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第33話(六聖人のお披露目会1/幻術・肉体変化1)

[三十三]


 温泉から帰ってくるときからずっと気になっていた、ウロークたちの処罰。待ちに待って約一ヵ月。ようやくシェーンから手紙が届き、アスピスの殺害計画を立てていたウロークを筆頭に、脅されたとはいえウロークに協力してしまったシェリスや、ウロークを後ろ楯としていることで逆らえずにいたアンリールの処分を聞きに行き、その結果にアスピスは満足していた。

 当然だろうが、元老院から失脚したウロークは王都からいなくなるというし。なにより、とても気になっていた六聖人仲間のシェリスやアンリールの、おとがめなしとの結果には、内心で諸手を上げて喜んだアスピスであった。

 実際は、クッキーをカリカリ食べるのに忙しくて、それどころではなかったのだが。

 しかも、ウロークが住んでいた邸宅は、過去アンリールの父が所有していた物で、アンリールの後ろ楯になることと引き換えに、そこをウロークが安値で譲り受けたものらしかった。そして、あの地下にあった魔法陣は、アンリールが母親に地下にて閉じ込めれていた時の形跡のひとつだと知らされたのである。

 それが取り壊されると聞いて、アンリールはさぞ嬉しかったことだろう。

 忘れることはできないが、ひとつ、過去の清算ができたと思ったのではないかと、アンリールやシェリスとはまた違った子供時代を送ってきたアスピスは、思ったのである。

 そして、空き地になったその場所は、空いた元老院の席に着くことになった人物が買い取り、新しく豪邸を立てることが、既に決まっているらしい。

 一任すると、ウロークたちの身を託したシェーンから、シェーンたちが出した結果を聞き。その後、自然と耳に入って来る噂を耳にしたりしながら、アンリールの元へ通い精霊使いとしての心得や技術を学んで過ごすこと一週間ちょっと。

 今日はフォルトゥーナも用事があるからと、アスピスはアネモスに騎乗した状態で、2人で並んで王城と向かって行った。

「じゃあ、あたしはアンリールのところに行くから」

 また後で。と、別れようとしたところで、フォルトゥーナに引き止められる。

「あら。久しぶりだもの。私もアンリールに挨拶したいわ。アスピスがお世話になっているお礼も言わなくちゃだしね」

 ビオレータの元にいたときも、年は2つ下だったが、姉弟子で。さり気にお姉さんぶるところのあった、やさしくおせっかいなフォルトゥーナ。10年経ち20歳になったフォルトゥーナは相変わらず、やさしくおせっかいで、姉弟子のままだった。

 そのため、アスピスを妹のように思い扱ってくれているのではないだろうか。最近、とみにそう思えてきていた。

 嫌だという訳ではなくて、こそばゆいのだ。フォルトゥーナの抱く思いやりが深すぎて。

「時間は大丈夫なの?」

「もちろんよ。用事は夕方からだから。今日は、アスピスの上達具合の見学もしたくて早めに来たの」

 にこにこと微笑みながら語ってくるフォルトゥーナを、誰が拒めるだろうか。

 アスピスはちょっぴり照れたようにしながら、フォルトゥーナと一緒にアンリールの部屋へと向かって行った。



 六聖人(青)のアンリールの部屋の前へ到着すると、まずは扉をノッカーで軽くノックする。すると程なくメイドが扉を開けてくれるのである。

「アンリール様、アスピス様とフォルトゥーナ様がいらっしゃいました」

 名前を告げる前に、アスピスは毎日通ってきているし。フォルトゥーナは六聖人(赤)として知られていることから、メイドにはすぐに訪問者が誰か分かったようで、アンリールに2人の名前を伝える。

「あら、フォルトゥーナも? 久しぶりだわ。入ってもらってちょうだい」

 明るい声のアンリール。後ろ楯が、自分の利益のためにアンリールを利用することしか考えていなかったウロークから、両想いの相手であるカサドールになったことで、心の荷が僅かながらでも軽くなったのだろう。

 とても微笑ましいことだと、アスピスは思い、アンリールを好ましく見ていた。そして、温泉から戻ってきて以来という、久しぶりにアンリールに会ったフォルトゥーナも似たような印象を抱いたようである。

 常にうつむき加減で、視線をいつもどこかへ逸らせていたアンリールが、2人を出迎えた際、真正面から2人を見つめたことに、いたく感動したようであった。

「アンリール、お久しぶりです。今夜はよろしくお願いね」

「こちらこそ。今回は、前回から結構時間を置いたから。人がたくさん来るかもしれないわね」

 にこやかに会話を弾ませる2人は、どうやら同じ用事が夕方から入っているらしい。

 そのことで、今日はお邪魔するのを遠慮すべきだったかなと思ったアスピスだったのだが、昨日来た時はアンリールが今日の予定のことをなにも言っていなかったので、仕方ないか。で済ませることにしてしまう。

