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第174話(引っ越し9/引っ越し作業開始3/お留守番2)

[百七十四]


 興奮していたロワが落ち着き、アスピスから腕を離していくと、ちょっぴり照れたような笑顔を向けてきた。

(ん? なんか、ロワの中では確定事項になってる?)

 少なくとも、アスピスが断ったことは、無かったことにされてしまったようである。その上で、再度断れる雰囲気でもなかった。

「ちょ、ちょっと洗濯ボックス見てくるね」

「うん」

 アスピスはその場から立ち上がり、1階へ下りていく。

 2階では、ロワを囲んで使い魔たちが、無責任に、将来使い魔仲間になるロワを歓迎していた。

 それを微妙な気分で聞きながら、1階に下りると、洗面所へ行き、洗濯ボックスを覗き込む。洗濯は済んだようなので、今度は『乾燥』ボタンを押し、しばらく様子を見ているとボックスの中で温風が発生し、洗濯物を回転させ始めた。

「洗濯ボックスは、これより大きいのが欲しいかも」

 雑貨屋か家具屋か家財屋に行きたくなってくる。

 こっそり買って、当日設置するときに出せば、文句を言う人はいないだろう。

「下手に欲しいとか言うと、買ってきちゃうからね」

 なんだかんだでお金を払い損ねてしまったアスピスは、せめて家具などで協力したいと考えたのである。

 しかし、購入後にアイテムボックスへ運んでくれる人が必要であることから、誰か連れて行く必要があることに、アスピスは頭を捻る。

「ルーキス。もしくは……。あー、シエンとイヴァールなんかも使えるか!」

 うん、いいかも。デートと称して買い物に付き合わせるのはいい手のように思えてくる。

 貸しを作るのだから、清算する必要があるので、これは素晴らしい思い付きのように思えてきた。

 そんなことを洗面所で長々と考えていたら、食堂から、シェリスとフォルトゥーナが声を掛けてきた。

「アスピス、そこにいるんでしょ。こっちにいらっしゃい」

「アスピス。ちょっと来てくれる?」

「はーい」

 良い子の返事をしながら、アスピスは自分の最高速度で2人の元へ歩いて行く。

「どうしたの?」

「シェリスが、素敵なカタログを持っていたの。雑貨や家具の通販カタログなんだけど、アスピスも好きでしょ? 可愛い家具とかもあるわよ」

 楽しそうに語ってっくる2人は、先ほどの話題から一転させ、いつの間にか通販カタログを見ていたらしい。

 そして、いかにも女の子のための家具といったページを開いて、アスピスに見せてくる。

「家具は今のものをそのまま使うから平気なの」

「あら、どうせレフンテも家具を全然持っていないから、ここで一式そろえないといけないのよ。アスピスの部屋のルーキスが使っていたものを、レフンテに押し付けてくれていいわよ。その分の家具代は、もちろん私が払うから、好きなのを選んでいいのよ?」

「本当に今のままでいいの。今の部屋が気に入っているの」

「そうなの? この照明具なんか、アスピス好みのお花の形よ」

「!」

 フォルトゥーナが指し示しのは、言葉通りお花の形をした照明器具の、丁寧なイラストであった。その照明器具は、確かにとても可愛かった。滅茶苦茶、アスピス好みの照明具であった。

「うっ。これは目の毒なのです」

「家具をそのまま使うなら、照明具くらい可愛いのにしてもいいんじゃないの? そしたら、その照明具はレフンテに使わせるから」

「あら、照明具くらいレフンテの部屋にもあるでしょ。ロワの部屋にもらうわ。ロワの家具を揃えないといけないし。照明具くらいおさがりでも問題ないと思うわ。アスピスのおさがりなら、文句を言わないわよ」

「それはいけません! 初めてのお部屋には新品の家具をご用意すべきです」

「あら、アスピスだってお古だったでしょ?」

 シェリスがあっさり告げたので、アスピスが慌てて辞退する。しかし、そこへフォルトゥーナが突っ込みを入れてきた。

「それはそうですが、あたしは居候なのです。お部屋をご用意していただけただけでも感激なのです」

「あら、なんでアスピスが居候なの?」

「ここは、ルーキスとエルンストとレイスとカロエの家なのです」

「あら、仮にそうだとしてもよ。買ってあげたのはアスピスのようなものじゃない。アスピスがあの4人の生活の保障を願ったから、あの4人がこの家を手にできたのよ。いわば、アスピスは家主よ、家主」

