第178話(六聖人のお仕事Ⅵの2/新人紹介/準備)
[百七十八]
「遅くなってすみませんでした。俺はこの度、王国管理室所属の剣士となりました、テネブラエと申します。今年18になり、騎士学校を卒業したばかりで実践は初めてになります。冒険者クラスはBです」
よろしくお願いします。と深々と頭を下げるのは、初々しさいっぱいの、さっぱりとカットしてある碧色の髪は、これから頑張っていくことへの意思表示のような感じであり、茶色の瞳には未だ幼さを残した感じの、カロエより少し身長が高いかなという青年であった。
そんな青年であるテネブラエが、アスピスを見てちょっと首を傾げる。
「あの、失礼を承知でお聞きしたいのですが」
「あぁ、だよな。でも、見かけはこんなだが、れっきとした六聖人だ。大人の精霊使いに負けてないから安心しろ」
言わずに察したエルンストが、アスピスを見ながら、簡単に説明する。
「あたしはアスピスと申します。今年13歳になりました」
「えっ?」
勝負を挑まれたわけではないが、負けずに大きな声で挨拶をするアスピスの年齢を聞き、再びテネブラエが硬直する。
「あー、実年齢よりかなり幼く見えるんだ。でも、六聖人として実力は保証付きだから、安心して平気だぞ」
再びエルンストが苦笑しながら説明すると、テネブラエは恐縮したように頭を下げる。
「その。アスピスさんですか? 六聖人の力を疑ったわけではないのですが、あまりに小さいので……」
「あーそれから。いつも言うんだが、敬称はいらないからな。一緒に仕事するうえで、過度の気遣いは邪魔にしかならないからさ。もちろん、中には敬称を欲しがる奴もいるが、少数派だ」
「はい、分かりました」
「それで、この小っちゃいのが、自分でも名乗っていたが、アスピス。今回は唯一の精霊使いで、六聖人だ。そして、そっちに座っているのが、ルーキス。立場は研修員だが、契約冒険者でクラスはSだ。それと、俺はエルンスト。六剣士をさせてもらっている。今回の仕事では戦闘などはないだろうが、よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
エルンストの言葉を受けて、テネブラエは頭をぺこりと下げる。そして、頭を起こすと、言葉を続ける。
「それで、出発なのですが」
「希望があるなら受け付けるぞ」
「あ、はい。明日1日ほど時間をいただけないでしょうか」
「1日でいいのか?」
はきはきとしゃべるテネブラエへ、エルンストが確認を取る。
「じゃあ、出発は明後日だな。明後日、朝食を摂ったら、砦の正門を出たところで待ち合わせ、ってことでいいか?」
「はい、問題ありません」
「それと、目的地までの移動と、依頼終了後の王都までの帰り道は、馬車を使わせてもらうことになるから、悪いが許してくれ」
本来なら研修期間の仕事は、基本通りの徒歩が理想的なことを思い、エルンストが謝罪する。するとテネブラエがちょっと驚いたような顔をした。
「あ、いえ。でも、珍しいですね」
「こいつの足が悪くてな。移動は馬車でさせてもらってるんだ」
「そういうことでしたら、問題ありません。精霊使い。それも六聖人の方の都合に合わせ、お守りするのが俺たちの仕事なんで」
「研修中なのに、悪いな」
エルンストは再び申し訳ないと謝ると、テネブラエはとんでもないと首を振った。
「あの、それから。なにか必要な物とかあるのでしょうか? 実は俺、未だアイテムボックスを持ってないので、バックパックでの移動なんですけど」
「あー、じゃあ。騎士学校で学んだ冒険用具一式と、保存食と水袋を持って来てくれれば問題ないはずだ。それと、俺たちの場合は、水の心配はしなくていい」
「はい。ありがとうございます」
テネブラエは、初仕事の緊張もあるようで、頭をことある毎に下げてみせる。そして、最終確認をするように、仕事を開始する日時を口にした。
「それでは、明後日の朝食後に、砦の正門を出たところですね」
「怪我をせずに無事に戻って来るのが、研修員の第一の目的だ。ゆっくりやろうぜ」
「はい。では、騎士学校にて訓練が残ってますので、今日はこれで失礼します」
「いや。わざわざ呼び出して悪かった。頑張ってくれよ」
ぺこりと再び頭を下げて応接室を出て行くテネブラエへ、エルンストが声を掛けて見送ると、一応の顔合わせが終了した。
それをずっと黙って見ていたルーキスが、面白そうににやにやしだした。
「いい先輩してるじゃねぇか」
「うるせぇな。仕方ねぇだろ、後輩なんだし」
「いいねぇ、青春時代を過ごした場所があるってのも」
「ルーキス、子供が増えて精神年齢が上がってるんじゃないか? なんか思考が老けてるぞ」
「俺よりちょっとだけ若いと思って、年寄り扱いするんじゃねぇよ」
エルンストの心配気な発言に、ルーキスは失礼なと言わんばかりに文句を言う。
「ったく」
「拗ねるなよ。アスピスが見てるぞ。それより、俺は馬車を取りに行きたいんだが、どうする? アスピスを連れて帰ってるか?」
