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第186話(六聖人のお仕事Ⅵの9/依頼1/冒険者ギルド)

[百八十六]


 久々のひとり寝に興奮し、眠れなくなってしまったために、アスピスは闇の中で目を開けていた。そして我慢も限界に至ったことで、アイテムボックスを開くと、『生き物用』ボックスに、こっそり侵入していく。

 中に入ると、『生き物用』ボックスの中も夜になっていた。設置されている動物小屋の中から漏れ出てくる光が、闇夜の中でとても暖かく見えてしまう。それに惹かれるようにして、アスピスは動物小屋へと入って行くと、3体が丸くなって寝ているのを目にする。

 ぐっすり眠っているようで、それを邪魔するのも悪く思え、ゆっくりと静かな動作で3体が眠る脇へそっと潜り込む。

 毛布が欲しいと思ったが、気づくのが遅かった。すでに微妙な態勢を取ってしまっていて、3体の内のだれかのどこかへ接触していたため、毛布は諦めることにする。そして、そのままの体勢で、アスピスは眠ることにして目を閉じた。

 目覚めは、アネモスの声に誘われるようにして訪れる。

「我がマスターよ、外でエルンストが心配しているぞ。そろそろ起きた方がいいのではないか」

「んー……、分かったの」

 アスピスは目を擦りながら起きると、ゆっくり立ち上がり、のろのろと『生き物用』ボックスから出て行く。そして、アスピスのアイテムボックスが開かれた状態となっている前で、エルンストがベッドの縁に腰を落として待っていた。

「おはようなの」

「眠れないなら、俺の部屋に来るように言っといただろ」

「ちゃんと寝てたよ」

「アイテムボックスに籠ってどうする。つうか、俺の使用許可を常時出しておけ」

「それは、エルンストがしちゃダメって言ったんじゃん」

「お前がボックス内に籠ったりするから、必要になったんだろ。こっちは手も足も出せないんだからな」

 完全には覚醒していない頭で、アスピスが対応していると、エルンストが怒ったように言ってくる。けれどもすぐに、口調を通常のものへと戻し、嘆息してみせた。

「とにかく、俺への使用許可は出しておけ。それと、その寝着だけど、洗うようだぞ。敷き藁が大量に付着いてるからな」

「んー。許可の方はわかったの」

 アスピスはそう述べると、アイテムボックスにエルンストの使用許可を出しておく。

「はい、許可は出したの。このままにしておけばいいのね」

「本当はダメなんだけどな。まぁ、俺もお前の使い魔には違いないし、問題ないことにしておけ」

「エルンストは悪い大人なの」

「やむを得ずの対処だ、っつてんだろ。朝食だから呼びに来てみたら、お前が見当たらなくて焦ったぞ。部屋に入ってみたら、アイテムボックスが無防備に開いた状態になっているから、お前が『生き物用』ボックスへ入っているのがすぐに分かったけどな」

 言下にアスピスを抱きしめつつ、エルンストは安心したように呟く。

「ごめんなさい」

「今夜からは、一緒に寝るからな」

「エルンストがそうしたいなら、付き合ってあげる」

「ひとりで寝れないのはお前の方だろ」

「だって、宿屋の中だとアネモスたちを外へ出すわけにいかないでしょ」

 だからアスピスの方から『生き物用』ボックスに入って行くしかなかったのだと告げるのだが、エルンストには受け入れてもらえなかった。

「とにかく、着替えろ。朝食へ行くから」

「分かった」

 アスピスは素直に返事をすると、エルンストの腕の中から抜け出す。そして、頭からすぽんと寝着を脱ぐと、敷き藁がぱらぱらと床に落ちていった。

 どうやらエルンストの言っていたことは本当のようだ。嘘を吐かれたとも思っていなかったが。

 そして、アイテムボックスの中を覗き込みながら、ここはどちらを着るべきなのか考えてしまった。

「エルンスト、お洋服は冒険用でしょうか? 普通のでいいのでしょうか?」

「えっと。そうだな、お前のは冒険用装備っていっても、ほとんど効果がないんだったよな」

「靴は冒険用のを履くし、腕輪とネックレスとリボンは付けるよ」

 身につけられる装備の名前を教えつつ、エルンストの前に並べていく。

 ちなみに、唯一のスロット付きのブーツは、購入時に、子供に大人気という『浮遊』の効果のある法陣カプセルを挿していたのだけれども、仕事をするうえで不便だということが分かり、早々に抜き取られてしまっていたため、現在スロットにはなにも挿さっていなかった。

