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第105話(六聖人のお仕事Ⅲの1)

[百五]


 パーティから2週間が過ぎようとしていた。

 アスピスもだいぶ落ち着きを取り戻し、夢を見ることも少なくなり始めていた。

 そんな中、起床の準備を終えて、コンタクトも装着し、アイテムボックスを開いてポストの中を覗くと見慣れ始めていた封筒が入っていた。

 送り主は王国管理室である。

 中を開いてみると、想定通り、仕事の依頼であった。

『密偵のシュンテーマ,六聖人(黄)のエウリュ,六剣士(黄)のエルンスト,六剣士(赤)のノトス,王国管理室所属の八式使いのアスピス,五名。

 ファモソの町の定期的な結界棒の精霊の補充と結界の強化。シュンテーマには別途依頼書を送付済み。

 出発は一週間以内でお願いします』

 最後の一文はお決まりなのかもしれない。

 そんなことを想いつつ、アスピスは汚れ物が入ったカゴを抱えて一階へと下りて行く。そして、汚れ物を洗濯ボックスに入れると、カゴ置き場にカゴを重ねるように置き、ピッチャーから洗面器に水を入れると顔を洗い、タオルで顔を拭くと、汚れた水を捨てる場所へ流してしまう。

 それから、いつものように朝食の準備をしているレイスの元へ向かって行く。

「おはよう、レイス」

「おはようございます、アスピス」

「今日は皮むき、なにかある?」

「ポテトを揚げようと思うので、ジャガイモを剥いてくれますか」

 現在、レイスから指導を受けている最中なのだ。アスピスは喜びつつ、慎重にナイフを皮の袋から取り出すと、レイスに教わった持ち方で、ジャガイモの皮を剥いて行く。

 冒険中の調理用ナイフの方が扱いは難しいが、こっちのコツを掴むと、家庭用のナイフが簡単に扱えるようになると言うことで、修行は冒険用の調理用ナイフが使用されていた。

 そして、扱いもだいぶ慣れてきたことで、皮を剥く時間が以前よりも短くなってきていた。

 その際にレイスから「慣れてきたころが一番危ないんですから、慎重に扱ってくださいね」と度々忠告が入っていたので、アスピスは慌てて初心に帰るつもりでナイフを握り直していた。

 アスピスは一度ナイフで手をかなり深く切っていたのである。あんな痛い思いは二度としたくないと、本気で思っていた。しかも二度と縫われてたまるかとも思っていた。

 ほどなくジャガイモの皮が向き終わり、それをレイスに渡すと、器用にサクサクっとジャガイモを細く切っていく。そして、それを一時脇に置き、スープを混ぜて味見をしているレイスの脇で、アスピスはお茶の用意を開始する。やかんでお湯を沸かしている間に、ラインティーバッグに紅茶の葉を詰める。そして、2人が下りてきそうなタイミングで、それをやかんの中へと放り込む。

 ほどなくすると、二階からカロエとエルンストが下りてきた。

 そこからは、いつもの通りで、挨拶から始まり、アスピスが2人にお茶を出すと、2人はそれを早速口にし、その間にテーブルに色々と並べていき、それらの準備が終了すると、レイスがアイテムボックスからパンを取り出し、中央に置くと、みんなで声を揃えて「いただきます」と言って、食事が開始される。そして食事が終わると、みんなで片付けをして、食後のコーヒータイムに突入するのだ。

 今日は、そこで、エルンストに届いたばかりの依頼書を見せた。

「また、面白い組み合わせの上に、シュンテーマまで混ぜてくるとはな」

「あたし関連じゃないよね?」

「さぁな。ちょうどコアングナ王国に一番近いところにある街だからな。友好国だから、国境の砦も平穏そのものらしいが。お互い裏ではなにをしているか分からないからなぁ」

「脅さないでくれる?」

「本当のことだろ。だから、俺から。っていうか、この場合ノトスか? どっちでもいいが1人で歩き回るなよ。シュンテーマは諜報活動で、おそらく1人勝手に自由人するだろうからな」

