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第16話(誘拐事件3/侵入計画)

[十六]


 シェーンに頼み、エルンストとレイスのいる六剣士(黄)と六剣士(緑)の部屋へ案内してくれるメイドを用意してもらい、そのメイドに案内してもらう形で2人の部屋へ行き、それぞれに帰宅する旨を伝える。

 すると、仕事をしていた訳ではなく、敵がどこかに潜んでいる王城へアスピスが訪れてくるため、なにかあってはと思い待機を決めていた2人は、一緒に帰宅すると言い。シェーンにわざわざ用意してもらったメイドをお礼を言って開放すると、六剣士を2人も引き連れる形で、アスピスは帰路についた。

 その間、城内を歩いていると、アスピスを表立って六聖人として扱ってないこともあり、あのチビは何者なのか的な視線の痛いこと痛いこと。中には、年齢的に結婚適齢期の多い六剣士をアイドル視している、王宮へ訪れたり働いたりしている女性も多くいるようで、悲鳴なようなものまで響いていた。

 それらを一切気にしないと決め込んだアスピスは、王城の脇にある商人などが使う門から出るまで、無表情を決め込んでいた。

「表情筋が固まるぞ」

「仕方ないでしょ。ていうかさ、なにあの悲鳴?」

 まるでアスピスが、六剣士の2人を魅了でもしてかどわかしでもしているかのような、そんな非難に満ちた、六剣士の色香に惑わされた者たちの黄色い声が廊下に木霊するなんて。思いもしていなかった事態に遭遇してしまい、鉄面皮にでもならなければ、やっていられない状況だったことを、城内の乙女たちに騒がれていた当人たちは気づいていないのだろうか。

 そのことを確認するのも癪で、アスピスは話を打ち切る。

「まぁいいわ、どうでも」

 いっそ、左手の指輪を見せびらかしてやりたいと、2人から婚約されたことを戸惑ったことはあっても、他人に自慢してやりたいと思ったことはなかったのだが、こうなってしまうと、ついつい意地悪心が疼いてしまう。

 けれども、それもすぐ、なにをくだらないことを考えているのだろう。と、自分自身に向け思ってしまったことで、アスピスは表情筋を緩めることなく、そのまま爵位持ちの貴族たちの暮らす邸宅街を歩き始める。

 すると、エルンストに引き止められた。

 なにをするのかと立ち止まったら、両脇を掴まれ抱き上げられると、左腕の上に腰を安定するように載せられてしまった。

 冒険に行った際、村から野営地までの道中、アスピスの歩みがあまりに遅いからだろう、エルンストに担がれての移動となったのだが。それが再び、王都の、いくら人通りの少ない貴族街でのことであったとしても、行われる日が来るとは、騎乗用のアネモスを手に入れたことだし、二度とないと思っていたのに。アスピスの考えが甘かったと言わざるを得ない状況下。

「ちょッ――」

「早くて便利だろ。動くなよ、危ないから」

 本気でそう思っているようで、真顔でアスピスに注意してきたエルンストに、アスピスは口をパクパクさせるようにして返すべき言葉を探す。

 しかし、怒りと恥ずかしさで頭の回転がおかしくなってしまったアスピスには、即座に口にすべき言葉が思いつかず。それを見ていたレイスが、宥めるようにアスピスの頭を数度撫でてきた。

「城下町についたら、下ろしてもらいましょうね」

 それでいいでしょう。と、折衷案を提示してみせたレイスへ、エルンストが不思議そうに呟いた。

「軽いんだ、家まで運べるぞ」

 お安い御用だと言いたげに、あっさりと言い切ったエルンストに、レイスはどう説明すべきか一瞬躊躇する。

 そして、しばらく考えた後、説得をあきらめたらしい。アスピスに向けて「すみません」と小さく呟いて、そのまま黙り込んでしまった。

(あたしが恥ずかしいんだって、わかるだろうがッ!)

