第104話(六聖人&六剣士のお披露目会4)
[百四]
ラッパの音と共に、六聖人と六剣士が姿を現す。今日は完全な対の形を取っているようである。
それぞれ六聖人が対の六剣士の腕に手を絡め、エスコートしてもらうようにして、パーティ会場へ姿を現した。
その少し後に、元老院と六賢者が。そして最後に、王や王妃、王女やその婚約者が姿を現す。
アスピスは周囲の人たちを見習い、ソファーから立ち、入場してくる人たちを黙って見守る。中には拍手をしている人がいたが、それは全体の半数くらいだったので、アスピスはなにもしないで見ているだけにする。
そして、入場が終わると上の方に設置されている演奏場にいる演奏者たちが奏でる曲が上から降ってくるように流れ出し、ダンスを踊り始める者が出始めた。
最初は、六聖人とその護衛である六剣士が元老院や六賢者、それに王や王妃や王女やその婚約者などに挨拶をし、それが終わると、六聖人と六剣士が1人ずつ組みを作ってペアとなり、会場の中で散って行く。そしてところどころで立ち止まり、挨拶をしたり、軽くだが立ち話をしたりしながら、顔見せをしているようだ。
定期的な結界棒への精霊の補充と条件の補修、結界の強化を行うために、貴族のそれぞれの領土に入って行くため、その挨拶もお互い兼ねているのだろう。
ちなみに、アスピスの周りにいる六聖人や六剣士は、王都を中心としてその周辺を受け持っているのだが、分担として、王都から離れた場所を受け持っている六聖人や六剣士も存在しており、彼らは王都と同じくらい栄えている、王都から馬車を走らせ向かっても7日はかかる、準王都とされているアーレアの町を中心に行動を取っているらしい。
そんな遠方から、わざわざこのお披露目会のために王都へ戻って来ている六聖人や六剣士もいるのかと思うと、心の中で『お疲れ様です』と告げたくなってしまう。
そして、特になにも無いようなので、アスピスはソファーに腰を落とし、足をパタパタさせてしまう。子供には退屈以外のなにものでもない場所である。
「シュンテーマは暇じゃないの?」
「んー……。今日は暇なのがお仕事だからねぇ」
「そうなんだ」
そういう考え方もあるのだと、アスピスは納得するように頷くと、アスピスも『今日は暇なのがお仕事』なのだと自分に言い聞かせる。
(にしても、視線が鬱陶しいなぁ)
視線の中にも数種類含まれているのが、アスピスにも分かってしまう。
貴族たちによる、冷めた『なにあの娘?』という、アスピスの存在自体を訝しむ視線。
六聖人や六剣士の、疑心暗鬼な『あれがフォルトゥーナが代役を務めている、六聖人(赤)のアスピスって娘か』という、存在は知っているが実力のほどを知らないので期待していないことを滲ませる視線。
元老院たちによる、危険物でも見るような『あれが特殊なマナを持つという娘か』という、今後の取り扱いに対して迷いをみせる視線。
六賢者たちによる、今後の活躍を期待するような『あれが無限大の可能性を秘めた娘か』という、過度な期待に胸を躍らせどうやって利用してやろうかと企む視線。
正直、どれも、嬉しくないものである。
特に元老院たちは王都を守ることが最優先であることもあり、『何故に、あんな危険因子を起こしたりしたんだ』と。『時間を止め眠らせたまま一生マナだけ吸い取り王都を守らせ続ければよかったものを』と思っているらしいので、敵対心丸出しである。対して六賢者たちは国全体を守る六聖人の監視役でもあることで、国全体を守ることが仕事であり『生かしてこそ価値がある』のだと、アスピスの特殊なマナや無限に生み出せるマナに興味津々で、『寝かせておくなど勿体ない。守るべきところは沢山あるのだから』と働かせる気が満々だという。
それらを、シェーンのところで留めてくれているらしいので、シェーンには感謝している。たまに、シェーンとシエンが同一人物なのか疑いたくなってしまうくらいである。
「シュンテーマ、暇だと退屈にならない?」
「ん? それを含めてお仕事だから、諦めてるさ」
「シュンテーマは大人だね」