「ノトスかぁ。最近優しいんだけど、それが不気味っていうか」

「それは失礼だろ。お前の身の上を知って、あいつなりに気を遣ってくれてんだから」

 最初の印象が悪かったせいなのか、親切にされると、ちょっと違うと思ってしまうのだ。

 しかし、ノトスなりに一生懸命、気を遣ってくれているのは分かったので、文句を言うことはしていないのだが。

「今日の午後にでも、依頼を受けに行くか?」

「うん。早いにこしたことないもんね」

 エルンストの台詞に、アスピスは素直に頷くと、午前中は買い物へ出かけるというエルンストを見送り、アスピスはコーヒーを飲み終わると、二階に戻って行った。そして、机に向かうと、本を読みだす。

 珍しく、精霊術に関しての本を読んでいた。レシピ作りの練習中で、なかなかうまくいかないことに、自習をすることにしたのだ。

 レシピを自分で作れるようになったら、さぞかし便利だと、アスピスは思うのだ。

 ちなみに、回復魔法だが、アンリールがレシピを八式使い用に弄って、少しだけだが強化されたものを編み出したことで、そのレシピを先日コピーさせてもらったばかりである。

 そんなアンリールを見て、自分も早くレシピを作れるようになりたいと思ってしまったのであった。



 午後になり、エルンストが帰宅してくると、エルンストは六剣士の王城用の服に着替え、籠手を左手にはめ込む。

 アスピスも普段着ている服よりもドレスに近い、膝丈のままではあるが、ヒラヒラした服に着替え、花形の鞄を肩から掛けると、中にハンカチやティッシュ、それにコンタクトを少しと、依頼書などを入れて、準備を終える。

 そして、アネモスに乗ってエルンストと共に王城へ向かって行く。

 王城の正門でも、顔を覚えてもらえたようで、止められることなく中に入って行けるようになっていた。そして、王城の中央玄関に到着すると、扉を開けてもらい、中へと入って行く。

 途端に、エルンストの存在に気付いた貴族の女性たちが小さく悲鳴を上げて、遠くからエルンストを追いかけ始める。

 傍には寄ってこないが、存在感はバッチリである。

「相変わらず、黄色い声がすごいねぇ」

「俺のせいか?」

「モテているのはエルンストだもん。エルンストのせいじゃなきゃ、誰のせいよ」

 エルンストの問いに、アスピスはきっぱりと言い返す。途端に、エルンストはアスピスの額の髪をかき上げると、口づけを落としてきた。

 途端に、否定すような「やめて~」な声が響き渡り始める。

「煽ってどうする気よ」

「俺の恋人はおまえだけなんだから、それを自己主張したまでだろ。口にしなかっただけ有難く思え」

 アスピスの台詞に、なにやら反抗心が芽生えたようである。そのため、イタズラしてきたらしい。

「大人のくせに」

「恋人の精神年齢に合わせてるんだよ」

「都合のいい時ばっかり、あたしを子供扱いするんだから」

 プクリと頬を掬らませ、アネモスの歩調をいくぶん早めて前へ進んでいくアスピスの後を、エルンストが笑いながら付いてくる。

 そして、上位職用の区画へ入って行くと、途端に周囲が静かになった。

 貴族の乙女たちは、この中にまで入って来られないのである。

 やはり恋人として、エルンストがモテるのは嬉しい気もするが、追いかけられている姿を見るのは気に入らないので、そのことに満足しながら、アスピスがアネモスに乗って先へ進み続けると、正面に横行管理室と書かれた看板が掲げられている場所へ辿り着いた。