 何故にその程度のことが通じないのか? と思いつつ、それをエルンストに教えるのも気に入らないので、アスピスもそのまま黙って担ぎ上げられた状況を甘受する格好になってしまった。



 家に着くと、目的地に着いたので、下ろしてもらえたのだが。それは、中に入ってからのこと。

 玄関から中に入り、カロエやフォルトゥーナ。ルーキスにシェリスのみんなに披露した後、ゆっくりと床の上に戻してもらえた。

(せめて、家の外で下ろしてよね!)

 心の中で苦言を呈しつつ、みんなの微笑ましそうな視線を全身で付け止めつつ、アスピスは二階へ向かう階段の方へ歩いて行く。

「着替えてくるから、ちょっとまってて」

「その服のままでもいいのに。可愛いわよ」

 やっぱり、私が選んだだけあるわぁ。と悦に入るフォルトゥーナに、微妙な笑みを返しながら、アスピスは言い訳がましく口を開いた。

「だって、やっぱり、汚してもすぐ洗える服じゃないと。そうじゃないと、おちおちお茶やコーヒーも飲めないもの」

「それもそうね。お茶とお菓子用意しておくわ」

 お疲れ様。と言外で告げながら、フォルトゥーナに見送られアスピスは二階へ上がっていった。



「そういう訳で、これが元老院のウローク様の邸宅の見取り図だって」

 着替えを終え、一階に戻り、夕食前ということもあり、アスピスは用意してもらった軽めのお菓子とお茶を飲み、人心地つく。そして、みんなに見守られる中、お待たせしましたという気分で、本日面会してきたシェーンとイヴァールから聞いた話を掻い摘んで説明する。そして、知らずにいたかったのだが知ってしまったイヴァールのバカさ加減を皆には晒すことなく、なんとか説明をし終えたアスピスは、もらった図面をテーブルの上に広げてみせた。

(双子なんて、絶対信じたくないんだから!)

 自慢げに披露された、ウロークを疑った切っ掛けの真実なんて、誰にも言いたくないことである。そして、その辺は誰も聞いてこなかったので、アスピスはそこには触れずに済ませてしまう。

「見取り図の情報源はアンリールだから、まず信憑性は高いと思うの」

 そのことは、シェーンも言っていた。けれども、アスピス的にも、数度会っただけだが、すごく真面目だという印象が強く残っていた。

 図面を手に入れてくれたイヴァールに邪推するようなことを言わずに済ませたのは、イヴァールもシェーンも図面に対して自信を持っていたこともあるが、なによりも人の命がかかっているようなこういうことに、アンリールという人物が、嘘を教えるような人ではないと、なぜだか信じられたからである。

 それはみんなも同じようで、アスピスが貰ってきた見取り図を、訝しむ人はいなかった。

 それどころか、アンリールの裏事情のようなものは、公のものなのかもしれない。王城に出入りしているエルンストやレイス。フォルトゥーナやシェリスは、敢えてこの場で口にはしなかったが、ウロークの邸宅の内情の情報源がアンリールだと分かった際に、それぞれが浮かべた表情から既に承知している様子が伺えた。

 だから、シェーンも簡単に教えてくれたのだろう。と、今なら分かる。

 けれども、あの時はというと。根がシエンだけあって、シェーンのことをちょっと口が軽い人だなぁと思いながら、アンリールの話を聞いていたのである。

(まぁ、その辺は内緒ってことで)

