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第184話(六聖人のお仕事Ⅵの7/往路5/ウラガーン村)

[百八十四]


 ウラガーン村へ向かう途中、2度目の野営は、慎重に行われることになった。

 よもやアスピスが2度目の脱走を果たすことは無いだろう。と、信じてはいても。今回が初めてのことだったとしても、一度苦い経験をさせられてしまったエルンストとルーキスの警戒心は半端でなかった。

 自業自得とはいえ、自分の使い魔3体に監視される羽目になるとは、まったく予測していなかったアスピスである。

「いつもなら、あなたたちは寝ている時間でしょ。そこにみんなが寝るためのシートが敷いてあるの。ゆっくりお眠りください」

「エルンストにお願いされては、断れぬ。使い魔仲間として聞かぬわけにいかなかろう」

「おじちゃんがそう言うから、オイラも付き合うことにしたんだ」

「帰宅後に今回の不祥事をレイスに暴露し主人を叱ってもらうか、今この場で私たちが主人の見張りについて穏便にすませるか、問われてしまっては選びようもありません」

 なにげに、この3体にとって、細々と面倒を見てくれるレイスは、信頼のおける存在となっていた。同時に、怒らせると怖いことも良く知っているようであった。

「あたしは、眠くないの。日中にいっぱい寝たから、見張りができるの」

「マスターよ、それは無理な話しじゃ。今日はこの場から一歩も動かしませぬぞ」

「でないと、オイラたちがエルンストに怒られるからね」

「さー、主人よ。諦めて、アネモスを枕に、オルトロスを抱きしめてお眠りください。私は毛布として上に乗って差し上げます」

「毛布になるくらい大きくなって乗られたら、あたしが潰れちゃうでしょ」

 さり気に特等席を確保するよう、エクウスが提案してきたことへ、アスピスは速攻で拒否の意思を示す。

 そして3体と1人で攻防戦をしていると、エルンストが傍に寄ってきた。

「自分の使い魔を困らせてどうする気だ。寝るぞ」

「どうせ、エルンストは2番目なんでしょ。すぐに起き出していっちゃうから、いりません」

「今日は3番目にしてもらったから。俺が起き出すのは、お前はぐっすり眠っている時間だろ」

「エルンストが起きたら、あたしも起きてしまいます。だから、いりません」

「機嫌は直ったはずじゃなかったのか? 我が儘なんて言ってないで、寝る用意をしろよ」

 アスピスがつんと素っ気ない態度を示したことで、エルンストは苦笑を零す。

「っと。アネモスは、悪いが今日もテネブラエに付き合って、1番目の見張りをしてくれるか?」

「承知した」

「あー、おじちゃん。オイラも付き合ってあげる」

 立ち上がりテネブラエの方へ歩いてくアネモスの後ろを、オルトロスが慌てて追いかけて行く。その後ろを、エクウスが「私も付き合いましょう」と言いながら、追うようにして飛んで行く。

 使い魔同士の関係は、かなり円満なようである。それはとてもいいことなのだが。

「エルンストのせいで、みんな行っちゃったじゃない」

「いや。今のは、俺のせいじゃないだろ?」

 ひとり取り残されてしまったアスピスは、むーっとふくれっ面をしてしまう。

「ほら、俺が残ってやっただろ。拗ねるな、寝るぞ」

「あたしのもふもふふわふわもちもちハーレムが崩壊してしまったの。エルンストはもふもふもふわふわもちもちってしてないでしょ」

「だったら、あいつらがいる最中に寝ればよかっただろ。そしたら、取り上げたりしなかったし」

「寝るための話し合いをしていたのです」

「だったら、あいつら呼び戻すか? その代わり、俺は傍にいてやれないけど」

 エルンストが提案するように言ってくる台詞を聞き、アスピスは思案をする。そして、いそいそとアイテムボックスから毛布を取り出すと、横になった。

「エルンストで我慢してあげます」

「そいつはどうも」

 アスピスがむすっとしながらも、エルンストへ告げると、エルンストはおかしそうに目を緩ませた。そして承諾を得たことで、アスピスの隣に横になると、アスピスに腕を回して来てくれる。それを機に、アスピスはエルンストの胸元に入り込むと、寝心地の良い場所を見つけ出し、丸くなって目を閉じた。



