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第35話(六聖人のお仕事1/王城)

[三十五]


 日課にしろと言われていたので、朝起きるとまずは寝着からシンプルな膝丈のワンピースに着替え。その後、ポストの確認をすべく、アイテムボックスを開く。そして、『六聖人(赤)』とかかれたアイテムボックスの入り口のすぐ脇にあるポストの中身を確認すべく開くと、中に封筒が入っていた。

「珍しい」

 どこからだと思い、手に取ると、送り主は『王国管理室』となっていた。

 そんな場所があるんだと思いながら、封を開くと、六聖人(赤)としての仕事の依頼内容が記入されていた。

 代理のフォルトゥーナでなく、本物であるアスピスに送られてくるということは、八式使いとして役目を果たせということなのだろう。

 六聖人である以上、代理のフォルトゥーナではなくアスピス宛に、いつかは依頼が来るだろうとエルンストやレイス、フォルトゥーナやシエンに言われていたから、そうなのだろうとは思っていたが、いざその日が来てみると、いつも仕事をしているみんな。特に、散々代理をしてくれているフォルトゥーナには悪いのだが、心の奥底から面倒くさいと思ってしまう。

(我が儘言って、ごめんなさい)

 一応、みんなに対して、心の中で謝りつつ。とにかく、開いたままであったアイテムボックスを閉じ、アスピスは改めて手紙の内容を読み直す。

『アートルムの町の結界棒の秘石への精霊の補充と結界の強化』

 書いているのはそれだけである。そっけない文章だと思いながら、アスピスは全く内容が理解できないことで、みんなに説明してもらおうと、手紙を手にして、一階へと下りて行った。

「おはよう」

「アスピス、おはようございます」

 一階に到着すると、いつも通りにレイスがひとり台所に立ち、朝食の準備をしていた。

 以前、一度、交代制にしないのかと聞いたら、自分は料理が好きだから。笑顔で返されてきたのだけれども、実際のところは、アスピスも含めてみんな料理が得意ではなく。というより、エルンストなどは料理をすることが面倒らしくて好きではないらしく。そんな他人を当てにしたら、なにを出されるか分からないからなのではないかと思った。

 以来、藪蛇になるので、その話題は口にしてはいない。

 ただし、アスピスの場合、料理は下手でも、言われたことを実行するくらいのことはできるので、手にしていた手紙をワンピースのポケットにしまうと、レイスの指示に従う形で朝食の準備の手伝いを開始した。

「はよー」

「おはよう」

 テーブルに朝食が並ぶころ、カロエとエルンストが下りてくる。

 そして、それぞれの席に腰を落とすと、レイスはパンをアイテムボックスから取り出し、中央へ置くと、それぞれにスープをよそい、自身も席に着く。それにならって、アスピスも、急いで席に座った。

 今日は、四角く細長いパンを、専用の包丁で食べられる厚さに切り取るパンを選び、木の台の上で適当な厚さに切ると、大きい方のパンをパン籠に戻して、切り取った方をパン皿に乗せる。そして、中央に並べてある複数あるジャムの中からイチゴのものを選ぶと、皿の端に救い取り、パンを一口大にちぎってはそれを付けながら、食べていく。

 ただし食べ方はそれぞれで、同じパンを選んだカロエは、アスピスとは違うオレンジのジャムを選ぶと、それをそのままパンに掬い載せると、ジャム用のへらでそれをパン一面に塗り広げ、豪快に食べていく。

 そして、みんなの食事が終わり、後片付けを済ませ、お茶を飲み始めた頃を見計らい、アスピスは今朝届いた手紙をテーブルに広げた。

「これなんだけど」

「あぁ、それ、お前なのか。俺のところにも護衛の依頼が来ていたから、今回の護衛対象者が誰なのかと思っていたところだ」

 ズボンの後ろのポケットから、エルンストは送信元がアスピスと同じ『王国管理室』と書かれている、六剣士(黄)宛に送られてきた封筒を、無造作にアスピスの手紙の上に重なるよう、軽く飛ばしてきた。

「一応は、対となる色の者同士で行動するのが基本らしいが。それは結構前のことで、今じゃ、日ごろ付き合いがある者同士を組み合わせるようにしているみたいだな」

「ですね。おかげで、護衛の依頼の相手がフォルトゥーナの場合が多いですから」

「まぁ、とにかく。アスピスの場合は、まず管理室に行って登録が先だろうな。俺も、依頼の承諾をしに顔を出さなくちゃならねーし、今日にでも行ってくるか?」

 付き合うぞ。と、告げてくるエルンストに、アスピスはなにぶんにも初めてのことで不案内であることを理由に、案内を頼むことにした。

「じゃあ、昼になる前に行ってくるか。つっても、至急の文字が入ってないからな。急ぎって訳じゃねーようだし、まぁ一週間以内くらいには出発してくれって感じなんだろうな」

