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第201話(問題児出現10)

[二百一]


 警備兵に連れられて、家に訪れてきた母親と娘が、アスピスたちの家から出て行った。

 最初は自分の方が正しいという自信からすごい迫力であったが、エトノスの説得の効果もあって、女性の勢いは徐々にトーンダウンしていくのが見ているだけでも伝わってくる感じであった。そして、主に息子がやらかした数々の事件やそれに対する今後の処遇などを、警備兵たちから知らされた途端に肩を落とした女性は、自分の子供たちがしてしまったことに対して、アスピスたちにひたすら頭を下げていた。

 娘の方は最後まで自分は悪くないと主張していたが、警備兵により突きつけられた現実を受け止めることにしたらしい母親は、窘めるようにして娘の口を閉じさせた。

 その一連の変化が、アスピス的には衝撃的であった。

(母親って、あんな感じなのかな?)

 ちょっと羨ましく思いながら、エルンストに抱いてもらい、家を出て行く警備兵と親子を見送り終える。そして、ちょっとした騒ぎが解決したことを確認したことで、テネルとエトノスも屋台に帰って行った。

「本当に、治してやってよかったのか?」

「それは問題ないのです。あたしの回復術は、ただでもらったものなのです。お金を取っることはできません」

「そうかもしれないが、お前の顔には傷が残るんだぞ? あの子の傷は腕だっただろ。傷痕が残ったところで、将来に影響するなんてそうないぞ」

「エルンストは女の子のことを分かってませんね」

「そうかよ」

 アスピスがふっと吐息したことで、エルンストは失礼しましたと苦笑する。

 しかし、今度はロワが疑問をぶつけてきた。

「アスピス、なんで治しちゃったの? あぁいうのは自業自得って言うんだよ」

「あのお母さんは、ちゃんと分かってくれたので、これでいいのです。ロワもいっぱい謝ってもらったでしょ。お母さんが可愛そうなので、これ以上は責めちゃダメですよ」

 にっこり笑って説明すると、ロワはちょっと悩み込む。

「ロワ、アスピスが決めたことなんだから、お前が口を出す範疇じゃないぞ。それに、ロワが犯人の1人を捕まえたおかげで、ようやく騎士団を動かせたようだからな。今朝、残りの2人も捕まえたらしいから、本格的な取り調べが始められたそうじゃないか。アスピスに怪我を負わせた3人組はきちんと罰を受けるんだから、それで我慢しろ」

「うーん」

「ロワとしては難しいわよね。アスピスの額の傷は残ったままですもの。でも、だからってアスピスのことを嫌いになったりはしないでしょ?」

「もちろんだよ。ボクはアスピスの額に傷があっても気にしないよ。でも、アスピスは女の子だから傷があったら嫌でしょ」

「私たちが気にしなかったら、アスピスも気にしないでいられるから、ロワもこだわるのは止めてあげましょうね。その方がアスピスも喜ぶわよ」

 難しい顔を作り出すロワへ、フォルトゥーナが話し掛けながら、3時のおやつにイヴァールからもらった果物を差し出す。

「それに、私はこれでよかったと思うの。治療をしなかったら、アスピスのことだもの、後悔するかもしれないでしょ。治療の件は口外しないって約束してくれたし。娘さんにもしっかり言い聞かせるって言ってくれたから、信じましょう」

「でも、もし、公園で会ったとしても、ボクは話したくないな」

「それは、ロワの自由にしていいことよ。アスピスが許してあげたからって、ロワまでそれに倣う必要はないもの」

「フォルトゥーナは間違ってます。あたしはあの女の子のことを好きじゃないのです。だから、公園で見かけても、今まで同様にお話しをしたりしませんよ。それと治療は別問題なのです」

「そうね。治療することと、許すことは別問題ね」

 アスピスの主張に、フォルトゥーナは納得してみせながら、アスピスの前にも皿を置く。

「それはそれとして、疲れたでしょ。おやつにしましょうね」

「食べてばかりいたら、動けないあたしの体はぶよぶよになってしまいます」

「アスピスは細すぎるから、肉を付けるのに良い機会よ」

「残念ですが、乙女に食べすぎは禁物なのです」

 これはご遠慮しますと、ツツツと皿を中央に寄せてみせると、アスピスは飲み物に手を出す。

「ジュースは美味しくいただきます」

「仕方ないわね。ジュースはちゃんと飲んでちょうだいね」

 フォルトゥーナは苦笑を浮かべながらも、無理強いをする気はないようで、すぐに引いてくれた。というより、フォルトゥーナの関心事が他にあったようである。アスピスが遠慮した果物をエルンストの前に置きながら、ルーキスの方へ視線を向けていく。

「それより、ルーキスはあの2人が護衛だと知っていたの?」

「ん? あの2人はパーティーを組んでいて、少し前まで、王都を拠点としている冒険者の中では、実力者として有名だったんだ。引退して、国仕えになったって噂は耳にしてたんだけどな。この間、顔が似ていると思って気になってたんで、ちょっと探りを入れてきたところだ」

