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第26話(温泉へ行こう8/温泉)

[二十六]


 お茶を飲んで小休憩をし。物珍しい部屋の空気にも慣れてきたところで、シエンが温泉へ行きましょうと言い出した。

 チケットを購入すれば、他の宿の温泉も楽しめるそうだが、シエン曰く、この温泉宿だけでもいくつもの温泉があり、十分に楽しめるということだった。もし、他の温泉宿の温泉も楽しみたかったら、明日にしようと説明され、温泉経験者であるシエンの意見を尊重し、アネモスには部屋で休憩しててもらうことにして、今日はこの温泉宿の温泉を楽しむことにした。

 そのため、各々で水着と浴衣とタオルセットを部屋に置かれていた袋に入れて、部屋を後にしようとして、ふと気づくようにしてシエンがアスピスに問いかけてきた。

「そういえば、イヴァールが渡した浮き輪、どうしましたか?」

「え? 持ってきたよ。せっかくくれたものだし」

 使わないと悪いから。と、言外で告げるアスピスの両肩を、シエンはにっこりした笑みと共に、軽く掴んできた。

「それは、置いて行こうか? っていうか、アイテムボックスの奥の方にしまっておいてくれないかな」

「え? なんで?」

 シエンの言葉に戸惑うアスピスに、シエンは申し訳なさそうな表情に変える。

「浮き輪は、温泉村内の温泉での使用は、禁止されているんですよ」

「あ。そうなんだ……」

 じゃあ。なんで、浮き輪なんてくれたのだろう。と、既にシェーンと何度か来たことがあるというイヴァールがそれを知らないはずがないと思い、問うような視線をイヴァールに向ける。するとイヴァールが、口元を抑えながら、アスピスから視線を逸らせていく。

「いや。その。君の水着姿に、浮き輪がとても似合うだろうと思って。つい。ここでは使用禁止となっているのを知っていながら……」

 送らずにはおれなかったのだ。と、打ち明けるイヴァールを見つめるアスピスの視線が、すーっと冷たくなっていく。

(やっぱ、このひと、見た目だけだわ。いいところって)

 兄妹ゆえの厳しさもあるかもしれないが。アスピスは本心からそう思ってしまう。

 そんなアスピスを見つめていたシエンが、なんとかイヴァールのフォローを入れようと必死になって言葉を繋ぐ。

「ですから、まぁ、そういうことで。その内、時間作って、みんなで海にでも行きましょう。そのとき、イヴァールからもらった浮き輪を使えばいいのですから。今日のところは、アイテムボックスに戻しておいた方がいいかと」

「そうですね。アイテムボックスの奥の方へ、しまっておきます」

 シエンの台詞を受け、アスピスはにっこりと微笑みながら、アイテムボックスをその場で開くと、袋から取り出した浮き輪と空気入れを、奥の奥の奥の方へと置いてきた。そして、出口に近づいてきたところで、待っていたように、エルンストが声をかけてきた。

「そういや、アスピス。ついでにコンタクト忘れるな。ここで付けていけ」

「忘れるところだった。ありがとう」

 エルンストには素直にお礼を言い、コンタクトの入ったケースを、冒険用の肩掛け鞄から取り出すと、アイテムボックスから出て、そのままアイテムボックスを閉じてしまう。その後、言われた通り、その場でコンタクトを目につけた。

 そして、これで準備は済んだことをみんなで確認し終えると、温泉があるという一階の廊下奥へと向かって行く。

 アスピスの歩みに付き合ってくれたので少々時間はかかったが、それでもなんとか目的の場に到着すると、『男』『女』と書かれた暖簾が掛けられた、ふたつの入り口を目の前に立ち止まる。

「じゃあ。俺たちはこっちだから、また向こうで」

 シエンが率先するようにして、フォルトゥーナとアスピスに声をかけてくると、男性陣を連れて『男』と書かれた暖簾の中へと消えていく。それを見送った後、フォルトゥーナがアスピスに視線を向けてきた。