「本当に、こんな誤解をさせちゃって、仕方ないお兄ちゃんたちね。だから、先に家具を買い揃えてあげなさいって言っておいたのに。アスピスに選ばせてあげた方が良いとか言って、先送りにするからこうなるのよ。もっと歓迎感を出してあげないと、アスピスには分からないわよね」

 フォルトゥーナとシェリスが、困った4人よね。と、苦笑を浮かべつつ、フォルトゥーナが通販カタログを手元へ引き寄せ、通販の申込用紙にナンバーと金額を書いていく。

「あたしは、今のままでいいので。お花の照明具はキャンセルしてください」

「あら、いいじゃない。誰も引き取り手がないなら、客室でもいいんだし」

「そうよね。客室という手もあったわね。でも、ロワが使うと思うわよ」

 大人の女性のノリと勢いには、どうやら勝てないようである。普段、エルンストやレイスやカロエの3人に囲まれて生活しているアスピスは、日常生活部分での大人の女性に慣れていなかった。

(押されまくっている……)

 このままではいけないと思い、アスピスが『ちょっと待ったー!』と停止をかける決意を固めている中、上からロワが下りてきた。

 そして、タタタタタとアスピスの脇に寄ってくると、隣にちょこんと腰を落とす。

「ママたち、なにしてるの?」

「いいところへ来たわ。お部屋の家具だけど、ベッドとか机とか本棚とかハンガーラックは新品のロワが欲しいものを買ってあげるから、照明具は、アスピスお姉ちゃんのおさがりでいいわよね? アスピスお姉ちゃんの前は、パパが使っていたものなのよ」

「うん、いいよ!」

「そう、いい子ね」

「へへっ」

「なんか、ロワ。ご機嫌ね。なにかいいことでもあったのかしら?」

 とても嬉しそうににこにことしているロワへ、フォルトゥーナが不思議そうに問いかける。

「うん。あのね、ボク、アスピスの使い魔にしてもらう約束をしたの」

「あら、早速お願いしたの? ママから、使い魔になるのは大人になってからって、言われたんじゃないの?」

「うん。だから、10歳になったら学校へ通って。15歳になったら騎士学校へ通って。騎士学校を卒業して、ちゃんと就職してから、使い魔にしてもらうんだよ」

「あら、随分しっかりとした人生設計ね」

「ママにちゃんと考えなさいって言われたから、頑張って考えたんだよ」

 自慢げにフォルトゥーナへ告げると、アスピスからすでに承諾済みといった感じで、話しを進めてしまう。

「だから、ママ、いいでしょ」

 思わず、訂正を入れなくてはと、シェリスに向けて首を振るアスピスに、シェリスは気づいてくれたようだ。おかしそうに笑ってみせる。

「そうね。今言った通りにちゃんと学校へ通って、騎士学校を卒業して、就職できたら好きにしていいわよ」

「えっ!」

 アスピスの拒否権は、ここでも発動しなかったようである。

「その代わり、アスピスお姉ちゃんの言うことはちゃんと聞くのよ。使い魔とは本来そういうものなんだから。パパやノワールお兄ちゃんを真似ちゃダメよ」

「はーい」

 とても元気のいい返事をするロワに、アスピスはテーブルに撃沈した。



 お昼の軽食の時間になり、フォルトゥーナが、レイスから預かっていたというアイスモカを出してくれる。それ以外にも、クッキーやカップケーキなどのお菓子が並べられていった。

「今日は女性と子供だけだから、こっちの方がいいかと思って。男性がいると、もうちょっと軽食っぽいのが好まれるみたいだけど」

「フォルトゥーナは本当に色々とアイテムボックスの中へ用意しているわね」

「落ち着いて料理ができない場所では、料理は避けるようにしているから。出来合いのものを揃えておく癖がついちゃったのよ」

 苦笑を交えつつ、マグカップを用意して、ロワには牛乳を注ぎ入れ。フォルトゥーナとシェリスにはホットコーヒーを。それから、哺乳瓶を用意すると、手慣れた感じでミルクを作り始める。

 そして、ミルクが完成すると、シェリスの前にホットコーヒーとミルクを置き、ロワの前へ牛乳を置き、自分の前にホットコーヒーを置くと、席に着く。

「お昼の休憩が終わったら、シェリスは昼寝をしてね。夜が控えているんだから」

「ありがとう。そうさせてもらうわね」

 2人は本当に仲がいいのだなと、アスピスは見ていて思う。

 同年代の女友達がいないアスピスには、とても羨ましいと思えてしまう。

(本当は、あたしもあの中に入れる年齢だったんだよね)

