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第197話(問題児出現6/お見舞い)

[百九十七]


 微熱が下がらず、外出禁止が解かれないまま過ごすこと数日。宣言通りに毎日欠かさず、ロワがアネモスたちを連れて、花を買いに行ってくれていた。

 男子3人組の悪さは、近所で続発しているようだったが、アスピスが怪我を負った騒動により家の前の路の警備がより強化され、それを避けてか公園周辺には姿を見せることをしなかった。同時に、唯一の手掛かりとなる、男子3人組の誰かと近しい関係にあると推察される少女も、公園に姿を現さないまま日数だけが過ぎていた。

 そのため、現状は仮の平穏といったところだろうか。

 10時になると、1階にみんなが集まり、アスピスとロワのおやつの時間が開始された。

「今日はドーナツを作ってみたの。ジュースはアスピスが気に入ったっていう、苺ミルクよ」

 アスピスとロワが席に着くと、砂糖がまぶされ、真ん中に穴が開いてる、パンのようなものが皿に載せられ出されてくる。一目で手作りだと分かるのは、ロワに出されたものとアスピスに出されたもののサイズが違っていたからである。

「アスピスのドーナツは小さく作ったから、ちゃんと食べてね」

 にこやかに告げてくるフォルトゥーナは、大人たちにはコーヒーを淹れ、それぞれの前にもドーナツを置いていく。

 そして、みんなでおしゃべりしながら食べていると、玄関がノックされた。

 立っていたフォルトゥーナが玄関へ向かおうとするのを、レイスが止める。その代りにという感じで、エルンストが立ちあがり玄関へ向かった。

「今、開ける」

 ノックに応じ外へ向かって声を掛けつつ、ノブへ手を伸ばす。そして玄関の戸を開けると、難しそうな顔をした。

「まぁ、どうぞ。中に入れよ」

 拒む相手ではなかったようで、エルンストが通り道を作り、外にいる人物へ中に入って来るよう勧めると。「失礼します」という挨拶と共に、シエンとイヴァールが姿を現す。

「アスピスが怪我をしたと聞いたんですが」

「本当に、情報源はどこだよ。翌日には手紙を寄越すって、早すぎだろ」

「六聖人が怪我を負わされたんですよ。俺のところへ、っていうか、シェーンのところへですけど。即座に情報が入って来るに決まってるじゃないですか」

「まぁ、それもそうか」

 どんな手を使って情報収集をしているのだと、疑い深げに視線を向けたエルンストへ、邪道な方法など使っていないことを主張するようシエンが口を開く。瞬間、エルンストも納得したようだ。

「んで、なにか分かったのか?」

「アスピスに怪我をさせたというのが、最大の理由ですが。子供の悪さにしては悪質ですし。警備兵では手を出しにくい、高級住宅街の方が関係しているという話しでしたので、もう少し情報が手に入ったら、騎士団を動かす予定です」