 目を覚ますと、エルンストの代わりに、使い魔3体が体の半分を防水用のシートからはみ出させながら、アスピスを取り囲むようにして眠っていた。

 目覚めがエルンストの腕の中でないという不満は、その状況を見て、一気に解消していく。

「体が落ちないよう、大きな防水シートを探さなくてはなりません」

 アスピスは機嫌よく笑顔を浮かべながら、珍しいことなのだが、思わず二度寝をしてしまうところだった。

 しかし、仕事中であり野営中ということもあって、それは許してもらえなかった。

 アスピスが目を覚ましたと察したエルンストが、アスピスを起こしに傍へ寄ってきた。

「寝かしておいてやりたいとこだが、目が覚めたなら起きろ。馬車に乗ったら、寝てかまわないからさ」

「分かった……」

 久々の、もふもふふわふわもちもち空間である。手放すのは非常に惜しかったが、仕事中なので文句は言えず、渋々と起き出す。

「珍しいな、お前が横になり続けたがるなんて」

「この空間は至極なのです」

「だったら、今度からこいつらに取り囲んでもらって寝るか?」

「エルンストの腕の中も嫌いじゃないので、遠慮します」

 アスピスが真顔を作って応じると、エルンストが笑みを浮かべた。

「んじゃ、起きるか。朝はパンでいいか? お前の好きなチーズ味のもちもちしたやつ。スープは、コーンポタージュでいいよな?」

「うん。でも、それ以上はいらないからね」

「サラダはダメか? 少しだぞ」

「チーズのパンとスープでお腹はいっぱいなるので、それ以上は入りません」

「仕方ねぇな。でも、残すなよ」

 断言したことが良かったようである。エルンストが折れるようにして、告げてくる。それに対して、アスピスが頷くと、エルンストはアスピスを抱き上げて、焚火の方へと連れて行ってくれる。

 根っこがいい具合に地面から顔を出し、地面と平行するよう伸びている場所へアスピスを座らせるよう下ろすと、昨日の夕飯時にセットしたまま置いておいた脚付きの箱の下へ、エルンストは小さな焚火を作りだす。

 そして、陶器製のマグカップへ、ガラスポッドに入っているコーンポタージュスープ注ぐと、それを箱の中へしまい込む。本来は、コンロの上で使う用の、中に入れた物を温める道具らしい。レイスが、法陣カプセルを使った似たような効果のある箱を買ったらしく、使わなくなったからとエルンストがもらったようである。

 そして、しばらく放置して、中身が温まったころを見計らい、キッチンミトンでマグカップの取っ手を掴み、木製のスープ皿に中身を移す。それを、パンをのせた小皿とスプーンが置いてあるトレイの上に置くと、アスピスに手渡してきた。

「ほら、先に食っていろ」

「ありがとう」

 スープの美味しそうな匂いにアスピスは笑みを浮かべ、素直にお礼を口にする。

「ちゃんと食えよ」

 エルンストはそれだけ言い残すと、朝食を温めるために設置したままにしておいた、脚付きの箱をアイテムボックスへしまい込む。それと入れ替わりに、小さな焚火を活用して、今度はその上へ落下防止用の二重の輪に脚が付いただけの、焚火を活用する野営用の簡易コンロを設置すると、その上に野菜のスープが入っている鍋をのせた。

「それもレイスが作ってくれたの?」

「お前の食事を用意するついでにな。フォルトゥーナも同じものを大きなガラスポッドに入れていたから、同じようなことをしているんじゃないか」

 スープ皿とスプーンを3つずつと、マグカップを4つアイテムボックスから取り出しながら、エルンストは朝食の準備をしていく。

 どうやら、レイスと共に暮らしていたことで、知らず身についてしまっているようだ。本人は意識してないのだろうが、やる人がいないと、なにげに小まめに動くようになっているようであった。