「仕事の依頼を受けに来たんだけど」

「2人分頼む」

 アスピスとエルンストが同時に用紙を差し出すと、受け付けの男の人がにっこり笑って受け取ってくれる。

 三回目ともなると、慣れたものである。

 受け付けの男性は、2人に向けて笑顔を浮かべると、手元に2人へ送った依頼書を引き寄せながら、話しかけてくる。

「エルンスト様、アスピスさん、いつもお早い受け付けをありがとうございます」

「他の三人はまだなのか?」

「シュンテーマ様とノトス様はもうお済です」

「エウリュは明日か」

「かもしれませんね。いつも時間を少し置いてから受け付けに参りますから。ご連絡はエルンスト様のところに集めてくれと、ノトス様が仰っておりました。ノトス様から後々、連絡が入ると思います」

「横着しやがったな。ったく、まぁ、仕方ねぁか。シュンテーマもいるし。エウリュだしな」

 ひとりぶつぶつ言いながら納得していくエルンストを確認し、受け付けの男性は、それぞれの用紙に受領の印を押していく。

「依頼書は、ノトス様がお持ちしておりますので、確認の方お願いいたします」

「わかった」

「それと、シュンテーマ様は、定期的な作業にはご同行されないことになっておりますので、ご理解ください」

「1人で動き回るのだろ。了解した」

「では、これで受け付けは終了しましたので。お仕事頑張ってください」

 受け付けの男性はぺこりと頭を下げると、自分尾仕事に入ってしまう。

 それを見て、アスピスとエルンストは王国管理室の受け付けの前から離れると、帰路へと付いた。

 そして、今日はそのまま真っすぐ家へ帰ると、エルンストはコーヒーを用意して、テーブルに腰を落とすと、手紙を書いてポストに入れる。

 それから、同じくコーヒーを飲んで見守っていたアスピスの存在に気づくと、エルンストが笑みを浮かべた。

「3人には手紙を送ったから、おいおい返事が来るはずだ。エウリュからは明日かもしれないが。それが揃ったら、出発日を決めるだけだな」

「今度向かうファモソの町って、どんなところ」

「前にも言ったように、コアングナ王国一番近い町として知られている。馬車で赤道を走って3日くらいだな。」

「赤道を通れるんだ。じゃあ揺れないね」

「だな」

 アスピスは馬車が安定してくれることを喜ぶと、再びエルンストを見つめた。他に情報はないのかと聞きたいのだ。それを察したエルンストは、呆れたように苦笑する。

「そんな見つめられても、他に出てくるのは、コアングナ王国とは友好国だということと、大人しい王国ということぐらいだな。イシャラル王国から、援助というか精霊力関連の協力をしているらしい。国政には詳しくねぇから、よく分からねぇけどな」

「そうなんだ」

「あぁ。それと上アトラエスタとの境とされている怒れる山脈と呼ばれる、高くそびえ立っている、出てくる魔物もUS級ばかりと噂されている、巨大な山脈があるんだけどよ。下アトラエスタでは、その周囲に広がる森をマーマントの森って呼んでいて、色々な果実や薬草や動物などの恩恵が受けられる恵まれた森があるそうだ。だが、そこはイシャラル王国とは接していないから、俺は入ったことはないから、噂で聞く限りの話しなんだけどな。そこへ、共に友好国でイシャラル王国が精霊力関連の協力をしているってことで、その見返りの1つとして、隣国のコアングナ王国とオサリクア王国から森へ入れることになってはいるんだが、国境の傍からその森へ入ろうとすると、入れなくはないんだが、目の前に巨大なプルルム山脈がそびえていてな、広大な状態の森の部分へ入るにはその周囲を歩いて回らなくちゃならないことから、コアングナ王国のちょっと奥に入れてもらって、マーマントの森へ入らせてもらっているって感じだな。つっても、万障の森ほどではないらしいが、魔物は強いそうだから、いくら恵まれた森であっても、俺たちにはまだ手を出すのは早いかもしれないけどな」

「えっと、とにかく、上アトラエスタとの間を巨大な山脈が塞いでいて、行き来できないらしいってことと。下アトラエスタでは、その山脈の周りを覆っている森をマーマントの森って呼んでいて、そこは恵まれた森の上に、強い魔物が出るってことは分かった。あと、イシャラル王国からは直接入れないから、隣国のコアングナ王国かオサリクア王国から入らせてもらうってことも。特にコアングナ王国の奥に入らせてもらうと、マーマントの森の広い部分に出られるらしいってこと?」

