第206話(依頼掲示板Ⅱの2)
[二百六]
依頼掲示板から、依頼用紙を外して受け付けへ持って行く。
王都にあるだけあって、冒険者ギルドも大規模のため、ギルドで働く職員の数は多く、受け付け窓口も複数存在していた。また24時間体制のために交代制を用いていることもあり、受け付けにいる女性も多数存在していて、常時いるということはないようなのだが、現在対応してくれている女性は何度か相手をしてくれたことのある人だった。
「この依頼を受けたいの」
アスピスが用紙を差し出すと、女性がにこりと微笑んで受け取ってくれる。
「はい、いつもありがとうございます。こちらの依頼ですね。冒険者カードを見せてくれるかしら」
「これでお願いします」
「お預かりしますね。あら、六聖人になったのね。おめでとうでいいのかしら?」
「ありがとうございます」
カードケースを開くと、王国用の身分証明証も入っているため、すぐにアスピスの職業が見えてしまうのである。けれどもこれは見せていいカードなので、気にせずに受け付けに提出したので、気にすることなく応じておく。
「アスピスさん、後ろにいる人たちも同行してくれるのかしら?」
「うん。エルンストもレイスもルーキスもレフンテも一緒に行きます」
「それなら問題はないわね。アスピスさんもAクラスですし、この依頼の受け付けの処理をさせてもらいますね」
女性はそう告げると、手渡した依頼書の一部を切り取り、受け付けを済ませたことを示す印を押して、アスピスの冒険者カードと共にそれを手渡してくれた。
「これで受け付けは完了よ。それと、これが冷石に関する資料と図と、採取した冷石を入れる革袋になります。これにいっぱいになるように採取してちょうだいね。他の袋でも問題ないけど、この袋より小さい革袋を利用された場合、依頼の達成とは認められない場合があるから気を付けてね」
「分かりました。ありがとうございます」
アスピスは両手に手渡された物を持ち、ぺこりと頭を下げる。
「頑張って来てね。それと、怪我はしないよう気を付けるのよ」
「はーい。それじゃあ、失礼しますね」
アスピスは断りを入れると、受け付けの女性の前から場所を移動する。すると、後ろに立っていた男性が、受け付けを開始した。
ちょっと待たせてしまったようだ。
けれども、怒っている様子もないので、アスピスは手にしている荷物をしまうために、隅の方へ移動した。それに倣って、みんなとアネモスが付いてくる。
「用事も済んだようだから、俺は2階に戻ることにするが」
「あぁ、中断させて悪かったな。詳しいことは、レフンテが帰って来てから話すことにするから、存分に訓練して来いよ」
「分かった。それじゃあ、後は頼んだ」
ルーキスの弁を受け、レフンテは軽く頭を下げると、2階へ戻って行ってしまう。
それを見送ると、アスピスはアイテムボックスを開いて、無くさないようにしまい込む。
「これで問題ありません。無事に受け付けを完了しました」
「それじゃあ、冒険に必要なものでも揃えながら帰るとするか」
アスピスが宣言すると、エルンストがアスピスの頭を掻い操り、帰宅を促す。そのため、足が疲れていたのでアネモスに乗ってしまう。
「帰る準備もできました」
「なにを買いましょうかね。先ずは食料品を揃えるようでしょうか」
久しぶりの冒険にわくわくしているアスピスの表情を見つめつつ、レイスが冒険中の食事に思いを巡らせたようで、ちょっと考え込んでみせたのであった。
冒険用の買い物を済ませて家に帰ると、なぜかフォルトゥーナに接待されているシエンとイヴァールがそこにいた。
「なにしに来たんだ?」
「失礼ですね。アスピスの快気祝いに来たんですよ」
「だから、どこから情報を得るんだ?」
「愚問ですよ。クリシスに決まっているじゃありませんか」
「つまり、シェーン経由か」
「でも、冒険に出る前よかったわよね。あと数日来るのが遅かったら、すれ違っていたもの」
お茶菓子を出しながら、フォルトゥーナはにこりと微笑む。
「えぇ、本当に危ないところでした。こちらが気にしているのを知っているんですから、エルンスト辺りが連絡をくれてもいいと思うんですけどね」
「俺になんの期待をしてるんだ?」
シエンがぼそりと呟いた台詞に、エルンストは苦笑を浮かべる。
「いえ。たまには冒険へ行くのに声を掛けてくれてもいいのではないかと思いまして」
「お前ら忙しいだろ」
