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第100話(アーダの泉に行こう15/帰宅2/買い物1)

[百]


 2回目の野営も無事終わり、最終日の3日目はカロエとエルンストが御者となり、夜遅くに王都へ到着する予定になっていた。

 馬車は順調に草原を走り、風も前から後ろへ吹き抜けるよう、いい感じに吹いていた。

 これが赤道であったならば、テーブルを出してお茶をしたりゲームをしたりするところだが、草原を走っている場合、地面が凸凹していて危ないので、テーブルはしまわれていて、みんな暇な時間を過ごしていた。

 レフンテも、それに合わせて、本を開くことを遠慮しているようである。

 フォルトゥーナは、馬車に酔うのを避けるよう、器用に編み目を見ないようにしながら、編み物をしていた。単純に編み続けているようだ。もしかしたら結界の強化か結界オーラの練習なのかもしれない。結界の強化や結界オーラの作り方は、マナを細い糸状にして編み絡めていく要領で強化したり作り出したりするので、編み物にどこか似ているのだ。

 編み方の素早さや編み目の整い方からして、かなり練習していることが伺える。おそらく、視線を手元に向けられることができたら、複雑な編み方もできるのだろう。

 アンリールを見てみると、アスピスと同じように、フォルトゥーナを見ていた。おそらくは、アスピスと似たようなことを考えているのだろう。

 カサドールに軽く寄りかかりながら、手を繋いで、2人の世界を築きながらも、視線はしっかりとフォルトゥーナに向けられていた。

 六式使いの中で最も有能な者として称賛を受けているフォルトゥーナであるが、努力も人一倍しているということなのだろう。

(あたしも練習すべきなんだろうな)

 なんとなく、そう思う。

(でも、編み物とかって、あたしと相性が悪そうだよね)

 すぐに寝てしまいそうだと、思ってしまう。

(まぁ、おいおいに……)

 今すぐどうするとかではなくて。と、言い訳しながら現状は逃げることにする。

 そして、やることがない中、アスピスは大きなあくびをしてしまう。途端に、正面に座っていたシエンやイヴァールが膝を貸そうかとアピールしてきたが、それを無視するように、傍らに座っていたレイスが、半強制的に、アスピスの体を捕らえると、頭をレイスの腿の上に乗せさせて、横たわらせてくれた。

 同時に、毛布も掛けてくれる。

「アスピス、寝て平気ですから。体を休めてください。今日は1日走りますから」

「うん。ありがとう」

 アスピスはレイスにお礼を言うと、寝やすい体勢を整えて、目を閉じた。

 眠ってしまうのが、一番楽な時間の過ごし方なのである。そのため、寝てしまうことにしたのであった。



 目を覚ますと、高い塀で囲まれた王都が徐々に近づいてきていることに気が付く。

 中はまだ活気づいている時間帯なようで、空に向かって光が昇っている。

「あ、アスピス目を覚ましましたか。ちょうど、そろそろ起こそうかと思っていたところだったんです」

「王都がもうすぐなんだね」

「えぇ。まもなく門の前へ到着すると思います」

 レイスがそう告げてからしばらくすると、馬車が高い塀がそびえ立つ砦の門の前で止まった。

「みんな下りてくれ、到着したぞ」

 エルンストがそう言うと、御者席にいたエルンストとカロエが下り、馬車の中にいたみんなが次々と下りて行く。そしてアスピスの番になると、レイスが抱え上げて下ろしてくれる。そして馬車の中が空になったのを確認すると、エルンストはアイテムボックスを開けてアネモスに馬車をしまってもらうと、牽引具をアネモスから外し、アネモスと共にアイテムボックスから出てきた。

 そして、門を通る際ほぼ顔パスでエルンストたちが通る中、アスピスとレフンテは身分証を表示して、人数分の銀貨を払って、王都の中へ入って行く。

 だいぶ遅い時間なのに、王都の中央通りは活気が残っていた。冒険者用の店などは未だ開いているところもあった。

 そのため、エルンストやレイスやフォルトゥーナが屋台や冒険者用の店で買い物をしている間に、アスピスは冒険者ギルドへ行き『B』サイズのアイテムボックスを買い、それを解放させておく。