「私たちも行きましょうか」

「うん」

 誘うように告げられ、先に『女』と書かれた暖簾に手を掛けたフォルトゥーナが中へ入って行くのに続き、アスピスも暖簾の中へと入って行く。

 中にはいくつもの鍵付きロッカーが並べられていて、ふたつ並んで空いている場所を見つけたフォルトゥーナが「ここにしましょう」といって、荷物をいったん中へ入れる。

 それをまねて、アスピスも空いているもう一方のロッカーへ荷物を入れた。

「さぁ、水着に着替えましょう。髪は、その後でまとめてあげるから」

「このままでいいのに」

「そのままじゃ、温泉に入るのにきっと邪魔になるわ」

「そうかなぁ」

 温泉というものを、説明してはもらったが、いまいちちゃんと把握できていないアスピスは、軽く首を傾げながらも、フォルトゥーナがそう言うならばと承諾すると、先に着替え始めたフォルトゥーナに遅れないよう、慌てて袋の中から水着を取り出すと、急いで着替え始めた。

 アスピスが選んだフォルトゥーナの水着は、下着に似た胸とお尻のみを隠す形で、スタイルの良いフォルトゥーナにとてもよく似合っているのだが、女同士でも目のやり場に困るくらいに露出度の高いものだった。

 身に着けたフォルトゥーナもそれを感じているのか、ちょっと戸惑った感じであった。

 しかし、周囲を見回すと、フォルトゥーナと同じ形の水着を身に着けている者や、胴体部分が繋がっている形でも、ほとんど紐のような感じで、お腹も背中も隠せていないような水着を身に着けている者が多く存在し、フォルトゥーナは腹をくくったようでる。

 それからのフォルトゥーナは堂々としたものであった。

 少し遅れて水着に着替えたアスピスを、パウダーコーナーの鏡の前に座らせると、ふたつある三つ編みをそれぞれ頭の側頭部の上側で編み直し、くるくるっと丸めるように団子を作ると、ピンで留めて水着とお揃いの色のリボンを団子の根元で数回巻くと可愛く結わく。

「これでいいわ」

「フォルトゥーナはそのままでいいの?」

「えぇ。私の髪は肩にかかるくらいだから、たぶん大丈夫よ」

 そう言うと、アスピスを立たせ、ロッカーに鍵を掛けると、鍵についてる輪っかの部分を手首に掛け、温泉場へ続いている扉の方へと歩きはじめる。

「どんな温泉なんだろうね?」

「私も、噂はたくさん聞いてきたけど、実際に来るのは初めてだから。楽しみだわ」

 そう会話しながら、『ここを押してください』と書かれたボタンを押すと、扉が勝手に自然に開いて行く。

 おそらく法陣カプセルが使われているのだろうことは分かるのだが、封じ込まれている精霊術のレシピが思わず気になってしまうのは、精霊使いの性なのだろうか。

 アスピスとフォルトゥーナは同じことを考えていたようで、顔を合わせて笑ってしまう。

 そして、扉がいつまでも開いたままなことに気づいたことで、慌てて温泉がある側へ移動して扉から離れると、再び自然に扉が閉じていくのを確認する。

 やっぱり、レシピが気になる。そんな思いを2人で抱きながら、数歩前へ出たところで、声が掛けられた。

「ねぇねぇ、彼女。一緒に遊ばね?」

「俺たち、今回、男ふたりで来たからちょーつまんなくてさ」

 そう言いながら、アスピスを無視するように、フォルトゥーナのことを囲み始めてしまう。

 見た目は、申し訳ないが、アスピスの知る男性集団に比べると、かなり落ちる印象である。

(まぁ、あいつらが整いすぎてるだけなんだけどね)

 顔も体も。多分、かなり上等な方だろう。魔族であるエルンストや、聖族であるレイスやカロエは、元から美形であることが保証された血筋であるが、人間のイヴァールやシエンも負けず劣らずの容貌風姿を考えると、王族も美形であることが保証されているのかもしれない。

 そんなことを考えつつ、助けを求める気分で、エルンストたちが出てくるはずの方へ視線を移動させていく。すると、既に、エルンストたちも複数の女性たちに囲まれていた。

(話にならない。つーか、あいつらなにやってんのよ!)

