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第188話(六聖人のお仕事Ⅵの11/依頼3)

[百八十八]


「朝からお前ら元気だな」

 朝食を誘いに来てくれたルーキスが、ノックと共にドアを開けなかを覗き込んできたのと、アスピスとエルンストがじゃれていたのが同時であったため、溜め息を吐きながら中に入ってくる。

「さっさと身支度を整えろ。テネブラエが待ってるぞ」

「あー、もうそんな時間か」

「仕事中だっていうのに、のんきだなぁ」

「いや。ベッドでこいつと寝てると、家にいる気分になるんだよな」

 エルンストはそう言いながら、苦笑を零す。そして、ルーキスに謝りながら、すぐに支度をする旨を伝えると、ルーキスが廊下で待っていると言って出て行った。

「ってことで、さっさと身支度を整えろ」

「言われなくても、始めてます」

 家で寝るとき限定だが、寝着を愛用しているレイスと異なり、エルンストの場合、家でも宿屋でも、ベッドで寝るときはTシャツとズボンといったラフな格好を好んでいた。そのためTシャツを交換し、靴下を履いて、冒険用のブーツを履くと、ほぼ着替えが済んでしまうのである。対するアスピスは、髪を梳かして三つ編みし、ゴムで止めるとその上に、頭の装備となる冒険用のリボンを結ぶ。さらには、冒険用の腕輪や首飾りを装着し、コンタクトを付けたり、靴下を履いたり、冒険用の足首丈のブーツを履いたりと、やることが多いのである。そのため、なかなか大変なのだ。

 さすがにその辺は理解してくれているようで、エルンストは黙って見守ってくれていた。

「そういえば、エルンスト。今日は、制服を着なくていいの?」

「防御結界の補強は、この部屋の窓からできるだろ」

「うん。この部屋でやっていいの?」

「その方が都合いいだろ。っていうか、用意できたなら行くぞ」

 言下にアスピスへ腕を伸ばしてきくれたが、アスピスはそれを断った。

「今日は歩いて行くので、抱っこはいりません」

「目が覚めてるってことか」

「いっぱい寝たのでばっちりです」

「だろうな。昨日の夕食中も寝てたもんな」

 エルンストは、アスピスの記憶には残っていない昨夜の夕食時のことを思い出したようで、おかしそうに笑ってみせる。瞬間、アスピスは自分がなにかをやらかしたのかと焦りつつ、あえてなにも聞かないという選択肢を選ぶ。

 そして、エルンストの腕に手を巻き付けながら、廊下で待っている2人のところへ向かって行った。



 食事を終えて、宿屋の最上階へ戻って来ると、アスピスは自分に割り当てられている部屋へと戻る。それに続いて、エルンストやルーキス、テネブラエも入って来た。

「洗濯物を片付ける時間を希望します」

 エルンストのせいで中断し、そのまま洗濯物を放置して食事へ向かったので、その続きをさせて欲しいと願い出る。

 けれども、ただ待たせるのも申し訳ないと思って、アスピスは3人に向けて小首を傾げた。

「その前に、コーヒーをいれますか?」

「だったら、俺がいれるから、アスピスは洗濯物を片付けろ」

「はーい。それではちょっとお待ちください」

 言下にエルンストが飲み物のセットが用意されている場所へ行くと、中から4人分のカップを取り出して、コーヒーの準備を始める。それを見て、アスピスもベッドの上に乗り、洗濯物をたたみ始めた。

「アスピスもまめだな」

「時間があったので、洗ってみました。ルーキスも洗ってほしいですか?」

「いや。家でまとめて出させてもらうから、今はいいぞ」

「分かりました、帰宅したらまとめて洗ってあげます」

 話しながら手は動かして、アスピスはテキパキとたたんでいく。

「そういや、お前のパンツって。この間、買った食器に描いてあった動物と同じシリーズか?」

「正解です。今、女の子の間で人気の品なのです。これで、お花のシリーズもあります」

 ご覧くださいと、アスピスがルーキスに自慢のパンツを掲げ見せる。

「あたしも気を付けてお店を見ていますが、このシリーズの新作が出ているとレイスが買ってきてくれるのです」

「あいつ、この1年で完全に主夫になったな」

「まぁ、想像していた以上に世話をしてたからな」

 コーヒーの入ったカップをルーキスやテネブラエの前に置き、その後カップを取りに戻り、エルンストの分とアスピスの分を持って、テーブルの上にさらに2つのカップを置く。

「アスピス、コーヒーをここに置いておくぞ」

「もうすぐ終わります。そしたらお仕事に入ります」

 アスピスはタオルと服と下着をたたみ重ねていき、最後の一枚をたたみ終えると、「ちょっと失礼します」と告げて、アイテムボックスの中へと入って行く。そして、それぞれの場所へしまうと、外へ戻っていく。

