第106話(六聖人のお仕事Ⅲの2/買い物/往路1)
[百六]
翌日になり、エウリュとも連絡が取れ、午後にみんなで集合することになった。
場所はエルンストがお気に入りの、ギルドが運営している食堂であった。席も大きめで、大人数に対応している上に、長時間いても嫌がられないのがいいらしい。
そこで待っていると、最初にノトスが、次にシュンテーマが。最後にエウリュが訪れた。
それぞれ、到着するたびに、飲み物にホットコーヒーをオーダーしていく。オレンジジュースを飲んでいるのはアスピスだけである。
「そんで、いつ出発するんだ? どうせ馬車なんだろ」
「あぁ。馬車で移動させてもらう。出発日は任せられるが? いつがいいんだ」
「だったら、明日にして。早く用事を済ませちゃいたいから」
ノトスの台詞に、エルンストが応じつつ予定を問うと、エウリュが素っ気なく希望する予定を口にする。
「明日か。俺は大丈夫だが、シュンテーマは平気か?」
「俺はいつでもいいぜ。アスピスも問題ないだろ」
「うん」
「俺も、それでかまわない」
「なら、明日の日の出に、街の外で集合だな」
シュンテーマもノトスも了承したことで、エルンストが告げると、エウリュが肩をすくませる。
「日の出、ね。まぁ、しかたないわね」
どうやらエウリュは早起きが苦手などうだ。少し迷った後、承諾してみせる。
それで、一応の会合は終わり、解散となる。そして先に会計へ行ったエルンストが全員の分の会計を済ませると、アスピスを抱き上げその場を後にし、その後はみんなそれぞれに出て行った。
「この前のプリヨームの行動が、かっこいいと思ったんだ?」
全員の分をなにげに支払ってくれていたプリヨーム。彼は今頃どうしているのだろうかと、アスピスは思う。エルンストやシュンテーマはそんなアスピスに真実を打ち明けるつもりはなかった。
「どうでもいいだろ。それより、買い足りないものとかはないのか?」
「うん。だって、このパーティなら保存食でしょ」
「だな」
「って、そうだ! 粉スープが欲しい。干し肉が硬くて食べられないの」
「あー……だったら、干し肉を切る用のハサミも買っていけ」
「そんなものがあるの?」
エルンストの台詞に、アスピスは驚くように声を出す。
「あれは堅いからな、刻んでスープに付けて食べる人もそれなりにいるんだ」
「そういうことは早く言ってよ!」
「ついでに言うと、固いパンも、クリーム系のスープの素を買って、湿らせて食べる人が多いな」
「今さら、言う? そういう大事なこと」
「まぁ、勉強したと思え」
容赦なく告げられるエルンストの台詞に、アスピスは我慢できずに、エルンストの頭を叩いていた。
「ってぇなぁ。店に連れて買ねぇぞ」
「意地悪言う人は嫌いです」
ぷん。と、そっぽを向いてしまったアスピスに、エルンストは苦笑を浮かべる。
「悪かったよ。ほら、店に着いたぞ。好きなスープを好きなだけ選んで来い」
「言われなくても選ぶもん」
アスピスはエルンストから下ろしてもらうと、買い物用のかごを片手に持ち、店の中を巡ってスープ関連を売っているコーナーに到着する。
その中には、フォルトゥーナが使っていた固形スープの素や、出来上がっているスープがパックなどに入っているものなども売られていた。
そこで、アスピスは干し肉用スープの素という専用のスープの素を発見し、味が複数あったのでそれを一通り選ぶと、その他に、固いパン用にクリームスープの素をちょっと多めに選び、他にコンソメスープの素と鶏ガラスープの素などと共に、すでに出来上がっているクリームスープやわかめスープや野菜スープなどのパックも適当に選んで買い物用のカゴに入れる。そして、スープ売り場の傍らにエルンストが言っていた乾燥肉を切る専用のハサミを見つけたのでカゴに入れると、会計のカウンターへ持っていき支払いを済ませる。そして、店の隅の方でアイテムボックスの[B]サイズの食糧庫へそれらを入れておく。
「満足したか?」
「意地悪な人は知らないもん」
「一度は、そういうのを使わずに、保存食ってものを経験しておいた方がいいと思ったからだろ。ちゃんとその後は教えてやるつもりだったんだよ」
「あんな経験しなくてよかったもん。エルンスト無視するし」
急に瞳を歪ませていじいじし始めたアスピスを、エルンストは慌てて抱き上げると。あやすように抱きしめる。
「もう、周りを気にしたりしねぇから。あの時のことは忘れろ」
