスの笑顔は最高ですからね」

 にこりと笑い、さも当然のことを言ったように告げてくるレイスへ、フォルトゥーナが軽く足を動かして、レイスの足を蹴飛ばした。

「まったく。私の周りにはアスピス至上主義者しかいないんだから。失礼しちゃうわ」

「そんなことありませんよ。フォルトゥーナだって、すごく素敵ですよ。と言いますか、もう少し自身が周りにどう見られているか自覚をもって欲しいくらいですよ」

「お世辞も行き過ぎるとダメね」

「本気なんですけど」

 レイスの台詞に、肩をすくませるフォルトゥーナを前に、レイスは困ったように苦笑する。

 そんな会話をしていると、カロエがエルンストと共にみんなの元へ戻ってきた。

「これが、今回の報酬と魔物退治の謝礼金なんだけど」

 みんなの前に置かれたのは、小さな小袋ひとつであった。

「今回は、オレの我が儘に付き合ってくれて、本当にありがとう。足が出ちゃってるけど、これを4人で分けてください」

「なに言っているの?」

「だって、費用の方が高くついただろ。だから、オレの分はいらないから」

「いいえ。そうじゃないわ」

 フォルトゥーナはそう言うと、小袋を手に取り、カロエの手を掴むと、その上に小袋をとんと乗せた。

「今回のこの報酬は、あなたが得たものよ。カロエのおかげで、トロコスさんの素敵な笑顔をみせてもらえたもの。それが、私たちが得た報酬よ。それに、アスピスの足も治療してもらえたのも、カロエがこの依頼を受けてくれたからじゃない」

 なにを卑屈になっているの。と、フォルトゥーナは笑みを深める。

「でも、それじゃあ。せめてみんなで」

「女の子の気持ちを汲んであげたのも、トロコスさんを笑顔にしたのも、カロエでしょ。たまには自分の功績をちゃんと認めてあげなさい。戦うことだけが依頼じゃないの。こういう些細な、だれも見向きもしないようなものも、立派な依頼なの。それを引き受けてあげようっていう優しさをもっているカロエは、私たちパーティの自慢よ」

「ありがとう!」

 フォルトゥーナの台詞に、カロエの瞳が大きく輝く。

 カロエの素直さは、おそらくカロエにとって一番の長所なのだろう。

「みんなも、それでいいでしょ」

「うん。あたしはみんなに治療費まで出してもらってるし」

「俺もそれでかまわねぇよ。カロエがどうしても受けたいって言って、手にした依頼だ」

「みなさん、カロエのために本当にありがとうございます」

 それぞれ言いたいことを口にした結果、フォルトゥーナの意見に反対する者がいないことが分かった。

「じゃあ、決まりね」

 あっさりとフォルトゥーナはそう言い切ると、話はこれでお終いだという仕草を繰り出す。

 そして、それと同時に席を立つ。

「今日は、これで帰るわね」

「あぁ、今回は長いことお疲れ様だったな」

「たまにはいいんじゃない、ゆっくりできて。花祭りも綺麗だったし」

 フォルトゥーナはそう告げると、それじゃあお先にと告げて、冒険者ギルドを後にした。

 それから、アスピスがジュースを飲み終わるのを待って、残る4人と1匹も帰路についた。



 帰宅する途中、エルンストが寄るところがあると言い、一度別れ。みんなが帰宅してから、一時間くらい遅れて帰ってきた。

 お土産に、ケーキを買ってきたそうだが、一番喜ぶアスピスが部屋へ籠っていることで、アイテムボックスの冷蔵棚にしまっておくことになったそうである。

 その後、いつものように夕食を摂り、みんなで片づけを済ませると、アスピスは入れてもらったコーヒーを手に、2階へ戻って行った。

 馬車で移動していた2日間読めずにいた、本の続きが気になって、部屋に閉じこもって本を読んでいるのである。

 アスピスにとって、恋愛小説とは、ファンタジーの世界であった。

 意味不明な単語や表現が大量にある中、適当に想像して埋めながら、読み進めていくのが意外と楽しいと思っていた。しかも、先日フォルトゥーナからシリーズ一式をもらい受けたばかりで、読む本は大量にあるのだ。時間がいくらあっても足りないくらいである。

 そんな事情も重なり、時間も遅くなってきて、部屋の電機が付いていたら怒られそうな気配が漂い始めたことで、窓を閉め。カーテンを閉じ。サイドテーブルにまだ残っているコーヒーを移し、部屋の電機を消す代わりに、ベッドサイドのライトを点けると、ベッドの上に腹ばいになって本を読み続けた。

 そのまま時間を過ごすこと、どれくらい経っただろうか。出し抜けに、部屋の扉が静かに開かれあた。

(えっ!)