 黙っていればいいことである。

 そして、アスピスは意識を話し合いの方へと戻していく。

「私、行くわ。ここにロワがいるっていうなら、行ってあげなくちゃ!」

 今すぐにでも飛び出して行きかねないシェリスを、エルンストが言葉で圧し留める。

「ウロークは、ずる賢くはあるが、臆病な奴だからな。他人の命をどうこう扱えるような奴じゃない」

「でも、だとしても、どんな想定外なことが起こるか分からないじゃない」

「だから、きちんとこの見取り図を見て、侵入場所、侵入経路。そしてなにより、ロアが隠されていそうな場所に検討をつけてからじゃないと、無駄足を踏むだけだぞ」

「――ッ」

 言われてみれば、と思ったのだろう。シェリルは大人しく、腰を椅子にすとんと戻す。

 それを見守っていたフォルトゥーナが、口を開いた。

「それはそれとして、侵入するのは、精霊術を使える私たちが良いと思うの。もちろん、中で何かがあった時にはすぐに来られるよう、みんなには外で待機してもらうけど」

「こういう危険なことは、男がやるべきだろ?」

「男、女じゃないでしょ。精霊術を使える私たちなら、自由に透明化できるもの。もちろん他人を透明化することもできるけど、いつどこでオーラが剥がれるか分からないことを思うと、精霊使いの私たちが行くのが、一番穏便に侵入できるでしょ。だけでなく、いざって時の戦闘力も、それなりにあるし」

 エルンストの台詞に、フォルトゥーナがダメ出しをするように、なぜ精霊使いが侵入役をするかの事情を説明すると、エルンストは悩むようなそぶりで口を閉じた。

 基本として、エルンストは、危険なことは自分でやった方が気が楽だと思っているのだろう。

「ってことは、3人で入るってことか」

 なるほど。と、呟いたアスピスに待ったがかかった。

「お前は別だろ! 精霊術を使うのにまだ慣れてないんだし。なにより、子供が――ってすまん」

「実際、子供ですから、いいんだけど」

 12歳の時点で、時が止まってしまったのだから、肉体年齢だけでなく精神年齢も12歳のままであることを考えると、子供で合っているのだ。だから、子供扱いされたところで問題はないし、エルンストは日ごろなにげにアスピスのことを平気で子供扱いしているのだから、こういう場面だからと気遣いする必要はないと思われるのである。のだが、その辺は微妙で繊細な機微がみんなの中にあったと言うべきなのか。

 本来同じ年頃だった者たちは、みんな立派な青年になってしまっていて、ひとり置いてきぼりを食らった状態のアスピスの現状。

 自分もだが、周りも、どう扱うのが正しいのか分からず、手探りの状態なのである。

(まぁ、子供相手に結婚申し込んでおいて、扱いに悩むってのもどうかと思うけどね)

 そう思いながら周囲を見回すと、普段なら聞き流すして済ませてしまうところなのだろうが、真剣な話の場での失言に、みんなから非難の視線を一身に浴び、反省しきりのエルンストは、一旦引くように口を閉じる。

 ただ、言いたいことはフォルトゥーナをはじめ、みんなも同じであったようである。

「アスピスは、足も悪いことだし。外で他の人たちと一緒に待機するか、お留守番が良いと思うの」

 重点をそこに持ってきたかという感じで、アスピスを置いて行く事情を足のせいにするフォルトゥーナを、アスピスはじっと見つめてしまう。

「まぁ、たしかにあたしの足じゃ、足手まといになるからね」

 嫌味な言い方になってしまうのは、やはり精神が未熟だからかもしれない。

 正直、分かっているのだ。子供だし、足も悪いし、ここは留守番をしているのが正解なのだということは。それでも共に参加したいと思ってしまうのは、考えるまでもなく我が儘を言っているだけにすぎないと――。

「ごめん。言い過ぎた。あたしは留守番をしてるよ」

 認めるしかない。と、心を改めフォルトゥーナに謝罪しながら、アスピスにとって最良の答えを出したところで、フォルトゥーナがアスピスを抱きしめてきた。

「私こそごめんなさい。あんな言い方しかできなくて。傷つくわよね」

「ううん。フォルトゥーナはあたしのために本当のことを言っただけだよ」

 実際、そうなのだろう。そう思い、悔しい気持ちを覆い隠し、アスピスは笑顔を作り出す。

 そして、部外者となった瞬間、この場に居ずらさを感じ、席を立ち逃げ出そうとしたところを、いつの間にか起き出してアスピスの背後でお座りをしていたアネモスが、口を挟んできた。

