第187話(六聖人のお仕事Ⅵの10/依頼2)
[百八十七]
ギルドへ寄った後、エルンストは雑貨屋を見つけ、中へ入って行く。
「お前まで雑貨屋が大好きだったりするのか?」
「フォルトゥーナやレイスと一緒にするなよ。アスピスに子供用の食器を買おうと思っただけだろ。昨日、ナポリタン食わせたら、フォークがでかすぎてうまく食べられなかったようだからさ」
「あー、子供用か。そういえばロワもいつのまにか普通の食器になってたな」
事情を述べるエルンストへ、ルーキスが納得といった表情を浮かべる。
「でしたら、食器類はあっちのようですよ」
2人の話を聞きながら、店内をきょろきょろ見回していたテネブラエが、指で方向を示す。それを受け、場所を移動すると、テネブラエが指定した場所に食器がたくさん置かれていた。
「王都に戻ったら、また買ってやるから。とりあえず、この中から欲しいのを選べ」
「分かったから、ちょっと下ろして」
「お前の身長じゃ見づらいだろ。上から覗け」
「俺もロワに買ってくか。どんな柄があるんだ?」
「お花も可愛いけど、動物も可愛いね」
「この辺は、幻獣とか霊獣、神獣か? なんか可愛く描いてあるな」
柄の部分に描かれている絵を見つつ、アスピスとルーキスが真剣に悩みだす。そして音を上げたルーキスが、アスピスに提案してきた。
「ロワと色違いのを買ってやるから、動物から選んでくれるか? アスピスとお揃いだっていっても、さすがに花は嫌がりそうだからな」
「それじゃあ、動物から選ぶね」
動物の絵柄が書かれた場所へ連れて行ってもらい、アスピスは真剣に悩みだす。そしてしばらくじっと見つめたあと、ひとつの柄を指さした。
「ロワとお揃いなら、この犬がいいかな」
「犬でいいのか?」
「うん。ロワも好きだと思うの」
「じゃあ、桃色と青色でいいか?」
「それでいいよ」
「そんなら、ついでに同じシリーズの皿とかも一通り買っていくか」
ルーキスはそう言うと、犬が描かれている桃色と青色の子供用の食器を一式選び取り、会計カウンターへ持って行く。そしてそのまま会計を済ませたルーキスが戻って来るのを待ち、雑貨屋を後にした。
「ルーキス、あたしの分の代金をお支払いします。いくらでしたか?」
「ん? いや、ロワに合わせてもらったからさ、食器代はこっちでもつよ」
「分かりました。ルーキス買ってくれてありがとう」
「どういたしまして。その代り、ちゃんと使えよ」
笑顔を浮かべてお礼を言うアスピスへルーキスは軽く応じると、買い物の用事も済んだことで、宿へと向かう。その途中、たまたま肉屋が目に入ったので、急遽アスピスがみんなを停止させ、アネモス用の肉を補充して、改めて宿屋へ向かって歩き出した。
依頼開始1日目の帰りに立ち寄った冒険者ギルドで、受け取ることとなった賞金首を捕獲したことによる賞金と、それに付随し手に入れたアイテムボックスの中身の換金代。それと、アイテムボックス3つ。それらは、宿屋に到着すると、テネブラエとアスピスが分けることになった。その際、お金はきちんと2当分されたのだが、テネブラエはアイテムボックスを受け取ることは固辞してきた。
そこで話し合いがなされ、アスピスはアイテムボックスの『S』サイズをテネブラエへ渡そうと苦心したのだが、テネブラエの意思はかなり固く、どうにか『B』サイズを受け取ってもらうところまで話しを持って行くのがやっとであった。
そのためアスピスとしてはかなり不本意であったが、テネブラエとの話し合いはそれ以降平行線を辿る一途だったので、見兼ねたルーキスとエルンストが間に入って、話しに終止符を打たせてしまう。
結果、お金は半々。アイテムボックスは『S』と『A』がアスピスに。『B』がテネブラエに渡された。そこでアスピスはアイテムボックスをルーキスにそのまま手渡し、預かってもらうことにしてしまう。
そんな感じで、往路にてひと騒動はあったものの、それ以外は至って平穏に時間は過ぎていき、計6本の結界棒へ、1日2本ずつ精霊を補充していき、3日かけて1つ目の仕事を終わらせる。残るもう1つの仕事となる防御結界の補強は、4日目に4時間ほど時間をかけて行われることとなった。
そこで明日の仕事に向けアスピスはお風呂を満喫し、髪に香油を塗って身だしなみを整えていく。その傍らで、エルンストが退屈そうにしながら、珍しく本を読んでいた。
「エルンストが本を読むなんて、珍しいことがあるね」
アスピスは香油と櫛をアイテムボックスへしまい、ベッドのヘッド部分の柵へ上体を寄り掛からせ、足を伸ばして座っているエルンストの腿のうえに、寝転んで伸し掛かる。
「やることねぇからな」
「それはどんなご本なのでしょうか?」
「仕事関連」
「意味不明です」
「精霊使いに関する本があるのと一緒で、剣士とか戦士系に関する本もあるんだ」
「説明になっていないのです」
「だから、法陣カプセルの組み合わせ方とか、使い方とか。新型の武器とか。その性能とかが書いてあんだよ。つーか、人の読書中に邪魔するか?」
