第103話(六聖人&六剣士のお披露目会3)
[百三]
ついに訪れれてしまった、パーティの当日。
ドレスの着方が分からなかったので、フォルトゥーナとアンリールとシェリスが集まると聞いたので、そこへ混ぜてもらうことにして、午後の時間になると、3人の集合場所のフォルトゥーナの部屋へ行く。
ノッカーを叩くと、中からフォルトゥーナが出てきて、すでにアンリールとシェリスがそこにいた。
「さて、アスピスからやってしまいましょうか」
フォルトゥーナが言うと、アンリールもシェリスも同意して、パーティ用の下着を身につけさせられると、コルセットを思い切り締められる。
子供が相手なのだから、手加減してくれてもいいと思うのだが、3人は楽しそうに会話を弾ませながらアスピスのコルセットの紐を引っ張ってくれていた。そして満足できる程度に引っ張り終えると、紐を結んで、やっと終わってくれた。
「ドレスは決まっているの?」
「この間、エルンストが買ってくれたから」
「あら、エルンストが? 本当にアスピスのことになると行動が早いわね」
「彼ってば、アスピスに本気で惚れこんでるから。アスピスのためなら、エルンストってば、なんだってやりかねないわよ」
「本当に、そうよねぇ。まぁ、待ちに待っていた相手が目の前に現れたんですもの。仕方がないっていば、仕方がないんでしょうけど」
「フォルトゥーナ、それでドレスはこれなんだけど……」
感心するように呟くフォルトゥーナへ、アスピスはアイテムボックスから出してきたドレスを渡す。
「あら、可愛いドレスね。これはエルンストの趣味ね。きっと」
「でも、アスピスによく似合いそうよ。さすがよく見ているだけあるわよね」
「そういう、アンリールもカサドールにドレスを買ってもらったんでしょ? うらやましいわぁ」
「本当に。ルーキスなんて、家にいないことの方が多いし、ドレスなんて買ってもくれないのよ」
「パーティドレスは、カサドールが気に入ったものを着て欲しいって。いつの間にか選んでくれているの。でも、それって、同じ会場にいるからだと思うわ。私がドレスを着ている姿を直接見ることができるから、ある種の自己満足だと思うのよ。でも、ルーキスはパーティに参加することなんて滅多にないでしょ。ドレスを買ってあげたところで、直接それを見ることができないんですもの、それなのに、綺麗に着飾ったシェリスの姿を自分以外の誰かに見せるなんて、嫌なんじゃないかしら」
「独占欲よねぇ。自分のものだっていう」
アンリールの台詞に、フォルトゥーナがしみじみ洩らす。
「有りすぎるのは鬱陶しいけど、無ければ無いで寂しいものよね。そういう意味では、シェリスは幸せ者よね。ちゃんとルーキスに愛されているってことだもの」
「だと嬉しいんだけど。あの人、お調子者だから」
3人で楽しそうに会話しながら、アスピスにパニエを履かせ、ドレスを着せていく。
「お化粧もするでしょ? 道具はちょっと待ってて。今出すから」
「あの。それも、エルンストが買ってくれたの。必要だろうからって」
「あら。さすがに手早いこと。アスピスのためなら本当になんでもしそうね」
「そんなことないと思うけど……」
揶揄われる中、化粧品が入っているボックスを差し出すと、3人は驚いた表情を浮かべてみせる。
「エルンストったら、ここまで揃えたの? 完全に一揃えあるわよ」
「うん。一揃え買ってくれたの」
しかも、2セットも。だが、それはこの場では口が裂けても言わないでおこうと決める。
そうでなくても、エルンストの行動に感心しまくっているのだ。
「抜かりがないっていうか。さすがよね。エルンストって徹底的って感じだもの」
「それにしても、ここのお店って、かなり高い化粧品を扱っているところよ。しかも一式揃えるとなると、かなりの出費よ。もう、本当にアスピスしか見えていないわね」
感心したようにアンリールは呟きながら、化粧箱から、次々と化粧品を取り出すと、できるだけ薄っすらと化粧をほどこしてくれる。
