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第204話(ノトス招待2)

[二百四]


 食事を終えて、後片付けが開始される。本日はお客様としてノトスがいることで、先に食後のコーヒーを用意してから、レイスとフォルトゥーナとシェリスで洗い物をしていた。

 本来であったら、そこへアスピスも加わるのだが、足が治るまでは後片付けはお預けとなっていた。

 そのため、テーブルでコーヒーを飲みながら、みんなと話しをして時間を過ごすことにする。

「今日はお酒を飲むのですか?」

「たぶんな」

「分かりました。それでは、ロワはお風呂に入って来てください」

 この家に来てから、たまに大人たちがお酒を飲むようになっていた。これまではアスピスに気を遣っていたようである。けれども、みんなが揃っていることでの安心感が生まれて、心の余裕ができたようであった。

 飲むといっても、過剰に摂取するわけではなく。また、エルンストが部屋へ訪れてくるのが遅くなるといった程度なので、気にしてはいなかった。

 なので、これまでアスピスが大人がお酒を飲むからと、なにかを注文することはなかったため、ロワが不思議そうに見つめてくる。

「どうかしたの?」

「ロワにご用があるのです。なので、早めにお風呂に入って欲しいの」

「うん。分かった。それじゃあ、お風呂に入って来るね」

 アスピスのお願いに快く応じてくれたロワは、すぐさま席を立つ。それを見て、ルーキスが声を掛けた。

「一緒に入るか?」

「パパはお話ししていていいよ。1人で入ったこともあるから、大丈夫だよ」

「んー。だったら、1階の風呂に入ろうな」

 そう言いながら席を立つルーキスへ、ロワが不審な目を向ける。

「なんでパパが立つの? ボクは1人でお風呂に入ってくるって言ったよね?」

「着替えの用意が必要だろ」

「それくらい自分でできるよ。パパは座っていて」

「ルーキス、大丈夫よ。最近、自分で着替えを用意できるようになったのよね」

「うん。ちゃんと用意できるようになったんだよ。パパは知らないんだね」

 世話を焼こうとするルーキスへ、シェリスが口を挟むようにしてロワへ語り掛けた。それに対して、ロワは元気に頷きながら、ルーキスにダメ出ししてみせる。

「悪かったな。それじゃあ、着替えを持ったら1階に下りて来いよ。誰もいないんだから、1人で3階の風呂に入っちゃだめだからな」

「はーい」

 それじゃあ、行ってくるね。と、着替えを取りに3階へ向かって行くロワをみんなが見送る。そして、ロワの姿が見えなくなると、エルンストが訊ねてきた。

「今日は、ロワと寝るのか?」

「秘密です。エルンストはみんなとお酒を飲んでいてください」

「あんまりロワを巻き込むなよ」

「安心しろ。ロワは、喜んでアスピスと寝るぞ」

 訝しむようにアスピスを見ながら注意してくるエルンストへ、ルーキスがからりと笑う。

「そうかもしれないが、ルーキスたちの息子が振り回されているんだぞ。本当にいいのか?」

「その辺は、ロワの意向によるものだからな。あいつの好きにさせるしかないだろ」

「なに気に、こいつは男を利用するぞ」

「そりゃあ、とんだ悪女だな」

 念を押すように綴られるエルンストの言葉へ、ノトスがおかしそうに笑い出す。

「笑ってるけど、お前もその内に、数に入れられるぞ。シエンとシュンテーマは、こいつの中では、既に手持ちのコマ扱いだからな」

「そいつは豪勢だな。俺をその中に入れるのは勘弁し欲しいが」

「失礼なのです。あたしは悪女なんかじゃありませんよ。エルンストが自慢できるように、美しい体のラインを求めて日々体操している、健気な彼女なのです。バストアップ体操とおしり歩きはお任せください」