「邪魔はしていません。被害妄想はお勧めしませんよ?」
アスピスはそう呟くと、自分のアイテムボックスから本を取り出すと、栞が挿んでありページを開く。
「エルンストがお勉強しているなら、あたしもお勉強をすることにします」
「そいつは偉いな。頑張れ」
「心のこもっていない応援は虚しいだけなので、お断りします」
エルンストの腿の上でうつ伏せになると、アスピスは足をパタパタさせながら、本へ視線を向けていく。
そんな中、アスピスは本を読みながら、思ったことを口にする。
「いずれ『超越スロー』と『震撼パラライズ』と『爆激スリープ』と『重篤ポイズン』のレシピを作ってみせます」
「それをお前が使ったら、一瞬で撃沈しそうだな」
「魔物に使うとは限りません」
「人間相手に毒系は止めとけよ」
「仕方がないので、毒系は魔物だけにします」
適当にエルンストへ応じつつ、本のページを捲っていく。しかし、レシピ作りのページを一生懸命読んではいるのだが、正直なにが書いてあるのかさっぱり分からないアスピスは、「う~ん」と唸って首を傾げる。そして、足をパタパタさせてると、エルンストがアスピスの足を抑えて動きを止めさせる。
「お前、スカートがめくれるぞ」
「エルンストは本を読んでいればいいの。気にしないでください」
「視界の端でアスピスの足が動いてて、気になんだよ」
「集中力が足りないのです」
「そうかよ。ったく」
話しの半分程度しか聞いていないアスピスに対し、エルンストは文句を言うのを諦めてくれたようである。足から手が離れていく。
しかし、そこで気を緩めたのは間違えであった。
エルンストは本を読むのを諦めたように脇に退けると、アスピスを抱え上げ、崩した脚の間に座らせる。
「邪魔をしないでください」
「背もたれになってやろうっていう、優しさだろ」
「お勉強をしてたんでしょ。もう終わりですか?」
「勉強はひとりでやりたい派なんだよ」
アスピスの問いに、苦笑を零しながらエルンストが応じてくると、アスピスの背後からアスピスの腕の下を通して、お腹の辺りで両手を結ぶ。
「お勉強を止めるのはエルンストの自由だけど、あたしの邪魔はしないでください」
「してねぇだろ」
「頭にのっている顎が重いの。邪魔だから退けて」
「いや、お前がずり落ちてるんだろ。体重はかけてないぞ」
姿勢が悪いせいか、ずるずると体が寝そべっていくアスピスを、どちらかというと腕で支えてあげているという感じであるエルンスト的には、アスピスの不平が不当なものに思えたようだ。面倒臭げに「よいしょ」と声を上げ、エルンストはアスピスをきちんと座り直させる。
「お前の方こそ、ちゃんと本を読んでないだろ? 人の邪魔をしといて」
「だって、難しいことしか書いてないんだもん。レシピの組み立て方はアンリールに教えてもらうから、この本は読まなくてもいい気がするの」
そう言うと、栞を挿んで本をぱたんと閉じると、アスピスは横を向き、体勢を正してもらったばかりの体をずるずると落としていくと、エルンストの片足に伸し掛かるようにして、寝そべった。
「あたしは寝ることにしました」
「じゃあ、夕飯の時間になったら起こしてやるから、好きにしろ」
「顎はダメだけど、手なら頭にのせるのを許してあげる。髪の毛は洗い立てでサラサラなのです。触り心地は最高ですよ」
「あー、そういうことな。分かったから、寝ていろ」
アスピスの注文に応えるよう、エルンストは左手をアスピスの頭にのせてくる。そして、髪を梳くよう掻い操ってきたことで、アスピスは満足するよう笑みを零すと、目を閉じる。
疲れているつもりはないのだけれども、結界棒の秘石へ精霊を送り込む作業は、単純なのだが集中力を必要としていた。
秘石に送り込まれている精霊の色と同じ色を扱える精霊使いならば、一式使いからでも補充をすることができる簡単で単調な作業ではあるが、精霊術を使うときと同様に、神経を使うし精神力を削ることに変わりない。そのため、合計すると4時間程度なのだが、その間は全神経を精霊に向け、マナで色を与え、結界棒にはめ込まれている石に送り込むことに集中させているので、意外としんどいのであった。
夕食の時間になると、無条件に起こされてしまう。本音はこのまま寝ていたかったのだが、それに逆らうと鬱陶しいことになるので、諦め気分でアスピスは体を起こす。その代り抱いていくようエルンストに手を伸ばすと、意を汲むようにしてアスピスを抱き上げて、1階まで運んでくれた。
半分寝ぼけた状態での食事の記憶はあいまいだが、無事に翌朝を迎えていることを考えると、なんとかやり過ごしたのだろう。
目を覚ますと、いつも通り、エルンストの腕の中に収まっていたので、問題ないことにしてしまう。
枕元には、アスピスが昨日の夕方ごろに放置した本が置かれていたため、エルンストの腕から抜け出すと、先ずはアイテムボックスの中へ本をしまうことから開始する。