アスピスはあくびを噛み殺しながら、感心するようにシュンテーマを見上げる。
「なんか眠くなってきちゃうよ」
「うーん。そうだなぁ。それじゃあ、飲み物でも探しに行くか?」
「動いていいの?」
「俺が一緒なら、今日はアスピスの自由にしていいことになってるからね」
「じゃあ、ジュースを探しに行く」
アスピスは嬉しそうに告げると、シュンテーマと手を繋いで飲み物探しの探検にでたのであった。
ジュースを探し始めること数分。
人が集まっているところを通り過ぎようとしたのが間違いであった。急にアスピスの周りを人が囲み始めてしまう。
見たことがないので何とも言えないが、着ている服装から、元老院と六賢者らしいことがなんとなく察せられる。
そんな中、1人の女性が小さく呟いた。
「確かに、貴重なマナを持っているみたいね」
六賢者の中には元六聖人の八式使いがいるそうで、多分その手の人なのだろう。アスピスをじっと見つめると、続けるよう静かに呟いた。
「それに、生み出すマナも無制限ね。魔物で例えるなら希少種ってやつね」
「だから、こんな危険な子供は、封印して寝かせたままにしておけばよかったんだ。それを、いくらシェーン様が反対したからと言って」
「あら。これほど貴重な精霊使いはいないのよ。この国を守るのにとても役立つんだもの、色々とやってもらうべきよ」
「いつ裏切るか分からないんだぞ。なんていってもそいつの血は――」
「あなたたちみたいに無暗に恐れる人がいるから、逃げられてしまうのよ。ちゃんと仲間として扱ってあげればいいだけじゃない」
「たとえそうだとして、他の国に奪われれば途端に脅威に代わるんだ。やっぱり、永遠に王都を守り続けてもらうよう、再び時を止め寝てもらうのが一番じゃないのか」
「これだから、頭の固い人は嫌よ。こんな魅力的なマナを王都のためだけに使おうだなんて。自分たちが王都に籠っているから、王都だけ守ってもらえばいいと思っているんでしょうけどね。国としては、それじゃ終わりなの。イシャラル王国全体を守ってもらってこそ、この国は繁栄するの」
「イシャラルの悪魔でも復活させる気か?」
「必要なら、そうなるんじゃないかしら。でも、その前に結界を強化する方が先よね」
元老院の男と、六賢者の女性が、アスピスを脇に好き勝手に言い合ってくれる。しかも、聞きたくもない言葉を幾つも重ねるようにして。
そのことで、アスピスの顔が真っ青になっていく。
(また眠らされるの? それに、イシャラルの悪魔の復活って……)
それだけは、共に避けたい事柄である。だけでなく、他国に捕らわれるのだってごめんである。そんなことになったら、それこそ本当にどんな扱いを受けることになるか分かったものではないのだ。
(やっと苦難の11年が終わったと思ったのに)
今度は、それとは異なり精霊使いとしての苦難の時間が始まろうとしているのだろうか。
これまで王都のために10年間も時を止められ眠りにつき、マナだけ吸い取られ続けて王都を1人で守り続けてきたのだからと、シェーンは20年くらい遊んでいろと言ってくれたけど。半分以上、それが冗談だったとしても、シェーンはアスピスのことを悪いようには扱わないだろうと思わせる雰囲気を持っていた。
でも、周囲はそうではないようだ。
それを抑えてくれているシェーンは、王族の血の持ち主であることを利用しつつ、本当にかなり努力をしてくれているのだろう。
(だとしても、あまりに酷すぎる……)
これ以上、なにに耐えればいいのだろうかと、ふらつき始めたアスピスを、シュンテーマは不意に抱き上げた。
「おい。なにをする。そのガキは悪魔を生み出すような恐ろしい生き物なんだ。さっさと封印してしまうのが一番なんだ」
「そうして、また王都だけを守らせようとしているんでしょ? 本当に頭の固い人っていやだわ。でも、連れて行かれても困るのよね。その子の利用価値、あなた分かって?」
元老院の男と六賢者の女性がシュンテーマに語り掛けてくるのを、シュンテーマは苦笑で応じる。