「やっぱ、まだ騎士団は動かしてないのか」

「えぇ、騎士団が動くと本当の大事になりますから。ある程度目星をつけて、極力最小限の動きで事を片付けるのが理想ですから」

 エルンストとシエンが今回の件に関して話しをしている間、イヴァールがフォルトゥーナへ大きな袋を手渡す。

「アスピスの見舞いだ。医者から栄養をつけさせるようにと聞いて、アスピスでも食べられそうな果物を買ってきた」

「あら、ありがとうございます。アスピスもお礼を言いなさい」

「うん。イヴァール、ありがとうございます」

「いや。それより怪我の具合はどうなんだ? 骨にひびがはいったらしいが」

「只今、鋭意治療中です」

「ならいいが。体中傷だらけのようだな」

 アスピスの側へ近づいてきて、イヴァールはしげしげと観察する。そして、額に大きなガーゼが貼られていることで、そこに自然と目が行ってしまうようであった。

「顔の傷は治さないのか? 女なんだから、傷は消した方がいいのではないか?」

「これはクリシス先生が丁寧に縫ってくれたのです。エルンストも額に傷がある彼女でもいいと言ったので、自力で治します」

「そうか? でも……」

 ちょっとおろおろしてみせる、アスピスの双子の兄だというイヴァールは、いまいち納得ができていないようである。

 そんなイヴァールへ、アスピスは隣の空いている席を勧めた。

「まずは、お座りください。あたしはこの通り、なんのおもてなしもできませんが、フォルトゥーナがコーヒーを淹れてくれてますよ」

「あぁ、すまない」

 アスピスの勧めに応じ、イヴァールが席につく。それに合わせたように、フォルトゥーナがコーヒーを置いていく。

「シェーン様は当然として、イヴァールも忙しいのかしら? ずいぶん久しぶりよね」

「本当はもう少し頻繁に顔を出せるといいだが。シェーンほどではないが、婚約者というだけで予定が入れられてしまって。それに、シェーン専属の騎士団から、護衛も兼ねて、どちらにも同行するよう頼まれているからな」

 ここ魔力大国であるイシャラル王国の王女であるシェーンのときも、一介の冒険者であるシエンのときも、武力大国であるキセオーツ出身のイヴァールは腕を買われて便利に活用されているということらしい。

 ちなみに、シェーン専属のグローリー騎士団は、設立当初からシェーンに仕えてきた有能で実力のある女性たちがトップメンバーとなり、時間をかけて選び抜かれた少数精鋭の男性騎士たちを率いているので有名であった。しかもそのトップのメンバーたちは、シェーンが実は男であることを知っている、数少ない人たちであった。

「本当は、今回の問題が解決するまで傍にいてやりたいくらいなんだが」

「ごめんなさいね。アスピスに怪我させてしまって」

「本当に、悪いな。家の前の路だと思って、1人で歩かせてた俺たちのミスだ」

「いや、俺もみんなに任せてしまっているんだ、それだけでも感謝している。本当なら、血が繋がっている俺が引き取るべきなのだろうが、立場上そうもいかず」

「んー……、でも血が繋がっていることが明るみになっても困るしな。俺たちとしては、アスピスとこうして一緒に暮らすことは、長年の希望でもあったわけだし。それで守り切れなかったのは、俺たちの責任だ」

 フォルトゥーナとルーキスが謝罪するのを聞いて、アスピスは首を傾げる。

「この怪我は、男の子たちのせいなのです。あたしが油断してたのです。みんなを責めるイヴァールは好きじゃありませんよ」

「あぁ、分かっているから安心しろ。アスピスの顔を見に来ただけだ」

「物分かりのいいイヴァールは好きです。ご褒美に半分譲ってあげます」

 無造作に目の前のドーナツを半分に割って、一方を皿に戻すと、それをイヴァールの前に置く。

「これはフォルトゥーナが作ってくれたドーナツです」

「こらっ。それはアスピス用のドーナツよ。まだ作り置きがあるから、そっちを出すから、それはあなたが食べなさい」

「双子なので問題ありません。双子は半分ずつ分け合うものなのです」

「あなたが、イヴァールのことを双子のお兄さんだと認めていたなんて、知らなかったわ」

「物事には臨機応変というものがあるのです。あたしの都合のいい時限定で、双子になることになりました」

 きっぱり断定すると、フォルトゥーナが呆れたような顔をする。そんな2人のやり取りを見ていたイヴァールは、目の前に置かれた半欠けのドーナツの処遇に困っているようであった。

