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第23話(温泉へ行こう5/往路1)

[二十三]


 昨夜は、アネモスにしばらく入室禁止を言い渡されたカロエが、ふてくされ。それがまずかったようで、レイスやエルンスト。のみならず、フォルトゥーナやシエンやイヴァールにも、アスピスの部屋でカロエがなにかやらかしたようだと知れ渡り。夕食時間にもなろうかという時間を過ぎるまで、カロエの部屋でレイスにこってり絞られた上に、夕食抜きの罰を与えられるという事件へと発展してしまった。

 長時間の説教で、カロエがレイスだけに、なにをやらかしたのか打ち明けざるを得なくなったようで、レイスだけはアネモスの暴挙の理由を把握したらしい。

 そのため、レイスから愚弟の行動を深々と詫びられてしまい。アスピスとしては、未遂だったのだし。なによりカロエのことだからノリと勢いによる半分冗談による言動だったのだろうことを思うと、そこまで深刻に受け止められてもと思ったりもしたのだけれども。とにかく謝罪を受け入れる形を取るしかなかった。

 ただし、その件はレイスで留まり。他のメンバーには詳しい内容が知らされることなく話が終わり、それ以上長引くことなく済ませられたのは、運が良かったのだろう。

 その後、買い物中に屋台などから買ってきたという夕食を、カロエ抜きのメンバーで済ませ、明日からの温泉旅行に備えてその後は常よりも早めの解散となった。

 そして迎えた当日。

 切り替えの早さが自慢でもあるカロエは、昨日のことなどすっかり忘れたように元気になり。朝食前には下りてきて、レイスを急かすようにして開始された朝食は、昨夜の分の食事もとり戻す勢いでパンとスープを頬張っていた。そんな姿のカロエをみて、これが怒らせた原因だと分かっていながら、改めて未だまだ子供だよねと思い、アスピスは内心でちょっと安心する。

 そんな感じで、出発時間も間近に迫ってきていることで、朝食を早めに切り上げ、片付けを終えると、それぞれが冒険装備に着替え、戸締りをしっかりして、エルンストにレイスにカロエ。それと、アネモスに乗ったアスピスが、今日の集合場所となる、今回馬車を注文していた、馬車のレンタルもしている、馬車取扱店の前へと向かった。

 到着したのは、馬車取扱店が開店する少し前。

 フォルトゥーナに、シエンとイヴァールも冒険者としての装備を身に着けた状態で既に到着していて、全員集合と相成った。

 そして、開店と同時にレイスはアネモスを連れて馬車取扱店へ入って行き、支払いを済ませると同時に馬車を受け取り。アネモスに大きくなってもらい、牽引用の装具をアネモスに装着させると、みんなのところへアネモスが引く赤い箱型の馬車と一緒に戻ってきた。



「みんな乗ったか?」

「えぇ。全員、ちゃんと乗ったわ。出発して平気よ」

本日の目的とする場所は、温泉村の愛称で知られているハイセグヴェレ村。赤道を通って行ける村で、途中一泊する形で翌日の昼前には着く予定となっていた。

 冒険者装備の理由は、野営をするということもあるが、馬車で移動中に盗賊などに襲われる可能性があるためである。

「じゃあ、悪いが。アネモス頼む」

 フォルトゥーナの応じに、エルンストは大きく頷くと、馬車を引いてくれるアネモスへひと声かける。

 エルンストは一応は御者席に座っているが、馬車を引いているのがアネモスのため、指示しなければならないことがあれば口で伝えればいいことから、特にやることがなく、形ばかりの御者となっていた。それでも、いざ指示を要するときのために、誰も座らずにいる訳にもいかないのが実情だったので、そこに座っているのが御者の役目とも言えた。

 そして、その背後となる箱型の馬車の中では、昨日購入した品々の受け渡し会が行われていた。

 最初にみんなに配られたのは、昨日アスピスが買った、みんなの水着とタオルセットであった。

 うっかりしていたが、兄弟であるレイスとカロエ。それと、双子であるイヴァールとアスピスが全く同じタオルの色だったため、混乱が起きかねないところであったのだが、ふと気づくと店員の配慮により、中身が区別付くように、包み紙の裏側へレイスとカロエたちのは水着の色が。イヴァールとアスピスたちのには性別が、小さなシールに書かれていたことで、なんとか無事に配り終えることができた。

