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第202話(問題児出現11/解決?)

[二百二]


 怪我を負ってから2週目に入るとすぐに、クリシスに診察してもらうため、王国管理室の診察室へ連れて行ってもらい、額の傷の抜糸をしてもらう。ちょっと傷が残りそうではあるが、クリシスが丁寧に縫ってくれたので、思っていたよりもきれいに治りそうである。体に残っていた擦り傷もほぼ治り、後は足の骨がくっつくのを待つだけとなった。

 そして、アスピスたちが住んでいる家の周辺で騒動を起こしていた3人組に関しては、ロワの活躍により3人の正体が判明し、王国騎士団による捕り物が行われてからしばらく経った頃に警備兵が訪れ、今年15歳になったばかりではあるが、怪我人が多数存在していることと、扱っていた道具が殺傷能力のある武器であったことで、成人として対処されることになったそうである。そのため、六聖人を傷つけたことも考慮に加えられた上で処分が決まるらしいことを、報告してくれた。

 件の3人組は、そんな事実を突きつけられ、真っ青になっている最中らしい。そして罪を押し付け合っているそうだ。

 そんなことも踏まえ、怪我を負ったアスピスが六聖人として重罰を求めるのならば、そういうことも可能だと教えてくれる。ただ、そのためには手続や証言等が必要になるとのことだった。その上で、どうするか問われたのだが、適切な処分をしてもらえれば問題ないことをエルンストたちが告げ、これを機に今回の騒動から手を引くことにしたようだ。

 いずれにせよ、処罰が下されるのは、しばらく先になるということだった。

 そしてようやく平穏が訪れ静かな暮らしを取り戻した矢先に、この家に住んでいるのが王国仕えの者たちであるという噂を聞きつけた親に連れられて、高級住宅街に住む少女と共にアスピスを指さし笑っていた少女たちが、次々と家に訪れてきた。

「ですからね、うちの娘は上に住んでいる子に唆されていただけなんですよ」

 公園の周辺に住んでいるらしい少女の親が、にこにこと愛想笑いを浮かべながら、1人の少女を悪役に仕立てるようにして、言い訳を口にする。

 これで3人目である。

 言っていることはみんな同じで、上にある高級住宅街に住む少女に無理矢理アスピスの悪口を言うよう仕向けられたから、自分の娘は悪くないということであった。

 そんな内容を延々と、こちら側が『あなたの娘も被害者ですよね』と肯定してくれるのを待つように、繰り返し主張してくるため、対応しているフォルトゥーナもげんなりしているようである。

 しかも真相はというと、最初に訪れた親子に向かって、1人の少女に罪を着せるような発言が聞き捨てならなかったらしいロワが『それは嘘だよ。みんなで競い合うように悪口を言っていたよ。ボクはその場にいたから知っているよ』と容赦なく言い放ったことで、はっきりしていた。ただし、真っ青になった親が捲くし立てるよう言い訳を連発し、帰るよう促しても、言い分を認めてもらうまでは帰れないとばかりに居座り続けられた経験から、訪問客が来る度にロワが余計なことを言わないよう、ルーキスにより確保されていた。

 そんな中、これまでに訪問してきた親子が綴ってみせた決まり文句的台詞を、今回訪問してきた母親も口にする。

「足の悪いお嬢さんですか。その子とも、これからは仲良くしたいとうちの子が言っていましてね。これまでのことは、子供同士のことですし、ね。分かりますよね」

 水に流しましょうよ。と、言外で訴える母親へ、フォルトゥーナがきっぱりとした物言いで、それに対して断りを入れてくれた。

「子供同士のことだと言うのでしたら、どうして親のあなたが出てくるのですか? アスピスは、笑いながら人の悪口を言うような人とは付き合う気はないと言っています。どうぞお帰りになってください」

「子供のしたことじゃないですか、お嬢さんだって数日経てば忘れちゃいますよ。それより近所同士仲良くしませんか? その方がお互いに暮らしやすいと思いますよ」

「申し訳ございません。私には、あなたと仲良くする理由が思いつきません。今日、こうしてお会いするまで、一度も関わったことありませんよね? それでなんの問題もなく過ごせてきましたよね?」

「それはそうですけど。でもね、同じ年頃の子供を持つ親同士でしょ。情報だって交換できますし、子供の預け合いだってできますしね。お若いから分からないでしょうけど、ご近所付き合いって大事なんですよ」