 自信満々に言い切るアスピスだったが、周囲の反応はいまいちであった。

「クリシス先生の言っていた体操と、お前がやっている体操は、方向性が違うからな」

「あー、クリシス先生に体操しろって言われてるのか」

「そうなのです。筋肉が落ちないように、怪我をしていない足を動かせと言われてます」

「それでなんでバストアップ体操とおしり歩きになったんだ?」

「ぶよぶよにならないために体操の本を見たら、載っていたの。乙女として、やらないわけにいかなかったのです」

 事情を語ると、ノトスに失笑されてしまう。

 それに対して文句を言おうとしたところで、ロワが1階に下りて来て、みんなに断りを入れてからお風呂に向かって行った。

「あれは完全にアスピスと寝るつもりでいるな」

 機嫌のよい息子を見て、ルーキスは苦笑を零す。

「寝る前にひと仕事あるのですが。ロワは起きていられるでしょうか」

「やっぱ、なにか企んでるんじゃないか? お前、本当にロワを巻き込むなよ」

「お酒を飲む予定の人は黙っていてください」

 疑り深くなっているエルンストへぴしゃりと言い切ると、黙り込みコーヒーをちびちびと飲み始めてしまう。そして、それ以降は誰が話し掛けてもツンと外方を向き、ロワがお風呂からあがってくると、アネモスの背に乗って、ロワと2人でアスピスの部屋へ向かっていったのであった。



 片付けが終わり、アスピスとロワが2階へ上がっていったことで、1階では大人たちの飲み会が始まっていた。

 レフンテは、明日も早くから冒険者ギルドの訓練場へ通うようで、早々に部屋へ戻ってしまったようである。先ほど、向かい側に並んでいる部屋の扉の開閉音が響いてきたことで、部屋の中で作業をしていたアスピスやロワの耳にもその音が流れ込んで来ていた。

 だけでなく、レフンテは未だお酒にあまり興味がないようで、普段から大人たちのお酒に加わることをしていなかったのだが。

 いずれにせよ、お酒を飲み始めているのは確実なようである。そのことを確認すると、準備を終えたアスピスはアネモスに乗り、やはり準備を終えたロワを連れて1階へと下りて行く。

「お待たせしました。お客様の接待をするために下りてまいりました」

 階段を下りてくる音に反応し、1階で飲んでいたみんなの視線が自然とアスピスとロワの方へ向けられていく。そして、2人の姿を視界に収めた大人たちは、思い思いの感想を口にする。

「はっ? ちょっと待て!」

「なにやってんだ? ロワを巻き込むなって言っただろ」

「んー。いいのか? いや、本人がいいならいいんだけどな」

「可愛いですよ2人とも。ですが、ちょっと盛りすぎでしょうか」

「あら、似合ってるじゃない。アスピスったらなんでも持っているのね」

「そうね。でも、ちょっと濃いかしら。直してあげましょうか?」

 ノトスにエルンストにルーキスにレイスにシェリスにフォルトゥーナと、呆れたり笑ったりしながら、ノトスのために準備してきたという2人を迎え入れるよう、ノトスの両脇の席を空け、2人をそこへ座らせた。

「いや、待てみんな。酒の席に子供を同伴させるのはまずいだろ?」

「でも、ノトスのために準備してきたそうじゃない。せっかくだから、寝る時間になるまで、接待してもらいなさいよ」

「そういう問題か? つーか、お前らちょっとけばすぎ。化粧の仕方を学んだ方がいいからな。それに、胸がでかすぎだぞ。そこだけ異様に浮いてて変だからな。それから、服のサイズが合ってねぇだろ。ロングドレスになってるじゃねぇか。香水もつけすぎだ」

「ノトスは注文が多すぎるのです。ノトスのために準備してきたというのに……」

 ロワにはウィッグを付けて、ロングの髪を作り出し。アスピスは自前の髪の三つ編みを解き、ウェーブのかかった長髪をそれぞれハーフアップにして、バレッタで止め。顔にはしっかり化粧を施し。大人の香りを演出するために、香水を振りかけ。精巧な造りの偽胸を直張りして、大人用のブラジャーを装着する。その上から大人であったら膝丈くらいなのだろう、ぶかぶかなプランジングネックのドレスを、ロングドレスのように着こんでいる2人は、可愛いと言えば可愛かった。不気味と言えば不気味であった。