 その後は、フォルトゥーナの浴衣配りが行われ。シエンからは下駄がみんなに配られ。それとは別に、フォルトゥーナとアスピスに、浴衣に合わせた女性用の小物が渡された。更には、イヴァールからみんなへ高級感漂うアメニティグッズが配られた他に、アスピスへは浮き輪と空気入れが渡された。

 その後は、開封会である。

 先ずはと開封されたのは、最初に配られたアスピスからの皆へのプレゼント付きの水着であった。

 みんな、それぞれとても喜んでくれたのだが、中でも一番喜んでくれたのはフォルトゥーナであった。

「ここのタオル、他の店でも並んでいるところがあって。すごく手触りが良いから、前から欲しかったの。本当にありがとう」

 心から嬉しそうに感謝の言葉を述べながら、ぎゅっとアスピスを抱きしめてくるフォルトゥーナは、やはりとてもいい人だとアスピスは実感する。

 切り替えが悪いとか、尾を引いているとか言われたら、それまでだが。レイスの話を聞いて、思いはより強いものになってしまっていた。

(邪魔にならないように、気を付けないと! 2人は美男美女でとてもお似合いなんだし、年齢的にもとても釣り合ってるんだし)

 ここで応援しないで、どこで応援するんだと、アスピスは固い決意でフォルトゥーナを応援するのだと心に誓う。

(でも、それはいいとして。応援って、どうすればいいんだろう)

 恋愛なんてしたことないし。恋愛している人たちを見たこともないのである。

 唯一の情報入手先といえば、大衆向けに書かれた、ビオレータの書庫にあった恋愛小説である。

(あたしの人生、枯れているなぁ)

 過去を振り返り、思わず浮かんでしまった悲観の思い。

(でも、未だ12歳なんだし、経験がなくても不思議はない……よね?)

 そうだそうだと、自分を奮起させ。

 たとえ恋愛経験値がゼロであろうと、それでも、フォルトゥーナの力になりたいと願う気持ちは本物であり、アスピスはフォルトゥーナの腕の中で、なんとかしてみせると覚悟を決めた。

 そして、アスピスのことを抱きしめて満足したのか、今度は浴衣が入っている包みを開けるよう、アスピスを開放したフォルトゥーナが催促してきた。

「きっと、似合うと思うの。髪型もいつもと違うものにしましょうね。私、がんばるから! 道具もちゃんと持ってきたから、任せてね」

「ありがとう」

 うきうきと述べてくるフォルトゥーナの勢いに圧され、アスピスはちょっぴり引き攣った笑顔で答える。

(なんか、変に力が入ってるんだけど?)

 なんでー、と。ここで力を入れるべきなのは、エルンストを誘惑すべきフォルトゥーナの方なのに。と、アスピスは内心で焦りながらも、リボンを外し、包み紙を破かぬように慎重に開いて行くと、中から丁寧にたたまれている浴衣が姿を現した。

「柄は定番の花柄だけど、ちょっと大き目な花と、小さな花がバランスよく浴衣全体にプリントされていて、店に置かれている子供用の浴衣の中で、これが一番可愛いかったの。帯はお花の色と同じにしておいたわ。アスピスがいたら、試着して色々試せたんだけど、体調を崩しちゃったじゃない。だから、無難なところで抑えることにしちゃったの」

 ごめんなさい。と、ちょっぴりしゅんとしてみせるフォルトゥーナへ、アスピスは慌ててとんでもないと首を振る。

「すごく、うれしいよ! 浴衣とか、初めて見た。可愛いね、明日着るのが楽しみになってきたよ」

 フォルトゥーナの笑顔が見たくて、アスピスは必死に言葉を重ねていく。すると次第にフォルトゥーナの表情に鮮やかな笑みが戻ってきて、再びアスピスをギュッと抱いた。

「本当に、アスピスって、なんて可愛いのかしら。私が男だったら、絶対に他人に譲らないところだわ」

「……」

 ふんわりと肩まで伸びたフォルトゥーナの茶色の髪が、頬に当たってくすぐったいと思いながら、小さなころからフォルトゥーナの方が断然可愛かったのに。と、アスピスは過去を振り返る。けれどもすぐに、現在のフォルトゥーナの方へ意識を戻す。