 食べ物を押し付けられて、動かざるを得ないのかもしれないが。

 そんなことを考えつつ、アイテムボックスの中で買いたての状態を維持していた、もちもちのチーズパンを食べながら、アスピスは感心したようにエルンストを見つめていた。



 アスピスの朝食が終わろうとしているところで、ルーキスとテネブラエが起き出して来る。そして、温められていた野菜スープと保存食。それとエルンストがいれたお茶で、3人が朝食を済ませていく。その間に、食事を終えたアスピスが、アネモスに肉と水と結界オーラ1枚。オルトロスとエクウスに、結界オーラ1枚と水。と言っても、オルトロスとエクウスは、水を好んで飲みはするし、食事もマナをそれなりにあげたら週に1回くらいの間隔でいいらしいのだが。兎にも角にも、それぞれに朝食を与える。

 しばらくすると3体が食事を済ませたことで、アネモスたちの食器はバケツを使って洗い、きれいなタオルでよく拭き、アイテムボックスへしまっていく。その後、4人が使った食器などの汚れ物や、スープが入っていたガラスポッドなどを鍋に入れてひとまとめにしてしまう。

 せっせとかいがいしく動くアスピスを見て、食器などを詰め込まれ重くなった鍋を持ってくれたエルンストを引き連れて、馬車へ向かう。

「おねがいします」

「ちょっと待て」

 一度、地面に鍋を置く。その代りにアスピスを抱き上げて、馬車に乗せてくれる。

「ありがとうございます。お鍋をくれますか」

「重いぞ」

 地面から鍋を持ち上げ、アスピスに手渡す。それを受け取ると、アスピスは馬車の台所の流しを使って洗い物を始めた。

 警護の意味も含め、傍で見ていたエルンストは手持ち無沙汰になったのだろう。馬車に乗り込んでくると、布巾を手に持ち、アスピスが洗ったものを拭き始めてくれる。そのおかげで、思いの外片付けが早く済んだ。

 洗い物をすませ、アスピスとエルンストはそれぞれの食器類をアイテムボックスへしまうと、野営地に戻る。そこではルーキスたちが火の始末などをしてくれていて、出発の準備が済むと、オルトロスとエクウスには『生き物用』ボックスへ入ってもらい、アネモスに牽引具を装着したところで、出発の準備が完了した。

「今日に夕方には、ウラガーン村に到着するから。そうしたら、村長の家に向かうようだな」

「そういうのは体験ないから、エルンストに一任だぞ」

 エルンストが今日の予定を口にすると、冒険者としてしか活動をしてこなかったルーキスが、エルンストに丸投げするように言った。

「まぁ、ルーキスは契約冒険者だからな、それで問題ないだろう。でも、テネブラエはきちんと付き合えよ。いずれはリーダー役を任されるときが来るだろうからさ。六剣士が必ず同行者に含まれているわけじゃないしな。剣士というからには、六剣士を目指してるんだろうし」

「はい。分かりました」

 エルンストの台詞に、テネブラエは素直に応じると、そこで説明は終わったようである。そして、今日はまた、テネブラエに御者させ、その補助にエルンストが付くことになった。

 行程は順調で、赤道の上を走っていることで揺れもほとんどなく、アスピスは持て余す時間を、『生き物用』ボックス内の掃除をすることで、潰すことにした。それを見てルーキスは苦笑していたが、アスピスが楽しそうにしているので、好きにさせてくれているようであった。

 そして、掃除を終えてアスピスがボックスから出てくると、待ち構えていたようにルーキスがピンク色をしたジュースを取り出してきた。

「いっぱい動いた後は、水分補給をしないとな」

「それはなーに?」

「苺とミルクを混ぜたジュースらしいぞ」

「それはちょっと魅力的な誘惑なの」

「じゃあ、こっちへ来い」

「うん」

 アスピスはアイテムボックスを閉じると、促されるままルーキスの隣に座る。それを確認して、ルーキスは氷の入ったガラス製のカップにストローを挿し、それをアスピスに持たせると、ガラスポッドに入っているピンク色のジュースをカップへ注いでいく。