「でも、この場所って、万障の森の一番近くにある、冒険者が多く訪れることで発達した町ですよね。護衛が一人とは思えませんね」

「そうだな。もしかしたら、ノトスが一緒になるのかもな」

「ノトスって?」

 聞きなれない名前を聞いて、アスピスは首を傾げる。そうするとレイスが笑みを零しながら、教えてくれた。

「アスピスと対となる、六剣士(赤)の方です。時々ご一緒に仕事をするのですが、フォルトゥーナに対する態度を見る限り、やさしく親切な人ですよ」

「そうなんだ」

「あれは、惚れてるからだろ」

 アスピスがホッとしているところで、エルンストが吐き出すように言い放つ。

 なにやら、エルンスト的には気に入らないところがあるらしい。もしかしたら、フォルトゥーナを取られてたまるか的な思考があるのかもしれない。

(レイスや、エルンストの言葉を信じるなら、エルンストにとってフォルトゥーナって妹のような存在らしいし。やっぱり嫌なのかな)

 アスピスとしては、並ぶととてもお似合いのエルンストとフォルトゥーナの関係が兄と妹のようだとは思えない。といより、フォルトゥーナとしてはエルンストのことが好きなのだから、そもそもそんな関係は成立しないのではと思うのだが、フォルトゥーナ当人からは聞きづらいし、レイスとエルンストにそう説得されてしまっては黙るほかないというところである。

(でも、そうか。フォルトゥーナに片想いしている人かぁ。そういう人が必ずいると思っていたけど、対になる人がそうなんだ)

 へー。と、アスピスは感心しつつ、残り少なくなっていたお茶をくいっと飲み干した。



「じゃあ、行ってくる」

「行ってきまーす」

 お茶を飲み終え、王室へ着て行くのに問題なさそうな服に着替え、アスピスが一階に下りてくると、すでに六剣士の制服に着替え黄色を基盤とした六剣士(黄)の剣が収められているという籠手を右手にはめているエルンストが、待っていた。

 そのため、間を置かず、2人は家を後にした。

「コンタクトはしてあるんだよな?」

 王宮内は広いため、薄暗い場所も多くあり、それを懸念してのエルンストの質問に、アスピスは当然とばかりに頷いた。

「もう、付けてるのが普通になっちゃってるよ」

「ならいいが。数は足りてるのか?」

「この間、二箱も補充したから大丈夫」

 エルンストからもらった、肩掛け鞄をポンと叩き、アスピスは傍に寄ってきたアネモスの上に乗り上がる。

 歩調の基準は、エルンストの歩く速さ。アスピスが歩いているときには、アスピスの歩調の速さに合わせとてもゆっくりとなるのだが、アスピスがアネモスに騎乗した状態でのエルンストの歩く速度は、とても速かった。

「今日は、正式な依頼の受理でもあるし。正面から入るぞ」

「えー、そうなの?」

「いや、べつに本当はどっちでもいいんだけどな。今日は正門から入ってもおかしくない用件がちゃんとあるし、たまには正面から入って、門兵にお前の顔を覚えさせていこうかと思ってな」

 エルンストなりのたくらみがあるようで、アスピスは少しばかり不満であったが、ここは素直に従うことにする。

 正直言うと、恥ずかしい気がするのだ。

 それに、正式な六聖人(赤)ではあるが、代役のフォルトゥーナの方が本物として活動しているので、アスピスはその陰に隠れている必要があると思うのである。

 しかし、エルンストは少し違う考えをしているようであった。

「呼び止められたら、封筒を見せろ。中身は見せる必要はない。極秘任務の場合もあるからな、中身をチェックしようとはしてこないから大丈夫だ」

「うん、わかった」

 多少は、アスピスの心配事を汲んでくれていたらしい。アネモスに乗っているアスピスの頭を、ポンポンと緩く叩きながら、いざというときの対応の仕方を忠告してきてくれた。しかも、それで安心できてしまったアスピスは、なんてお手軽なのだろう。と、自分で思ってしまう。

(完全に子供扱いされてるのになぁ)

 それで喜べるということは、やっぱり自分は子供なのだと、アスピスは認めざるを得ない気がした。

そして、貴族街を歩き続けることしばらく。ようやく目の前に王城の正門が大きく開いているのが目に映る。

「いくぞ」

「うん」

 躊躇うことなくまっすぐ進み、正門をくぐり抜けていく。予定だったのだが、杞憂していた通り、アスピスが呼び止められた。

「なんだ?」

「いえ、エルンスト様ではなく。その狼に騎乗している少女の方で」

「ったく。アスピス、封筒を見せてやれ」

 軽く舌打ちするエルンストに言われるまま、アスピスは鞄の中から封筒を取り出した。

「あの、これ……」

「はっ! 失礼しました。王国管理室からの依頼で、いらっしゃったのですね」

 それでは、どうぞ。と、うやうやしく門兵に頭を下げられる中、アスピスはアネモスに乗ったままの状態でエルンストと共に無事に門を抜け、王城の正面玄関へ向かって真っ直ぐに進んで行った。

