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第194話(問題児出現3/怪我)

[百九十四]


 今日もアネモスとオルトロスとエクウスを連れて、日課となっていた花を買いに、家の前の路を上がっていく。公園の前を通るときは、アスピスを嘲笑する声が聞こえてきたが、敢えて聞こえない振りをして通り過ぎる。

 そして花屋の屋台に到着すると、エトノスに挨拶をした。

「エトノスお姉さん、こんにちは」

「アスピスさん、いらっしゃい。今日の花は、これなんてどうかしら?」

 毎日通うアスピス用に、特別に取っておいてくれている花を見せてくれる。ほのかに甘い香りを振り撒いているそれを見て、アスピスは笑みを輝かせた。

「とてもいい匂いだね。このお花を3本ください」

「ありがとうございます」

「それから、今日は、お仕事に出ていたフォルトゥーナとレフンテが帰ってくるの。それに、カロエとノワールも1日だけど家に一緒に帰ってくるんだって。それで、今日は籠付きの可愛い花束を作ってくれますか?」

「今日はたくさんの人が帰ってくるのね。賑やかになっていいわね」

「うん。だから今日は特別に、お花をテーブルに飾ることにしたの」

 朝一番にフォルトゥーナから連絡が入り、嬉しくてしかたのないアスピスは満面の笑みを浮かべて、エトノスが花籠を作ってくれるのをわくわくしながら待っていた。

「こんな感じでいいかしら?」

「ありがとう。とても可愛いです。フォルトゥーナも喜んでくれると思います」

「だと嬉しいわ」

 双方で笑みを浮かべつつ少し話しをしながら支払いを済ませると、「また明日来ますね。ありがとうございました」と告げて、3本の花と花籠を抱えて歩き出す。

 その後ろから付いて来ていたアネモスとオルトロスと、空を飛んでいるエクウスが、アスピスを抜いて前へ出て行く。

「ねぇねぇ、マスター。今日はロワとは帰らないの? 声を掛けてこようか?」

「今日は男の子たちと楽しそうに遊んでいるので、そっとしておくのです」

 公園内で数名の男の子たちと笑い合っているロワ様子を目にしながら、語り掛けてきたオルトロスに「邪魔してはいけません」と教え込む。その際に、この間の女の子の集団がアスピスを指さして笑っているのに気が付いたが、それは見なかったことにした。

 そして、ゆっくりと公園の脇を歩いていると、ロワの方がこちらに気づいてしまったようである。アスピスの名前を呼んで、手を振ってきた。それにつられて一緒に遊んでいた男の子たちも、アスピスの方へ視線を向けてきたことで、アネモスたちのことを視界に入れたようである。「おぉ!」と言って触りたがっているのが伝わってくる。

「アネモスたち、ご挨拶をしてくるのです。ロワの大切なお友達なので、粗相のないよう気を付けてくださいね」

「我もか?」

「もちろんです」

 アネモスが振り返りつつ問いかけてくるので、アスピスははっきりと頷く。

「やれやれ。マスターよ、我が戻って来るまで、ここで待っているのだぞ」

「うん。わかったから行ってきて」

「オルトロス、エクウス、行くぞ」

「はーい」

「主人の命令では逆らえませんね」

 アネモスとオルトロスとエクウスが、手を振るロワの方へ向かうのを見送り、アスピスはしばらくその場で待っていた。

 アスピスの命令と、ロワの友達ということで、3体は男の子たちにサービスをしているようである。好きに触らせている様子に、アスピスも笑顔を浮かべてしまう。

 そして、もうしばらく見ていようと思っていたところで、上の方から笑い声が響いてきた。それに反応するように、少女が大きな声を上げていた。

「お兄様、あの子よ。生意気な子なの!」

 声に誘われ視線を移すと、少女の指はアスピスに向けられ、上の方から下りてきた男子3人組が、アスピスに向かって飛んでくる。

 まずいと思ったときには、脚に大きな衝撃が襲って来るのと同時に激痛が走り、宙に浮く板を巧みに操り飛び込んで来た3人の内の1人がアスピスを勢いよく突き飛ばしたことで、前へ倒れ込むようにして坂道を転げ落ちていき、なにかに思い切り額を打ちつけたところで意識を手放した。



 目を覚ますと、自分の部屋の自分のベッドに寝かされていることに気が付く。それに反応するように、クリシスが声を掛けてきた。

「目が覚めたようだな。具合はどうだ?」

「足と額が痛いのです。ズキズキしてますよ」

「まぁ、そうだろうな。それ以外にも、体中に擦り傷ができているから、今日と明日くらいは痛い思いをするだろうが」

 クリシスはあっさり言うと、アスピスの手に鏡を持たせ、アスピスに掛けられていた布団を無造作に捲ってしまう。

「まず、その鏡で痛む額を見てくれるか」

「はーい」

 返事をしながら鏡を覗くと、血がこびりついている状態の、縫合されている傷が視界に飛び込んで来た。

「後々傷口が目立たないよう丁寧に縫っておいたが、回復術を使えば、うまくすれば傷自体が消える可能性もある。アスピスの好きなようにしろ。この後、消毒してガーゼを当てておくから、自然に治るのを待つなら毎日消毒するしろ」

