第102話(六聖人&六剣士のお披露目会2/準備)
[百二]
翌日、再びエルンスト共に、今度はパーティ用の道具を揃えるために中央通りに赴いた。その途中、冒険者ギルドに立ち寄ったエルンストは『S』のアイテムボックスを購入してきて、アスピスにそれを渡してきた。
「え? なに?」
「服やアクセサリーや、靴や鞄なんかをしまっておく専用のボックスがあった方が便利だろ」
「うん。それはそう思っていたけど。『S』サイズって……」
「大は小を兼ねるって言うし、いいじゃねぇか」
エルンストはあっさり告げると、アスピスにそれを解放するように促して来る。その様子から拒むことができなさそうな雰囲気を察し、アスピスは貰ったばかりの『S』のアイテムボックスを解放した。
そして、冒険者ギルドの端へ行くと、ボックス同士をリンクさせ、エルンストに使用許可を出すと、昨日購入した木製の靴棚や木製のアクセサリー用のチェストなどを新しい『S』ボックスに移動させ、5本のハンガーラックも移動すると、一旦荷物の整理を終わらせる。
その後、昨日棚などを購入した店へ行き、木製の靴棚や木製のアクセサリー用のチェストや木製の鞄を入れておく棚などを追加購入したエルンストは、それをもらったばかりの衣料品用のアイテムボックスに並べていく。更に、下着を入れておく用にと選ばれた木製のチェストを1つと、木製の下に引き出しが付いているハンガーラックを2つ購入し、木製のハンガーラックの1つは通常使用するアイテムボックスの方へ入れ、もう1つの木製のハンガーラックと下着をしまっておく用の木製のチェストを衣類用のアイテムボックスの中へ並べていく。
配置はすべてエルンスト任せになってしまっているが、並べ方的には使いやすそうな感じにしてあった。
「普段使い用の方へ入れた木製のハンガーラックは、装備品なんかを掛けておけ。便利だから」
「うん、わかった」
「それから、衣類用のボックスに入れた木製のハンガーラックだが、それは冒険中に宿屋で着たりする服や、着替え用の下着をいれておけ」
「うん。そうしておく」
エルンストが説明してくれるのを、真面目に聞きながら、アスピスは素直に頷く。そして、棚などを扱っている店を後にして次に向かったのは下着屋であった。
エルンストは、アスピスを下着屋の前まで連れて行くと、パーティ用の下着一式を数組と、普段着る用の下着を数組。こちらはちょっと多めに買うように指示をする。それが終わると、アスピスを店の中へと押し込んだ。
(エルンスト、こういうところは苦手みたいだよねぇ)
レイスは平気そうだけど。と思いながら、そこで、アスピスはエルンストに言われたことを忠実に守るよう、店員に説明を受けながら、パーティ用の下着一式を数組と、普段身に付けている下着と同じようなものを少し多めに購入して、外へ出る。
そこにはエルンストがおらず、どうしたのか迷いつつ、立っていたら、しばらくして紙袋を何個か下げたエルンストが戻って来て、購入したばかりの下着などと一緒に、押し付けられた紙袋を衣類用のアイテムボックスに入れておくよう指示されたことで、それを実行するように、アスピスは衣類用のアイテムボックスの中に入れておく。
その後、本日の本命となる化粧品を売っている店へと向かって行った。
エルンスト的には、こういう場も苦手そうだなと思ったのだが、案外そうではないようであった。アスピスを連れて中へ入ると、店員へ、パーティなどへ参加する際にアスピスが薄化粧するのにちょうどいい化粧品がないか聞き始めた。
そこで、アスピスは強制的に鏡の前に座らせると、店員が説明しながらアスピスに、希望通りにうっすらとした化粧をしていく。
さすがはプロだと言いたいのは、出来上がった化粧が、厚すぎることなく、ほんのりと化粧が施されているような出来栄えだったからである。
「大体、こんな感じになりますが。いかがでしょうか?」
「アスピス、今ので大体わかったか?」
「うーん。なんとなく……」
まったく、今の化粧を再現するのは不可能な気がしたが、『いいえ』と返事ができる雰囲気でもなかった。
けれども、アスピスの反応から、エルンストはなにかを察したようである。
「仕方ねぇな。フォルトゥーナたちに協力してもらうしかねぇな」
アスピスの自力では無理だと、エルンストも悟ってくれたようである。
「とにかく、今の化粧品一式を二組。ひとつは持ち運びできるように化粧品入れに収めてくれるか」
「分かりました。化粧品入れは、どれがいいでしょうか?」
店員が、ガラスケースの中に並んでいる化粧品入れを示しながら、エルンストに聞いてくる。それを、エルンストはそのままアスピスへ視線を向けてくることで、選択権をアスピスに譲ってきてしまう。
(こういうときばっか、あたしに決めさせるんだから)
どれも似たような感じである。ただ、大人っぽいか子供っぽいか、派手か、シンプルかと言った感じの違いがあるだけである。アスピスはその中で、シンプルなのを選ばせてもらった。
そして、お金を払う段になって、アスピスが財布を用意して待機していたというのに、店員はエルンストに向けて請求してしまう。
エルンストもそれで当然という感じで、お金を払うと、化粧品を2組アスピスに渡してきたので、それをアイテムボックスの衣類入れに入れておく。
たった2日の間に、大金を使ってしまったと、アスピスは反省する。しかもその大半がエルンストもちなのだ。