 これまで訪問してきた母親の台詞の端々から窺えるのは、王国に仕えている者たちを懐柔して近所の中で優位に立ちたいということと、回復術を使えるような精霊使いとは円満な関係でいた方が後々得だという、損得勘定した結果ということらしい。しかも、上にある高級住宅街に住む少女が悪いのだからと、謝ったら負けだと思っているのか、今回も含めて3人の親は謝罪する気はないようである。

 謝ってもらったところで、アスピスには、女の子たちと付き合う気はさらさらないのだが。その辺のアスピスの意思を尊重してくれるような親は、今のところいなかった。

 しかも、対応に出ているフォルトゥーナが若いこともあり、押せば折れると思っている節があるようだ。

 家に入る許可を出していないため、玄関の外に立ってあれこれ言い続ける親子の声だけ聞こえる場所で、動けないことを理由にアスピスは静かにお茶を飲んでいた。

 ちなみに、ご近所付き合いというものをちゃんとしたことがあるのは、この家ではアスピスとシェリスだけであった。フォルトゥーナもやろうと思えばできるのだろうが、これまで住んでいたのが人間関係の希薄なアパートだったことで、付き合う必要がなかったようである。

 そもそも、冒険と仕事の掛け持ち状態で忙しい日々を送っていたため、家を空けている時間が多かったフォルトゥーナにとって、ご近所付き合いよりも、仕事や冒険の仲間たちと付き合うことの方が意味のあるものだったのだろう。

 それで困ったこともなかったようで、特に必要性を感じていないみたいであった。

「お帰り願えませんか? あまりしつこいと、警備兵を呼ぶことになりますけど、よろしいでしょうか?」

「やだわぁ、こんなことぐらいで大袈裟な。近所の笑い者になりますよ」

 都合のいい台詞を引き出せるまで引き下がらないと言いたげに、のらりくらりと話しをはぐらかす母親に、フォルトゥーナは疲れ切ってしまったみたいである。どうにかお引き取り願えないものかと必死に言葉を探している最中に、シェーンから呼び出されていたレイスとエルンストが帰って来た。

「どうかしたのですか?」

「また来てるのか?」

 訪問してきた親子に対しつれない対応しかしないフォルトゥーナから、話す相手を乗り換える気になったようである。フォルトゥーナへ声を掛けた2人に気づき、母親がそちらへ目を向けたらしい瞬間、声のトーンが急に変わった。

「あら、まぁ。やだわ。どちらが旦那様なの?」

 にこにこした笑みを張り付けているのだろうと、顔が見えなくても分かってしまうのは、ちょっと上ずった声を出したからである。美青年が2人現れたことで、興奮したようだ。

 質問に対しては、3人が揃って沈黙したのだが、そんなことおかまいなしに女性は高揚したまま言葉を次々と綴っていく。

「ご兄弟なのかしら? それに、その服。王国仕えとお伺いしていたんだけど、王城へ行ってらしたの? ご近所にこんな方が住んでいたなんて、本当に心強いわぁ。なにかあったらよろしくお願いね。頼りにしてるわよ」

「って、なんなんだ? フォルトゥーナ、これって……」

「アスピスの足のことで、悪口を言っていた子らしいわ」

「だから、それは説明したでしょ。悪いのは上に住んでいる子だって。それより、そろそろ立ち話もあれでしょ」

 お茶くらい出してくれてもいいんじゃないかしら。気が利かないわねと、訴えてくる母親へ、フォルトゥーナが半ば吐息しながら言い切った。

「でしたら、お帰りください。こちらはお話しすることはなにもありませんので」

「さっきから我慢してあげていたんだけど、敢えて言わせてもらうわね。あなたの取っている態度は年上に対するものじゃないわよ。近所付き合いする上で、重要なことですから教えてあげますけどね、最低限の礼儀はちゃんとしていただかないと」

「いや、あんたと付き合うつもりないんで。帰ってくれませんか。フォルトゥーナもあんたの相手をして疲れ切ってますし」

「申し訳ございませんが、お帰りください。それと、お困りのことができましたら、警備兵へご相談ください。見ず知らずの人に頼られても、こちらも困りますから」

「ちょっ。失礼ね! それに、ふしだらだわ。どちらが旦那なのか知りませんけどね、年頃の男女が、夫婦でもないのに共に暮らすなんて有り得ないわ。王国仕えだからって、なにをしてもかまわないわけじゃないのよ」