「時間くらい、たまになら、作ってみせますよ。なんのために、シェーンの身代わりがいると思っているんですか」
「威張って言うことか? それに、身代わりったって、長期間代役を務めてたらボロがでるだろ」
「その辺は、周りがうまくフォローをしますし。それに身代わりをしてくれるのは聡明な女性ですから、突発的なことがあっても臨機応変に対応してくれます」
人材には自信があるときっぱりと言い切ったシエンは、フォルトゥーナの淹れたお茶を口にする。
「それよりも、出発日は明後日以降でお願いします。まぁ、どうしてもと言うなら、明日でも可能ですけどね」
「こっちがなんとも言っていないのに、行く気満々だな」
呆れた声を出すエルンストだが、断ることをしないということは、同行を承諾してもいいと思っているようだ。
そんな2人のやり取りを聞きながら、アスピスはお土産としてイヴァールに差し出された、アスピス命名『ツルンぺろん』がたくさん入った袋を受け取っていた。
「すごいですね」
「好きなようだったからな」
「苺も好きですよ。それから、バナナはミルクと一緒にジュースにするとおいしいのです。どうぞご参考にしてください」
「そうか。それなら、次はそれも買ってこよう」
「お願いしますね。その代り、イヴァールには素敵なものをプレゼントしてあげますね。特別なものなので、ちょっとだけですが」
そういいながら、アイテムボックスを開くと中へ入って行き、ごそごそと棚を弄ってから、外へと出てきた。
「これはとても甘くて美味しい実なの。森の木になっているので、なかなか手にはいらなくて貴重なのです」
小さく丸い実が入った小皿をイヴァールの前に差し出すと、アスピスは説明してあげた。
「アスピスは、この実も好きなのか?」
「とても甘くて美味しいので、好きになってしまいました。イヴァールは木の実を知っているようですね」
「森で見かけることがあるからな」
「なら、これ以上の解説は必要ありませんね。ご堪能ください」
特別なときに少しずつ食べていた木の実を、大奮発して10粒もイヴァールにあげることにしたアスピスは、にっこり笑いながらイヴァールを見つめる。それを受け、イヴァールが皿に入った実を一粒口に入れた。
「甘いな」
「でしょ! とても小さな実なのに、濃厚な甘みがお口の中に広がるの」
イヴァールの言葉に、アスピスは即座に反応する。その脇から、フォルトゥーナがアスピスに向けて問いかけてきた。
「ところで、アスピス。お土産にもらったこの果物だけど、食べるなら洗うわよ」
「皮を剥くのでお願いしますね」
「実はどうするの?」
「イヴァールのお口に入ります。エルンストのお口でもいいですが……」
ちろりとエルンストの方へ視線を向けると、それに気づいたエルンストがシエンとの話しを中断し、アスピスのことを見返してきた。そして、アスピスがなにを言っているのか察したらしく、容赦なく拒否してきた。
「また食わせようとしてるんじゃないだろうな。こないだ嫌っていうほど食わされたばかりだぞ」
「なにを言っているのでしょうか。かなり前のことですよ」
「しばらくは遠慮するから、イヴァールに責任もって食ってもらえ」
「そこまで言うのでしたら、わかりました。エルンストにはお夕食のときにがんばってもらいますね」
ここは粘っても食べてはもらえないと分かったので、仕方なくも引くとして、ターゲットをイヴァールに絞るようにして見つめる。
「訂正します。エルンストのお口はご利用できないことになりました」
「そうか。なら、少しなら食ってやるぞ」
「少しとはどれくらいでしょうか?」
「そうだな……」
考え込むようにちょっと間を置き、笑いながら様子を見ていたフォルトゥーナへ、アスピスの熱い眼差しと相談しつつ、食べられそうな量を知らせる。その後アスピスの前に皮を剥いても大丈夫な量が、皿に盛られて差し出されていきた。
ギルドの依頼を受けてから数日後の早朝のこと。いつもより大夫早めの朝食を摂ると、出掛ける支度を開始する。
「ノトスにも声を掛けておいたからな」
「えぇ。手紙をもらったわ。顔を出してくれるって書いてあったから、度々様子を見に来てくれるんじゃないかしら。場合によっては泊まってもらうわ。その方がロワも喜ぶでしょうから」
「茶々を入れるアスピスがいないから、大喜びしそうな話だな」