「フォルトゥーナの方が断然綺麗で素敵だよ!」

 アスピスなんて足元にも及ばないくらい。そう本心から放った台詞に、フォルトゥーナはお世辞と思ってか、「ありがとう。でも、言い過ぎよ」と嬉し気に微笑んだ。

 そんな2人のやり取りを、男性陣は様々な感情を抱きながら見ていたらしい。

「女ってわかんねぇ」

「どうしました? カロエ」

 頭を抱えたカロエへ、シエンが不思議そうに問いかける。

「だって、男が抱き着いこうものなら痴漢扱いするだろ」

「それは、時と場合に寄りますよ。っていいますか、痴漢扱いされるような状況下で抱き着こうとする方が、間違っていると思いますけどね」

「そうだけど」

 昨夜のことでも思い出しているのか、不満げながらに同意するカロエへ、シエンが横から口を挟んだ。

「まさか、昨日。アスピスに対して、そんな不埒なことをしようとしたんですか。彼女はまだ12歳なんですよ」

「はぁ? そんなアスピスに子供を産めとか言って、結婚迫ったのどこのどいつだよ! っていうか、昨日はアスピスに抱き着くようなことしてね――ッ」

 昨日のカロエが起こした騒動を思い出し、詰め寄るシエンへ、失礼なとばかりにカロエも容赦なく言い返す。

 しかしすぐに、レイスの手によって、カロエの口が塞がれた。

「愚弟が本当に、昨日はお騒がせをしてしまい、申し訳ありませんでした。あまりに恥ずかしいので、詳細は深く問い詰めないでやってください」

「レイスがそう言うんだったら、仕方ないけどさ」

「すみません。ありがとうございます」

 渋々と、レイスの日ごろの誠実さに折れるよう、シエンは話しをそこで止める。

 すると再び、レイスが頭を下げた。

(そう言えば、前から、カロエの尻拭いをしてたよね。レイスって)

 しみじみと思い出す、ビオレータの元で過ごした穏やかな日々。

 レイスの機転と財力で、高額な補助具を追加してくれたおかげで、馬車の揺れはかなり抑えられていて、乗り心地も程よく。快適な気分で、アスピスが思い出に浸っていたら、急に馬車がガクリと振動し加速した。

「どうかしましたか、エルンスト」

「後ろから盗賊が出てきやがった。アネモスが匂いがするって、言い出してな。この馬車、新品だし、赤だからそれなりに目立つから、目を付けられたのかもな」

「数はどれくらいですか?」

「馬に乗ったやつが、5人だったな」

「それでしたら、俺をここに下ろして、一旦みんなは離れた場所で待機していてくれれば。始末してきますよ」

「だったら、俺も行く」

 レイスが提案するように告げると、イヴァールが自分も一緒に盗賊を倒すと言い出した。

 しかし、イヴァールは国賓待遇の、未来はシェーンの夫となる人である。傷でも負わせたら大変だと、レイスは慌てて固辞をした。

「いえ。盗賊の5人くらいなら、ひとりで大丈夫ですので。イヴァール王子は、このままみんなと、少し先で待っていてください」

 お願いします。と、告げるレイスへ、シエンが横から口を挟んだ。

「大丈夫だよ、レイス。イヴァールはこう見えて、六剣士並みの実力も武器も所持している剣士だから。武力大国と言われるキセオーツの王子だけはある、って感じだよ。一緒に冒険してて、シェーンのグローリー騎士団並みに頼りになるからね」