「周りを気にしてたの?」
「まぁ、一応な。でも、失敗だったと思ってる。悪かったって」
「もう、無視したりしない?」
「あぁ、もうしねぇよ」
アスピスはそれを聞くと嬉し気に笑って、エルンストの首に手を回してきた。
「約束だからね。次無視したら、嫌いになるからね」
「分かったって。それより、他には欲しいものないのか?」
「牛乳とパンケーキの素かな。シュンテーマ、どうやって美味しく蒸しパンにしてたんだろ」
「知りたかったら、聞いてみろ。教えてくれるだろ」
「うん」
アスピスは大きく頷くと、道の端により、シュンテーマに手紙を書き、ポストで送ると、すぐに返事が返ってきた。
「さっきのお店に戻るよ」
「分かったのか。」
「牛乳とパンケーキの素と、固形パンを潰す道具を買ってくるの」
「固形パンを潰すのは、牛乳にでも付けておいて、ふやけたらスプーンででも潰せばいいんじゃねぇか?」
「あ、そういう意味か」
「まぁ、いい。とにかく、牛乳とパンケーキの素が欲しいんだな」
「うん」
アスピスは大きく頷くと、再びお店に戻って、牛乳を数パックと、パンケーキの素を購入する。
「これで、本当にいいんだな?」
「うん。これで本当にいいよ」
アスピスは頷くと、エルンストと手を繋いで歩き出す。そして、ゆっくりとした歩調で家に辿り着くと、アスピスはアイテムボックスにこもって荷物の整理を始め。エルンストは、それをコーヒーを飲みながら眺めていた。
翌朝、レイスに朝食用のサンドイッチを作ってもらって、日の出がもうすぐという時間にエルンストともに、アネモスに乗って出発をする。
そして、陽が昇るのとほぼ同時に、約束の場所へ着く。
そこにはすでに、シュンテーマとノトスが待っていたので、互いに挨拶を交わす。
それからしばらくしてから、エウリュが到着してきたが、待たせてことに対する謝罪の言葉などは一切なかった。
「今日は俺が御者をするから、みんな後ろへ乗ってくれ」
「野営2回と強行突破か?」
「一応、そのつもりだ」
ノトスの問いにエルンストが頷く傍らで、アスピスが馬車に乗ろうとしているところを、エルンストが脇を掴み取り、馬車の上に乗せていく。
「ありがとう」
エルンストとノトスが話し中だったので、お礼を言うと返事は待たず、奥の方へ行く。そして、フォルトゥーナから渡されていたテーブルをデンと中央に置く。
「おぉ、便利そうだな。これは」
「赤道を通るっていうから、揺れがないからあってもいいかなって」
「カードゲームとかできそうだな」
シュンテーマやノトスが楽しがっている脇で、エウリュは不愛想な表情で、テーブルのない場所に座ってしまう。
それを見ながら、アスピスはノトスの問いに答えていた。
「カードゲームは風が強い時はできないけど、普段はできるよ」
「風が強いと、やっぱりダメか」
「うん。テーブルの上のカードが全部飛んでっちゃうの。一度それでカードが1セットダメになったことがあったの」
それを持ち込んだのは、カロエで。風が前から強く吹き込んで来て、その風がテーブルの上に並んでいたカードを持ち上げて、後ろから外へと向けて風と共にカードが飛び出していく様子を見ていて、呆然としていた。
「それから、これは、レイスからの差し入れ。朝食をみんな食べてないだろうからって、サンドイッチを作ってくれたの。お茶は今から入れるね」
アスピスはそう告げると、事前にラインティバッグにお茶の葉を入れておいたものをやかんに入れ、厚いお湯の出るやかんを取り出すと、やかんにお湯を注ぎ入れて、木製のマグカップを人数分用意して、お茶をいれるそれをみんなの前に置き。エウリュの分は一応エウリュが座っている側の端の方へ紙に包まれ手づかみで食べられるように配慮されたサンドイッチと共に置いておく。
そして、エルンストにもカップとサンドイッチを手渡すと、全員に行きわたり、それぞれが食べ始める。
ノトスとシュンテーマの感想は、フォルトゥーナが見つけ出してきたテーブルに対して「これは便利だ」というものであった。
けれども、中に加わることのないエウリュは黙って後ろ側から見える外の景色を眺めているだけだった。
一日目が過ぎ、陽が傾いてきたことで、野営の時間となる。
大きな木の傍に場所を止める、アネモスを解放すると、アスピスの元へまっすぐ向かっていくと、寝る場所をアスピスに指定する。そこで防水シートをアスピスが敷くと、その端へアネモスは横になり、だらけた姿で寝てしまう。