「ゆっくりでいいから、ちゃんと飲めよ」

「美味しいよ、これ。ルーキスも飲みますか?」

「いや。遠慮せずに飲みたいだけ飲んでくれ。足りなけりゃ、未だ残っているぞ」

「これだけあれば十分です。美味しく飲ませていただきます」

 アスピスはストローを銜えて、ゆっくりと苺ミルクを吸い上げていく。

「オレンジジュースに匹敵する美味しさなのです」

「それはよかったな。レイスやフォルトゥーナが、色々と本を読んだりしながら、作ってたからな。お前が喜んだと知ったら、嬉しがるぞ」

「もちろん教えて差し上げるのです。是非また作って欲しい飲み物です」

 アスピスは目をキラキラさせながら、苺ミルクを飲んでいく。

 その様子を見ながら、この冒険後に待っている健診を、なんとか無事に乗り越えられそうだと、ルーキスは安堵する。そんな2人の会話を聞いていたエルンストも、ひっそり胸を撫で下ろしていた。

 仕事が入っていなかったら、今回の仕事には無関係であるレイスも王城へ同行させてやるというのは、エルンストとルーキスの合致した意見であった。



 昼休憩を挟みはしたが、順調に走り続けてきたことで、夕刻になるころ馬車はウラガーン村へ到着する。

 赤道沿いにあることで、村としてはかなり発展していた。村の区切りにはきちんとした壁も造られていた。

 そこで、村へ入る一歩手前で馬車から下りると、エルンストはアネモスと共にアイテムボックスへ入り、馬車を中にしまい込む。そして、アネモスも『生き物用』ボックスへしまうと、遅い時間の訪問は嫌がられことも多いため、エルンストがいつものようにアスピスを抱き上げて、速足で村長の家へ赴いた。

 そして、村長の家というには立派過ぎる造りの建物の前に到着すると、エルンストはアスピスを下ろして、ドアノッカーを使ってノックする。ほどなくして、中から執事の格好をした男が出てきた。

 王国から派遣されている人物はその都度異なるが、毎年のことである。訪れたエルンストやテネブラエの服装から、王国からの遣いだとすぐに察したようである。

 それでも、立場上というものがあるようで、形ばかりの問い掛けをしてきた。

「用件をお伺いしたいのですが」

「王国管理室から派遣されて来た。これが依頼書だ」

「確かに、当方の依頼でございます。よくおいでくださいました、こちらへお入りください」

 執事らしき男が中へ案内すると、客間へ通される。とはいえ、一時的に通される部屋のようで、玄関からすぐ近くの部屋で、内装は高級感あふれていたが、この部屋に扉は存在していなかった。

「今、村長をお呼びしますので。しばらくお待ちください」

 言下に女性の名を呼び、お茶を出すよう申し付けると、執事は部屋を後にする。

 それからしばらくすると、ひょろりとした老人が姿を現した。

「これはこれは、毎年ご苦労様でございます。私がウラガーン村の村長です。みなさまは初めてでしたかな?」

「この村へ派遣されたのは、みんな初めてだな。それで確認だけさせてもらうが、今回の依頼は定期的なものでいいんだろ」

「そうなりますな。毎年定期的にお願いしている、結界棒への補充と防御結界の補強をよろしくお願いします」

「それじゃあ、依頼が済んだらまた寄らせてもらうから、その時はサインを頼む」

「いえ。お部屋はご用意させていただきますので。もちろんお食事の方も、滞在中はこちらでご用意させていただきます。ですので、準備ができるまで、ここでくつろいでいてください。お茶もすぐにお持ちします」

「あ、いや。別の用事もあるから、今回は宿の方に泊まらせてもらいたいんだが」

 接客には自信があると言いたげに、想定外のエルンストの台詞を受け、村長が慌ててみせる。けれども、辞する意思を示すよう、エルンストは申し訳なさそうに村長へ告げた。

 それで諦めがついたようである。それならばと、村長はお勧めの宿の名前を伝え、宿代と食事代を村長の方で請け負ってくれることとなった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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