「あまり濃いと変だから、軽く化粧をしておくだけにするわね。せっかく化粧品を揃えてもらったのに、エルンストには悪いけど」
「ううん。うっすらでお願いします」
アスピスはアンリールに心からお願いすると、アンリールがくすりと笑いながら、アスピスに化粧箱に入っていた手鏡を覗かせてくれた。
「こんな感じにしたけど、いいかしら?」
「ありがとう」
「いいえ。可愛いわよ」
アスピスがホッとしたように微笑むのを見て、アンリールもにこりと笑う。
「それより、髪型だけど。三つ編みと髪を撒いたハーフアップにしましょうよ。バレッタはあるかしら?」
「使用許可を出したから、中を見てみてくれるかな。あたしにはよく分からないから。えっと、アクセサリー類は全部はここに入ってるの」
「あら、こんなにあるの。使い切るの、大変そうね」
「大半はシエンからだけど。使う約束したから、箱から出してみたの」
「あら、そんな約束したの。シエンも必死だものねぇ」
フォルトゥーナは感心したように呟くと、アンリールが苦笑を浮かべる。
「せめて好きになってから行動を起こせばよかったのに。成人するまでまだ時間があるのだから」
「だから、余計に必死なのよ。挽回しないと、後手後手ですもの。イヴァールは見ているだけで分かるほど、メロメロだけど」
「年の離れた妹は、可愛いものよね。思い切り甘やかしたいのでしょうね」
微笑ましそうに会話をしながら、フォルトゥーナはアンリールやシェリスとアクセサリーが入ったチェストを見回して、ドレスに合いそうなバレッタを選び出す。
そして、アイテムボックスから出ると、ドレッサーの前にアスピスを座らせて、アスピスの髪を丁寧に凝った感じハーフアップにしてくれる。
「アスピスの準備はこんなものかしら?」
「エルンストに、アクセサリーや靴は買ってもらっているのよね?」
「うん。お揃いで付けるようにって。ドレスに合わせたのを買ってくれたから」
「じゃあ、それを付ければ大丈夫ね」
フォルトゥーナは確認するように告げると、アスピスが頷くのを見て、一旦アスピスの準備を終える。
そして、今度は自分たちの番だと、それぞれが下着を着替えてドレスを着る準備に入って行くのを眺めつつ、エルンストが買ってくれたこのドレス用のアクセサリーを身につけ、靴を履き。適当なパーティ用の鞄を選ぶ出すと、中にちょっとしたものを入れ、招待状と身分証明書を入れる。
これで、一応、アスピスの用意は終わりなはずである。
(それにしても、3人ともスタイルが最高だよね。美人だし)
3人で交互にコルセットを引っ張り合っているのを見つめながら、アスピスはみんな頑張るなぁと感心してしまう。
そして、それぞれ満足いくまで絞ると、紐を結び、ドレスを着せ合っていく。
(アンリールも、毎回カサドールが一揃え買ってくるって聞くもんね。なんで結婚しないんだろう)
アスピスは、幸せそうにドレスを着ているアンリールを眺めながら、不思議そうに思ってしまう。
そんな中、3人の準備は着々と進んでいき、ドレスを着せ終わった後は各自で化粧をほどこしていく。そしてそれが終わると、それぞれ希望の髪型を言い合いながら、髪の毛をお互いに整え合う。器用なもので、みんなそれぞれ希望の髪型をお互いに作っていく。
そして髪型が完成すると、後はアクセサリーを身につけて靴を履き、鞄を持って、それぞれが準備を完成さた。
六聖人など上位の職業に就いている者たちには、それぞれにメイドがいるのだが、3人でやるからと断っているそうだ。
着せ方や髪の整え方などは専属のメイドがやった方が早いのだろうが、3人でわいわい楽しみながら着せ合うのが楽しいようである。
「それじゃあ、みんな完成したし。お茶でも飲んで待ってましょうか?」
フォルトゥーナはそう告げると、慣れた仕草でお茶をいれ、それぞれの前にお茶を置くと、フォルトゥーナも椅子に座る。
「今日は、私たちは仕事だから、色々な人に挨拶をして回らないといけないの。アスピスは1人になっちゃうけど、大丈夫?」