「そういうことだったのね」

「あぁ。そういうことだから、信用していいと思うぞ」

「そうね。とても頼りがいのありそうな人達だったものね」

 エトノスの対応を思い出したのだろう。同時に疑問が解決したことで、フォルトゥーナは笑みを深める。

「でも、守護役を用意してくれてたなんて、ちょっとびっくりだったわ」

「六聖人が3人揃っているからな。さすがに放置しておくわけにもいかなかったんだろ。ただ、2人としては名乗りを上げる予定はなかったみたいだけどさ」

「それじゃあ、ルーキスがバラしちゃってよかったの?」

「お前らも、知っておいた方がいいと思ってな」

 フォルトゥーナの問いへあっさり答えたルーキスは、目の前に置かれたお茶を手に取る。

「まぁ、いざって時には利用させてもらえ。そのための守護役だ。相談すれば、なんらかの対応はしてくれるだろ。その前に、こっちで解決する努力をする必要はあるだろうけどな」

「そうね。いざというときは、頼りにさせてもらうようね」

 カップに口をつけながら告げられたルーキスの言葉に、フォルトゥーナは同意するよう頷いた。



 犯人が捕まったことで、ようやく1人での外出が許可されるかと思ったのだが、足が治るまではロワと一緒に出るように言われてしまう。そのため、夕方少し前にアスピスとロワを乗せたアネモスが、オルトロスとエクウスを連れて、花屋へ向かう。そこで日中のお礼を述べつついつものように花を買い、来た道を戻る形で家に帰る。

 そして花をグラスへ生けると、それを脇に置いておき、食事の準備の手伝いを開始した。

 片足で長時間立つことを禁止されているので、食堂のテーブルにシートを敷き、まな板を置いて、アスピス用の簡易の台所を作り出す。

「今日はなにを切りますか?」

「野菜の皮を剥いて、小さく刻んでくれますか」

「今日はお野菜のスープですか。分かりました、お任せください」

 シートの上に処理を頼まれた野菜を並べ、先ずは皮を剥くことから開始する。

 可能な限りお手伝いをするようにしていたため、大夫手慣れてきたことで、そこそこ早く野菜の皮が剥けるようになっていた。薄く実から離された皮が連なり、膝の上に載せたボールの中へくるくると入っていく。

「随分と上達したな」

「エルンストより巧いかもしれませんね。レイスやフォルトゥーナには敵いませんが」

「そうかよ。つうか、調子に乗って手を切るなよ。そのときは縫ってやるけどな」

「お断りします。縫ってもらうときは、近所の診療所へ行きます。お医者さんは、縫っても痛くなくしてくれる注射を打ってくれるそうですよ」

 先日ロワから教えてもらったことを、手を止めてエルンストへ教えてあげる。

 エルンストに縫われるか、回復術を使うか、その二者択一ならば、迷わず回復術を選ぶことにしているアスピスであった。

 そして、再び視線を野菜に戻すと、皮剥きの続きを開始する。それからほどなくするとすべての野菜の皮を剥き終え、刻む作業を開始した。

 そんなアスピスの準備状況を確認しながら、レイスもスープの下準備を始めたようである。大きな鍋がコンロに置かれ、そこへ水が注ぎ込まれていく。

 コンロの下のオーブンでは、フォルトゥーナが用意した、メインとなる肉が焼かれていた。なにやら今日は練習とのことだった。

「そう言えば、ノトスとお約束しましたお食事の件はどうしますか?」

「そうね。犯人も捕まったし、近い内に招待してあげないといけないわね」

「その時は、フォルトゥーナが作ってあげてくださいね。お約束なので」

「ちゃんと覚えているから大丈夫よ。それに、アスピスも手伝ってくれる約束だったわよね。ノトスを招待するときは、一緒にメニューを考えましょうね」

「分かりました。ご協力しますね」

 会話の最中は手を止めて、話しを終えると作業を再開する。そして、頼まれていた野菜を全て刻み終えると、レイスに声を掛けた。

「お待たせしました。切り終わりましたよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、野菜はもらっていきますね」

 ボールに入れられた、刻まれた野菜を受け取りながら、レイスはお礼を述べてくる。

「アスピスは、休んでいてください。後はこちらで準備しますから」

「足が治ったら、お肉を焼かせてくださいね」

 火は危ないからと、たまにしかやらせてもらえないので、自ら要求してみることにする。すると、レイスが笑みを返してきた。

「そうですね。足が治ったら、ですか。考えておきますね」

「前向きな検討をお願いします」

 はっきりとした答えがもらえなかったことで、ちょっとがっかりしながら、まな板を取りに来たレイスへ向けて、アスピスは言葉を添える。そして、シートなどをしまって、テーブルに作られていたアスピス用簡易キッチンを片付けていった。