「いや、付き合うよ。武器の点検と法陣カプセルの確認と補充をしてもらいたいしな」
「あー、それは俺もやりたいな。やっぱ、出る直前にチェックを入れたいからな」
「なんだよなぁ。こんだけ時間に余裕があんだから、その間にやっておけって言われそうなんだけどよ。武器と装備の点検とかはぎりぎりに行いたいんだよな」
2人で会話を弾ませながら、ソファーから立ち上がる。それに倣ってアスピスも立ち上がると、エルンストが無造作に、アスピスのことを抱き上げた。
「馬車専門店からの帰り道は、歩かせてやるから。行きはこれで我慢しろ」
「分かったの。我慢する」
エルンストに言われるまま、アスピスは素直に頷くと、それを合図にエルンストとルーキスは応接室を後にする。そしてそのことを王国管理室の受け付け窓口に告げると、2人はそのままこの場を後にし、馬車専門店へ向かって行った。
馬車専門店で馬車を引き取り、武器屋でエルンストとルーキスの武器の点検と法陣カプセルの確認と補充を行い、その他必要そうなものを補充しながら帰路につく。
その間、アスピスは歩けるだけ歩かせてもらい、疲れたところで抱き上げてもらう。そして、帰宅してくると、フォルトゥーナが満面の笑みで待っていた。
「聞いて、新人の研修員って、カロエだったわよ」
「――ッ」
嬉しそうに自慢するフォルトゥーナに、アスピスは敗北感で言葉を失う。
そんなフォルトゥーナの無邪気な様子に、ルーキスが苦笑した。
「自慢の前に、お帰りだろ」
「あ、そうだったわね。3人ともお帰りなさい」
「ところで、ミロディアに乗せてもらって行こうと思っているんだけど、まずいかしら?」
「いや。あれはフォルトゥーナが騎乗用に手に入れた使い魔なんだし、いいんじゃねぇか? 他に精霊使いはいないんだろ?」
エルンストが確認を取ると、フォルトゥーナがにこりと笑って頷いた。
「今回は村だから、精霊使いは私ひとりなの。後はノトスとノワールとカロエとレフンテだから」
「村の結界の補充に行くだけなのに、強靭な組み合わせだな」
「あら、レフンテは戦力外だから護衛要員にはならないもの。そこまでじゃないでしょ」
「いや、そこにミロディアを組み込んだら、なかなか凶悪だろ」
「それを言ったら、アスピスは単体で凶悪になっちゃうじゃない」
フォルトゥーナがくすくすと笑いながら言ってくる台詞に、エルンストもちょっと納得してしまう。
確かに、聖狼の希少種に、カーバングルの希少種に、鳳凰の希少種である。この3体を相手にしたら、エルンストも負ける自信があった。そこで、話しを切り替えることにしたようである。
「でも、ノワールとカロエが組むとはな。賑やかになりそうだな」
「えぇ、そこへレフンテも加わるから、我が家の19歳トリオが勢揃いよ。ノトスが振り回されそうね。でも、あの生真面目なノワールと奔放なカロエが親友っていうのも面白いわよね」
「そうじゃないのよ。ノワールはもともと大雑把な性格だったんだけど、ルーキスに負けて、生真面目になるしかなかったのよ。可哀想に」
食堂のテーブルで、カルテイアにミルクをあげていたシェリスが、苦笑を浮かべながら口を挟んでくる。
「あら、大雑把だったの?」
「そうなの。見た目はとても繊細そうだけど、かなり大雑把な方よ。でも、ルーキスがその上をいっていて。反面教師になったようで、ノワールが生真面目になっちゃったの」
「帰宅早々、酷い言われようだな」
「買い物でもしてたの? お昼になってしまったわよ」
「あぁ、ちょっとな。ところで、レイスはどうした?」
「食材を買いに行ったわよ」
言外で、アスピスのおやつの時間となる10時までに、帰ってきて欲しかったことを告げてくるシェリスをはぐらかすよう、ルーキスは話題を変える。
「結構頻繁に買いに行ってるよな。食費、もう少し払った方がいいか?」
「そうね。様子を見て考えましょう。仕事や冒険に出たりするからって、金額を提示するつもりはないみたいだから」
シェリスも気になっていたようで、ルーキスに同意する。
そんな2人のやり取りを聞きながら、アスピスは受け取ってもらえない食費のことをちょっぴり考えてしまう。
そんなアスピスの思考を他所に、フォルトゥーナが笑みを零して、ロワとアスピスにテーブルに着くよう言ってくる。
そのため、エルンストの腕から下りると、ロワと共に席に着く。すると、目の前にはガラスのカップにアイスや生クリームや果物が沢山載せられたパフェが出てきた。フォルトゥーナがロワとアスピスのために作ってくれたようである。
「わぁ、フォルトゥーナありがとう! とっても美味しそうだね」
「ありがとう、ロワ。アスピスも食べてね」
「うん。でも、とても綺麗に果物が飾られていて、崩すのが勿体ないね」
「また作ってあげるから、気にせずに食べてちょうだい」
「アスピス、食べようよ。絶対、美味しいよ」
「うん。食べようね」
ロワに誘われ、アスピスもその気になってきて、2人揃って「いただきます」というと、スプーンを手にして、食べ始める。