 パーソナルエリアをどんどん狭めて、フォルトゥーナに攻めよっていく男ふたりに、戸惑いをみせるフォルトゥーナを、なんとか助けてあげないと。と、アスピスはフォルトゥーナの手を取るようにして、エルンストたちが女性に囲まれている方へと、フォルトゥーナをいざなうように引っ張ってみせる。

「あっち、行こう」

「え。えぇ」

 そうね。と、アスピスの意見にフォルトゥーナが同意しようとした瞬間、男のひとりがアスピスの手をフォルトゥーナから跳ね退けてしまう。

「うぜぇんだよ。ガキが」

「ひとりで遊んで来いよ。お姉さんに甘える年でもねーだろ」

 そう言うと、もうひとりの男が、アスピスの胸元を勢いよく押すようにして退けてしまった。

 瞬間、後ろに倒れ込んだアスピスは勢い余ってゴロンゴロンと体が転がり始め、なにかにぶつかるまで止まることができなかった。

「いったーい」

「ばっかじゃねーの。俺、そんなに強く押してないんですけ――」

 けたけたと笑う男の言葉を奪ったのは、フォルトゥーナの勢い良い、相手の横面を叩く、張り手であった。

「あなた、アスピスになんてことするのよ」

「えー。なに怒ってんだよ、お姉さん」

「そうそう。あんなガキなんて放っておいて、俺たちと遊ぼうぜ」

 基本、体力面では一般人にも劣ると噂されている、精霊使いである。力の弱い女性の平手では、たいした威力がなかったようで、せっかくのフォルトゥーナの平手であったが、なにもなかったことにされてしまったようである。

 しかし、相手の運は悪かった。

 アスピスの回転を止めたのは、たまたまだったが、エルンストの足だったのである。

 急にアスピスが吹っ飛んできたことに、エルンストを初め、みんなが驚き、それまで見慣れぬ水着を着た肌も顕わな女性に戸惑い、どうやって断ろうかと腰が引けていた男性陣であったが、異常事態が起きていることにようやく気が付き、即座に女性の誘いを断ると、転がっていたアスピスをエルンストが抱え上げ、そのままの格好で、他のメンバーを引き連れてフォルトゥーナの元に歩いて行った。

「悪いけど、彼女、俺たちの連れなんで。解放してくれるかな」

 にっこりと微笑みながら、シエンが最初に口火を切る。

 しかも、口元に笑みを携えているが、目が全然わらっていないことに、相手は恐怖を覚えたのだろう。

「えっ。あ、すんません。彼女ひとりかと思って、つい」

「一緒にいたアスピスを転がしといて、どの口が『彼女ひとりかと』とか言っちゃうんでしょうね」

 重圧感満載の声音にて、シエンが言葉を重ねる。

「あとで確認しますけど、アスピスに少しでも怪我があったら、きちんと責任取ってもらいますから。ここの宿の主人と、そこの彼、知り合いなんですよね。部屋名、教えてもらえますか? 嘘をついてもすぐバレますよ。ついでに、怪我があった場合、宿の主人にも告げておきますから。もし、この温泉村をこれから先も利用しようとしても、許可が下りないかもしれませんね。ここは、暴力を嫌ってますから」

 イヴァールのことを軽く掲げた右手の親指で示しながら、淡々とシエンは語り続け、怯えた2人が部屋名を告げると、謝罪しながら、勢いよく逃げるように去ってしまった。

「ってことで、アスピス。怪我はありませんか?」

「少し、あちこちを擦りむいているみたいだ。それに、押された際に頭を打っているらしいから、ちょっと様子をみた方がいいかもな」

「そうですね。はしゃぎたいところでしょうけど、今日は大人しく温泉につかる程度で我慢してもらうようですね」

「えー。あそこの滑り台、すごく興味あるんだけど」

 入ってすぐ正面に、大きな四角い木製の立派な浴槽があり、場所を区切るようにして、その右側の少し先には高く長い滑り台が設置されている巨大な青色に染まったコンクリート製の浴槽があり、その奥にはやはり同じ青色のコンクリート製の大きな浴槽があり、その中では大きな波が常時立っていた。そして、正面の浴槽を中心に、反対側となる左側を少し行ったところには、岩や石で作られた、落ち着いた雰囲気の少人数用の浴槽が幾つもあり、そのお湯の効果も様々なようであった。中には横になって入れる寝風呂などもあるようである。そして、その奥を曲がったところには、木製のサウナがあるようで、案内図が見て取れた。

