第14話(暗殺騒動/誘拐事件)
[十四]
月が綺麗な夜だった。
「マメっていうか……」
見つめた先は、色々な花が活けてある、サイドテーブルの上に置かれた花瓶。
エルンストとシエンの子供じみた言い合いが行われた翌日から、朝になると玄関の脇の植木スペースを区切るブロックの上に、下の方をリボンで結んである可愛いシートで巻き包まれた一本の花と、アクセサリーの入っているらしい、リボンの巻かれたおしゃれな小箱がちょこんと置かれているようになっていた。
最初にそれを発見したのは、レイスで。申し込みをしていることで、毎朝玄関の軒下に放り置かれる、数枚の大きな紙に文字が所狭しと印字されている情報紙を取りに出た際に、玄関側になる植木スペースの区切り目となるブロックの上にお花と小箱が置かれているのに気が付き、家の中に持ち込んだのである。
小箱にカードが挟まれていることにはすぐ気づいたが、他人のものを勝手に見ては悪いと考え、朝食の準備をしながら、みんなが起きてくるのを待っていた。なのだが、いざみんなが二階から下りてきたところで、レイスが説明しようとしたところ、それを遮るようになにかにピンときたエルンストが、レイスの心遣いを無にするようにして、無造作にカードを手に取り、中に書かれた、プレゼントの送り先と、送り主を目にしたのであった。
発した言葉は、「あのヤロー」である。
そして、それをそのままゴミ箱へ入れてしまおうとするのを見て、常識を欠いたエルンストの行動に対し、珍しくレイスが怒ってしまい、先日の件もありしばし説教が続いた後に、改めて皆の承諾を受けたレイスが送り先と送り主をカードで確認し、シエンからアスピスに宛てたものだと分かったことで、アスピスにそれを渡して、プレゼント事件は無事解決を果たした。
エルンストの意見もあり、魔法陣にはまだ、シエンやイヴァールの訪問許可を記入していないためなのか、それとも外にそっと置いておくのが粋だと思っているのか知らないが、翌日にも、そのまた翌日にも、さらにその翌日にも。つまり連日、プレゼントが置かれるようになっていた。
そして、それが続くこと二週間目。シェーンとしての仕事が忙しいようで、会うことなく過ぎてきたが、シエンからのプレゼントで存在の主張はしっかりとなされているといった感じである。
そこが、一緒に住んでいながら、つい。左手の指輪の存在にも慣れ、うっかり3人から婚約を申し込まれていることを忘れてしまうことが多いのに対し、顔さえ合わせていないのにアスピスに結婚を申し込んでいることを忘れさせることのないシエンは、やはり策略家なのだろう。腐っても鯛。さすがは、正確な判断力と確実な実行力を兼ね備え。更に容姿の良さでも定評のある、スペックの高さで国民の信頼を得ているシェーンの本体ということなのか。
とはいえ、花までは許容範囲として、いかにも高そうなアクセサリーは受け取る理由も受け取る気もないので、1回目こそ開けて中身を確認したが、次からは可愛い箱にリボンのかかったままの開けていないことが分かる状態で、日々、シェーン宛にポストから返品をしていた。
何故にシェーンかと言うと、シエンのポスト番号を知らないからである。それに対し、シェーンのポストの宛名は、ポスト番号の代わりとなる役職名となる『王位継承権第一位』と受け取り主となる『シェーン王女』と記せばいいと、シェーンのポスト番号を知っていたエルンストやレイス。フォルトゥーナに教えてもらった訳である。
ただし、この手は、アスピスが六聖人であるから使える手であり、ただの一般市民などでは、いくらシェーンのポスト番号と受け取り主名が分かったところで、送信不可となってしまうらしい。ただし、考えるまでもなく、その辺は当然の設定で妥当だとアスピスでさえ思ったことであった。
にしても――。
「いまいちよく分からない人だよね」
悪い人ではなさそうだと、なんとなく分かるが。腹の底が見えないところが恐ろしい気がするというのが、アスピスの感想である。
そして、しばらく月を眺め、心地よい風に当たっていたのだが、そろそろ寝ようと窓を閉じ。鍵を掛け。カーテンを閉める。そして、ベッドに上り横たわると、いつのまにかアネモスの定位置となっていた、部屋の中央の毛足の長い絨毯の上で大きなクッションに上半身をもたれかからせるようにして、眠っている姿を視界の脇にするようにして、アスピスも瞳を閉じた。
ちなみに、毛足の長い絨毯と大きなクッションの送り主は、確認したところカロエであったことが分かった。ペットを飼うなら寝る場所が必要だろうと、冒険から帰ってきてギルドに立ち寄った際、中に入って来てしまったアネモスを従え、エルンストに付いて来てもらいながら、アスピスが魔物討伐の功績の手続きをワタワタとしている最中に、気を利かせて買ってきてくれたものらしい。