「ったく、仕方ないわね。小さく作ったのに」

「だったらこれはアスピスが食べるべきではないか?」

「行動には問題あるけど、それは食べてあげてちょうだい。一応、気を許している相手にしか譲らないみたいだから。そういう意味だと思うわ」

 戸惑うイヴァールへ、フォルトゥーナは笑みを浮かべる。

「そういうことなら、遠慮なくもらっておく」

「って。こっちがまじめな警備の話しをしている最中に、イヴァールはなにをほのぼのしてんだよ」

 フォルトゥーナの弁に反応したシエンが、話しを切り上げ、慌てたようにアスピスたちの方へ来る。

「妹相手に鼻の下を伸ばしてんなよな」

「なんと、シエンが焼き餅をやいてます。なのでイヴァールはお返しします」

「いや、それも違うだろ」

「分かっているのです。シエンは、シェーン様に対して鼻の下を伸ばして欲しいのですね。でも大丈夫です。シェーン様はとても綺麗ですよ。お胸も大きいし、フォルトゥーナやシェリスやアンリールたちと立派に張り合えます。男の人は誘惑されまくりなのです」

「んん? それも嬉しくないぞ。本体はこっちだからな」

 アスピスの台詞に対し、シエンは自分のことを親指で示し、力説する。

「それは、見れば分かります」

「あ? 見て分かるのか?」

「シェーン様はぶれているので、分かるのです。ただ、複雑で精密なレシピなので、破るのは難解なのです」

「破られちゃ困るから、難解にしてるんだけどな。でも、アスピスには見えちまうわけか」

「私は、シェーン様の姿に違和感を覚えたりしませんけど」

「えぇ、私もそうよ。知っているから、分かっているだけで。シェーン様の姿を見ただけでは、疑ったりしないもの」

 アスピスの発言で、シエンが若干焦りを見せる。それに対して、フォルトゥーナとシェリスが補足を入れた。

「あー、でも。危険は排除したいからなぁ。今度、今までアンリールに頼んでいたけど、アスピスにレシピを伝授してもらって、アスピスに幻術を補充してもらうようかもな。現状、俺の手持ちで最強なのはアスピスだしな」

「サービスで秘石にも補充してあげますよ」

「こっちから教えないと気づかれたことなかったんだけど、アスピスにはバレバレだな」

 自分の意思で自在に幻術が発動できるよう、体内に結界オーラを作り出すための秘石が、秘めた形で埋め込まれているシエンは、苦笑してみせる。

 そして耳には、幻術で満たされている、ピアスに偽装されている法陣カプセルが付けられていた。

「こりゃ、いざというときのために、アスピスには貸しを作っておかないとまずいな。なんか希望あるか? シェーンで叶えられるもんなら、叶えてやるぞ」

「それよりも、お見舞いをください。借りは作りませんが、シェーン様はお役立ちなので、貸しを作るのはやぶさかではないのです。必要な時は利用されてあげますよ」

「それって、つまり、叶えて欲しいことはあるってことだよな」

 アスピスの台詞を聞き、シエンはおかしそうに呟くと、アスピスの頭を緩く掻い操った。

「まぁ、婚約者のひとりとして、我が儘くらいきいてやるよ。その代り、いざって時は頼むぞ。借りでも貸しでもいいからさ」

「分かりました。それではお見舞いをいただきます」

「お前、その条件で本当にそれでいいのか? 順序があやふやにされてるだけだぞ」

 満足げに笑みを零すアスピスへ、物を言いたげにエルンストが口を挟んでくる。けれども、問題ないと踏んだのようであった。

 アスピスの好きにさせることにしたらしい。

「まぁ、好きにしろ。個人的には勧めないけどな」

「エルンストは黙っててください。あたしは……、んー? 家に戻って来ると言っていたので、やっぱりいいです」

 よくよく考えたら、顔を見れたし、近い内に家に帰ると言っていたことを思い出し、アスピスは訂正を入れる。けれども、アスピスの台詞を聞いていて思い当たることがあったようで、シエンが口を開いた。

「あぁ、カロエのことか。それなら、管理室の方で手を回してるんじゃないか? 六聖人たっての希望ってことで」

 どんな流れによるものかわからないが、どうやらシェーンの方にも話しが流れて行ったらしい。あっさりと返されてきた。

「そういや、管理室の方にも頼んでいたな」

「その程度のことなら、シェーンを介さなくても、六聖人の環境を整える一環として管理室で対応できるからな。それに、フォルトゥーナの時のフォローが不十分だったから、注意するように言っておいたし。こっちが口を出す前に、管理室の方でもフォルトゥーナのときのことを反省して、アスピスの待遇にはかなり気を付けるようだからな」