「我がマスターを置いて行くなど愚の骨頂」

「おい。アネモス。その話は――」

 もう済んだのだと、カロエが言おうとするのを、声を大きくすることでアネモスはカロエの台詞を奪ってしまう。

「おそらく、主らの求める子供は、結界の中に閉じ込められていることだろう」

「たぶん、ね」

「ならば、我がマスターを連れて行かずになんとする。精霊使いとしての素質は、現状において我がマスターに勝る者なし。こう言ってはなんだが、フォルトゥーナは六式使い、たとえこの中で結界に一番通じているとしても、八式使いが本気で築いた結界を解くのはほぼ不可能。そして、シェリスに至っては、日ごろ体術に頼りがちで精霊使いとしては未熟なところが多々見える。それに比べたら、我がマスターも未熟な部分も多いが、それでも我がマスターの方が結界にも術にも長けておる。それに我を連れて行けば、最悪、我がマスターにマナの終点を探り当ててもらえるならば、どんなに緻密な結界でも食らい崩してみせようぞ」

 つまり、アスピスの足もできるということである。

 しかし、誰もが思いつく欠点がひとつ。そのことを、アスピスがいち早く指摘する。

「でも、アネモスは大きいから。いくら私サイズに合わせて小さくなってるとはいっても、邸宅内を歩くには、やはり大きいと思うんだ」

「そんなこと、森の中を走り回り、岩場を駆け巡る我にとって、物をよけて歩くことなど造作のないこと。暗殺術に長けたシェリスならばいざ知らず、隠密行動など満足にしたこともない人間などよりも、足音を忍ばせることの得意な我の方が、よっぽど潜入に向いておるわ」

 自信満々といった感じに言い切るアネモスは、言いたいことを言い終えると、くわっと大口を開けてあくびをする。そしてそのまま、伏してしまった。

「まぁ、一理あるな」

 ご指摘ごもっとも。と、言いたいところなのだろう。

 エルンストは、改めて、考え込む仕草を見せる。

 同様に、レイスもフォルトゥーナもカロエもシェリスもルーキスも思案に暮れ始めた。

「腕力に物を言わせるだけでいいなら、俺とレイスとフォルトゥーナとシェリスの4人で侵入するのがベストだろうが」

「ですね。ですが、そういう訳にいきませんからね。金属鎧を避け、装備を皮鎧に変え、音を立てないようにして侵入を成功させたとして、結界を張られていては俺たちには手の出しようがありませんからね」

 しかも、ウロークの邸宅内に結界を張ってあるとするならば、製作者はアンリールである可能性が強く。アスピスはまだ知らないが、王城に出入りしている他の者は、城の中で流れ聞く噂で、彼女の結界の作りの緻密さは六聖人の中でもトップを争うレベルだと知らされていた。

「だとしても、女性だけで侵入させるのは避けたいところなんだが」

「こだわるわねぇ」

 エルンストの気持ちも分かることから、おかしそうに、フォルトゥーナがクスリと笑う。

「でも、アネモスも加わることになったし。私と、シェリスと、アスピスと、アネモスで侵入させてもらうわ」

「おい! まだ、決めるには早すぎるだろ」

「もちろん、その前に十二分なほど、侵入経路やロワの捕らわれている場所を、見取り図を使ってきちんと定めて。なにかあったら即飛び込んで来られる場所に、エルンストやレイスたちに待機していてもらうわよ」

「ったく。言い出したら聞かねぇんだから」

 困ったもんだと言いたげに、それでもフォルトゥーナの意見を尊重することにしたらしく、エルンストは引き下がる意思を示すように肩をすくませた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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