「お待たせしました。お仕事を始めますね」

 そう宣言すると、アスピス用に空けてあった、窓の正面にあるイスの向きを窓と向き合うように変え、外が見えるように窓を開けると、イスに腰かける。

 同時に、村の周囲に埋められた結界棒により、村を覆うよう張られた防御結界を強化するため、意識を集中させようとしたところで、ルーキスに声を掛けられた。

「コーヒーを飲んでからでいいぞ」

「お腹はいっぱいだから大丈夫なの。4時間経ったら教えてください」

 防御結界に手を加え始めると際限がなくなる上に、精神力も消費してしまうので、時間を区切って行うよう、フォルトゥーナに教わったのだ。

 そのため、時間を指定しすると、アスピスは再び外へ意識を戻し、村に張られている防御結界に意識を向けていく。そして、結界の状態を把握すると、最初に魔法陣へマナを使い精霊語で書かれた条件の部分をなぞるよう、マナを重ねていく。それを終えると、アスピスは体内で生み出されているマナを細く長く紡いでいき、それを結界に絡ませるようにして編み込み始める。

 注意することは、単調すぎないこと。同時に、4時間の内に均一に全体的に、細く紡いだマナを絡ませなければならないということ。

 そのため、防御結界の全体の状況を把握しながら、マナが解れそうなところを見つけては、アスピスのマナを使って修正をしながら、防御結界を補強していった。



「おい、4時間すぎたぞ」

 声を掛けられ、肩を叩かれ、アスピスは反射的に集中を解く。ちょっとボーっとしていると、エルンストが心配そうに顔を覗き込んできた。

「大丈夫か?」

「ばっちりです。お仕事は終わりです」

 アスピスは笑顔を浮かべると、はっきりと言い切った。

 この村の近くにある、魔物が棲むユークの森からわずかだが流れ込んでくる、魔物により汚された空気を、強化した防御結界が阻み、空気を清浄なものに変えていく。

「護衛をありがとうございました」

「いや。今日なんてコーヒーを飲ませてもらってたし。つうか、村とか町に派遣した場合の結界棒への精霊の補充とか、村に張られた防御結界の補強って、こんな感じなのか?」

「まぁ、基本はこんなもんだな」

「なんか、これにどっぷりはまると体が鈍るぞ」

「だから、一応は緩急つけて、仕事が回るようにはしているみたいだぞ」

 エルンストは、アスピスに淹れ直したコーヒーを渡しながら、ルーキスに向けて苦笑を浮かべる。

「しばらく様子を見てアスピスが大丈夫なようなら、俺とテネブラエで村長の屋敷へ、依頼書にサインをもらいに行ってくる。ルーキスはアスピスに付いていてくれないか」

「了解」

 エルンストの指示に従うよう、ルーキスはあっさりと承諾すると、伸びをしてみせる。そして、視線をアスピスの方へ向けてきた。

「さて、アスピス。お前の昼休憩のおやつだけど、希望はあるか? あの2人がなにを作っていたか、ある程度把握してんだろ。なにか食べたいものがあったら、希望を聞くぞ」

「とくにはありません。あたしは少し横になります」

「横になる前に、なにか口に入れた方がいいんだけどな」

「あたしはお疲れになりましたので、横になる方を優先します」

 そう言うと、エルンストのいれてくれたコーヒーを数回口に運び、体を捩じるようにしてカップをテーブルに載せ、イスから下りる。その後、手を伸ばして窓を閉め、イスの向きを直してから、ベッドへ向かう。

「ルーキスも寝ていいよ。隣が空いてます」

 ポンポンとベッドの半分を叩いてみせながら、アスピスが訊ねると、ルーキスがおかしそうに笑いながら、断ってきた。

「俺は仕事中だから、遠慮しておくよ」

「分かりました。では、お布団に入らせてもらいます」

 ブーツを脱ぎ、毛布を持ち上げて、アスピスはもそもそと布団へ入って行くと、そのまますとんと横になる。そして、枕に頭をのせるとルーキスの方を見つめてみせた。

「ルーキスはこの部屋にいるのですか?」

「あぁ、ちゃんといるから安心して横になってろ」

 返されてくる笑みに、アスピスは笑い返すと、「おやすみなさい」と告げて目を閉じた。

 それから少しして、うとうととしていると、ルーキスやエルンストやテネブラエの話し声が聞こえ始め、扉の開閉音と共に、エルンストとテネブラエの気配が部屋から消えていく。同時に、ルーキスがベッドに近づいてくると、縁に座って、アスピスの頭を撫で始めたことで、アスピスは顔を緩ませ、体の向きをルーキスの方へ向けていく。