「そう言えば、噂になってたりするの?」

 城内に入り、少し進んだところで、アスピスはエルンストに確認するよう訊ねる。

「なにが?」

「ほら、仕事さぼって、あたしに付き合ってくれてたこと。カサドールがそんなこと言っていたじゃん」

「あぁ。まぁ、それなりにな」

 エルンストは言葉を濁して、そのまま話をはぐらかせるつもりらしい。そのためか、エルンストが「そんなことよりも」と言いかけたところで、エルンストを発見したらしい乙女集団が、遠くからエルンストのことを見つめ始めた。

「エルンスト様の思い人って、アンリール様の遠縁らしいじゃない」

「えぇ。アンリール様がお預かりになっているそうだから、まだいるんでしょ?」

「え! そうなの? なら、なんで王宮に顔を出さないのかしら?」

「田舎貴族だから、都会の風習を知らないんじゃなくて。壁の花で、挨拶も満足にできない娘だったらしいじゃない」

 嫌味たっぷりに、わざと聞こえるようにして、噂してみせる乙女たちは、エルンストの反応が見たいようである。

 なのだが、隣を見てみると、無表情を決め込んだエルンストがいた。

「いつもこんな感じなの?」

「今日は、ガキとはいえ、女が一緒だからな。嫌味が倍増してるんじゃねーのか」

「なーるほど。子供でも女ならば容赦しないと」

 アスピスは、貴族の乙女というものに対し、考えを改めるようかもしれないと思ってしまう。

「子供相手に嫌味言っても、無意味だって思わないのかな」

「でも、お前なら仕方ねんじゃね」

「なんで?」

「俺の想い人なわけだしよ」

 小声ながらあっさりと言い切ったエルンストは、視線を明後日の方へ向けていく。

「俺は、べつに公にしてもいいんだけどな」

「あたしがよくない! エルンストに片恋している女性らに呪い殺されるわっ!」

「お前なら、鈍そうだし。仮に、気づいたら気づいたで、はじき返しそうだけどな」

 カラカラと笑うエルンストは、どこまで本気なのだろうか。気を許したらいけないと思ってしまう。

 そんな中でも、乙女たちの噂話は、未だまだ続いているようであった。

「そうそう。エルンスト様を個室に連れ込んだ田舎娘だけど、お酒で酔っ払ってしまったそうじゃない」

「王都では赤ちゃんだって、葡萄酒を飲むっていうのに。田舎は違うのかしら」

「抱きかかえられて出て来た時、首にしがみついて離さなかったそうよ」

「まぁ、はしたない。そんな田舎娘のどこに惹かれたのかしら。エルンスト様ったら」

 気に入らない。の一点なのだろう。

 エルンストに振り向いてほしくて、一生懸命に聞こえるように噂話をする乙女たちに、アスピスは少しばかり同情する。

「一瞬でもいいから、彼女らのほうへ振り向いてあげるくらいすれば?」

 笑顔なんて添えたら、それで天国へ昇天してくれそうだと思いながら、提案すると、エルンストが心底から嫌そうな口調で返してきた。

「俺は、お前一筋なの。目の前で浮気まがいの行為なんてしねーよ」

「浮気って……」

 エルンストの言い分に、呆れつつ。ふと、聞こえてきた噂話に引っ掛かりを感じて、エルンストに聞いてみた。

「ねぇ、あたし、エルンストの首にしがみついてたの? 離すもんかってくらいに、強烈に」

「酔ってたからな」

「あー、その節はすみませんでした。って。あれは、エルンストが悪かったと思うんだけど」

「確かに、酒を飲ませちまったのは、俺の失敗だったけどな。大変だったのは本当だぞ。ドレスが暑いって言って、脱ごうとするわ。コルセットがきついって、外そうとするわ。止めるのが大変だったんだからな」

 当時を振り返り、今さらのように、エルンストが責めてくる。

「脱がして、外してくれればよかったのに。酔ってなくても、本当にあの格好って暑くて苦しかったんだから」

「んなことできるか、バカかお前は!」

 正直に感想を述べたら、エルンストに頭を思い切り殴られてしまった。

「痛いなぁ」

「うるせぇ、ガキが。つーか、そろそろ上位職じゃなきゃ入れない区域になるから、余計な声も聞こえなくなるぞ」

 よかったな。と、告げてきたエルンストであるが。本当に良かったと思っているのは、エルンストの方ではないかと、アスピスは思ってしまった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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