 そんな中で判明したことと言えば、ロワの女装は、もっと普通のものだったなら、とても似合っているようだということであった。

「どうでもいいが、アスピスはエルンストにサービスしてやるといいと思うぞ」

「今日は、お客様が優先なのです。気にせず接待されてください」

「お酒はボクが担当なんだって。注いであげるから言ってね」

「いや。ロワも無理してアスピスに付き合わなくていいんだぞ。つーか、親! なんとか言ってやれよ」

「だって、ロワも楽しんでいるみたいじゃない。お酌してくれるらしいから、サービスしてもらってちょうだい」

 からりと言い放つシェリスも、面白がっているようである。なにを言っても無駄だと察したノトスは、疲れた面持ちを作り出した。

「ここの19歳トリオも無茶苦茶だったが、お子様ペアも負けてないな」

「あー、やっぱり大変だったんだな」

 思わず仕事中のことを思い出してしまったらしい。ノトスの台詞を受け、エルンストが苦笑を洩らした。

「単体なら普通なんだが、3人揃うと本当に好き放題だぞ」

「お疲れのようですね。そんなノトスにぴったりなお知らせがあります。お聞きしますか?」

「いや、遠慮しておく」

 速攻で拒んでみせたノトスであったが、アスピスはそれを無視して話しを進める。

「分かりました。聞きたいそうなのでお教えしますが、このお胸はとても高性能なのです。触ってみていいですよ、本物そっくりの手触りを保証します。多分ですが」

「俺の意見は無視かよ。つーか、つまりはどっちなんだ?」

「あたしは本物を触ったことがないのです。だから、本物そっくりの手触りと言われても分からないのです。ですが、触った感じは悪くありませんでしたよ。どうぞ、お触りください。お胸を触ると癒されるそうですね」

「ちょっと待て! そういう情報はどこから入れてくるんだ? 小説か? エルンストか?」

「ノトスこそちょっと待て。俺を巻き込むんじゃねぇよ」

 不意に名前を挙げられて焦ったエルンストが、速攻でノトスに苦情を述べる。対するノトスは、暴走するアスピスの相手を一手に引き受けさせられていることで、頭を抱えるようにしながらぼやいてみせた。

「じゃあ、誰だ。ろくでもない情報を叩き込んだのは。フリーダムすぎるぞ、この家は」

 意外とノトスは真面目らしい。騎士学校へ通っていたのだから、それなりに遊んでいても不思議はないのだが、ノトスは例外なのだろうか。

 小首を傾げつつ、アスピスは口を開いた。

「お胸のことはテネルに教えてもらったのです。この変装用の道具を一式も、テネルがくれました」

「誰だ? そのテネルっていうのは」

「前の路を少し上ったところに、食料品が売っている屋台があるのです。そこの店番がテネルなのです。しかも、なんとその実態は、六聖人の守護役だそうですよ」

「守護役がなんつーこと教えてんだ。いや、その前に、アスピスは女の子なんだから、変な話題に付き合ったりするな」

 本気で怒っているわけではないようだが、止めて欲しいとは真剣に思っているようである。子供に説教をするようにして苦言を呈してくるノトスは、本当に堅い正確なようであった。