「ローブは防御力が気持ち的に少し補強されたな、くらいだったよな」

「うん」

「じゃあ、好きな服を着ても変わりねぇな。好きにしろ。だが、食事を終えたら、そのまま仕事へ出るから、それで問題ない格好にしろよ」

「はーい」

 アスピスはエルンストの返事を受け、いそいそと洋服がしまってあるボックスへ入って行き、中から緑色のワンピースを取り出して来る。

「これなら、ブーツともリボンとも合うでしょ」

 アスピスは可愛い緑色のワンピースを着こむと、髪を梳かして三つ編みを2本作り出し、毛先をゴムで結わいた後、その上からレースをあしらった緑色のリボンを付けて、直系3センチほどの幸運の加護の文様がトップの飾りとなっているネックレスを首にかけ、可愛い模様が全体的に付いている銀製の腕輪をはめ、足首丈の緑色のブーツを履いて、アスピスの準備を完了させる。

「エルンスト、少しだけ時間をちょうだい」

「どうした?」

「アネモスへご飯をあげてくるね」

「あぁ、そういうことか。行ってこい」

 エルンストの了解を得たことで、アスピスは『生き物用』ボックスに入って、アネモスに朝食用の肉と水を与える。そのついでに、それぞれ1枚ずつ結界オーラも与えておく。

 そして3体が食事をしている間に、水置き場の水を急いで交換し、朝食用の食器を片付けると、アネモスの顔を拭いてあげる。

 それを済ませると、アスピスは急いで外へ出て行った。

「準備は完了です」

「じゃあ、行くか。みんなも心配して待っていてくれているぞ」

「それはいけません。みんなに『ごめんなさい』をしてください」

「それをするのは、お前だろ」

 エルンストが伸ばして来る腕に掴まり、抱き上げてもらうのを待っていると、程なく持ち上げてもらった。



 昨夜の内に宿屋と交渉してくれて、今朝からは1階の食堂で、好きなものを頼むことになっていた。なのだが、メニュー表を見て悩んだ結果、エルンストがルーキスに任せると言った台詞を機に、テネブラエもアスピスもそれに便乗したため、ルーキスが店員にお勧めを聞きつつ、適当に注文することとなってしまう。けれども、昨夜の夕食よりも、みんなで美味しく食事を摂れた。

 そして、食事も済ませたことで、そのまま宿屋の主人に断りを入れ、エルンストがアスピスを抱える格好で、村の外へと出て行った。そこでアスピスを地面に下ろすと、アスピスはアネモスを『生き物用』ボックスから出てくるよう頼み、アスピスはアネモスに乗ると、1つ目の結界棒を探し始める。

「村とか町の結界棒の補充は、のどかだな」

「まぁ、村や町の結界棒の補充じゃあ、魔物に遭うことは滅多にないな。っていうか、俺は遭遇したことはないな。結界ほどじゃないが、魔法陣にも魔物を遠ざける効果があるらしいからさ。魔物が巣食う森や山の中を避けて草原とかに棲んでいような低ランクの魔物は、魔法陣周辺には寄って来ないらしい」

「でも、盗賊とかには遭遇したりすると聞いたんですが」

「なくもないが、俺たちが制服を支給されているのは、わざわざ口にしたりしなくても、見ただけで王国の指示で動いていることを察してもらうためってのもあるけどさ。同時に、敵を威嚇しているところもあるからな。手痛い反撃が待っていると分かる相手を、わざわざ好んで襲ってくる奴なんてそうはいないし。いるとすれば、なんらかの目的がある場合が多いが。大抵、精霊使い狙いだからな。その場合は容赦なく叩いて、俺たちを襲うのは損だということを、盗賊を利用して、知らしめるだけだろ」