 甲高い声を上げ、文句を綴る母親に、アスピスもだんだん疲れを覚えて来てしまう。

 お茶を飲みつつ声を聞いているだけで、これである。対応しているフォルトゥーナは尚更だろう。ちょっと気の毒になってきた。ついでに、助け船をだすようかと、松葉杖を取り出そうとしたところで、ロワを抱え込んでいたルーキスが止めに入った。

「子供はおとなしく我慢してような。話しがややこしくなるだけだからさ」

「でも、あたしがお断りすればいいような気がするの」

「お前が断ったところで、すんなり受け入れてくれるような人じゃなさそうだろ」

「うーん、そうかもしれません」

 確かに、それは言えていた。そのため、立つのを諦めたところで、レイスの声が響いてきた。

「あなたの方こそ、人の家の前で大声を出してたりして、恥ずかしくないんですか? 迷惑ですので、お帰りください」

「それは、ですから、あなたたちが非常識だからでしょ。明らかに年上の私に対してとる行動じゃないですよね? こちらが下手に出ているからと言っ――」

 不意に女性の声が途切れたのは、少年の声が響いてきたのと同時であった。

「すみません。ロワと……その。名前は知らないんだけど、足の悪い女の子いますか?」

「あら、どうしたの?」

 子供が相手となったことで、フォルトゥーナの表情が優しいものへ変わっていくのが、見ていてわかる。

「それが、あの……。おい、おまえが用事あるんだろ。ちゃんと言えよ」

 なにやら同行者がいたようである。男の子の声に代わって女の子の声が聞こえてきた。

「その、ごめんなさい。悪いのはわたしなの。だから、お父さんとお母さんを捕まえないでください」

「どうして、お父さんとお母さんが捕まるのかしら? なにをしたのか教えてくれる?」

「こいつが、足の悪い女の子に向かって悪口を言たって、昨日白状してきて。この家には国のために働いている偉い人がいっぱい住んでいるから、お父さんとお母さんが捕まえられちゃうって泣くもんだから。お母さんがちゃんと謝って来なさいって言って」

 女の子の言葉を補足するよう、男の子の声が部屋の中へ届く。それに反応するように、女性の声が再びキンキンと響いてきた。

「あら、あなたたち、そう言えば近所の子ね。うちの子が遊んであげているのよね。それにしても、親が同伴しないなんて礼儀がなってないんじゃないかしら。若い内に結婚するのはいいけど、子供を学校へ行かせることもできないようじゃ、良し悪しよね」

「それは、お父さんがオレたち家族のためにって家を買ってくれたからで。それに、うちには生まれたばかりの赤ちゃんが2人もいるから、それでお母さんが付いて来れなかっただけで……」

「あの、これ。お小遣いが少ししかなくて、お花が一本しか買えなくてごめんなさい。毎日お花を買っていたから、悪口を言っちゃったおわびです。本当にごめんなさい」

「あら。ご丁寧にありがとう。悪口は良くないことだけど、それであなたたちのご両親を捕まえることはしないわよ」

「当然よ。子供同士のことで、国が動くなんて有り得ないわ。そんなことも教えてあげない親ってどうかと思うわよね」

 フォルトゥーナの台詞を受け、女性が当たり前だと言わんばかりに溶解する。

 そこで、フォルトゥーナに限界が来たようであった。

「あのね、アスピスに直接謝ってくれるかしら? このお花もアスピスに直接渡してあげてちょうだい。お願いできるかしら?」

「はい。おまえ、ちゃんと謝れるよな?」

「うん」

「それじゃあ、2人は中へ入っていいわよ。それから、レイスとエルンストも入ってくれる」

 許可を出したことで、男の子と女の子が家に入ってくる。その後から、レイスとエルンストも入って来た。

 男の子と女の子は兄妹のようである。家の中をきょろきょろ見回した後、男の子の方はロワを見つけて笑顔を浮かべた。対照的に、女の子はアスピスを見つけて顔を強張らせていた。

 その背後では、フォルトゥーナが女性と対峙している。

「ちょっと待ちなさいよ。先に来ていたのは私たちよ。それに、その子たちを許すのなら、うちの子だって許してもらっていいはずよ」

「許すなんて言ってません。それを決めるのは、悪口を言われたアスピスです」

「悪口を言われたって被害者ぶっているけど、子供同士のケンカみたいなものじゃない。喧嘩両成敗っていうでしょ。お互い様だと思わないの」

「そういう認識の方とは、これ以上お話ししても無意味ですので。お互い時間を無為にするだけですので、お帰りください」

「さっきから偉そうにしてるけど、いい加減になさい。王国仕えだからって、ピンからキリまであることくらい知っているのよ。ちょっと王国に関わった仕事をしているからって、威張るのはどうかと思うわよ。正体がバレて、大したことないって分かってしまったら、恥をかくのはあなたたちよ」