これはなにかお返しをしなければと思っていたら、エルンストがアスピスの手を掴むと、すぐそばの喫茶店へ入って行った。
「ここのパンケーキがうまいらしいぞ」
「エルンスト、唐突すぎ」
「喫茶店へも行くって言ってただろ」
「行ってたけど、昨日や今日は違うと思ってたの。おしゃれもしてないし」
「おしゃれなら、化粧をしてるじゃねぇか? それに、これもデートだろ」
アスピスの台詞に、首を傾げるエルンストは、ホットコーヒー1つと、オレンジジュースにパンケーキを1つずつ。と、勝手に注文をしてしまう。
間違ってはいないが、アスピスに選択権はないのかと問いたくなるが、そこは黙っておとなしくしておく。
「エルンストの好きなメーカーを取り扱っているお店は、遠いの?」
「ん? いや。すぐ近くだが」
「じゃあ、帰りに寄ろうね。買ってあげるから」
「べつにお前に買わせる気はないんだが……」
せめてものお返しにと思って告げたアスピスの台詞に、エルンストは迷う感じで告げてくる。
そこで、アスピスは唇を尖らせ拗ねてみせた。
「あたしが買った服を着たくない訳?」
「いや。そうじゃねぇけど。っつーか、それはそれで嬉しいとは思うけどな。却って着ないでしまっておきそうな気がするな」
「それじゃ、意味ないじゃん」
アスピスはガクリと項垂れ呟くと、気力を振り絞り顔を起こして、エルンストに主張する。
「いっぱい、色々と買わせちゃったから、お礼をしたいの」
「気にするな。それよりも、買ってやったもんを着てくれた方が嬉しいからな」
「エルンスト、私もそうなの。一緒なの」
アスピスを見つつ、穏やかに告げてくるエルンストへ、アスピスは力強く言い切る。けれどもそこへ、注文していた品々が並べられてしまい、話は一時中断となってしまった。
パンケーキは、エルンストの入手した情報の通り、とても美味しかった。アスピスは脇にソフトクリームのようにして巻き重ねられている、甘さを控えた生クリームをパンケーキに載せながら、少しずつ食べていく。
その顔がとても幸せそうに見えたらしい。エルンストがおかしそうに笑いながら、コーヒーを飲んでいた。
そんな穏やかな空気が流れる中、無粋にも、エルンストに2人組の女性が声を掛けてきた。
「一緒に、お茶を飲みませんか?」
「子供の相手をしているより、ずっと楽しいと思いますよ」
にこやかに丁寧に語り掛けてくるが、要はガキなど放っておいて、こっちに来て一緒にお茶を飲もう。と、誘ってきているのだ。
エルンストは、これが嫌いで、喫茶店に来るのを嫌がるのである。
「断る。こっちはこれで楽しんでいるんだ、邪魔すんじゃねぇよ」
エルンストは2人の女性に容赦なく言い返すと、アスピスの頬についていたらしい生クリームを指ですくい取ると、生クリームのついた自身の指を舐めとった。
それを見て、女性たちが「変態!」と言って去って行く。
さすがにそれは、アスピスとしても傷つく台詞であった。
(どうせ、恋人同士に何て見えませんよ……)
アスピスは心の中で2人へ向けて舌を出す。
そんなアスピスへ、エルンストは手を伸ばして来ると、頭を掻い操った。
「気にしないで、食ってろ」
「うん」
不満は残るが、パンケーキに罪はないと、アスピスはゆっくりとパンケーキを堪能する。けれども半分くらい食べたところで、限界が来てしまう。そのため、思わず上目遣いでエルンストを見つめていたら、溜め息を吐きながら、パンケーキを引き取ってくれた。
以前、シュンテーマの話しをしたのが原因なのか、エルンストはアスピスの残したパンケーキを引き取ってくれるようになったのである。
これのおかげでアスピスは心置きなくパンケーキを堪能できるようになっていた。
「本当に、気にしなくていいんだぞ」
「いいじゃん。私が買いたいの」
喫茶店を出ると、エルンストが行きつけだという服屋へ向かって行く。
店の前までくると、確かに日ごろからエルンストが来ているタイプの服が並んでいるのが、ガラスケース越しに見えてきた。
そこで、アスピスは迷うことなく、エルンストを連れて中へ入って行く。
そして、エルンストからサイズを聞き出すと、服を選び始めた。
エルンストが普段好んで着ている色目のものがいいか、それとも自分では買わない色目のものがいいか。アスピスは真剣に悩んだ結果、模様が違う服を2着。一方はエルンスト好みと思われる色目のものを。もう一方は普段自分では選ばないだろう色目のものをアスピスは選ぶと、会計カウンターへ持っていく。そして、会計を済ませると、居心地悪げに店内にいるエルンストへ差し出した。
「はい。これ。普段着用だからね。ちゃんと着てね」
にっこり笑ってエルンストへ渡すと、エルンストが苦笑を浮かべつつ「ありがとう」と告げてくる。
アスピスはそれだけで、とても嬉しくなってしまう。
服を着てもらえたら、もっと嬉しくなることだろう。
そう思いながら、エルンストと手を繋ぎ、店を出て行く。そして、そのまま歩いてしばらくすると、エルンストがアスピスを抱き上げた。
「そろそろ限界だろ」
「もうちょっと平気だよ」
「本当のぎりぎりまで耐えられたら、困るんだよ」
エルンストはそう告げると、左手にアスピスを抱き、右手に紙袋を持って帰宅する。そして、アスピスの部屋のベッドまでアスピスを運んでくれると、紙袋を掲げ揚げ「これ、ありがとうな」と再び告げつつ、アスピスの部屋を出て行った。
(あの様子なら、着てくれるかな?)