 アスピスがアネモスに乗って気持ちよく動いている後ろで、エルンストたちがのんびりと会話している。それを聞きつつ、アスピスは精霊が固まっているのが分かる場所へ到着すると、地中に埋められている結界棒を探すため、地面に下りて、両手を地面に押し当てた。

「お仕事を始めます」

「フォルトゥーナからの伝言だ。ゆっくり1体ずつ秘石に送り込むように、だとよ」

「はーい」

「それと、時間は早ければいいってもんじゃないってことを、念を押すよう言ってたぞ。だから、1本に2時間はかけるように。ってことと、1日2本で終わらせるようにって、注意されまくったからな。俺にはお前ら精霊使いがやっていることは見えないんだ、お前が気を付けなくちゃならないんだからな」

「分かった」

 アスピスが元気よく答えると、エルンストは半ば怪しむようにしながらも、仕事の邪魔をすることは禁止されているために、後はアスピスに託すことにしたようだ。エルンストがゆっくりと離れていくのを感じつつ、アスピスは地面の中の結界棒にはめられている秘石を意識し、中にいる精霊たちの色を確認する。それを済ませると、周囲にふよふよしている精霊にマナを与えることで、精霊に色を与えて、秘石の中へ送り込み始める。

 フォルトゥーナからの指示通り、1体ずつ精霊に色を与えていき、丁寧に秘石へ送り込んでいく。秘石の中の精霊も、色を与えてもらったことで役目を得られたために、喜んでいるのが伝わってくる。丸くぷよぷよの体をもぞもぞさせていた。



 丁寧に時間を掛けて精霊を補充したつもりなのだが、本数制限がされたことで、1日目の仕事が済んでしまう。しかも、2本とも2時間を切っていたため、お昼を過ぎたころには終了してしまう。

 そのため、その時点で疲労感はなかったので、もう1本済ませてしまいたかったのだが、それはエルンストにより却下されてしまった。

「村に戻るぞ」

「エルンストの頭は角々でコチンコチンです」

「あー、はいはい。わかったから、帰るぞ」

 アネモスに乗り移動しているので、その気になったらエルンストたちを置き去りにすることは簡単だったが、後のことを考えると、それは控えておいた方がよさそうだと感じる。

 エルンストだけであったら、口やかましいと思い、実行していたことだろう。しかしこの場には、脅威となるルーキスがいるのだ。スカートを捲られパンツ一枚にされてお尻を叩かれるのは、やはり避けたかった。

「アネモス聞いてください、真面目にお仕事をしようとしているのよ。なのにカチンコチンの角々エルンストがその邪魔をするんです」

「俺の名前の前に変な単語を付けるのやめろ」

「よかったじゃねぇか。ダメダメは取ってもらえて」

「それで喜べっていう気かよ。カチンコチンも角々もけっこう酷いぞ」

 おかしそうに笑いつつ、励ますようにルーキスが語り掛けるが、エルンストは心外そうに瞳を歪める。

 そんな談笑をしながら歩いていると、村への入り口が見えてきた。そこで、エルンストが無造作にアスピスへ腕を伸ばしてきて抱き上げる。

「アネモスをしまう時間だ」

「仕方がないので、アネモスもみんなのところへ戻ってください」

 アスピスはアネモスへ語り掛けつつ、アイテムボックスを開くと、アネモスはゆっくりとした動作で『生き物用』ボックスへ入って行った。そして、完全に中へ入ったのを確認すると、アスピスはアイテムボックスを閉じた。