「そうでもないかもしれないわよ。アスピスの相手をするのに慣れてきているみたいだし」
「まぁ、真面目だしな」
見送る準備をしているフォルトゥーナの弁に、早々に準備を終えて1階に下りていたエルンストが苦笑を零す。
今回は、仕事とは関係がないため、服装は一般冒険者のものとなる。それでも特殊な剣が収められている籠手だけは装備していた。
それから少ししたところで、エルンストに文句を言いながら、冒険用の装備に身を包んだアスピスが下りてきた。
「待っててと言ったのに、なぜ待てないのですか?」
「家の中くらいなら、自由に歩けるだろ」
「愛情が足りませんね。彼女が浮気に走っても、それは自業自得なのです」
「あら、アスピスは浮気予定でもあるの?」
「そうなのです。この機会に、シエンにたんまり借りを作ってきます」
いけない顔を浮かべてみせながら、アスピスはフォルトゥーナに抱きつく。
「お留守番お願いしますね。固定具から解放されたので、あたしは足のリハビリに行ってきます」
「気を付けて行ってくるのよ。魔物とはそれほど遭遇しないで済むみたいだけど、出ないというわけではないし。それに、精霊使いはアスピスだけだから、無理は禁物よ」
「はーい」
頭を撫でてくれながら、優しい声で語り掛けてくれるフォルトゥーナへ、良い子の返事をしてみせる。
「それから、レフンテのことをよろしくね。今回は、私は一緒に行けないから」
「任せてください。レフンテのことはお守りしてみせます」
「お前が面倒見てもらう方じゃないのか?」
「あたしを置き去りにしたエルンストは黙っていてください」
機嫌よくフォルトゥーナと話していたのだが、エルンストの介入で、アスピスはむうっとしてしまう。
「フォルトゥーナに話しがあるからって、ちゃんと断っただろ」
「それは初耳です」
「聞いてなかったのかよ。ちゃんと言ったぞ」
「仕方ありませんね。そういうことにしておいてあげます」
意図して深く吐息して、フォルトゥーナの腰に回していた手を離していく。
そして、そうこうしている内に、ロワを除いた全員が1階に集合した。
「昨日は拗ねて遅くまで起きていたから、目が覚めないらしくて」
「ロワは男の子なので、女性であるシェリスとフォルトゥーナとカルテイアのことをお任せしましたよ。と、お伝えくださいね」
「あら。それじゃあ一筆書いてもらおうかしら。私の口からだと、信じてもらえないかもしれないし」
「承知しました。お手紙をロワに書いていきますね」
シェリスの台詞を受け止めて、アスピスはアイテムボックスから便箋を取り出し、イスに腰を落とすと、手紙を認める。
内容は簡単なものであったが、文字を書くのを得意としていないことで、少し時間がかかってしまったが、なんとか完成させる。そして封筒に宛名を書いて、三つ折りにして便箋を中に入れる。
「これをロワへ渡してあげてください」
「ありがとう。ロワが喜ぶわ」
「どういたしまして。それでは、行ってまいりますね」
エルンストもレイスもルーキスもレフンテも、すぐに出られる態勢で待っていたため、フォルトゥーナとシェリスと、シェリスに抱かれているカルテイアに挨拶を済ませる。
「それじゃあ、留守を頼んだぞ」
「ルーキスたちも気を付けてちょうだいね。フォルトゥーナも残ってくれたし。ミロディアもいてくれるし。念のためにって、アスピスが昨日、結界を強化してくれたの。だから家のことは心配しないで、冒険を楽しんで来て」
シェリスの言葉に、ルーキスがシェリスの頬へ口づける。そして、それを機にみんなで「行ってきます」と言葉を残して、玄関の外へ出て行った。
「歩いていく時間はありますか?」
「そうだな。シエンもイヴァールもそろそろ来ているころだろうから、ちょっと急ぐか」
「でしたら、お抱きください」
手を伸ばしながら言うと、エルンストがおかしそうに笑いながら抱き上げてくれる。
「アネモスに乗るんじゃないのか?」
「みんなで楽しそうに歩いているのです。邪魔したらいけません」
少し遅れて、アネモスとオルトロスとエクウスが付いてくる姿へ視線を向けつつ、アスピスはエルンストへ注意した。
そしてエルンストに抱いてもらう格好で、王都の砦の正門を抜け、シエンとイヴァールが待っている場所へ到着すると、馬車を出して出発の準備を開始した。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