現状危険な気配はないらしい。
「ご飯はここに置いておくからね」
アスピスはそう告げると、大き目のシートを敷き、その上にトレイを置くと、水の入ったスープ皿と肉を山盛りにしたスープ皿を置いておく。
気が向いたら食べるだろうと思い、急かせることはせずにアネモスが休みたいだけ休んでから食べてくれればいいやと考える。
そして、焚火の周囲で集まっているみんなが夕食の時間に入ろうとしている中へ、アスピスはいそいで入っていくと、エルンストがみんなにお茶を配っているのを見て、慌ててカップを出そうとしたが、エルンストがアスピスの分は用意してくれていたようで、エルンストの隣にちょこんと座ると、お茶をもらう。そして、これは自由に使ってくれという意味合いを込めて、スープの素とスープ皿とお湯の出るやかんを中央に置くと、アスピスはそのひとつに、スープの素を入れ、エルンストの助言で購入しておいた干し肉を切る専用のハサミでスープの中に干し肉を切って入れると、ふやけるのを待つことにする。
面白そうだと、シュンテーマとノトスが手を出し、アスピスの行動を真似みせたが、やはりエウリュは黙々と乾燥されている保存則を食べ、それを食べ終わると、「私は一番目の見張り役にして」と言い残してその場を去り寝床へ行ってしまった。
そして、みんなが食べ終わったのを見計らい、アスピスは事前に用意しておいた防水シートに描いた魔法陣を使い、「結界」と告げ、続けて「洗浄」と言うと食器が空を回るようにして綺麗に洗われ、「乾燥」と唱えると、やはり食器が空を舞い水分を飛ばしていくと、最後は大きい皿が下になるようにして、食器が順々に重なって行った。そして、各自のカップをそれぞれに渡すと、自分が用意した食器をしまい。続けて朝使ったやかんやカップを同様に洗うと、それをしまって行く。そして、魔法陣を描いたシートをたたんで食料品の入っているボックスの入り口脇に置かれたたなの空いているところに置いておく。
あとで、アネモスン皿も洗わなければならないのだ。
そして、見張りの順番を決めている中に、アスピスがちょこんと座って仲間に入っていると、エルンストに追い払われてしまった。
「俺が、お前の分もやるから。お前はどっか行ってろ」
「えー……」
「じゃあ、人数が足りない分は、俺がするか」
ノトスが立候補するように告げると、今度は順番を決めに入る。
「エルンストが一番、二番に入ってくれよ。俺が二番、三番に入るから」
「そりゃ構わないが」
「じゃあ、俺は三番目ってことだな」
ノトスの台詞に対応し、シュンテーマが応じると、エルンストが頷く。
「そうなるな」
「じゃあ、それで決まりでいいなあ?」
ノトスは早口で告げると、いそいそと寝る準備に入って行く。
(ノトスって、エウリュが苦手なのかな?)
なんとなくだが、そう思い。ノトスを見つめていたら、エルンストに早く寝るよう告げられて、アネモスの元へ行くと、口の周りを汚しているアネモスの口元をタオルで拭き落とし、食器類を先ほどの食器洗浄用の魔法陣が描かれているシートを取り出し、食器を洗うと、アネモス用のタオルを食料品用の中に置いてる汚れたタオル入れに入れ、食器洗い用の魔法陣が描かれたシートを入り口脇の棚の空いたところにおいて、アネモス用の食器入れに綺麗になった食器をしまうと、アスピスは毛布を取り出して、アネモスに寄りかかり眠る体制を作り出す。
たまに前足で頭を落とされることがあるが、基本、アネモスは寄りかかっても文句を言ってこないので、なんとなく野営の時はアネモスに寄りかかって寝る癖ができていた。
そして、アスピスが時間をかけて眠りに落ちようとしていた際、一番目の見張りの番が来たようで、エウリュとエルンストが焚火の前に腰を下ろしているのが、閉じていた目を薄っすら開けたことで、なんとなく見えてしまった。
エルンストの対の相手で、すでに心に決めた相手がいるらしい。名前は聞いた瞬間忘れてしまったが、そんなことをシュンテーマが言っていたことは覚えていた。
(まぁ、あたしには関係ないや)
アスピスは半ばうとうととしながら、そんなことを考えながら、眠りの中へ落ちていったのであった。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