「寝たんじゃねぇのか?」

「休憩しているだけです」

「まぁ、明日からまた馬車で移動になるからな。少し休んでおいた方がいいかもな」

「手がお休みしていますよ」

 アスピスの指摘で、ルーキスは小さく噴飯すると、アスピスの頭の上で止めていた手を動かし始める。

「新しい家には慣れてきたか?」

「うん。大勢だから楽しいよ」

「そうか? ロワとかうるさくないか?」

「ロワはいい子なのです。うるさくないのです。家の中が明るくなっていいと思います」

「そうか。そんな風に思ってくれているってロワが知ったら、喜ぶな」

「いっぱい撫でてくれて、ありがとう。もう大丈夫です。ルーキスは好きにくつろいでいてください」

「もう満足したのか? ひとりで眠れるか?」

「心配は無用なのです。この部屋にいてくれるなら、問題ありません」

 きっぱりと言い切ると、アスピスは体の向きを変え、体を丸めていくのと一緒に目を閉じる。そして、背後にルーキスの気配を感じながら、ゆっくりと外界と意識を遮断していった。



 人の気配が増えたことで、意識を浮上させていく。

 あれからも、ずっと傍に座っていてくれたらしいルーキスが、アスピスの目覚めにいち早く気づいた。

「起こしちまったか? エルンストとテネブラエが帰って来たところなんだ」

「うん。話し声が聞こえてきたので、起きることにしました」

「まだ夕食には早いから、横になっててくれていいんだぞ」

「平気です。今、起きます」

 目をこすりながら体を起こし、エルンストとテネブラエに視線を向ける。

「おかえりなさいなのです。サインはもらえましたか?」

「あぁ。ちゃんともらって来たから、明日はこの宿を引き払って、王都へ戻るぞ。村長にもそのことは伝えてきたから、朝食を済ませたらそのまま立てるようになっている」

「これでお家に帰れます。お仕事を頑張ったかいがありました」

「久々に、お前ひとりだったからな。疲れただろ」

「倒れたりしないよう、非常に気を遣いました。でも、これでなにも心配する必要がなくなったのです」

 解放感溢れるアスピスの言に、エルンストがハッとするように、アスピスへ視線を向けてくる。

「ちょっと待て。帰りは、あんな騒動は禁止だからな」

「誤解なのです。あれは、巻き込まれただけなのです。決して飛び込んでいったわけではありません」

「聞いているぞ。ラファ家の当主の一人娘と一緒になって、賞金首がいるのに、誘拐犯を相手にザコザコ言っていたらしいな」

「うっ……。それは、仕方ないのです。真実を言っただけなのです」

「賞金首ってのは、それなりに危険視されているから、賞金がかけられているんだぞ。本当のザコは犯罪者リストにも載らないような小悪党のことを言うんだよ。甘く見てると足を掬われるぞ」

 思わず、またしてもエルンストのお小言が始まってしまったと、アスピスは嘆息する。

 それを聞き逃さなかったエルンストは、手加減はしてくれているようだが、アスピスの頭を殴ってきた。

「あのお転婆お嬢様と2人がかりで、テネブラエをかなり振り回しただろ」

「それは大きな誤りです。あたしはちゃんと、テネブラエへ、結界の中で待っているよう言いました」

「護衛役を置いて、意気揚々と飛び出す方がどうかしてるんだ。追いかけて当たり前だろ」

「テネブラエは真面目すぎると思うのです。もっとリラックスすることをお勧めします」

「俺やルーキスだって、お前に寝かされたりしてなかったら、追いかけてたぞ。間違っているのはアスピスの方で、テネブラエはあの件に関しては完全に被害者だからな」

「そこが大きな間違えなのです。悪いのはあたしたちを誘拐した犯人なのです。あたしもリュミエールも被害者なのです」

 はっきりと言い放ったアスピスの主張に、間違いはなかった。真っ当な意見である。なのだが、エルンストもルーキスも。更にはテネブラエまで、なにか釈然といかない様子で小首を傾げていた。

「3人とも、失礼極まりないのです。誘拐されて、心細い思いをしていたかもしれない乙女に対して、そういう反応をしてはいけないのです。もしかしたら、怖いのを我慢して強がっていただけかもしれないというのに……」

 アスピスの訴えを、話し半分にしか聞いてくれていない3人に、アスピスは不満を爆発させるよう、「3人とも、そこに座って、深くじっくりと反省してください」とイスを指して命令する。そして、「しかたないので、お茶だけは入れてあげます」と言いながら、いそいそとカップを回収し、洗面所でカップを洗ってくると、お茶のセットが置かれている場所でお茶を用意すると、3人の前に並べていった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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