 今の姿では、そのことを信じてくれる人なんていないだろうが。

 本当ならば、フォルトゥーナよりも年上なのである。

(まぁ、考えてもしかたないよね……)

 徐々に慣れていた、自分の年齢に対して諦めを覚える感覚。

「さっきのカタログ、見てもいい?」

「あら。ようやく、アスピス好みの家具を買う気になったの?」

「違うの。家族が増えるから、洗濯ボックスの大きいものが欲しいの」

「レイスも安心ね。今までは自分がやらないと、誰もやらなかったのに。アスピスがきてからは大助かりね」

 フォルトゥーナの傍に置かれていたカタログを、アスピスに渡してくれながら、アスピスを褒めてくれる。それが嬉しくて、アスピスはにこりと笑った。

「お手伝いは好きよ。みんな喜んでくれるもの」

 アスピスは笑顔でそれだけ伝えると、カタログのページを捲っていく。普段店頭には置かれていないような品々が色々と載っていて、みているだけで楽しくなってくる。

「冒険に役立ちそうなものもいっぱいあるね」

「でしょ。私もカタログを眺めているのが好きなの。うっかり我慢できずに買っちゃったりするけど、意外と役に立ってくれるものばかりだから、まぁいいかって思っちゃうのよね」

「フォルトゥーナらしいわね。アスピス、洗濯ボックスならもうちょっと先のページにあったわよ」

「ありがとう、シェリス」

 アスピスは教えてもらった通り、ページを捲っていくと、洗濯ボックスが載っているページに辿り着く。形は基本どれも一緒なのだが、ボックスの外側を木製にしてみたり、金属製にして、柄を入れてみたり、見た目は色々とあった。アスピスはその中の、シンプルな見た目で大きさは今よりもかなり大きそうな洗濯ボックスに目を付ける。

「ねぇ、フォルトゥーナ。あたし、これが欲しいんだけど」

「シンプルなのを選んだのね。でも、こういうものはシンプルな方が良いかもしれないわね」

 フォルトゥーナはそういいながら、すでに何個もの書き込みがされている申し込み用紙とペンをアスピスの目に置くと、説明を始めてくれた。

「欲しいもののところに書かれた番号と、欲しい数と、金額を書いていくのよ」

「文字を書くのは、未だ少し苦手なの」

「心配しなくても大丈夫よ。アスピスの文字が随分上達しているの、知っているわよ。自分の名前や職業名。この家の住所なんか、とても綺麗に書けるじゃない。これくらいなら書けるわよ」

「書いても平気?」

「えぇ、もちろんよ」

「ありがとう」

 アスピスは自分に任せてもらえたのが嬉しくて、出来るだけ丁寧に文字を書いていく。その出来栄えは、アスピス的に完璧であった。

 そのことに満足して、汚さない位置へ通販カタログを移動させる。そして、アイスモカを飲もうとして、その手を止めると、フォルトゥーナに声を掛けた。

「あのね、フォルトゥーナ。ここに書かれているのって、お引越しに必要なものなんだよね?」

「えぇ、レフンテやロワやカルテイアやノワールの部屋や客室に置く家具がメインよ。ロワには事前に見てもらっていたのよね」

「うん。ボクが選んだの。大きなお家だから、ボクの部屋ができるんだって」

 アスピスを見つめて告げてくるロワに、アスピスは笑顔で答える。

 そして、改めてフォルトゥーナに視線を向けると、考えていたことを伝えた。

「あのね。お家を買うお金に協力できなかったから、家具はあたしが買いたいの。ダメかな」

「ダメではないけど……」

「いいじゃない。アスピスもお家を買う協力をしたいのよね?」

「うん、そうなの。そうじゃないと、また居候になっちゃうの」

「でも、かなりあるわよ? 私と半分ずつにしましょうか?」

「大丈夫よ。あたしだって六聖人のお給料もらってるんだから。任せてちょうだい」

 了解が得れたことで、満足するよう、アスピスは自信満々に答えていた。

「じゃあ、お引越しの日が決まったら、その前に向こうの家へ家具を持ってきてもらう予定だから、それまでに購入するものを決めちゃうから、そうしたらお願いできる? 専用の袋に依頼した商品分のお金を入れて、申込用紙と一緒にポストにいれて送ればいいんだけど」