「アスピスも私も、この家に住んでいるもう1人の女性も、六聖人ですがなにか? それに、先ほどの男性2人は六剣士ですし。あなたと私のどちらの言葉に、周りも国も重きを置かれると思われますか」

「――ッ」

 きっぱりはっきり容赦なく言い放たれたフォルトゥーナの言葉に、女性が怯んだことが伝わってくる。

 普段は絶対に地位を盾にするようなことを口にしたりしないフォルトゥーナが、その言葉を使ったということは、本気で怒っているということなのだろう。

「それでは、お客様が来たのでお茶を入れないとなりませんから。私はこれで失礼します」

 そう告げると、親子の返事を待たずに、フォルトゥーナは扉を閉じる。

 そして、中に入れられ戸惑っていた2人をソファーへ座らせ、アスピスとロワもそこへ座るよう告げてきた。

「飲み物は、ジュースでいいかしら。おやつの時間だか、お菓子も用意するわね」

 ようやく訪問してきた親子から解放され、ほっとしているのかもしれない。にこやかに話しかけてくると、台所へ行き飲み物とお菓子を用意しだす。

「ねぇ、カウトス。その子、君の妹なの?」

「うん、そうなんだ。名前はファーシルって言うんだけど」

「その子、アスピスの悪口を言っていたんだ。ボクは大嫌いだよ」

「オレもこいつから昨日その話しを聞かされて、足の悪い子で毎日花を買っている子だって言うから、ロワと一緒に住んでいる子のことだってすぐにわかって。お母さんも、悪口を言った理由を聞いて、とても怒っていて。でも、生まれたばかりの赤ちゃんが2人もいるから手が離せなくて、代わりにオレが付いてきたんだ」

 ロワとは公園で遊ぶ仲のようである。カウトスと呼ばれた少年は、事情を説明してくれる。

「お母さんが謝って来なさいって、言ったのかしら?」

「はい」

「ごめんなさい。わたしが調子にのって、悪口を言っちゃったの。お母さんが、足が悪いのを理由に攻撃するなんて卑怯者のすることだって。絶対にやってはいけないことだって」

 これはお詫びですと、アスピスに向けて頭を下げつつ、ファーシルと紹介された少女が花を差し出して来る。

 大人たちは少し離れた食堂のテーブルから、それを黙って見守っていた。そして、少し迷いを見せていたアスピスだったが、真面目な顔をして花を受け取ることにした。

「分かりました。これはお受け取りしますね」

「アスピスは言いたいことはないの?」

「ないですよ」

 ジュースとお菓子を並べながら問いかけてきたフォルトゥーナへ、アスピスはにこりと笑う。

「本当は許してあげるつもりはありませんでしたが、こうして謝ってくれたのはこの子だけなのです。これはとても貴重なことだと分かったので、だから、いいことにしました。決して、お花につられたわけじゃありませんよ。それに、2度目はないのです」

「そう。アスピスが納得しているなら、いいのよ。ロワもそれでいいわよね」

「んー……、カウトスはとても優しくて親切なんだ。遊んでいて、とても楽しいよ。だから、アスピスがそれでいいなら、カウトスに免じて、ボクも仲直りするね」

「なら、仲良くおやつの時間にしてちょうだい。おかわりはあるから、安心して食べていいわよ」

 アスピスの反応にほっとしたようにフォルトゥーナは微笑み、その場を子供だけにする。

 そこからは、ロワとカウトスが談笑し始め、徐々にファーシルが話しに加わり始め、ちょっとした賑やかな空間が出来上がる。

 少し年下ではあるようだが、同じような年頃の知り合いはロワだけというアスピスにとって、ある意味でカウトスとファーシルは未知の存在であり、話していることすべてがとても新鮮に感じてしまう。そしてなにより、ロワがとても楽しそうにしていることがとても嬉しかった。

 ただし、取り上げられる話題がどれもこれも経験したことがないことばかりだったので、話しに加わることはできなかったのだが。それでも、3人の会話をにこにことしながら聞いていた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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