「これで大丈夫です」

「よし。さて、村に戻ったらギルドへ行くか」

 アスピスの宣言を受け、エルンストは再び歩き始め、程なくすると村の中へ入って行った。



 宣言通り、村に着くとすぐにギルドへ入る。

「すまない。名前を言えば話しが通じるようになっていると聞いたんだが」

「それでは、冒険者カードの提示をお願いできますか」

 中へ入ると、真っ直ぐに受け付けへ向かい、そのままの流れでエルンストが受け付けの女性へ話しかけたら、ものすごくにこやかな笑みで応じられる。

「テネブラエがいいかもな。悪いが出してくれるか?」

「あ、はい。それでは……って、この間の騒動の時に取り上げられて。そのままでした」

「それなら大丈夫。テネブラエのもあたしが持ってるから。ちょっと待ってね」

 アスピスははきはきと答えながら、ハイセクヴェレの村の入り口で守衛から受け取っていたテネブラエのカードを渡す。

「ありがとう、アスピス。それではこれでお願いします」

「それではお預かりします。えっと、テネブラエさんですね。少々お待ち……、と。はい、お伺いしております。賞金首1人と、その仲間が11人ですね」

 受け付けの女性は、書かれている内容をそのまま読みげる。

「それで、賞金首1名からは、アイテムボックスが『S』と『A』。その他に、仲間の1人が『B』を持っていました。どのような処理がよろしいでしょうか」

「えっと……」

 冒険者カードを持っているのだし、冒険者クラスも『B』ということで、ギルドをそれなりに利用してきたはずである。けれども、アスピスたちのやり方を知らないテネブラエは返答に窮するよう、エルンストを見つめてみせる。

「この討伐には俺たちは関わっていないから、テネブラエの好きにしてかまわないぞ」

「いえ。俺も傍観者です。リュミエール様とアスピスの2人で退治してくましたから」

「お守りの駄賃だと思えばいいさ。アスピスもテネブラエに一任でかまわないだろ」

「テネブラエにお任せします」

「えっと。それでは……、ボックスはそのままで。中にあったアイテムで特殊効果のある品などありましたか?」

「この賞金首の所持品に関しましては、特殊効果のあるような武器やアイテムや防具はございませんね。ランクもSが最高でしょうか。それと、賞金首を退治するほどの冒険者ですと、アイテムボックスをご愛用されている方がほとんどですので、人が入ることのできない形となります、冒険者などはバックパック代わりにご利用しております『E』『F』『G』サイズのアイテムボックスと、ポストに関しましては管理の都合上、基本的に買い取りとなっておりますので、説明を省略させていただいております。ですが、お受け取りをご希望でしたら、アイテムボックスの方はすぐにお渡しできます。ポストの方は確認する作業などもありまので、お渡しできる状態になりましたらご連絡をさせてもらうことになっております。ですが、お渡しできるのは、早くても1年はかかります」

 躊躇いをみせたテネブラエの様子から、受け付け窓口とのやり取りに慣れていないと解釈されてしまったらしい。受け付けの女性が丁寧に説明してくれる。それを受け、テネブラエも覚悟を決めたようであった。

「えっと、でしたら換金でお願いできますか」

「分かりました、中身はすべてこちらで買い取らせていただきます。ですが、アイテムボックスの掃除料金は差し引かせていただきます」

「はい、それで大丈夫です」

「それと、功績はどのようにいたしますか?」

「ちょっと待ってください。アスピス、カードを出してくれるかな」

「いいよ」

 アスピスは再び鞄を弄り始め、中からアスピスのカードを取り出した。

「功績はアスピスに全部お願いします」

「それはダメよ。功績はきちんと半分ずつなの」

「でも、俺はなにもしてませんから」

「それは関係ないの。功績はパーティで均等に分けるのよ」

 アスピスはそう言い切ると、受け付けの女性へお願いした。

「テネブラエとアスピスの2人で、半分ずつにしてください」

「わかりました。それでは、お2人で半分ずつにさせていただきますね」

 女性はアスピスへにこりと笑いかけてくれ、カードを四角い箱の中へ入れていく。

「では、これで功績の分配は終わりました。カードは各自でお持ちくださいね。身分を証明する大事なものなので」

「はい。ありがとうございます」

 忠告を添えつつ丁寧な動作で、それぞれにカードを返してくれる。その後、受け付けの女性は、話しを先に進ませた。

「それでは、こちらがアイテムボックスになります。それと、こちらが賞金と換金分のお金となります」

「ありがとうございます」

 テネブラエはそれらを受け取ると、「あとで分けますね」と言いながら、アイテムボックスの中へお金と小さな四角い塊を3つしまいこみ、用件を終わらせた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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