 心臓がドキンと大きく高鳴る。悪いことをしている自覚があったためである。

「お前、いい加減にしろよな」

「なんで分かったのよ」

「カーテン閉めていても、光りが洩れるんだよ」

 残念だったな。と、エルンストが勝ち誇った顔で、部屋の中に入って来る。

「ガキはもう寝る時間だ。本の続きは明日にして、さっさと寝ろ」

「えー。今いいところなのに」

「不満を言う口は、これか?」

 右手の指で口角の左右を捕らえ、エルンストはむにゅりと口角を押すことで、アスピスの口を尖らせる。

「もう、なにすんのよ。レディに対して」

「レディが、パンツ丸出しで、腹ばいに寝転がるもんなのか?」

「え?」

 まだ寝着に着替えておらず、膝丈のワンピースだったのも災難のひとつであった。

 本を読みながら、無意識に足をばたつかせていたことで、スカートが大きくめくれてしまっていたらしい。

 慌てて下の方を見ると、ウサギの柄が一面に描かれているパンツが見事にまるだしであった。

「あ、本当だ」

「じゃねーだろ、しまえよ」

 自身のパンツを見つめつつ、感心していたら、エルンストがワンピースの裾を掴み取り、膝上へと戻していった。

「レディなんだろ、もうちょっと羞恥心をもてよ」

「や。うっかりしてて」

 笑って誤魔化そうとして、誤魔化されてくれないのがエルンストである。

 そんなエルンストに茶々をいれようと、アスピスは悪戯心を発揮する。

「襲わないでね」

「あほか! あんなでかいウサギ柄のパンツ丸出しの奴相手に、襲う気になるかよ」

「えー、可愛いじゃん。猫柄とか犬柄もあるんだよ」

 動物柄のシリーズなのだ。ついでに、アスピスのお気に入りでもある。

 そのため、エルンストの失礼な発言に対して言い返すと、エルンストが嘆息してみせた。

「頼むから、襲いたくなるくらいには、恥じらいを持つようになってくれ」

「えーッッ。12歳を襲うの?」

「言い方が悪かった! レディと呼ぶのに相応しい、恥じらいを持ちやがれ」

 アスピスの悪ふざけに、付き合ったのが悪かったと、エルンストは瞬時に反省しているようであった。言下にお尻を叩かれてしまう。

「痛いなぁ。お尻を叩くなんて、失礼でしょうが」

「ガキが悪さしたら、叩くのは尻なんだよ」

「もう。子供扱いしないでくれる?」

 叩かれたお尻を擦りつつ、アスピスは本を開いた状態のまま枕元において、ゆっくりと上体を起こしてベッドの上に座り込む。

「なんで、そう。すぐ子供扱いするのよ」

「子供だからだろ。っつーか、さっき自分でも自分は子供だって認めたばっかじゃねぇか」

「えー? いつ」

 記憶にないなぁ。と、首をかしげるアスピスに、エルンストは首を伸ばして耳元で低めの甘ったるい声音で囁いた。

「12歳を襲うな、つったのお前だろ」

「うっ……」

 その発言に関しては身に覚えのあったアスピスは、一瞬言葉を失わせつつ、エルンストの息が流れ込んできた耳元をこそばゆそうに手で押さえる。

「そーゆー意地の悪い真似、しないでよ。くすぐったい」

「女くどくのに有効な方法だろ、今のは」

「口説いているように、全然感じられないし」

「マジ口説きなんてしたら、逃げ出すだろ。お前」

 唇を尖らせ文句を言うと、エルンストがおかしそうに笑い出す。そして、ズボンのポケットから箱を取り出すと、アスピスの左手を手に取りながら、アスピスの傍らに腰を落とした。