「うん。分からないところは、確認しながらやらせてね」

「もちろんよ。ポストに入れるときは一緒にやりましょうね」

 フォルトゥーナが笑みを零し、手を伸ばして来ると、アスピスの頭を撫でてくれた。



 お昼の休憩が終わると、フォルトゥーナにこの場から追い出されるようにして、シェリスが2階へ追いやられてしまう。その後ろを、眠くなったらしいロワがついて行く。それを見送るフォルトゥーナの腕の中では、シェリスから預かったカルテイアがぐっすり眠っていた。

 そして、アスピスは乾燥が終わった洗濯物をカゴの中へ移し、それを右手でなんとか抱え、左手には大量のカゴを引きずるように持ち、テーブルへと戻って来る。そして、テーブルの上に名前が記入されているカゴを並べると、一番端に洗濯物が入ったカゴを置く。そして、洗濯が終わった衣類を、次々とカゴの中へと入れていった。

「アスピス、よく分かるわね」

「泉に行ったとき、レフンテとフォルトゥーナの衣類の傾向は覚えました。エルンストとレイスとカロエはお任せください、完璧です。ロワとカルテイアは小さいのですぐ分かるのです。そして、残りの衣類が、ルーキスとシェリスのものなのです」

 説明しつつ、動きはのろいが、テキパキと衣類を仕分けていく。

「アスピスはいいお嫁さんになるわね」

「お任せください。エルンストと結婚したら、みんなのパンツも完璧に仕分けてみせます」

「エルンスト以外のパンツも洗う予定なの?」

「パンツを制覇できててこそ、仕分けマスターになれるのです」

 アスピスは、楽しみながら、パズル感覚で洗濯物を仕分けていたりするのだ。これは誰のか分からないと、色々と傾向を考え、予測を立ててカゴに入れ、それが合って入れば大成功。間違っていたら、次回こそはと思いを新たにするのである。

「折角みんなと暮らせるのですから、洗濯物は制覇してみせます」

「そうね、みんなで住むんですものね。ところで、アスピスはこの家を売らないことは、エルンストたちから聞いていないの?」

「そのお話しは聞きました。空気の入れ替えとお掃除をすれば問題ないって、エルンストが言ってました」

「そのとき、なにも言われなかった?」

「このお家に他人が住むのは見たくないって。だから、売るのをやめたって言ってました」

「そう……」

 ちょっと歯切れの悪いフォルトゥーナの反応に、アスピスは首を傾げる。

「フォルトゥーナは、このお家が残っているのは嫌なの?」

「え? いえ、そうじゃないわよ。この家を売らないのは賛成よ。エルンストが売らずに残しておきたい理由も納得できるものだったし。ルーキスやエルンストやレイスやカロエやアスピスにとっては、大事な思いでの家ですものね」

「そうなの。みんなと一緒に住めるのはとても嬉しいけど、このお家が売られて行っちゃうのも悲しくて嫌なの」

 アスピスが、すべての洗濯物を仕分けし終え、満足げに笑いながら、同時にフォルトゥーナに元気に応じる。

 そして、仕分けた洗濯物を、人数が増えたために洗面所の上の棚に収まらなくなったことで、食堂の後ろにある、応接セットのところへ一時的におくことにしたアスピスは、テーブルの上からそこへ、仕分けた洗濯物たちを移動させていく。

 その最中、玄関が開かれ、フォルトゥーナの家の家具を回収しに行っていた4人が帰ってきた。

「あら、早かったわね。今日はありがとう。4人だけで大変だったでしょ」

「おかえりなさい。ちょっと待っていてね、今洗濯物を片付けたら、コーヒー入れるから」

「慌てなくていいから、ゆっくりやれよ」

「アスピス、いつもありがとうございます」

「アスピス、急がなくていいぞ。飲みたかったら、コーヒーぐらい自分で入れるし」

「フォルトゥーナ、アスピス、ただいま。荷物は俺がもらったボックスにすべて入れてきた。あとでフォルトゥーナに確認してもらいたい」

「分かったわ。今日は本当にありがとう」

「いや、全然だろ。家具が少なすぎて驚いたくらいだ」

 レフンテの台詞へ、フォルトゥーナは頷き。改めてお礼を告げると、エルンストがフォルトゥーナの家の感想を述べていた。

 そして、アスピスが洗濯物に夢中になっているのを確認し、フォルトゥーナがエルンストを引き寄せ、アスピスに聞こえないよう気を付けつつ、この家のことについて確認を取っていたのであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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