 だから、連れてってあげてよ。と告げるシエンは、まだどこか渋るレイスの耳元へ口を当ててこそりと呟いた。

「妹に、かっこいいところを見せたいんだよ」

 それを聞いたレイスは、小さく嘆息すると、負けるようにして頷いた。

「では、後ろから飛び降りますので。怪我をしないように気を付けてくださいね。イヴァール王子」

「それくらい簡単さ。キセオーツで散々鍛えられてきたからね」

 2人は言葉を交わしながら、後方が覗ける後ろの方へと寄って行く。

 よく見れば、確かに砂煙が上がりこちらに迫ってきているのが見えた。

「じゃあ、ちょと行ってくるから。少し行ったところで待っていてくれるか?」

「了解。盗賊のことは頼んだぞ」

「えぇ。任せておいてください。それじゃあ……」

「エルンスト、後は頼みました」

 エルンストの台詞に、2人はそれぞれそう応じると、空いている後ろから飛び降りていった。

 どんどんと離れていく2人の背中。

 そこそこスピードの出ている馬車から飛び降りたのだが、怪我を負うことはしてないようで、2人ともゆっくり立ち上がる姿が、小さく見える。

「ねぇ。精霊術でまとめてやっつけちゃった方が早かったんじゃないの?」

 エルンストに向け、2人を心配する思いから、アスピスが今更のように告げると、呆れた声が戻ってきた。

「馬で走ってる奴を相手に、どうやって結界の基準を定めるんだよ」

「あー。そっか」

「てゆーか、六剣士をあまくみるなってーの。なんで六聖人と同位の扱いだと思ってんだよ。こっちが本気になって戦えば対等。もしくは、それ以上に戦い合えるからだぞ」

「へー。っていうか、結界とか張られたらアウトじゃないの?」

「六剣士に与えられている剣を用いれば、精霊術のために簡易に張られた結界程度なら容易に破れるんだよ。っていうか、お前本当に、そういうの興味ねーな。身分を隠しているとはいっても、六聖人(赤)なんだから、少しはそっちの面も学んどけよな」

 後ろへ振り返り、エルンストが説教するようにして、アスピスに言い放つ。

 そのついでに、後方の様子を見たのだろう。

 飛び降りた2人が盗賊の足を止めるのに成功したようで、砂煙も消え、ほとんど目視できなくなったのを確認したのか、エルンストが後方を見つめつつアネモスへ止まるよう指示をした。

「にしても、そう王都を出てから時間が経ってねーのに、盗賊が出てくるって。ちょっと気に入らねぇな」

「えぇ。もしかしたら、気づかぬところで治安が悪くなってるのかも」

 ぼそりと呟いたエルンストへ、シエンが同意する。そして、それはフォルトゥーナもカロエも同じ意見のようだった。

「でも、盗賊退治の依頼が増えている、という訳でもないみたいだし。この間、依頼掲示板を見た印象で、ですけど」

「うん。それは、オレも思った。護衛の依頼も、盗賊を警戒して強化しているって感じはなかったし」

「だよなぁ」

 エルンストも、依頼掲示板をチェックしているのだろう。2人の意見に頷いた。

「でも、まぁ。出ちまったもんはしかたねぇ。片付けてもらうのを待つしかねーな」

 現実としてありのままに受け止めるしかないと呟いたエルンストへ、シエンが「ですね」と小さく返した。



 しばらくすると、盗賊を退治したらしい2人が、赤道から少し外れた場所に馬車を止め待っていたみんなを追いかけるようにして、馬車に追いついた。

 そして、返り血で汚れてしまった2人を先ずはきれいにしようということになり、ちょっと早めではあったが、その場で一度休憩を取ることになった。

「どうするの?」

「まず魔法陣を書いて汚れを落とす洗浄と乾燥のふたつの動作を条件にしておいて。それから、精霊術で、2人の上に水を降らせて。その後、余分な水分を消失させるようにして風を起こして乾かすのよ」

「あー。それ、あたしやってみたい」

「そうね。勉強にもなるから、アスピスがやってみるのがいいかしら。じゃあ、魔法陣から書いてみて。そうすると、結界の発動がすんなりいくから便利なの。あぁ。そうそう。アスピスは初めてだから、攻撃魔法じゃないことも条件に加えておこうかしら」

「はーい」

 言われるままに、馬車から少し離れた所に六芒星を描き、その周りを二重の円で囲む。そして、二重の円の間に精霊語でフォルトゥーナが言った三つの条件を記入する。

「これでいい?」

「えぇ。上手よ。綺麗に描けてるわ」

「じゃあ、2人とも六芒星の中心部。六角形の真ん中に並んで立ってくれる?」

 初めての経験にドキドキワクワクしながら、返り血や泥や砂埃などで装備を汚してしまったレイスとイヴァールに、アスピスは指示をする。

「じゃあ、よろしくお願いしますね。アスピス」

「精霊使いがいると、こういうこともできるのか。便利だね。頼んだよ、アスピス」

 それぞれが口を開きながら、アスピスが指示した場所に2人は並んで立ってみせる。それを確認したアスピスは、軽く深呼吸をした。

「それじゃあ、いくね!」

 結界を張り、結界の中へ精霊術を送り込む。

(えっと、先ずは……)