当然のこととして、アスピスが飼い主なのだから代金を払おうとしたが、アスピスの倒した魔物の賞金を均等に配分することになっていたので、それのお礼だからと遠慮されてしまったので、カロエに甘えることにしてお礼を言うだけに留められた。
(本当に、みんな優しくしてくれるんだもんなぁ)
感謝してもし足りないくらいに、色々な形で、この家のみんなに大事にされているのだと、アスピスは閉じた目の奥でしんみりと感じ入る。
しかも、そんなみんなになんだかんだと甘えてしまっている現状。そのお礼はどうすればいいのか。
闘いの行われている国境の砦に送られることのなくなった現在、冒険で危険な場面に合うだろうが、戦場のように瀕死の怪我を負うような機会は少ないだろう。万が一そんなことがあれば、アスピスにも役に立つ余地はこれから先残されているが、アスピスが眠っている間の冒険では、たまに怪我を負うこともあったようだが、大けがというものは負ったことはないらしい。そうなると、当人よりも軽減されてアスピスに伝わる痛みは些細なものである。
つまり、アスピスの使い魔としての利点である即回復も、どこまで役に立てるものだか、かなり怪しい気がしてしまう。すくなくとも、以前のように使い魔の負った怪我の痛みを感じることで、寝込むようなことはなさそうである。
否。べつに寝込みたい訳ではないのだが、アスピスを大事にしてくれているみんなに対し、アスピスの存在意義というか、有用性をアピールしたい気がしてしまうのだ。
そうでないと、いざというとき、命の共有が役に立つと分かってはいても、みんなに守られ親切にされてばかりで、現段階でアスピスからなにも返せてないことに、申し訳なさを覚えてしまうのだ。
(あぁ、だめじゃん……)
色々考えこんでしまっていることで、睡魔がなかなか訪れてくれず。そのことを、アスピスはちょっぴり後悔してしまう。そして、これ以上はなにも考えないぞ。と、頭の中を真っ白にしようと試みていたところ、窓が開く気配が伝わってきた。
(あれ? 鍵はちゃんと掛けたはずだよね?)
そんなことを思っていたら、いつの間にか忍び込み忍び寄ってきた気配が、アスピスの上半身をまたぐようにして、アスピスの首筋に鋭い何かを、軽くであるが、当ててきたことが、首から伝わってくる違和感のような感触から伝わって来た。
反射的に目を開くと、アスピスに覆いかぶさっているのが、黒一色の細身の服を身に纏ったシェリスだと分かる。
(あぁ、だから入ってこれたのか)
ここ最近、練習だと思い、結界をかなり強化していたので、許可のないものが無断で入って来られないのは当然として、結界を破るのもそれなりの力量がある者が、それなりの時間をかけなければ無理だろうと思われる程度には、強固なものにしておいたのである。
「アスピス、ごめんなさい」
落ちてきたのは、今にも涙を流しそうな瞳をした、シェリルの悲しそうな声。
何事かと思いながらも、自分はシェリスに殺されるのだろうと、アスピスは悟る。
(暗殺が特技とか言っていたよね、そういえば)
エルンストが、シェリスの説明に、そんな物騒なことを言っていたことを思い出す。
だとすれば、エルンストが認めるほどの実力なのだろうから、逆らったところ意味はないのかもしれない。
だとしても、アスピスには譲れないことがあった。
「ねぇ、使い魔の解約をしたいの」
「それはさせてあげられないわ。みんなにバレてしまうもの」
「だったら、ここであたしが死ぬわけにはいかないの!」
はっきりとした口調で言い切ると、アスピスは傍らに寝ているアネモスの名を口にする。
即座に素早い反応をみせたことから判断すると、シェリスが入室してきた時点で、寝たふりをしていただけなのだろうことが窺いとれた。
「我がマスターは、本当におもてになる。過剰なモーションに対しては、きちんと拒んで欲しいものだ」
はぁ……。と、溜息をつきながら、アネモスはその場で一気に巨大化すると、驚いたシェリスが反応を鈍らせた隙を衝くようにして、シェリスのことを口で咥え込んでしまった。
アスピスを殺すことに集中しすぎていて、部屋の中央にいたというのに、アネモスの存在に気づかないでいたのだろうか。可能性としては、低そうだが、そう疑いたくなるくらいにシェリスはあっさりとアネモスに捕らえられてしまったのである。
(本気じゃなかった。というより、抵抗感が強かったってことか?)