「おかしいですね。サービスしたら喜んでもらえると教えてもらったのですが」

「喜ぶわけないだろ」

「そこまで言われては仕方ありません。ノトスはお胸に興味がないようなので、本来のお仕事に戻らせていただきますね」

 アスピスはそう言うと、アイテムボックスをおもむろに開いて、中から果物が盛られた皿と空のボールを取り出した。

「ロワはお酌をお願いします」

「うん、任せて。ノトス、お酒を注いであげるね」

「ルーキス、お前の息子だろ。本当にこれでいいのか?」

「まぁ。アスピスに頼まれちまったら、こんなもんだろ」

「過保護のくせに、変なところで放任すぎるぞ」

 もう笑うしかないという態で、好きにさせておこうと思っているようである。ノトスの問いにあっさりと応じたルーキスへ、ノトスは改めて頭を抱えた。

 そんなノトスの苦悩を素通りするように、シェリスがアスピスに訊ねてみせる。

「ロワにお酌を任せるのはかまわないけど。アスピスはなんのサービスをしてあげるのかしら?」

「あたしは、果物の皮を剥く係です。ご覧の通り大量にご用意したので、剥き放題です」

 アスピスの大好きな果物のひとつ。気持ちがいいほどに皮がツルンぺろんときれいに剥ける、アスピス命名『ツルンぺろん』を目の前に置き、ボールを膝の上に載せて、準備を完成させる。

 ちなみに、テネルに注文するときに、正式名称は分からなかったのだが、果物の特徴として『ツルンぺろん』と告げたところ、ちゃんと通じたのでアスピスの中でこの名前が定着することになったのであった。本当は実の形と色で伝わったのだが、それはアスピスの知らない事実なので、命名を妨げることはしなかった。

「ノトス、お口を開けて待機してくださいね。果物はあたしが食べられる状態にして、お口に運んであげるので」

「それは、誰が得することになるんだ?」

「ノトスに決まっているのです。こんなにお胸の大きな女性にサービスをしてもらって、喜ばない男性がいるでしょうか」

「偽胸だけどな」

 もうどこから突っ込めばいいのか分からないという表情で、ノトスはそっと溜め息を吐く。現状は諦めろと言われているようだが、素直に受け入れる気にはならないようである。

 アスピスとしては、細かいことなど気にするなと言いたかった。

「本物と見紛うお胸ですので、本物と思えば問題ないですよ。それよりお口が閉じています。あたしはいつでも開始できますので、食べる準備をしてください」

「それって、サービスじゃないよな? 強制って言わないか?」

「ノトス、お酒も注いであげたよ。飲んでくれないと、次が注げないよ」

「果物はたくさんご用意してあるのです。早くお口を開いてください」

 ロワとアスピスの攻撃を一身に受けているノトスを見つめつつ、ルーキスやエルンストやレイスがしみじみと呟いた。

「モテモテだな」

「すげーモテてるな」

「人生で一番のモテ期ですね。きっと」

 ノリとしてはそっとしておきましょうという感じである。そして、それぞれ自分のペースでお酒を飲み始めた周囲を察し、アスピスとロワから強制的に過剰なサービスを提供されているノトスが「お前ら、感心してねぇで助けろ!」と3人に向けて叫んでいた。

 そしてその後、ひとしきり笑ったシェリスとフォルトゥーナが、アスピスとロワに提案し、ロワのお酌は全員に対して行われることになり、ツルンぺろんの果物はアスピスの手で皮が剥かれ、ノトスとエルンストの口に交互に運び入れることで話しがまとめられる。

 そのおかげで、アスピスは満足いくまで皮を剥くことができ、ロワが眠くなったことを機に、アスピスとロワは寝るために部屋へ戻って行ったことで、ようやく静かな時間が1階に訪れたのであった。

 そして達成感で満たされた2人は、アスピスの部屋のベッドへ無事に到着していた。しかし、着替える途中で寝てしまったロワの服を脱がせようと頑張りはしたものの、途中で力尽きて寝入ってしまったアスピスもそのまま寝てしまい、お酒を飲んでいた大人たちが様子を覗きに行ったのだが、そのままそっとしておくことになった。

 それが判断のミスだったのかもしれない。朝になり改めて起こしに行ったら、すごい状況に陥っていた。そのため、アスピスとロワは速攻でお風呂に入れられ、偽胸やらプランジングネックのドレスやらウィッグやらが散らばるベッドは化粧で汚れてしまったため、フォルトゥーナが精霊術で綺麗にしていく。

 そして慌ただしく賑やかな接待を受けることとなったノトスは、昼の休憩時間をみんなと過ごすと、面白い体験をさせられたと笑いながら帰っていったのであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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