「十分理解できているから、大丈夫だ」

 アスピスが整理しながら話をすると、エルンストが笑みを深める。

「あ、ちなみに。ファモソの町は国境の砦に一番近い町ではあるが、自国の砦側の補給の際に利用される町で、コアングナ王国へ入国する場合、タソック村かサフロールの町ってところから赤道の上を進み国境の砦にある関所を通ってコアングナ王国へ入るようになっているから。ファモソの町からはコアングナ王国へは入れないぞ」

「ややこしい……」

「イシャラル王国の地図を頭に叩き込むいい機会だろ。少し覚えろ」

「そういうのはさ、地図を見せつつ行ってくれないと」

「あー、地図な。出すの忘れてた」

 あっさりと言い切り、エルンストが誤魔化すようにそっぽを向いてみせたところで、エルンストはハッとするようにしてアイテムボックスを開いた。そして、六剣士(黄)用のアイテムボックスの入り口脇にあるポストから手紙を二通取り出した。

「ねぇ、今って、なんで手紙が来たってわかったの?」

「あ? 教えてなかったか? 手紙が届くと、ポストの持ち主のみに音が響く設定ができるんだよ」

「聞いてない。それ、教えてもらってない!」

「あれ? そうだっけ」

 エルンストはそう言いながら、アスピスの方へ寄って来る。

「どうりで、なんか、手紙のやり取りがスムーズだと思ってたら。そう言うことだったんだね」

「わるかったって。今、設定してやっから」

 エルンストに言われて、アスピスはアイテムボックスを開くと、エルンストの使用許可を出す。それが済むと、エルンストが六聖人(赤)用のアイテムボックスのすぐ脇にあるポストを開くと、その中を覗き込む。

「音は適当でいいな?」

「あまり大きな音にはしないでね」

「了解、一応標準に設定しておくから。聞こえにくいようだったら自分で調整しろ」

 エルンストはそう告げると、ポストの上の方に四角い蓋のついた箇所の蓋を持ち上げると、中には丸いボタンと、ボリュームを設定するためのものなのか、上を向いた三角のボタンと、その下に四角いボタンがあり、更にその下に下を向いた三角のボタンが付いていて、それら3つのボタンを四角いラインで囲んでいるのがみえた。エルンストは最初に丸いボタンを押す丸いボタンに光が灯り、次に、四角いラインで囲まれた内の真ん中のボタンを押すと、蓋を閉める

「あそこにあるボタンが、手紙が届いたときに音で知らせてくれるボタンだ。自分にしか聞こえないから気を付けろ。それと、標準は低めに設定されてるから、聞こえにくかったら上を向いた三角のボタンを押せば音が大きくなるから、何回かおしてみろ」

「わかった。ありがとう」

 一日三回の定期的な確認は聞き逃しなどがあると困るのでそのまま継続するとして、ポストに手紙が届くと音で知らせてくれるという親切設定まで付いたことで、アスピスは満足げに笑みを漏らす。

 その脇で、エルンストは腰を落とすと、手紙の封を切り、二つの手紙に目を通す。

「エウリュは明日にならねぇと連絡取れねぇだろうから、明後日に集合だな。それで、その翌日くらいに出発だな」

「わかった」

 アスピスはそう言うと、コーヒーを飲み干す。

「それじゃあ、勉強してくるね」

「あ? 恋愛小説を読んでいるんじゃねぇのか?」

「ここ最近は真面目に、レシピの本を読んでるの! その内すごいレシピ作るんだから」

「そいつはたのもしいな。頑張ってくれ」

「じゃあ、二階に行くね」

「勉強、頑張れよ」

 アスピスはニコニコとして二階に向かって行くのを、エルンストがおかしそうに見送っていた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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