「うん。適当に過ごしているから気にしないで。フォルトゥーナたちはお仕事をしてくれて大丈夫だよ」
「ありがとう。そうさせてもらうわね」
フォルトゥーナはアスピスの頭に軽く側頭部を当ててくる。
いつもだったら、抱きしめているところなのだろうが、今日はドレスでそれができないのだろう。
「それにしても、独り身は私だけね」
「フォルトゥーナはその気になれば、周りにいっぱいあなたを狙っている人がいるわよ。単に狙ってこないのは、フォルトゥーナのガードが堅いからじゃないかしら」
「そうよね、ノトスなんて飛び込んでくるでしょうね」
「なにか違うのよねぇ。っていうか、アンリールのカサドールはなんとなく分かるけど。シェリスがルーキスを選んだ時は驚いたわよ」
「えぇ、私自身も驚いたもの」
フォルトゥーナの台詞に、シェリスが素直に応じる。
(そういえば、ルーキスはかなり苦労したって話だったよね)
まぁ、盗賊団でやっていたことも褒められたことじゃないし、シェリスに使い魔にして欲しいとお願いした理由もかなりめちゃくちゃだし、よくそれでシェリスが『OK』してくれたものだと、アスピスも思ってしまう。
それと同時に、シェリスには感謝もしていた。ルーキスをアスピスから解放してくれたのだ。エルンストはアスピス自身が手放せなくなってしまったから、別にしても、レイスやカロエには、ルーキスのように好きな人を独自で見つけ出し欲しいと、心からねがっているのである。そして、アスピスから解放してあげたいと思っているのだ。
アスピスがそんなことを考えていたら、シェリスがルーキスを選んだ理由を語り出した。
「強いて言うなら、嘘をつかないところかしら」
シェリスは少し考えてから、静かに呟く。
「盗賊団にいたとき、自分のしてきたことを正直に話してくれたし。使い魔にして欲しい理由も包み隠さず話してくれたし。逆に私がやって来たことに対してもまっすぐに受け止めてくれたわ。見かけの同情ではなくて、真剣に真正面から受け止めてくれる人って、意外と少ないのよね」
「あぁ、なんとなくわかるわ。同情してくれる人は沢山いるけど、それごと受け止めてくれる人は少ないものね」
シェリスの台詞に、フォルトゥーナは同意する。そして、それにアンリールも話に加わっていく。
「そうね。私がなにも言わなくても、彼が真実を知ってくれていて、そのままを受け入れてくれたから。私は今、こうして幸せでいられるのよね」
「つまり、シェリスもアンリールも幸せ者ってことよね」
フォルトゥーナは思わず「ごちそうさま」と言って笑い出す。
けれども、シェリスが真面目な感じで笑みを零した。
「フォルトゥーナだってその気になれば、すぐよ」
「それはどうかしら? 男運がないような気がするのよねぇ」
3人の美女がそんなことを話していたら、扉のノッカーで叩かれた。
そして、フォルトゥーナが立ち上がり、ドレスの一端を握り持ち、軽くドレスを持ち上げると、扉へ向かい、扉を開ける。
「遅くなった。そっちの準備はできているみたいだな」
六剣士の正装に肩の飾りでマントを止めているエルンストが、中の様子を覗き見ながら、お茶を飲んでいる姿を確認して呟く。
この部屋に来たのは、エルンストにレイスにカサドール。それになぜかシュンテーマだった。
隠密なのに、こんなパーティへ来ていいのだろうか? と思いながら、パーティの出席用の正装をしているシュンテーマをアスピスはまじまじと見つめてしまう。
フォルトゥーナとアンリールに至っては『誰だ?』という感じで見つめている。その視線に気が付いて、エルンストがシュンテーマを紹介した。
「顔を見るのは初めてかもしれないが、こいつがシュンテーマだ」
「私は、仕事先で一度だけ、会ったことがあったわね」
「私は、名前だけは聞いたことあったけど。優秀な隠密だって」
「えぇ、私も初めてよ。でも、隠密なのにパーティに出席して大丈夫なの?」
エルンストが紹介すると、シェリスやフォルトゥーナやアンリールが、ドレスを軽く持ち上げて足を軽く曲げるようにして、挨拶をしていく。