 そんな事情で、子供の楽し気な笑い声の響く右側に興味惹かれていたアスピスが、不満を漏らすように訴えると、アスピスを左手に抱いたままのエルンストが、間近から軽く睨み付けてきた。

「えー、じゃねぇよ。つうか、なんで突き飛ばされる前に助けを呼ばなかったんだ」

「だって、そっちも女の人に囲まれていたから」

「そんなこと、気にしてんじゃねぇよ」

「そうは言うけどね。複数の女の人に囲まれて、圧されまくってたじゃん」

 そうなのだ。決して、嫌がってはいなかった。本気で嫌なら、特にエルンストなど日ごろの不愛想を発揮すれば、女性を蹴散らすくらい訳ないはずである。

 そう思い、フンとそっぽを向いてやったら、エルンストが困ったように溜め息を吐いた。

「悪かった。つーか、こっちが先に気づいてやるべきだったな」

「本当よ。そっちは5人もいるんですもの。それに、みんなペアリングしてるんだから、婚約者がいるって言えばいいだけのことじゃないかしら?」

 ねぇ。と、首を傾げるフォルトゥーナの台詞に、男性陣がみんな揃って「それだ!」と声を上げた。誰一人、そのことを思いつかなかったようである。

(まぁ、初めての温泉に浮かれているのは、あたしとフォルトゥーナだけじゃないってことか)

 なんとなく納得でき、さっき見たことは許してあげることにした。

 それよりも、である。

 運よくコンタクトは外れずにすんだのだが、せっかくフォルトゥーナが可愛くまとめてくれた髪が滅茶苦茶になってしまったのだ。それがかなり残念で、先ほどまでリボンで可愛くくくられた三つ編みの団子ができていた箇所を、アスピスは手で触れる。

 そして、残念そうに顔をしょんぼりさせていたら、フォルトゥーナが焦るようにしてアスピスに近づいてきた。

「せっかっくの髪が乱れちゃってたわね。本当に、なんて乱暴な人たちだったのかしら」

「ごめんね。フォルトゥーナがせっかく作ってくれた団子なのに」

「アスピスが謝ることなんてないのよ。エルンスト、アスピスをちょっと下ろしてちょうだい。髪の毛を直さないとね」

 ピンを外して、団子を崩すと、三つ編みも乱れていることが判明する。

 けれども、フォルトゥーナはそのことは織り込み済みであったようで、迷わず三つ編みを止めているゴムを外すと、三つ編みを編み直すことから開始した。

 それから待つこと数分。

 あっという間に、先ほどと同じように、アスピスの両側の側頭部の上の方に可愛くリボンでくくられた三つ編みの団子が出来上がる。

「ピンが頭に刺さらなくて、本当によかったわ」

「ったく。子供を。しかも女の子を力任せに押しのけるなんて、相応の対処をしてやりますよ」

 やる気満々のシエンは、シェーンの名前を使いそうな勢いである。

 ただし、本当に痛かったし。頭にはたんこぶができてしまったようだし、あちこち擦り傷ができてしまってるし。そのせいで、子供がキャッキャと楽し気に笑っている方へは行かせてもらえそうにないし。その上、お気に入りとなった三つ編みの団子が崩れたのはとても悲しかったので、アスピスとしても今回の場合『徹底的にやっちまえ!』という気分だったので、止めたりすることはしないでおいた。



 入り口正面にある立派な作りの木の浴槽にみんなでのんびり浸かっていると、周囲に人がやけに密集していることに、アスピスは気が付いた。よく見ると女性の方が断然多いよう見受けられた

 美人でスタイル抜群のフォルトゥーナが一緒だからか、みんな遠目から眺めているに留めているようだが、狙いは確実に、エルンストやレイス、イヴァールにシエンにカロエであろう。長身で、且つ程よく筋肉のついたスタイルの良い、しかも美形の中でも格上だろう容貌の持ち主の集団である。狙われないわけがない、ということなのかもしれない。