 フォルトゥーナを見ていて思ったのだが、料理は作れなくても、屋台などで売っている食べ物を用意しておくと便利だと分かったので、食糧庫用のアイテムボックスが欲しくなったのである。そのため、後日大型の冷蔵棚や食料用の棚も買い揃えようと企んでいた。

 そして、みんなの買い物が済むと、この場で解散することになった。



 アスピスはアネモスに乗り、エルンストやレイスやカロエと同じペースで、自宅へと向かう。

 そして、誰もいない家に入る際にみんな自然に「ただいま」と言って中へ入って行く。

「あたし、お風呂入って来る!」

 家に到着するなり、アスピスは一番風呂を宣言し、テトテトと脱衣所へ向かっていた。

 そして、アスピスを下ろしたアネモスは、レイスから夕食をもらうと、満足したように二階へ向かって勝手に上がっていった。

 お風呂場からはアスピスの鼻歌が響いてきていて、気持ちよさそうにお風呂に入っているのが伝わって来る。

 今日は日中沢山寝たので、お風呂場で寝込むことはなさそうだと、みんな密かに安堵していた。

 それからしばらく経つと、お風呂からアスピスがいつもの質素なワンピースに着替えて出てきたことで、事前に二番目を宣言していたカロエが立ち替わるようにして、パンツ一枚で脱衣所に入って行く。

「ねぇ、エルンストとレイス、手が空いてる?」

「どうしました?」

「アイテムボックスの中の大きな機材や棚を、移動させたいの」

「そう言うことでしたら、いつでも手伝いますよ」

 レイスはそう告げると、アスピスがアイテムボックスを開いて、レイスとエルンストに使用許可を出すと、ボックス同士とリンクさせて、2人はアスピスの指示通りに、次々とものを移動させてくれる。

 かなり重いだろうと思われるものも、レイスとエルンストが力を合わせると、とても軽そうに移動させてしまい、意外とあっけなく用事は済んでしまう。

「ありがとう」

「いえ。食糧庫を作ることにしたんですね」

「うん。料理はまだできないけど、屋台なんかで食料を買っておいて、それを出すっていうのもありだなって。フォルトゥーナを見ていて思ったから」

「今度、ナイフの持ち方を教えてあげますね」

「うん。フォルトゥーナも料理を教えてくれるって言ってたの」

 アスピスは嬉しそうに告げると、自力で運べる食材を少しずつ新しく買った『B』のアイテムボックスに移動させていく。そして、食べ物系や野営時関連のものをすべて移動し終わると、リンクを切り、2人の使用許可を取り消して、アイテムボックスを閉じてしまう。

 後は、明日にでも大型の冷蔵棚と、食料用の棚を購入して、飲み物や食べ物。それと、高温のお湯が出るピッチャーやラインティーバッグや茶葉、粉コーヒや、屋台での食べ物や飲み物などを購入することに決めていた。



 翌日、朝食を済ませ、洗い物を終わらせ、コーヒータイムに突入するとほどなく、カロエは冒険者ギルドの訓練場へ向かってしまう。

 アスピスはいっぱいになった洗濯ボックスを回すと、買い物へ行くことにする。

 買うものは決まっているので、そんなに時間がかからない予定であった。なのだが、そこへエルンストが同行すると言い出して、予定が微妙に変わってしまう。

「ちょっと買い物へ行くだけなのに」

「うるせぇなぁ。いいだろ。つーか、たまにはデートに付き合え」

「今日はあたしの買い物なの」

「はいはい」

 耳を貸さないエルンストに、アスピスは説得を諦めて、エルンストを連れて家具屋へ向かう。そこで大型の冷蔵棚を2つ購入して、普通サイズの冷蔵棚の脇に、並べ置いてもらう。その後、食料などを乗せておく大型の棚を3つほど購入し、それも、中型の棚が並んでいる場所の脇に並べ置いてもらった。そして入ってすぐのところに小型の棚を置いてもらう。

 一つだけ違う場所に置かれている大型の棚は、食器や調理道具を乗せておくための棚にする予定である。昨日、そう思って事前に調理道具などはそっちに移しておいたのだ。

 そして、水の出るピッチャーと高温のお湯が出るやかん1つずつ購入し以前買っておいた、洗面器などと一緒に、その棚に水の出るピッチャーを2つと、高温のお湯が出るやかんを置く。