色目が好みじゃない方は、ダメだろうか。と、思いつつ、あの色目もエルンストに似合うと思うんだけどなぁと、アスピスはエルンストに買ったシャツのことを頭に浮かべる。
(服を買うって、こういう気分なのかな)
なんとなく、そんなことを想い。アスピスはみんなからもらった服のことを思い出す。
(とにかく一度、整理してみよう)
エルンストのハンガーラックは別にして、、他のハンガーラックにある服は、パーティドレスや、王城へ来て行ける服などが大量に入っているのだ。中にはおそらく着ないで終わりそうだな。と思ってしまうようなものもあるが、とにかく種類ごとに分けてみようとアスピスは考え出していた。
(って、その前に)
アスピスはゆっくりとドレッサーに向かうと、中から化粧品が詰め込まれている袋の方を取り出すと、ドレッサーの引き出しの中に化粧品を入れていく。中には毎日付けるようにと言われた化粧水や乳液や美容液、それにクリームなどもあったが、実際に毎日付ける自信はなく、それでもエルンストが買ってくれたのだからと思い、形だけは取るように、それらはドレッサーの上に並べておく。
その後は、エルンストが新たに買ってくれたらしい服を確認すると、質素なワンピースが数枚入っていたことで、それは木製のハンガーラックへ駆け、それに合わせて買ったと思われる小物などは、それぞれの入れ物に分け入れることにする。そして、木製のハンガーラックの下の引き出しには、エルンストに言われて買ってきた普段使い用の下着をたたみ入れていく。そして、下着専用の棚にはパーティで身につける下着を、今日買った分と、以前フォルトゥーナにもらっていた分と共にしまう。その上に、フェイスタオルや大判のバスタオルを重ねておいておくことにした。
靴棚は2つ買ってくれたので、パーティ用と普段用に分けて入れることにする。
アクセサリーケースには、シエンから早速贈られてきたアクセサリーを中にいれる。そして、改めて中を見ると、シエンがくれたアクセサリーがかなりの量で、それに気づいたエルンストが事前に2つ目のアクセサリーを入れるチェストを買ってくれたようだ。
それから、カバン用の棚に、お出かけ用やパーティ用の鞄を入れていく。
それが終わると、フォルトゥーナやシェーン、イヴァールやレイスやカロエに買ってもらった服を、パーティドレスや、王城へ行くとき用、外出着、普段着に分けてそれぞれのハンガーラックに掛けていく。
思いのほか、パーティドレスや王城へ行くとき用の服が多いことに気が付いた。その次に多いのが、外出着だろうか。普段着用と思われる服は意外と少なかった。そのため、外出着用の服の後ろの方へ普段着用の服を掛けることにして、一番多かった王城へ行くときの服をハンガーラックを2本使って掛けることにした。
これで、服関連のボックスの整理はひと段落と言ったところだろうか。
一通り見まわして、現状はこんな感じだろうと思い、アスピスは普段使いのボックスに移動すると、装備品や、ナイフがセットされているベルトを、エルンストが買ってくれた木製のハンガーラックに掛けていく。その下の引き出しの上には、フェイスタオルや大判のバスタオルを少々重ねておく。
そして、その隣にある貴重品などをしまっておく棚の上に、エルンストからもらった冒険用の鞄を置いておく。
そして、入り口の脇にある大きな棚には、冒険時に必要な物が積み重ねらえているのだが、念のために数枚ずつ用意している防水シートや毛布をたたみ直して、棚にしまう。
食料に続き、洋服も他のボックスへ移ったことで、中はかなりガランとしていた。
でもこれで、アイテムボックスの整理がかなり進めることができたことで、アスピスは満足げに笑みを零す。
後は、本用のボックスを用意するのみである。そのためには、未だまだ本の数は足りないし、このボックスで十分足りているので、未だまだ先の野望になるが、夢は大きく持っておくことにする。
そして、アイテムボックスから出て、なにげに「ドレッサーの鏡を見た瞬間、化粧をしたままでいたことを思い出し、化粧落とし用の洗顔料を手に、アスピスは急いで1階へ向かって行ったのであった。
誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。