「ウォーターレイン!」

 詠唱と同時に、結界の中に激しい雨が降る。

「ちょっ! 雨水が痛いっ!」

「アスピス、ストップ! ストップ!」

「え、あ。ちょっと待って。ウォーターレイン、解除」

「普通に精霊術を使っちゃうと、アスピスの場合精霊使いとしての素質が高いから、術が強く出すぎちゃうのね。強弱をつける練習が必要ね」

「うん。ごめんなさい」

 豪雨に晒された状態の2人が、ホッと溜息をつきながらも、目的の汚れは取れたから気にしなくていいよと言ってくれている。

「じゃあ、次は弱めにするようにして」

 自身に言い聞かせるよう呟きながら、使う呪文をレシピから探し出す。

(トルネード? いや、それじゃ強すぎるか……)

 となると、と。左目に送られてくるレシピの中からひとつの呪文を選び出す。

「疾風!」

 今度は弱めになるよう頭で念じる。

 すると効果があったようで、結界内に程よい風が吹き始めた。と思ったら、徐々に強風になっていき、再び二人が音を上げた。

「息ができないよ、アスピス」

「もう十分乾いたから、アスピス止めてくれ」

「ごめん! 今止める。疾風、解除」

 結局二回とも、精霊術が自然にかき消えるのを待つより先に、アスピスが解除することになってしまった。

「結界、解除」

 最後にアスピスはそう呟くと、しょぼんと頭をさげてしまう。

「2人ともごめんなさい」

「気にしないで、アスピス。精霊術を使い始めたばかりなんだから、これから慣れていけばいいんだからさ。それに、目的はきちんと達成できたんだしね。見てよ、ほら、ちゃんと汚れが落ちてるし、ちゃんと乾いているから」

「そうそう。キセオーツ王国出身で、こんなすごい精霊使いがいるなんてことが国にばれたら、大騒ぎだよ。キセオーツ王国は精霊使いの数も実力も、魔術大国と呼ばれているイシャラル王国と違って、全然足りてないからね」

 いじけるアスピスを、被害者となった2人が、必死になって慰めてくれるのが、余計にアスピスには情けなく思い。より落ち込んでしまいそうになるのを、なんとか踏みとどまる。

「ありがとう! もっと練習して、次はうまくいくようがんばるから」

「期待しているよ」

「がんばれ、アスピス」

 そう言うと、2人は先ほどの盗賊の報告に、エルンストがいる方へと走っていった。

 残るは、微妙な表情を浮かべているフォルトゥーナだろう。

「せっかくチャンスをくれたのに、ごめんなさい」

「まぁ、使い始めたばかりだから、失敗はしかたないわよね」

 内心できっと、三つ目の条件に攻撃魔法でないことを加えておいたことを、心から良かったと思っていることだろう。

 そう思うと、再びシュンと項垂れかけたアスピスの両頬を両手で挟むようにして、フォルトゥーナはアスピスの顔を起こさせる。

「下なんて向いちゃダメ。失敗してもいいじゃない、練習すればいいんだもの。自信を持ちなさい! 素質は十分あるのだから、使いこなせるようにさえなれば、アスピスはイシャラル王国内でもトップを争う精霊使いになれるはずよ」

「……う、うん」

 フォルトゥーナにまるで魔法をかけられるように言葉を掛けられ、アスピスは徐々に自力で顔を起こしていき、精霊使いとしてみんなの役に立てるよう頑張ろうと、心に誓う。

「ありがとう、フォルトゥーナ」

「良い笑顔になったわね。アスピスは笑顔が似合うんだから、いつでも笑っていてほしいわ」

 感謝の気持ちを述べると、フォルトゥーナは嬉しそうに微笑み、願うようにそう告げると、アスピスの頭を軽く胸元に抱き込んだ。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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