 それでもやはり。

「ねぇ、アンリール。もし、今日、予定があるなら。今日の練習は止めといたほうがいいのかな」

「あぁ。ごめんなさい、アスピス。つい嬉しくて、フォルトゥーナとのおしゃべりに夢中になってしまっていて」

 アスピスの質問へ、アンリールはハッとするようにして、アスピスの方へ意識を傾けてきた。

 ちなみに、アネモスは最初の数回はアスピスと一緒にアンリールの元を訪ねてきたのだが、城の中は窮屈だと言って、最近では、商人用の門から少し離れたところにある動物小屋にて、珍しいSSランクの魔物。しかも貴重な聖狼の希少種ということで、特別待遇を受けているらしい。

 そんな事情で、アスピスの周りに常に何気なく存在しているアネモスは、この部屋に来る際は存在していなかった。

「ううん。ふたりとも久しぶりの再会だもん。たくさんお話したいだろうし、夕方からは用事が入っているみたいだから。時間があるときに教えてもらうって約束だったでしょ。だから、アンリールの都合を優先してほしいの」

「大丈夫よ。というより、今日は特別授業を考えていたの。だから、夕方からのことを教えておかなかったの。ごめんなさい」

 アスピスが遠慮しようとしていることに、アンリールは慌てたように謝罪する。

 しかしアスピスは、アンリールが口にしたひとつの単語に気を取られていた。

「特別授業?」

「ええ。年に数回ほど不定期に行われるんだけど、今日の夕方から六聖人のお披露目会があるの。もちろん、護衛として六剣士も揃うのよ」

「えー。だったら、やっぱり、あたし帰るよ。邪魔じゃん」

「そんなことないわよ。六聖人や六剣士を見に来るのは王族や貴族や元老院、六賢者たちなの。アスピスの立場は微妙だから、参加してきた方々への紹介はできないけど、私の遠縁の娘ってことで参加自体はできるよう、シェーン様に手を回してもらっておいたから」

「でも、夕方からってことは、大人たちの社交場ってことなんでしょ?」

 アスピスが、時間的に考えて、子供が参加していいものではないと思い、そのままそれを伝えると、アンリールが悪戯っぽく瞳を揺らせた。

「えぇ、そうね。大人でないと参加は認められないわね」

「じゃあ、無理じゃん」

「だから、幻影術の実践練習をしましょうよ」

「まぁ、素敵。それ、楽しそうね」

「でしょう。アスピスの精霊術の腕も結界を張る腕も、すごく上達しているのよ。覚えるのが早くて、教えがいがあって、楽しいのよ」

「私が、もっと教えてあげられればよかったんだけど。六式使いと八式使いでは勝手が違うところが多いから、残念だったわ」

「でも、フォルトゥーナの精霊使いとしての腕は、八式使いに匹敵するくらいすごいのよ。知ってた? アスピス」

 再び話に花を咲かせ始めたと思ったら、いきなり話題を振られてきたアスピスは、慌てたように首を振る。

 結界を張ったり、精霊術を使うのが巧いのは知ってはいたが、それがどれくらいのものなのかは、これまでのアスピスには知りようがなかったことであった。そのため素直に知らないと応じると、アンリールはフォルトゥーナがいかにすごいかを語り。それを傍らで聞いていたフォルトゥーナは頬を染めて照れてみせた。

「そういうわけで、おそらく六式使いの中では、フォルトゥーナが最強だと言われているのよ」

「言いすぎよ、それ。それに、やっぱり八式使いには及ばないし」

「それは、それ。これは、これよ」

 アンリールが自分のことのように嬉しそうにフォルトゥーナを褒めるのに対し、フォルトゥーナは困ったように否定する。

 けれども、アンリールはそれを聞き流すように言い切った。

「それなのに、未だに元老院や六賢者の中には六式使いを代役に立てるなんてって、陰口を叩く人がいるんだから、嫌になっちゃうわ。そもそも代役をしてくれる八式使いがいなかったから、ビオレータの弟子であるフォルトゥーナを引っ張ってきたのって、六賢者なのに」