 クリシスはそう言いながら、アスピスの背に手を掛けて、上体を起こさせる。

「それから、足だが。こっちは、お前の回復術の守備範囲外だろ。骨にひびが入っているようだから、固定しておいた。それから縫う程ではなかったが傷もあるから、こっちも毎日の消毒は欠かすなよ」

「もう歩けなくなっちゃいますか?」

「骨にひびがはいっただけだからな、適切な治療をすれば元通りになるから安心しろ。ちゃんと歩けるよう戻してやる」

 アスピスの頭を掻い操り、はっきりと断言したクリシスへ、アスピスはにこりと笑う。

「分かったの。クリシス先生お願いしますね」

「あぁ、任された。その代り、固定してある板を無意味に外したり、ひびの入っている方の足を動かしたりはするなよ。あと、歩くときはそこに置いてある松葉杖を使え。ただし、お前の場合怪我してない方の足も丈夫なわけじゃないからな、怪我した足が治るまであまり歩き回るな」

「色々と注文が多いのです」

「足を治すためだ、文句は受け付けないからな。それから、筋力を落とさないよう、怪我してない方の足は、負担を掛けない方法で動かしておけ。毎日欠かすなよ」

 伝えたいことを言い終えたのか、クリシスはアスピスの額の傷を消毒すると、宣言していた通りにガーゼを当ててテープで止めていく。

「さて、お前の心配性な保護者たちに目が覚めたことを知らせてくるか」

「クリシス先生はもうお帰りなのですか?」

「騎士学校の方にも顔を出さないとならないからな。それとも、不安か?」

「先生を信じているので大丈夫ですよ。今度はあたしの方から先生に会いに行きます。いつ行けばいいですか?」

「1週間後だな。詳しいことは、お前の保護者達に伝えておく。あぁ、それと、ちゃんと食事はするんだぞ。栄養が足りないと、治るものも治らなくなるぞ」

「努力します」

「そうしてくれ。じゃあ、ちょっと待ってろ。だれか寄越してやるから」

 アスピスが難しい顔をしながら応じると、クリシスは笑いながらアスピスの頭をポンポンと軽く叩く。それから扉の方へ進んでいきノブに手を掛けると、振り返って言葉を残して、そのまま扉を開き、部屋の外へ出て行ってしまった。

 それから改めて自分の体を見てみると、キャミソールにショーツという下着姿にされ、あちこちに包帯が巻かれていたり、ガーゼが付けられていたりするのが分かる。

「痛いはずなのです」

 妙に納得しながら呟くと、視線をずらす。すると、ベッドの足元に血で汚れてボロボロになっている、お気に入りの服が丸められているのに気づいてしまった。

 服がこれでは、花はおそらくダメになってしまったことだろう。

「お花にはとても悪いことをしてしまいました」

 思わず溜め息を吐きながら、コロンと頭を倒して仰向けに寝転がる。そして、もぞもぞと動いて毛布を引き上げると、なんとか身体を丸めていく。

 そして、眠ってしまおうと思った矢先に、扉が開かれて勢いよく人が流れ込んで来た。

「アスピス、大丈夫か?」

「具合はどう?」

「気分は悪くないか?」

「アスピスごめんなさい。ボクがアネモスたちを呼んじゃったから……」

「帰ってくるなり、担ぎ込まれてくるから驚いたぞ」

 カロエにフォルトゥーナにレフンテにロワ。それになぜか、ノトスまで入って来たことで、眠ろうとしていたアスピスは驚いて、潜り込みかけていた顔を毛布から出して、体を半分起こしてみせた。

「みんな帰ってきてたの? お帰りなさいなの」

「ただいま。っていうか、アスピスの顔を見に帰ろうとしてたところで、急に嫌な予感がしてさ。急いでこっちきたら、ちょうどアスピスが家に運び込まれているところで。本当に驚いたんだぞ」