「あんたらみたいに、アスピスを人間だと認識せず、利用することしか考えない輩からアスピスを守るのが今日の俺の仕事なんで。失礼します」
「ちょっと待ちないさいよ」
「おい、こら。君!」
シュンテーマを引き止める声を無視して、シュンテーマはアスピスを抱えてその場を去ると、見知らぬ六聖人と六剣士と話しているシェーンとイヴァールの元へ近づいて行く。
「ずいぶんと悪趣味なところへ、こんなガキを呼び込んだもんだな」
「一度は経験してもらわないとなりませんでしたから。やはり、なにかいわれてしまったのでしょうか?」
シュンテーマに抱かれているアスピスを見上げつつ、シェーンは六聖人と六剣士との会話を中断して、シュンテーマに問いかける。
「こいつをまた時を止めて眠らせて、一生この王都を守らせるんだとか、イシャラルの悪魔を復活させるんだとか、他国に奪われたらどうするんだとか、好き放題言っていたぜ」
「そうですか」
「って、その子がアスピス?」
「本当にまだ子供だな。活躍してもらうのはまだまだ先だな」
「本当に。実力のある仲間が増えるのは嬉しいけど、だいぶ先ね」
「バデュとリッツィには特に苦労を掛けていますからね」
「あら、シェーン様、自覚はあったのね」
「まぁ、でもアーリアの町も住めば都ですよ。王城はありませんが、丘の頂には王族の別邸がありますし。その周囲には貴族街もありますし。中央通りはとても栄えてますからね。王都に負けない活気で溢れてますよ」
バデュと呼ばれた六聖人と、リッツィと呼ばれた六剣士は、楽し気にシェーンへ語る。
そして、アスピスの方へ視線を戻して来る。
「あなたが王都を守ってくれている間、楽をさせてもらっていたのは確かだわ。だからって、やることがありすぎてあなたに休暇を与えている暇はないけれど、子供相手に無理させる気はないもの。できる範囲で頑張ってちょうだい」
「シェーン様は20年の休暇を与えたらしいですけど、すでに仕事させてるって話ですからねぇ。嘘はまずいですよね」
「仕方ないでしょ。人手不足なんだから」
軽口を叩く2人に、シェーンは苦笑を浮かべると、アスピスの顔を覗きこむ。
「仕事の件は、嘘つくことになっちゃったけど。あなたのことは、あなたの使い魔を含めて守ってみせるから。それだけは必ず守ってみせるから、安心してちょうだい」
「もう、眠らなくていいの?」
「えぇ、そんなこと二度とさせないわ」
「みんなを戦場に送ったりとか、しない?」
「もちろんよ。あなたの使い魔はあなたのための存在よ。国のためにいる訳じゃないわ」
「私を他の国に渡したりもしない?」
「絶対にしないわ。あなたはイシャラル王国の人間よ。私たち王族の庇護の下にいる人間だもの。守ってみせるわ」
アスピスの問いに、シェーンはひとつずつ応えていく。そして、アスピスが少しホッとした様子を見せるのを確認すると、シェーンはアスピスの頭を軽く撫で、周囲を見回した。
「今日は、完全に対になっているのね」
「みたいっすね」
「まぁ、アスピスの顔見せは一度はしなければと思っていたけど、逆に言えば一度すれば十分だとも思っていたから。こんな思いは二度としないで平気なはずよ」
「六賢者と元老院がそれで満足してくれるとは思いませんけどね」
「六賢者と元老院が望み続けて来た顔見せはしたわ。後は未成年であることを盾に3年はなんとかなるはずよ」
シェーンはそう呟くと、アスピスを見るためか、元老院や六賢者の視線が集まって来ていることに気が付く。
方法も意味合いも異なるが、どちらもアスピスの特異性を利用しようと思っているのだ。
「本当に、面倒な人達よね。口だけは達者なんだから」
「まぁ、現役を退いた方々の集団ですからね」
「現役時代はすごかったって話だけど。引きこもってしまったら、意味のないものになってしまうみたいね」
シュンテーマ相手に、シェーンは小さく愚痴を零すと、肩をすくませる。
「パーティはまだ続くけど、アスピスは未成年ってことで早く切り上げさせるから、もう少しお願いできるかしら」
「それはかまいませんけど、どうする気です?」