 ぷくりと怒ってみせるアンリールは、けれどもすぐに表情を変える。

「まぁ、暗い話はいいわ。とにかく、今日はフォルトゥーナに、アスピスがこの約一ヵ月の間に、いかに結界や精霊術が巧くなったかを見てもらいましょう」

「見てもらうのはいいけど、幻術ってなにするの?」

「そうねぇ。20歳くらいがいいかしら?」

「え?」

「アスピスが、20歳くらいに成長した場合の姿に、幻術で変身するの」

 面白いでしょう。と、楽しい悪戯を思いついたという表情にて、アンリールは告げてくる。それに、フォルトゥーナも乗ってきた。

「20歳のアスピスね。アスピスは顔も整っているし、きっと美人になるわね」

「私もそう思うの。男性方がきっと、アスピスのことを見て、どこの誰かを調べたがると思うわ」

「そこで役立つのが、アンリールの遠縁ってわけね」

「えぇ。我が家に。って、今はカサドールの住むエフィリスの本家に居候の身なのだけど。そこへ私を頼って、遊びに来ているって設定になっているわ」

 前準備は万端だと言いたいようである。

 どうやら拒む権利は、アスピスにはないらしい。

「それって、結界オーラに20歳の姿って条件づければいいの?」

「えぇ。それと肉体変化もね。でないと、触られたらバレてしまうから」

「実行するのは、もうちょっと先の方がいいかしら。それとも、アスピスの場合マナは使い放題だから、今から変身しておいた方がいいのかしら」

「私は準備があるから、早い方がいいと思っているの」

 すでに、本日のメインであるはずの2人は、自分がメインであることをすっかり忘れてしまっているようである。

 そのことを思い出して欲しいと思いつつ、今日は2人のおもちゃにされる覚悟をアスピスはせざるを得なかった。



 早めにということで、2時ごろにお茶と軽食を摂ると、さっそくアスピスは自身の周りに結界オーラを作り出し、マナで描いた陣へ条件として『20歳になったときの姿』と『肉体変化』を精霊文字で刻み付けると、オーラを身体に巻き付けるようにして、自身に幻術をかけていく。

 ほどなく、身長が160センチを越えた細身の女性の姿にアスピスは変身していた。

 しかも、気づけば裸であった。

「うわー。こういうことは先に言っておいて~」

「あら、考えれば分かることじゃない」

 ねぇ。っと、けろりと応じるアンリールに、フォルトゥーナもけろりと応じる。

「そうよ。なんのために下着から用意していたと思っていたの?」

「知らないよ、そんなことまで」

 泣きたい気持ちいっぱいに、胸を隠せばいいのか、お尻を隠せばいいのか、わからなくなっているアスピスへ、フォルトゥーナがピンク色で大半がレースで作られた脇がリボンで繋がっているショーツに、同じく中央をレースで肩と脇をリボンで繋げてあるブラジャーと、それらとお揃いと思われるピンクのガーターベルトと、肌に合わせた色のストッキングを渡される。

「サイズが分からなかったから何通りか揃えておいたんだけど、アスピスってスタイルいいのね。羨ましいわ」

 アンリールがとんでもないことを言い出したせいで、フォルトゥーナがまじまじと見つめてきた。

「華奢すぎるのが、ちょっとあれだけど。女性としては羨ましい体形よね」

「フォルトゥーナに言われたくなーい」

「あら。男性的には、細身だけど、胸は適度にあるアスピスの方が魅力的なんじゃないかしら。細すぎて、ウエストの細さがそれほど目立たないのと、お尻が小さいところがかわいいと思うし」

「ウエストのくびれは、作ればいいんだから問題ないわよ。そのためのコルセットだもの」

「そうね。そうよね!」

「は?」

 下着を身に着けている間、好き勝手に言い合ってくれる2人に、アスピスは恐怖する。

「コルセットって……」

「大人の嗜みよ。私たちだって、公の場に出るときは、我慢してつけているんだもの」

「大人になったアスピスも、当然つけないと」

 ねぇ。と、2人で相槌を打ちあい、下着を身に着け終えたアスピスを捕らえると、胴体にコルセットを巻き付けてきた。

「ちょっ! 引っ張りすぎ、苦しいって」

「これくらい、普通よ普通」

「大人って、大変なのよ」

「いや、本気でもういいから。中身が口から出てきちゃう」

 アスピスの泣き言に、仕方ないわねぇと、2人はこの辺で諦めるかと、コルセットの紐を結んでいく。

「あとは、この赤を基調としたドレスを着てもらうだけね」

「髪は、後ろでハーフアップして。ちょっと豪華なバレッタで留めるのがいいかしら」

「それから、シェーン様が教えてくれたんだけど、シエンが送ったプレゼントの中に、アスピスの髪と同じ色を基調とした、ダイヤをあしらったネックレスとイヤリングがあるそうだから、それを付けてもらおうかしら」

「それはちょっと、みんなにばれたら怖いわね」

 悪気のまったくないアンリールの提案に、フォルトゥーナが一瞬躊躇する。

「エルンスト辺りが知ったら、大激怒よ」

「あら、そうなの。じゃあ、私が持っているアクセサリーの中から、選ぶ方がいいかしら」

「私のアクセサリーもあさってみるわ」

 2人はそう言い合うと、アイテムボックスを開き、それぞれ中に入って行く。

 それを見送ったアスピスは、どっと疲れた気分で、ソファーに腰を落とした。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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