「急にカロエがアスピスに異変があったって、真っ青になるから。こっちまで焦っちゃったわよ。でも、さすが使い魔ね、アスピスになにかあったらちゃんと分かるのね」

 感心しちゃったわ。と、フォルトゥーナが笑みを零しながら、アスピスの様子を窺ってくる。

「クリシス先生に痛み止めももらってあるから、痛いときは教えてね」

「今は大丈夫ですよ。これくらいなら我慢できます」

「そう? 無理はしちゃダメよ」

「アスピスごめんね。ボクが声を掛けたから……。アネモスたちはアスピスを守るためについていたのに、ボクが呼び寄せちゃって」

 フォルトゥーナの傍らに立っていたロワが、しょんぼりした顔でアスピスへ謝罪してくる。真っ赤な目をしていることから、直前まで泣いていたことが伝わってきた。

 かなり自分を責めてしまったらしい。

 そんなロワへアスピスは笑顔で応じた。

「あたしがアネモスたちへ、ロワの方へ挨拶をしに行くよう言ったの。だから、ロワもアネモスもオルトロスもエクウスも、誰も悪くないのです。あたしの不注意なのです」

「しかし、六聖人に手を出すなんて、根性あるな。騎士団が動き出すぞ」

「物騒な3人組が、俺たちの不在の間に出現していたらしいな。今回の件で手掛かりがでてきたようだから、捕まるのも時間の問題だとは言っていた」

 ノトスとレフンテの話しを聞いて、アスピスは小首を傾げる。

「犯人が捕まるのですか?」

「上の高級住宅街が関わっていたから、警備兵じゃ手が出せない部分もあって、手をこまねいていた部分があったようだが。騎士団が動き出したら、上流階級の人間の中にも踏み込んでいけるからな。それに、公園によく顔を出している女の子の中に、犯人の親近者がいたそうじゃないか。さっきまで警備兵が来ていて、悪ガキどもの人相はわからなくても、女の子の方から当たっていけば辿り着けるんじゃないかって話しをしてたぜ」

 ノトスがアスピスの疑問に答えつつ、アスピスの頭を掻い操ってくる。

「まぁ、始末は大人に任せて、怪我人はゆっくり休んでおけ。クリシス先生はおっかないが、自分の力量を知っているから、嘘は言わない先生だ。ちゃんと治すって宣言してたから、お前は怪我を治すことに集中してろ」

「うん。クリシス先生は嘘を吐かないので、大好きなのです」

「そうなのか? クリシス先生が、お前が逃げ回っているって文句を言ってたぞ」

「なんでノトスまでそんな情報を知っているのですか? クリシス先生はあたしのプライバシーをなんだと思っているのでしょうか」

「そりゃ、お前に関わった人間に片っ端からお前の情報を聞き出しているからじゃないか? そんだけ、先生がお前のことを気にしているってことだ」

 喜んでおけ。と、笑いながら告げてくるノトスに、アスピスは嘆息してしまう。

「ところで、なんでノトスまでいるのでしょうか?」

「なにげに酷い質問をぶつけてきたな。王都へ戻って来た早々、クリシス先生を呼びに行ってやったっていうのに」

「帰るついでに、先生を王城まで送り届けてくれるって言うから。その前に、アスピスの顔を見に来てくれたのよ」

 くすくすと笑いながらフォルトゥーナが事情を補足してくれる。

「それは、ご迷惑をおかけしました。お礼に、後日フォルトゥーナの手料理をごちそうしてあげますね」

「お前が作るんじゃないのかよ」

「ノトスはフォルトゥーナの手作りの方が喜ぶのです。あたしは知っていますよ」

「そいつはどーも。ったく、元気なようだからいいけどな」

 ノトスは苦笑を零すと、再びアスピスの頭をぐしゃりと掻き回す。そして、それを機に帰宅の意を示した。

「そんじゃあ、先生が待っているから、俺は行くけど。無理はするなよ」

「ノトス、ありがとうです。お気をつけてお帰りください。先生のことをよろしくお願いしますね」

「あいよ。んじゃ、先に失礼させてもらうぞ」

 言下に扉の方へ向かって歩き出し、ほどなく部屋から出て行った。

「あんなだけど、本当に心配してくれてたのよ。それに、クリシス先生が一番信頼できる先生だからって、ノトスが言い出して呼びに行ってくれたし。本当は往診とかしてくれる先生じゃないのに連れて来てくれたのよ。クリシス先生もアスピスが頭を打って意識を失っているって聞いて、大慌てで来てくれたんだけど」

「じゃあ、先生にもいっぱいお礼をしないといけませんね」

「そうね」

「ノトスへのお礼は、フォルトゥーナにお任せしますね」

「わかったわ。近い内に夕飯に招待しましょうね。そのときは、アスピスも夕飯を作るのを手伝ってちょうだいね」

「分かりました。お手伝いはさせていただきます」

 フォルトゥーナの誘いに、アスピスははっきりと応える。そして、改めるようにして、部屋に訪れて来てくれたみんなに笑いかけた。

「お仕事を終えて疲れて帰って来たところで、お騒がせしました。あたしは大丈夫なので、みんなはゆっくり休んでください」

「ボクはアスピスの傍にいちゃダメ?」

「あたしは少し寝ますよ? ロワも一緒に寝ますか?」

「うん、寝る!」

「それなら、アネモスとオルトロスとエクウスをお部屋に連れて来てくれますか? 怒ってませんよって、伝えてください」

「分かった。みんなを連れてくるね。みんな落ち込んでて、部屋に入ってこれないでいるんだ」

 ロワは笑顔で応じると、アスピスの部屋を出て、3体を呼びに行く。それを受け、「夕食の支度ができたら起こしに来るわね」とフォルトゥーナが言い、カロエが残りたそうにしていたが、レフンテに引きずられる形で、3人も部屋を出て行った。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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