逆らうことなくおとなしく、アネモスの口に捕らえられているシェリスを前に、アスピスは静かに考え込む。
そして、大騒ぎにしたくないという思いから、どうしたものかと考えていたら、玄関が勢いよくノックされ。その音で叩き起こされたか、元々起きていたのか知らないが、誰かが階下へ鍵を開けにいく音が響き。ほどなくして鍵を開けてあげたのだろう。そのことが窺えるよう、扉が勢いよく音を立てて開かれると、二階に駆け上がってくる足音が家中に響き渡った。
目的とする先は、アスピスの部屋であったようである。
そう間を置かず、アスピスの部屋が開けられる。それと同時に、アネモスに捕らえられている者の名を口にした。
「シェリス!」
「ルーキス。来ちゃったのね」
必死の形相で暗殺者の名前を口にするルーキスに、既に降参体制のシェリスが、困ったように小さく笑う。
そんな中、階下からや他の部屋から、ぞろぞろとアスピスの部屋へみんなが集まり始めていた。
すでに、アスピスを殺す気が失せた。否。おそらく最初からアスピスを殺す気のなかったシェリスは、アネモスから解放した後も、アスピスの主張もあって捕縛されることはせず。とにかく場所を移動しようということで、一階に移動し。いつもならレイスが座るテーブルの中央に位置する箇所へシェリスを座らせる。そのすぐ脇には、うなだれ体から力が抜けたように呆然としているシェリスのことを、ルーキスが支えるように立っていた。
「すまない、アスピス。これには事情が……」
「そんなの関係ないわ。言われるままに動いた私が悪いのだから」
両手で顔を覆い泣き出したシェリスの背を、ルーキスは必死に慰めるよう撫で始める。
そんな2人を見ながら、エルンストは深い溜息とともに、疑問を口にした。
「一体、なにがどうして、こんなことになったんだ?」
「それが。気づかぬ間にロワが連れ去られてしまい、夕刻を過ぎても帰ってこないロワを探している最中にシェリスのポストに手紙が届いたんだ」
これがそうだと、ズボンのポケットに押し込んであった、シェリス宛の手紙をルーキスは封筒から取り出し、みんなの前に、表にした封筒と広げた手紙を、並べるようにして差し出した。
封筒の宛先は、六聖人(灰)のシェリス様となっているのだが、送信者の欄には、本来ポストに投函すれば、自動的に記入されるはずの投函元のポスト番号も名前も、記されていなかった。
(自動記入させない方法とかっていうのがあるのかな?)
そんなことを思いながら、そのことを聞く雰囲気ではないことで、アスピスもみんなに倣って手紙の方へ視線を移す。
記入されているのは、用件のみ。『息子を返して欲しければ、六聖人(赤)の職を放棄しているアスピスを殺せ。確認でき次第、また連絡を入れる』そう用紙の中央に記入されたメモは、ところどころ文字が滲んでいたり、握りしめたシワが残っていたりしていて、シェリスとルーキスの嘆きと葛藤した様子が、実際に目にしたわけでもないのに、痛いほど伝わってきた。
「ここは、アスピスの使い魔であるあなたたちも一緒に住んでいる家だから。アスピスの身に危険が及ぶようなことがあれば、召喚されなくても、すぐに飛んで来られる距離だもの。使い魔にとって、主人は絶対で。たとえ犯人が知り合いの私だったとしても、アスピスの身には代えられないでしょ。だから、殺してくれると思ったの。六剣士が2人も揃っているんだし。そうすれば、たとえ失敗でも息子を返してもらえると思って」
「そんなこと言ってるけど、ルーキスとの契約は解除してないんだろ」
「俺が断った。アスピスの使い魔としては失格だったからな。同じ過ちは繰り返したくないからな。シェリルの使い魔として、きちんと全うしたかったんだ」
強い決意の元、共に死ぬことを選んだのだと訴えるルーキスへ、エルンストが瞳を歪めていった。
「それじゃあ、残されたロアはどうするんだ? たとえ無事に返されたって、両親は共に死んじまっていて、戻るべき場所がなくなってるんだぞ」
2人の考えは自己満足だと訴えるエルンストへ、ルーキスは困った表情のまま口を開いた。
「ロアは利発だから。きっと自力でなんとかしてくれるって――」
そう信じている。と続けようとしたルーキスの胸倉を、エルンストが怒りを顕わに掴み取った。
「ルーキスのことだ。どうせ、俺たちがなんとかしてくれると思ったんだろ」
「――ッ」
「ごめんなさい」