 台所に一番近いこの席は、食事中はエルンストの席となるので、用事が済んでしまったアスピスは場所を移動するために、待機していたエルンストへ向けて手を伸ばす。

「エルンストの番です。お仕事をしてください」

「そこは、お願いしますだろ」

 文句を言い、苦笑を浮かべながらも、アスピスの要求は聞いてくれるようである。アスピスを抱き上げると、角を挟んで隣となる席へ移動させてくれた。

 そんなことをしている間に、台所から美味しそうな匂いが流れはじめる。

 フォルトゥーナが焼いていた肉が完成間近のようだ。少し遅れて作り出し始めたスープも、ぐつぐつと音を立て始めていた。

 レイスとフォルトゥーナが協力して作っている夕食の準備は、匂いや音から、順調進んでいることが窺える。さらにそこへシェリスが加わり3人での作業になると、子供用と大人用の料理が作られるのだが、今日は共通の食事らしい。

 オーブンから焼き上がった肉を取り出して、フォルトゥーナがそれを薄く切って取り分けていく。それを、カルテイアをルーキスに預けたシェリスが、皿に盛り、それぞれの席へと並べ始めたことで夕食の準備の完成が近づいていることを教えてくれた。



 怪我したことで最近は早めにお風呂に入っていたのだが、日中の騒動で時間が潰れてしまい、今日は食後にシャワーを浴びることになった。固定されている足を結界オーラで保護して水で濡らさないようしっかり準備をして、シャワーを浴びて体を洗う。その後は、久々に自分で頭を洗うと、髪を湿らせた状態にすることを条件に、乾燥のレシピを唱える。

 そして、体が乾いたことで下着や寝着を身につけると、アイテムボックスから杖を取り出し、それを使って外へ出た。

「エルンスト、2階へ連れて行ってください」

「呼べよ。聞こえるよう、ここで待ってたんだから」

 浴室に近いソファーに座っていたエルンストへ声を掛けると、すぐに反応して傍に来てくれる。

「少しは歩けますよ。階段は怖いので連れて行ってください」

「安心しろ。自力で2階へ行けなんて、言ったりしねぇから。躓かれでもしたら大変だからな」

 言われるままにアスピスを抱き上げ、松葉杖を右手で受け取ると、そのまま2階へ運んでくれた。そして、今日はなにも言っていないのに、アスピスをベッドへ下ろすと、ドレッサーから櫛と香油を取り出して、ベッドに乗ってきた。

「今日は、髪を乾かしたら先に寝てろ」

「ルーキスやレイスとお酒を飲んでくるのですか?」

「さぁ。どうだろうな」

「飲み過ぎには気を付けてくださいね」

「普段は、そこまで飲んだりしてないだろ」

 アスピスの忠告を受け、エルンストが苦笑を浮かべる。そして、脚の間にアスピスの体を引っ張り込むと、髪に香油を塗り始めた。

「今日は本を読まないのか?」

「ご本は読み終わりました。主人公と彼氏は結婚して、ハッピーエンドを迎えたのです。そこでお願いがあります」

「ん? お願いって?」

「読み終わったご本をしまって、他の本を数冊取ってきて、入り口付近に置いて欲しいのです」

「あー、そういうことか。香油を塗り終わったら、やってやる」

 アスピスの言葉を受けて手を止めかけたのだが、その内容を聞いてすぐに動かし始める。

「エルンストはお役立ちですね」

「それ、ロワの前ではあまり使ってやるな。お前にお役立ちって言われたくて仕方ないみたいだから」

「ロワが?」

「あぁ。それで、今回も無茶をしたみたいだからさ」

「……」

 まさか、という気分である。ロワがそんなことを考えていたとは思っていなかったアスピスは、想定外の話しを聞かされちょっと考え込んでしまう。

「ロワは、お役立ちの必要はないのです」

「それはそれで、傷つきそうだから言ってやるなよ」

「でも、ロワはいい子なので今のままでいいのです。お役立ちになる必要はありません」

 困りましたという気分で、エルンストへ主張するのだが、なかなかそれを受け入れてもらえないようである。

「まぁ、諦めろ。お前がそう思っても、ロワの方がそれじゃ納得できないんだから。せめて、刺激してやるな」

「むー……」

「拗ねてどうする。アスピスの方が年上なんだから、少し気を遣ってやれ。それに、ロワの方は惚れた弱みだからな、お前の役に立ちたいんだろ。小さくても、俺のライバルらしいからな」

 慣れてきた手つきで香油を塗りつつ、エルンストはおかしそうに笑ってみせる。その様子が余裕綽々といった感じに見えてしまい、アスピスは更に顔を歪ませた。

「エルンストは余裕をぶっこいてるのです」

「どうした急に」

「ロワと浮気をしても知らないですよ」

「それは困ったな」

「勝手に困るといいのです。それより、手が休んでますよ」

 つん。と、言い放つと、エルンストはそれまで浮かべていた表情を苦笑に変える。

「休めたんじゃなくて、終わったから止めたんだ。それより、浮気はするなよ」

「だったら、彼女をぎゅーってしてください」

「それでいいのか?」

「お手軽な彼女でよかったですね。ぎゅーで、今日は許してあげます」

「全然お手軽じゃないけどな」

 呆れた感じの物言いをしながら、それでも実行はしてくれるようである。アスピスの要望に応えるよう、香油と櫛を脇に置くと、エルンストはアスピスに腕を回してきて、抱きしめてくれた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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