「エルンストとフォルトゥーナでも引っこ抜くわ。アスピスには甘える相手が必要だもの」
「ノトスとエウリュが合うとは思いませんけどね」
「その辺はお披露目会ってことで、諦めてもらうわ」
シェーンは気軽に呟くと、シュンテーマにもうしばらくアスピスを託すことにする。
そして、アスピスを託されたシュンテーマは、アスピスを抱いたまま、ジュース探しの旅を続け、更にはビュッフェコーナーで小さなショートケーキとシュークリームとフォークを皿に乗せると、器用にそれを片手に持って、テーブルが傍にあるソファーへ向かう。
「ほら、これでも食って元気出せ。シェーンは守ってくれるって約束してくれただろ」
「うん」
「だったら、これを食って。少しお腹の足しにしろ。夕食をくってないんだし」
アスピスに、小さなケーキが載った皿を手渡し、それをアスピスがもそもそと食べていくのをシュンテーマは黙って見守る。
気軽に引き受けたお守り役だったが、存外裏側まで見えてしまったことで、シュンテーマとしてはひとつの情報として頭に叩き込む。
「今度、こんなもんじゃなくて美味しいデザートを売っている店を見つけておくから、またデートしような」
「いいの?」
「あ、なにがだ?」
「あたしみたいな子と付き合って、大丈夫」
「それは、アスピスが気にすることじゃねぇよ。俺が誘ってんだから」
「うん。じゃあ、行く」
「よし! それじゃあ、美味しいデザートの店を探しておかないとな」
シュンテーマは嬉し気に笑うアスピスを見つめつつ、心の中で自嘲する。
アスピスを気に入っているのは嘘ではないが、それだけで関係を維持している訳ではなかった。
アスピスと繋がりを持っていることでの利便性を視野に入れての、付き合いでもあったのだ。アスピスと繋がっていることは、必ず仕事に役に立つと、シュンテーマの感が言っているのである。
それを知らずに、純粋に喜ぶアスピスを見ていると、さすがのシュンテーマも胸に来るものがあった。
そして、それからしばらくすると、シェーンの宣言通り、エルンストとフォルトゥーナが2人の元へ駆け寄ってきた。
「シュンテーマ悪かったな。助かった」
「いや。聞いている俺の方まで胸糞悪くなったぜ。当人にしちゃかなりのダメージだろうな」
「あぁ、シェーンからおおよその話しは聞いている」
「今日は一日、アスピスの世話を見てくれてありがとうございました。そして、六賢者や元老院から助け出してくださって、本当になんとお礼を申し上げればいいやら」
「そんなかしこまらないで欲しいな。俺はシェーンからの依頼を受けて、仕事をしたまでなんだから。気にしないでくれるのが一番だ」
頭を下げるフォルトゥーナへ、シュンテーマは笑いながら応じると、ケーキを半分くらい食べ終わったアスピスから、皿を取り上げ、残りを自身の口へ押し込んでしまう。
「ここのケーキは、ってより、ここの空気が美味しくないらしい。帰れるなら、連れて帰ってやってくれ。それと飯は食ってないから」
「あぁ、わかった。シェーンから帰宅の許可も貰ってあるから、今日はこれで帰るとするさ」
「それが一番だ」
シュンテーマはあっさり言うと、伸びをする。
「さて、これで俺の仕事も終わりか。帰るとすっか」
「大変な目に合わせちまったな。ゆっくりしてくれ」
「いや、情報の収集の1つになったしな。たまには顔を出してみるもんだと思ったさ」
エルンストが相手だからだろう。包み隠さず真実を語ると、それじゃあと告げて、シュンテーマは会場を後にした。それに続くよう、エルンストはアスピスを抱き上げると、フォルトゥーナと共に帰宅するために会場を出ることにする。
そして、フォルトゥーナの部屋に行くと、エルンストは一時自分の部屋に戻り互いに着替えを済ませると、帰路につく。そして、その日はエルンストの部屋にフォルトゥーナに泊ってもらい、エルンストは笑顔をほとんど見せずにいるアスピスの傍らで一夜を明かすことになったのであった。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