「こいつが今日のアスピスのお目付け役になったらしい」
「あぁ、そうことなのね。そうよね、アスピスにも護衛がいないとですもの」
「本当なら、護衛役とカップルに見えるよう、肉体変化さえて幻影で20歳くらいにしたいらしいが、それじゃ本当の姿がわからないってことで、今回はこのまま参加させることにしたそうだ」
「それじゃあ、次回からは幻影を使うってことかしら?」
「さぁな。上の考えていることなんて分からねぇからな。まぁ、外見より中身が欲しいんだろうしな」
「それはそうよね。アスピスを抱え込めたら最高でしょうから」
エルンストたちが物騒なことを話している横で、アスピスはなにも聞こえない振りを決めて、お茶を飲む。
(これ以上、道具扱いされるなんてごめんこうむりたいんだけどなぁ)
やっと自由の身になったというのに、変な競争に巻き込まれるのは避けたいと、アスピスは思ってしまう。
「おい、アスピスと俺は先に行くからな」
「あ?」
「お前らが入場するときには、王城の会場内に入ってないとまずいんだよ。こっちは」
「あぁ、そうだったな」
シュンテーマの台詞に、エルンストは納得すると、アスピスに声を掛けてくる。
「お前は、なにもしなくていいから。大人しくしてろよ」
「わかってるよ」
失礼な。と、エルンストの台詞に、アスピスは言い返すと、シュンテーマと2人でフォルトゥーナの部屋を後にした。
アスピスに来た招待状と、自分の分の身分証とシュンテーマの身分証を提示して、会場内へ入って行く。その際、シュンテーマが手を握ってくれていた。
本来ならば、手を組んで入って行くものらしいが、アスピスの見た目と身長的問題で手を繋いだ方が早かった。
そして、適当な場所へ行くと、シュンテーマはアスピスをソファーに座らせる。
アスピスの足を気遣ってくれているようだ。この辺は、本当に紳士だと思う。
そして、シュンテーマが傍らに立つソファーで、アスピスがデンと座り込み、足をパタパタさせている姿を、会場内の大人たちが不思議そうに見つめてくる。
会場内は、見事に大人ばかりで、子供はアスピスだけだった。
そのため、『なにあの子?』的な視線が遠慮なく送られてくるのだが、気にしたら負けである。だから、遠慮することなく、気にすることなくソファーに座っておく。
「ずいぶんと胆が据わってんじゃん」
「これくらい、織り込み済みだもん」
「それでこそ、俺の知ってるアスピスだな」
アスピスの堂々とした態度に、シュンテーマは満足そうに応じる。
「まぁ、あとは六賢者と元老院の出方だな」
「うん。遠目から見るだけで満足してくれると嬉しいんだけどなぁ」
理想は理想である。現実は、希望通り遠巻きに眺めて終わるか、それとも希望していないすぐそばまで来て眺めるか、である。
貴重な逸材としてみている六賢者と、危険分子として見ている元老院。対立している二つの勢力の出方は、アスピスも気になっていた。
ただ、気にしても仕方がないとも分かっていたので、なるようにしかならないと思ってもいた。
「シュンテーマを付けてくれただけでも、感謝だよね」
「あ? そうか?」
「なんで、シュンテーマが選ばれたのかは不明だけど。隠密を公の場に立たせるなんて、普通はしないだろうし」
「そんだけ、アスピスを保護したいんだろ」
シュンテーマはあっさり言い切る。それは腕に自信があるから言える台詞であった。
自ら腕利きというだけあって、本当に強いのだろうと、アスピスは思う。
「じゃあ、今日は安心だ」
「うろちょろしなければな」
「そんなことしないよ、今日は見世物になる日だし」
「自分の立場を分かっているのはいいことだ」
シュンテーマはそう言うと、楽し気に笑ってみせる。その中に、どんな経緯でシュンテーマが選ばれたのかが隠れているような気がして、アスピスは肩をすくませた。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