反射的に息を詰まらせびくりと肩を震わせるルーキスと、謝罪しながら再び両手のひらで顔を覆い泣き始めるシェリス。2人の様子から、エルンストの読みが正しかったことが窺えた。
途端に、エルンストの表情が緩み、ルーキスの胸倉から手が離れていく。
「ったく」
「そうですよ。それに、だったら事前に相談してくれればよかったんですよ。そうすれば、こんな騒ぎになることもなかったんですし」
「それはできなかったの」
横から口を挟む形になりながら、レイスはなぜ相談してくれなかったのかと、珍しく若干責める口調を作りながら、2人に向かって話しかけると、シェリスが顔を伏せたまま理由を語り出す。
「どこで、誰に見張られているか分からないのだもの。下手な行動をとれば、それだけロアの身に危険が迫るのよ」
「俺は、最初、みんなに相談しようって言ったんだ。そしたら、シェリスにそう言われて。言われてみれば、確かにそうだったから、相談したくてもできなかったんだ」
すまない。と、改めて謝罪するルーキスに、それ以上誰もなにも言える訳もなく。みんなが黙り込んでしまう中、不意にシェリスが泣き声を絞り出すようにして語り出した。
「ごめんなさい、アスピス。本当に、ごめんなさい。私が悪かったの。生まれたばかりで捨てられた私を拾ってくれたのが、暗殺集団で。そこで15歳になるまで、暗殺という仕事を時々させられながら、暗殺術を学んできたの。そして、15歳の時に、シェーン様のところへ送り込まれたの。相打ち覚悟で行って来いって」
話さずにはいられないのか、シェリスは淡々としゃくりあげながらも、自らの過去を語り続ける。
「私は命令されるまま、城に乗り込み、シェーン様のところへ行ったわ。そしたら、シェーン様に触れることも叶わず、シェーン様直属の護衛集団であるグローリー騎士団に取り押さえられ、捕まってしまったの。なのに、シェーン様は、私の右手の人差し指を見るなり、城で働かないかって。長いこと不在だった、六聖人(灰)の印が私の指に刻まれてるって、とても慈悲深くやさしいお顔で、私に言ってくれたの。暗殺団を抜け出しなさいって。追っ手から守り抜いてくれるからって」
そう言い切った途端、更に涙を溢れさせるように、シェーンは肩を揺らし始めた。
「いくら魅力的な人だったからって、初めて会っただけの人の誘いを、なんで受けてしまったのかしら。既に、たくさんの人を無意味に殺め、血で真っ赤に染まってしまった手をしているっていうのに。それなのに、彼女の言われただけで、なぜ、本気で抜け出せるなんて思ったのかしら。あの時ちゃんと断っていたら、アスピスを殺すよう要求されることも、ロワがこんな目に遭わされることもなかったのに――」
今更言ったところでどうしようもないと分かっていながら、それでも繰り返してしまう懺悔。まだ完全に過去から抜け出せていないということなのか。
それまでいるのかいないのか分からないようにしていたアスピスだったが、不意にシェリスを見つめて、しばらく考え込んだのち、アスピスは淡々と応じてみせた。
「それは、シェリスがそんな汚れた世界から抜け出したいと思っていたから、じゃないかな」
そんなことは言われなくても分かっている。と返されてくるのが定番ではあるが、本当はきちんと告げてあげないと自覚できない事柄なのではないかと、これまでの過酷な生活を送って来たアスピスとしては、シェリスの言動から感じていた。
既にもう、シェーンの手回しもあって、正式に暗殺集団からきちんと抜け出せているのだが、それはシェリスも分かっていることなのだろうが、それでもどうしても過去に捕らわれ続けてしまうところがあるのは、アスピスにも分かる気がした。
ただし。
(だからこそ、利用されてしまうんだけどね。自分が暗殺集団に身を置いていた時期があることを捨てきれないからこそ、それが弱味となってしまって、そこに付け込まれちゃうんだろうな)
この辺のことは、言わないでおいた方がいいと思うので、アスピスの胸の中にしまっておくことにするけれど。
しかし。
「忘れないで、今のシェリスの周りに幸せがあるのは。ルーキスって旦那がいたり、ロアって可愛い息子がいるからなんだよ、それらは、すべてシェーン様に従って足抜けをしたから、手に入れられたんだからね」
言いたいことは言わせてもらった。あとはもう、シェリスの感情を回復させるだけである。