その2人の様子がとても幸せそうで、フォルトゥーナも満足そうに見つめてしまう。
「手間かけさせて悪かったな」
「なに言っているの。大事な妹と弟に、美味しいものを食べさせてあげたいと思っただけよ。それに、毎度パンケーキじゃ芸がないでしょ」
「助かる」
いつもの食事嫌いが嘘のように、ロワと2人で笑い合いながら「美味しいね」と言い合い、食べていく。
食べる速度は遅いし、どんどんロワとの差は出てきているし、最終的にはエルンストの口に入ることになるのだろうが、笑いながら食べ物を口にするのは、パンケーキやショートケーキを食べるときくらいなので、笑って食べられる品数が増えていくことは、歓迎すべきことであった。
そして、ロワが完食するころ、アスピスもお腹いっぱいになったようである。エルンストのことを見つめてきた。
「残りはあげます。とても美味しいので、フォルトゥーナに感謝しながら食べてください」
「感謝ならもうしているから、安心しろ」
「じゃあ、これはエルンストに差し上げるのです」
スプーンと共に半分は残っているだろうパフェを、ずいっとエルンストの前に押し付けてくる。
けれども、今日は文句を言わずに食べてあげることにしたらしいエルンストは、アスピスから受け取ったパフェを食べ始めた。
「フォルトゥーナごちそうさま。とても美味しかったよ。ありがとう」
「残しちゃってごめんなさい。でもとても美味しかったの。また作ってね」
「2人ともよく食べたわね。また作ってあげるから、その時も食べてちょうだいね」
「うん。楽しみにしているね。ね、アスピス」
「うん。楽しみだね」
ルーキスから色々と頼まれているらしいロワは、アスピスに一生懸命に声を掛けていく。気分は、年下なのだが、お兄ちゃんという感じなのかもしれない。けれども、甘えっ子モードに入ると、途端にルーキスやシェリス、そしてアスピスにかまって攻撃を開始するのである。
本日は、お腹を満たしたことで、ルーキスを相手に発動したようだ。あの様子だと、昼寝をねだるのも時間の問題に思われた。
昼を大きく回ったころ、レイスが帰宅してきた。
「ただいま戻りました。あぁ、よかったエルンストたちも帰っていましたか」
「おかえり。なんかあったのか?」
シェリスとルーキスも軽食を済ませ、シェリスは昼寝へ、ルーキスはロワに連れられて3階へ行ってしまっていた。
明日を過ぎると、仕事で1週間は帰ってこられないので、今日と明日は、ロワにはルーキスに思い切り甘えてもらうことにする。
その間、フォルトゥーナはカルテイアの面倒を見るため、ソファーの方でゆったり座りながら、カルテイアを抱いていた。
アスピスも、お腹いっぱいになり満足そうな顔をして、エルンストの膝の上に載せられ、左腕に全身を預けるようにして眠っていた。
「家の中全体で育児中って感じになってますね」
エルンストの質問よりも、家の中の空気に、レイスは楽しそうに笑い出す。
「フォルトゥーナのパフェは成功してみたいですね」
「あぁ、珍しくロワとはしゃいで食べていたな。一緒に食べる相手がいると、いいのかもな」
「ロワだから、可能なんですよ。空気をちゃんと読める子ですから」
レイスはあっさりそう告げると、台所の方へ向かって行く。
「そうでした。ところで出発はいつですか?」
「パーティを組むことになった新人が、1日欲しいと言って来たから、明後日にした。多分だけど、親のところへ顔を出すんじゃないかな。初仕事の報告に」
「あぁ、両親が王都に住んでいる場合、良くある話ですね」
エルンストの解釈に、レイスもすんなり納得する。
「でも、それなら1日ありますね」
「どうした?」
「冒険中のアスピスの食事を用意しようと思いまして。アスピスは保存食を食べられないでしょうから。固いパンには嫌な思い出しかないみたいなので」
「あぁ、そういえばそうだったな。でも、こいつなりに考えてスープとかを揃えていたぞ」
「えぇ、アスピスも努力はしているのは分かっていますが……。ただ、俺たちもできる限りのことをしてあげないと、体重は増えないし、体も大きくならないような気がしまして」
レイスはそう話すと、アイテムボックスを弄りつつ、流しの前に立っていた。
「冒険中の食事はこちらで用意して、後で渡します。エルンストは、ルーキスと共にアスピスに食べさせる努力をしてくださいね」
「もちろん、それはするけどな」
「一応、食べきりサイズで用意するつもりなので、全部食べさせるつもりでお願いしますね。アスピスも食べきる経験をすると、嬉しいと思うんですよ」
レイスはそう言いながら、中身が零れないように蓋が付いている陶器製の小さな容器と、小型のガラスポッドなどを広げだした。
どうやら、食料と一緒に、これらも購入してきたようである。
レイスにとって、雑貨屋は外せない場所となってしまっているようだと、エルンストは感心するように見つめていた。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