それから、アネモスに夕食をあげてなかったことを思い出し、急いで『生き物用』ボックスに入って行き、アネモスに謝りながら、山盛りの肉と水と結界オーラを3枚上げる。それと一緒に、オルトロスとエクウスにも結界オーラを3枚ずつ上げることにした。
そして3体が食事をしている間に、敷き藁とトイレ砂と水入れの水の交換をしてしまう。
それが済むと、食事を終えたアネモスの口の周りを拭いてやり、食器類を小屋に付いている水道を使いきれい洗うと、タオルでしっかり拭いて、アイテムボックスへそれらをしまう。
「まだしばらく出してあげられないけど、我慢してね」
どのような仕組みなのか、『生き物用』ボックスの中は、青い空のような天井から暖かな光も差しているし、心地の良い風も吹いている。小屋の前に広がっている草原や、それに続くようにして広がる丘もあり、丘の上には大きな木も生えていて、箱の奥行きはかなりのものだと推測できる。また天井もとても高く、オルトロスが走り回ることにも、エクウスが空を飛び回ることにも、なんの差支えもないようだ。
また、アスピスと同じく『生き物用』ボックスを持っているというカサドールが、愛馬をボックス内へ収納する前に、体験宿泊をしたらしいが体になにも支障がなかったと言っていた。そんなカサドールが愛馬を収納して持ち歩いているところを見ると、数日この中へ入っていてもらっても大丈夫なようだし、アネモスもオルトロスもエクウスもストレスをためている様子がないため、問題ないだろうと思ってはいる。のだが、それでも閉じ込めている感は拭えず、なるべく早く出してあげたいと思ってしまう。
そのため、ちょっぴり申し訳ないと思いながら、アスピスは3体をボックス内に残して、外へ出る。
その後は、エルンストが寝ている様子を確認しながら、床に洗濯用の魔法陣を描いておいた大きなシートを敷き、六角形の中に収まるよう洗濯用のタライを置くと、汚れた大量のタオルを投下する。その後は「結界」と口にして魔法陣を発動させると、「洗浄」と「乾燥」とレシピを唱えて、タオルの洗濯を済ませる。そしてタオルを取り出すと、アスピスは無造作に着ていた服を脱ぎ、それも一緒にするよう、王都を出てから溜めてきた服や下着。それに寝着や冒険用のローブをまとめて、タライの中へそれらを入れると、再び「結界」「洗浄」「乾燥」と順に口にしていく。
それらをきれいにすると、先ほど洗ったタオルの脇に、洗いたての服などを置き、洗濯用のタライや魔法陣が描かれたシートをしまい込む。
後は、洗濯を終えたものをしまうだけである。
そのため、いそいそとベッドの上にのり、空いている場所を使って、タオルや服などをたたんでいく。
その途中で、エルンストが目を覚ましてしまった。
「なんて格好してんだ」
「汚れ物を洗濯したの。エルンストも洗ってほしいものがあったら、洗ってあげるよ」
「その前に、なんか着ろよ」
「ちょっとお待ちください。洗濯物を片付けたら、着替えます」
「今すぐだ。一応は女だろ」
それを言われると思ったから、寝ていて欲しかったのだが。起きてしまったのだから、仕方がないだろう。
アスピスは『口うるさいなぁ』と思いつつ、洗濯物の中から冒険用のローブを取り出し、頭から被るようにして、レースのあしらわれた緑色の膝丈のローブを着こむ。
「これでいいでしょうか?」
「なにげに不満そうだな。下着姿でうろつくのは禁止したはずだぞ」
「ここには衝い立てがないので、それは無効です」
「着替える間はな」
「ちょっと洗濯物をして、それをしまう間の話しでしょ。少しぐらい大目に見てよね」
口を尖らせ不満顔を作ると、エルンストが両手を伸ばしてきて、頬を摘まみ取ると、左右に伸ばしてみせる。
「痛いでしょ! なんてことするんですか、女の子に」
エルンストの手をなんとか退けようとするのだが、力負けして頬から手を離させることができなかった。そのため、アスピスはエルンストの手をパシパシ叩いて、不満を訴える。
「女の子だと主張したいなら、男の前で、下着姿でうろつくな」
「彼女に対して、なんてことを言うのでしょうか」
心に傷を負ったってしまったと主張すると、溜め息を吐きつつエルンストが頬から手を離していった。
「彼女なら、彼氏に気を遣ってくれ」
珍しい返しである。これにはちょっと応えてみたくなり、アスピスは洗濯物から手をはなし、ベッドの上に手をつくと、エルンストの方へ顔を近づけた。
「エルンストはあたしの彼氏なので、朝の挨拶をする許可を出してあげます」
「どんな気の遣い方だ?」
「朝からお疲れのご様子なので、彼女のあたしは、彼氏のことを癒してあげようかと思いました」
「原因は、お前なんだがな」
エルンストは苦笑を洩らしつつ、アスピスの頬へ口づけてくると、そのままアスピスを抱き込んだ。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