 ただし、そんな集団の中にいて、ひとり浮いた存在のアスピスとしては、視線が痛いだけという感じであった。

 フォルトゥーナも痛い思いをしているだろうとは思う。でもそれは、周囲の女性たちが獲物とする男性陣を相手に、対等に渡り合えるだろう美貌と女性も羨むような体形の持ち主だからである。言うなれば、嫉妬の眼差しによる痛みなのだ。

 なんであそこに、子供が混じってるの? 誰かの子供にしては、年がいっているわよね。といった、アスピスに向けられている、疑問交じりの邪魔者扱いな視線とは大きく意味を異ならせているのである。

 そう。つまり、フォルトゥーナにはみんなとここで温泉に浸かっている権利があるが、アスピスにはないというべきか。女性たちの視線に気づけば気づくだけ、正直ここにいたくないという気持ちが先立ってくる。

(もう、ダメ。周りが、猛禽類すぎる)

 音を上げるように、思いは爆発し。即座に意を決し、それを実行すべく、アスピスはこそこそとゆっくりと、みんなから距離を置くよう動き始めた。

 だいぶ距離ができただろうか。

 そう思い、あとは逃げ出すのみ。と、立ち上がろうとしたところで、肩ひもが後ろに思い切り引かれてしまう。

「ちょっ!」

 ずれて、水着が脱げたらどうしてくれる気だ! と、後ろへ振り返ると、エルンストが睨みを利かせてこちらを見つめていた。

「今日は、滑り台はよせと言っておいたはずだが?」

 どうやら、ここを脱兎しようとした理由を、エルンストは勘違いしているようである。

 どうして、周囲の熱い。熱すぎる女性たちの眼差しに気づかないのかと思いつつ、アスピスは誤魔化すように笑ってみせた。

「そうじゃなくて。せっかくだから、他のお湯にも浸かりたいじゃん。左の方にある温泉って、効能がいろいろとあるみたいだし」

「そういうことなら、付き合ってやる」

「へ?」

 アスピスが、エルンストの想定外の切り返しに、驚いている間に、エルンストはお湯の中から立ち上がる。

「行くぞ」

 そう言うと、アスピスの方へと手を伸ばしてきて、そのまま行くと抱き上げられそうな気配を察し、先に手を動かして、エルンストの手を掴む。

(抱きかかえあげられるよりは、手繋ぎの方がましだよね?)

 自分でもちょっと自信がないのだが、そう思うことで、アスピスは自分を納得させる。

 エルンストとしても、予定は異なったようだが、アスピスが自ら手を繋いできたことで、そっちの方がいいのだろう。と、勝手に解釈してくれたらしく、結んだ手を軽く引き上げるようにして、アスピスを立たせると、みんなの方へ向き直る。

「それじゃ、ちょっと向こうへ行ってくる」

「俺たちも、後で行くから、向こうでまっててくださいね。寝風呂とかサウナとか、興味あるので」

「わかった」

 レイスの台詞に、エルンストは承諾して返すと、アスピスを促すように視線をアスピスの方へ落としてきた。

「お前は、どこに行きたいんだ?」

「岩風呂巡り?」

 他に適当な言い訳が思いつかず、左側に並ぶ岩風呂を見て思いついたことをそのまま口にする。けれども、それはエルンスト的にはつまらなく思えたらしい。左側へと続く道の天井にぶら下がっている案内板を見つめながら、ぼそりと呟いた。

「滝風呂もあるみたいだな。そこに行くか」

「どこでもいいよ」

 最初から行きたいところがあった訳ではないので、岩風呂巡りを却下されたところで不満は生じず。エルンストが行きたいというなら、そこでいいと思い。アスピスは投げやりな口調で、とにかくこの場を立ち去りたいことをアピールする。

 それに応えた訳ではないのだろうが、行き先を決めたエルンストは、アスピスの歩調に合わせるようゆっくりとした動きで、主に岩風呂が集まっている場所へと続く、左側の通路に向かって歩き出した。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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