 それから、簡易な台を二つほど購入し適当なところに置いてもらう。

 これで、家具や出の用事は終わったと思ったら、エルンストがハンガーラックを一本購入して、アスピスにこれを普段活用している『S』の倉庫へ入れておくように言われてしまった。

「あのねぇ、エルンスト」

「いいだろ。ちゃんとお前好みのを買えばいいんだし」

「だからって……」

 未だにハンガーラック1本分を諦めていなかったことに、ある種の関心を抱いてしまう。

「あ、それから、そこの木製の三面鏡の収納量の多いドレッサーと、木製のキャスター付きの姿見鏡と、そこのアクセサリー収納用のチェストと木製の靴棚を、こいつの『S』ん中に入れておいてくれるか」

「あ、はい分かりました」

「って。エルンスト! 未だ、そういうのは要らないの。それに姿見鏡は持ってるでしょ」

「ドレッサーはすぐに必要になるだろ。それに姿見鏡とアクセサリー収納用のチェストと靴棚は、アイテムボックス用だ」

 エルンストはそう言うと、アスピスが買った棚などの代金も含めて、支払いを済ませてしまう。

 そして、拗ねてしまったアスピスを連れて、店を後にした。

「次は小物屋だろ」

「そうだけど……」

「拗ねるなよ。デートしてんだから」

「だって、今日はあたしの買い物デーなの」

「だから、お前に付き合ってんだろ」

「意味が違う」

 エルンストはあっさり告げると、小物が売っている店へと入る。

 そこで、アスピスは洗面器を数個と、多い目のバケツを数個、お茶を作る用の大き目のやかん、木製のトレイを10枚、木製のランチプレートを10枚。木製のマグカップを10個。木製のスープ皿を10個、スプーンやフォークナイフのセットを10組。アネモス用の木製の大皿のスープ入れを数枚とその下に引く木製のトレイを数枚。購入し、洗面器やバケツ。それにアネモス用のものは入り口すぐそばの棚に以前購入しておいたものと一緒に置き、その他の食器類は反対側の調理道具などを置いてある棚に並べていく。そして、その他に三つ編みを止めるゴムや櫛やブラシなども別個に購入して、そっちは通常使用する『S』ボックスの棚の上に一時的に置いておく。

 そして、ここでの購入分は、急いで自分で支払いを済ませる。

 後は、屋台やパン屋や食べ物屋さんで食料や飲み物を買って、倉庫へしまい込むだけである。

 そのため、みんなが好きなものを見つけると大量に購入して、倉庫へしまう作業を繰り返し、パン屋に寄って数種類のパンを購入すると、以前購入しておいた食べ物などもあったので、かなりの量の食べ物と飲み物で中を満たしていった。それに以前買った野菜も新鮮なままなので、調理ができるようになれば、いずれそれらも活用できるようになるだろう。

 そう思い、アスピスは満足げに新たに増えた『B』ボックスを嬉し気に見つめてしまう。

「お前、本当に俺らのパーティに毒されてるな」

「仕方ないじゃん。そこしか知らないんだもん」

「まぁ、そうだけどな」

 そして、アスピスがアイテムボックスを閉じて、今日の用事が済んだことをエルンストに教えると、エルンストはアスピスを連れて洋服屋へ入って行った。

 そこは、アスピス好みの服と、ドレスが売っている店であった。

「早速? 未だいいよ」

「じゃねぇよ。近々、六聖人のお披露目会がまたあるらしいからな。お前も出なきゃならないから、そのドレスを買いに来たんだよ」

「え? またあるの」

「年に数回あるんだよ。王族や貴族に顔を覚えてもらっとかねぇと、定期的に補充しに行く際に面倒くさいからな」

 エルンストはそう告げると、ドレスが置いてある方へアスピスを連れて行く。そして、適当なドレスを引っ張り出しては、アスピスにあてていく。

「これなんかもいいか」

「エルンスト、1枚だからね」

「2枚は買うぞ」

「そんなに要らないでしょ。今日は1枚だけだからね」

「ったく。いつになったらいっぱいになるんだ」

「一杯じゃなくていいの。好きな服が数枚あれば嬉しいの」

 アスピスはそう告げると、エルンストが選んだドレスを試着させられ。エルンストが満足したらしいので、それを買ってもらうことにする。そのついでに、靴とアクセサリーと鞄もドレスに合わせて購入される。