「なに?」

「やっと完成したから、交換しとこうと思ってな」

「交換って?」

 エルンストはそれに答えることなく、その代わりというように右手で器用に箱を開けると、中に同じ形をしているリングふたつ並んで入っていることが分かった。

「ギルドで買ったやつじゃ、他の奴と区別つかねぇし。なにより、ひとつだけ形が違うせいで目立っているシエンのがむかつくからな。俺も特別注文を出してたんだよ」

「なに無駄遣いしてんの?」

「無駄遣いじゃねーよ。必要経費だろ」

 そう言いながら、アスピスの左手の薬指からリングを外すと、箱から取り出した細やかな装飾が施された、高そうなリングをアスピスの左の薬指に差し込んできた。

「改めて、申し込むけどさ。お前が成人したら、結婚しようぜ」

「……」

「おい、返事は?」

「催促されたって。だって、エルンストには……」

 フォルトゥーナがいるじゃないか。と、思ってしまう。2人には、是非うまくいってもらいたいと思っているのだ。

 そんなアスピスの飲み込んだ台詞の内容を、即座に察したようで、エルンストは長嘆する。

「お前さぁ、妬くくらいなら、素直になっとけよ」

「だって、だってだよ……」

「俺はちゃんと何度も言っているはずだぞ、お前一筋だって。ずっと待っていたって」

 焦れるように告げてくるエルンストに、アスピスはちょっぴり唇を尖らせた。

「嘘つき」

「なにが?」

「騎士学校で、モテるのをいいことに、かなり遊んでたみたいじゃん。フォルトゥーナがいるっていうのに」

「あー……、あれは若気の至りっていうか。年頃の男として、色々とあったんだよ」

 やはり、思い当たる事柄があるようであった。レイスでさえ同じことを言っていたし、騎士学校に通うということは、ある種のステータスで、本当に女性にモテるようである。

「でも、そーゆーのは一応、卒業と同時に終わらせたし」

「絶対、嘘でしょ。エルンスト、今だってモテてるじゃん」

「そーゆーのには手を出してねぇつってんだろ。っていうか、お前ってば案外こだわるな」

 エルンストがアスピスを説得しつつも、呆れたように告げてきた。

「だって、遊び人と結婚したら浮気されまくり、みたいな話があったんだもん」

「は? なに? 小説にか?」

「うん」

「お前、もう。その、なんてーの。くだらねぇ恋愛小説なんて読むのをやめろ。つか、読みたいなら精神年齢がもっと上がってから読めよ」

 非常に迷惑だと、エルンストはアスピスの楽しみを思い切り否定してみせる。

「とにかく、一度は承諾したんだから、さっさと承諾しろよ。一点もんで、シェーンとイヴァールのリングと同等くらいには高価なもんなんだから、無駄にすんじゃねぇよ」

「は? なに、なんでそんな無駄に高そうなの作った訳?」

「うるせぇなぁ。いいだろ、一生もんなんだから」

「浮気症のうえに、浪費家って……」

 イライラし始めたエルンストを無視し、アスピスは恋愛小説で読んだ話を頭の中で巡らせる。それがバレたようで、右手で頭を叩かれた。

「痛いなぁ」

「必要経費だつってんだろ。それに、生活費はちゃんと入れてるし、これに金をかけたところで金が底をついたわけでもねぇよ。普段、ほとんど金なんて使うようなことしねぇから、こういうことになら使っていいかって思ったんだろ」

 何故にこんな説明を、12歳の少女相手に真剣にしなければならないのだろうか? という心境になりながら、エルンストはアスピスの説得に苦労する。

「まぁ、エルンストならそうだろうな。とは、思ったんだけどね」

「だったら、いいから、さっさと了承しろよ。結婚したら、浮気もしねぇし浪費もしねぇから」

「そうなんだろうけど……」

「未だなんかあるのかよ」

 いい加減に観念してくれと思いながら、エルンストが問いかけると、アスピスがエルンストのことを見上げてきた。

「あたしなんかより、お似合いの人、いっぱいいると思うよ?」

「フォルトゥーナとか、か?」

「それもあるけど……」

 まさか、先ほど避けておいた名前を直接口にされてしまい、アスピスは戸惑ように視線をエルンストから逸らしていった。けれどもそれを遮るように、エルンストはアスピスの顎を捕らえると、自身の方へ向けさせて、唇をそっと重ねてきた。

「一途につっときながら、色々とやりはしてたけど、それでも本当に10年もお前のことを待ち続けてきたんだぞ。ようやく直接触れられる距離に戻ってきたんだ、逃がしてやると思うか?」

 ここは押して、押し切ってしまうしかないと、エルンストが行動に出た瞬間、アスピスが何かに気づくようにして、急に腰を浮かして、サイドテーブルの上に置かれたカップの中に左手の人差し指を突っ込み、慎重に動きながら、それをエルンストの唇の上に塗ってきた。

 匂いから、エルンストには、それがコーヒーであることを察したようだが、なにが起きようとしているのかを観察するように、アスピスを見つめていた。

「なんか、分かった気がした」

 そう言うと、アスピスはエルンストの唇を舌で舐めとってみせた。

「うん。コーヒー味だ」

 満足げに笑みを零すアスピスに、エルンストは頭を抱えたくなってきていた。

「あのなぁ」

「ん?」

「っていうか、今の、俺はしたことねぇぞ」

「え?」

「誰にされた?」

 ふと思い出すようにして、エルンストが真面目な表情でアスピスを問い詰めてくる。

「えっと……」

 真剣に見つめてくるエルンストが、急に怖くなり。アスピスは降参するように、左手を掲げながら呟いた。

「認めます。承諾しますからっ」

 だから、それ以上突っ込んで来ないでと思いながら告げた台詞に反応するよう、指輪がアスピスの指の太さに自然と合っていく。

 それを確認したエルンストが、自身の指に差し込んでいた指輪を外し、新たに用意した指輪を差し込むと、自身の指の太さに合うようになったのを確認してから、再びアスピスとの間を詰めてきた。

「とことん、話し合おうか?」

「え?」

「今後、俺以外と絶対にキスしたくなくなるくらい、きちんと話し合おうぜ」

 そう告げると、及び腰になっていたアスピスを両手に捕らえ、力任せに抱きしめながら、アスピスの額に口づけを落としてきたのであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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