それをできるのは、現在、夫のルーキスをメインに、友人であるエルンストやレイスやカロエたちなのだ。そのことを察するようにして、「君が悪いんじゃないんだ!」と何度も繰り返しシェリスを慰めているルーキスや、シェリスを囲むように立ちフォローを入れているレイスやカロエはそのままに、アスピスはエルンストと視線を合わせると、玄関の外へ出るよう視線で指示した。
「どうしたんだ?」
「アネモスが戻って来たから」
「戻ってって?」
きょろきょろと周囲を見回すエルンストの前に、アスピスはアネモスから無色透明のオーラを外すように結界を解除した。
途端に、アスピスのすぐ傍らにアネモスがお座りしている姿が、エルンストの瞳に飛び込んできた。
「それって――」
「たぶん、以前フォルトゥーナが教えてくれるっていっていた、結界をオーラにして身に纏い。結界を身体に密着させた状態にして、化けたり消えたりできちゃう精霊術だね。防御結界とかふつうの精霊術用の結界は壁を作る要領でマナを細くした糸のようなもので強固になるよう編み固めるんだけど、オーラにする場合、マナをより細くして和らかくなるよう編むの。丁寧に密に編むのは一緒なんだけど、オーラの方は柔軟性がでるように編まなくちゃいけないから、ちょっとコツがいるみたい」
「なに? それ、自分で覚えたわけ?」
「ちょうど、ビオレータ様が残してくれた本の中に、結界のオーラの作り方が書いてあるのを見つけてね。もののためしにやってみたら、『あら! できちゃった』っていうわけ」
「危ないことはするんじゃねーぞ」
「すでに巻き込まれてるでしょ」
忠告を忘れないエルンストへ、アスピスは肩をすくませる。
「それで、アネモスを透明にして、お前はなにをやったんだ?」
「家の周りに不審な人がいるって、アネモスが申告してきたから、後を追うよう指示を出しただけだよ」
「ごく短時間の作業だったから、ちょっと粗目のオーラになっちゃったんだけど、マナの強さに助けられたって感じだね。総評としては、初挑戦にしては上出来って感じかな」
「それはいいから、それでどうなったんだ? 男たちは」
「3人くらいいたんだけど、みんな王城へ戻って行ったって。それも、城の奥の方。元老院や六賢者のいるっていう、方。途中から入れなくなって、戻って来たみたい」
「そこまで行ければ上等だ。それ以上は、上位職でも条件を満たしていない者たちの行く手を拒む『侵入不可』の結界が張ってあるからな。六剣士の俺たちも入ることはできないくらいだ」
なるほどと、頷くエルンストは、よくやったと、アスピスの頭をかいぐる。それで、更に頑張れと言われるのかと、アスピスは期待していたというのに――。
「にしても、だとすると相手が悪すぎるぞ。それに、元老院や六賢者が相手では、その部屋に子供を隠しているとは思えない。必ずどこか王城とは違うところに隠しているはずだ」
「だからそれを、またアネモスを使って、探せばいいじゃん」
「よく聞け、元老院や六賢者の多くが、六聖人クラスの精霊使いを飼っていると思った方がいい。しかも、複数手元に用意している奴もいるだろう」
「だったら、どうしろって?」
「今回に限って言うなら、正面からぶつかるのは避けた方がよさそうだ。卑怯ではあるが、シェーンを利用させてもらおう。あれで、かなりの正義感の塊だ。自分が口説いたシェリスがこんな扱いを受けたと知れば、黙ってはいないはずだ。それに、シェーンは、立場的には元老院や六賢者の上となっている、ノーチェックで伏魔殿に入って行ける数少ない人物なんだ」
「えー。そんなー。つか、シェリスにはなんて言えばいいのよ! 自力解決こそが、シェリスの自信と幸せを取り戻せるんだよ」
「今回に限って言うと、ロアの命の方が優先だ。まずは誘拐犯を確定しないとな」
「それもそうだけど」
「あの伏魔殿に入って行けるだけでも、頼る理由になるはずだ。それに、こういうことは、時と場合によっちゃ、知略や交渉を要する場合もあるからな、シェーンの方が向いているはずだ。日が昇ったら、シェーンに面会に行ってくる。ちょっと強めの借りをつくることになるのは癪だけどな」
そう言うと、エルンストは、未だ泣き声の響く家の中へ、アスピスとアネモスを引き連れて戻って行った。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