(やっぱり、一揃え買うのはエルンストの癖なんだ)

 そんなことを想っていたら、今度はアスピス好みの服が売っているコーナーへ引っ張られていく。

「こっちは俺の好きなように買わせてもらうぞ」

 アスピスの好みは把握したと言いたげに、エルンストは数枚の服を選び取り、それに合わせて靴やリボンやバレッタを選び出す。

「そんなに要らないのに。服だけで十分だよ」

「好きな女には、服を買い与えたいもんなんだよ」

「また、変な理屈こねて……」

 けれども、ここでなにを言っても、エルンストが意思を貫き通すのは分かっていたので、諦める。そして、会計を済ませたドレス一式と、服を3枚とそれに合わせた靴や髪飾りが入った袋を手渡される。

「ありがとう、エルンスト」

「ちゃんとこの間みたいに来てくれれば本望だな。びしょびしょにッされちまったが」

「あれは……。でも、すぐちゃんと綺麗にしたよ」

 思わず、アーダの泉で薬草を採りに行く際に、エルンストに買ってもらった服のまま湖に入ったことを、エルンストは未だに言ってくるのだ。半分は冗談らしいが、半分は微妙な恨みが含まれていた。レフンテと手を繋いで行動していたのが気に入らないようだ。

(細かいんだから)

 アスピスは肩をすくませつつ、買ってもらった服を袋のまま『S』のアイテムボックスにしまい込む。

 今度、エルンストに買ってもらった服だけを集めたハンガーラックを、整理して作らなければならないようだ。買ってもらった服が未だそれほどではないので楽だが。

(あー。そういえば、シエンのプレゼントも開けてあげる約束だったな。アクセサリー用のチェスト買ってくれたから、丁度いいか)

 思わず、エルンストには悪いが、使わせてもらっちゃえと心で思う。

「それで、エルンストも用事が終わったの?」

「まぁ、今日はこの辺で諦めるか。本当はもっと服を買いたいところなんだがな」

「まだ、貰ったのに来ていない服もあるんだから、それ着てからでいいよ」

「そう言うだろうと思ったから、今日は諦めると言っているんだ」

 エルンストはそう言うと、限界に近いアスピスの足に気が付くように、アスピスを抱き上げる。

「ずいぶん歩けるようになったな」

「うん。この辺が限界みたいだけど。前から比べたら凄いと思わない?」

「あぁ、そうだな」

「本当は、アンリールくらいにはなりたいんだけどね」

 普通の速度で歩けて、王都内くらいなら歩き回れるくらいまで足が治ったら、それこそ夢のようだと思ってしまう。

 しかし、切り方が乱暴だったうえに治療もされずに、自然治癒に任せて放置されてしまったアスピスの足の筋は、変な形で固まってしまっていて、手術でかなり修正してもらったようだが、癒着もひどくて、手術前よりもかなり良くはなるが、そこ止まりだと事前に宣告されてはいたのだ。

 だから、普通には歩けないことも、長時間歩けないことも。覚悟はしていた。

 それでも、治療してもらったことで、予定通り以前よりは早く歩けるようになったし、こうして買い物も自分の足で出来るまでには治ったのである。奴隷商人に買われてしまった身としては、今こうして奴隷としてでなくい王国の一市民として生活していられるだけでもすごいことで、足に関してもここで満足しておくべきなのだろうとも、アスピスには分かっていた。

「お前は、お前だ。ちゃんとお前の歩調に合わせてやるから、焦らずに歩けばいいさ」

「うん」

「じゃあ、今日は帰るぞ。ドレッサーを置かなくちゃならないしな」

「未だいらないのに」

「安心しろ。一番に置くのは買ってあるからな」

「え?」

「香油、欲しかったんだろ。凄く喜んでたじゃねぇか。付けてもらって」

「それは……」

「お前に合いそうな香りのものを、家用とボックス用の2つ買っておいたから。それが第一号だな、これから少しずつ、化粧品とか俺が揃えていってやるから安心しろ」

「うん、期待してる」

 べつにそこまで欲しかった訳ではないが、些細な言動からアスピスが香油を付けてもらって喜んでいるのを見て、欲しがっていると思ったのだろう。

 いったいどんな匂いの香油を買ってくれたのか、ちょっと期待してしまいながら、アスピスを抱いてくれているエルンストの首へ手を回していった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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