「とか言って、アスピスを手放したくないからだろ」

「まぁ、それも否定はできないな。アスピスのマナは特別だし、目も特別なようだしさ。でも、ちょっと強引に席を作って六聖人にしたのは、保護する意味もあるんだぞ」

「べつに疑ってはいねぇよ。シェーンが動いてくれなけりゃ、未だにあの場で眠っていただろうからな」

 言い訳を口にするシエンに、エルンストは苦笑を浮かべながら、一応は感謝していることを伝える。

「それより、座れよ。アスピスの見舞いに来たのは本当らしいし、追い返したりしねぇからさ」

「歓迎もしてもらってないけどな」

 促されるまま、空いている席に腰を落としつつ、シエンは肩をすくませる。その途中、はたりと思い出したように、アスピスに視線を向けてきた。

「それより、アスピス。定期健診から逃げ回ってるって本当か? クリシスが、なんとかしろってシェーンに文句を言いに来たんだが。しかも、書置きにクリシスの性別と年齢と婚姻歴を書き込まれたとか言っていたぞ」

「クリシス先生は、あたしのプライバシーを洩らし過ぎています。ちょっとした、可愛らしい悪戯だったのに」

「やっぱ、悪戯だったんじゃねぇか。だから、相手を見てからやれって教えてやったろ。あれは手を出しちゃダメなタイプだぞ」

「それにしても、所かまわず包囲網を張っているな。半分面白がって、アスピスと知り合いなら誰でも構わず、片っ端から話しまくってるって感じだぞ」

 ノトスに続いて、シェーンにまで話しが洩れている状況に、アスピスはぼそりとぼやく。同時に、ルーキスは呆れ、エルンストはおかしそうに笑い出した。

 しかし、シエンは真面目な感じで諭してくる。

「定期検診は大事なんだから、ちゃんと受けてないとダメだろ。じゃないと、大人になれないぞ」

「15歳になれば勝手に成人するのです」

「年齢ならな。でも、体の方が成長しなかったら困るだろ」

「びっくりです。シエンがまともなことを言っています」

「失礼だな。これでも、心配してんだぞ」

「でも、安心してください。素敵な体操の本を見つけたのです。フォルトゥーナやシェリスやアンリールやシェーン様に負けない、目の保養になるような魅惑的な体になってみせます」

「だったら、ちゃんと食べましょうね。ドーナツを半分イヴァールにあげてしまったんだから、お見舞いにもらった果物を食べてちょうだい」

 自信満々に口にした台詞に対し、フォルトゥーナがもらったばかりの果物を、皿に盛ってテーブルの中央に置く。のとは別に、アスピスの前には小皿に盛られた果物を差し出してきた。

「これは、皮を剥くのが楽しい果物ですね。ツルンぺろんと剥けるのです」

「剥くだけじゃなくて、中身は口に入れるのよ」

「それは難しい相談です。あたしは皮を剥く専門なのです。食べるのは別の人におまかせしますね」

 そう言いながら、皿から果物をひとつ手に取り、楽しそうに笑いながらツルンぺろんと皮を剥いてしまう。

 その姿を見つめつつ、シエンがエルンストに向けて話しかける。

「クリシスから、かなりショックを受けているようだと聞いていたんだけどさ。なんか、思ったよりは元気なようだな」

「まぁ、そう見えるだろうな」

 機嫌よさそうに笑顔を浮かべて、フォルトゥーナに怒られつつ、皮を剥いたばかりの果物をイヴァールの口へ運んでいるアスピスの様子を眺める。そしてシエンの台詞に対し、エルンストは微妙な気分になりながら、ぼそりと呟いたのだった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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