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第9話(初めての冒険3/冒険者クラス)

[九]


「なんで、呼ばなかったんだッ!」

 悲痛な叫びと共に、平手ではあったが、威勢のいい音が響くほど勢いよく頬が叩かれ、身の軽いアスピスはその場から数メートル先へ飛ばされた。

 それを非難するよう、アスピスの前に飛び出した聖狼はエルンストを睨みつける。

「我のマスターになにをする」

「使い魔としては、俺たちが先輩なのですから。あなたは黙って見ていてください」

 そう言うと、アスピスの背後に回り込みアスピスが立つのを手助けしてくれたレイスが、静かな口調で聖狼へ語り掛けた。

 そうすると、意外と素直に、聖狼は脇の方へと下がってしまう。

「エルンストの言う通りですよ。呼んでさえくれれば、すぐに飛んできたというのに」

「聖狼のレア種なんて、SSランクだぞ! そいつに挑もうなんて、考えなしもいいところだ!」

 叩くのに手加減はしてくれたようだが、エルンストの怒りは本物のようである。叫びながら握られた拳がぶるぶると震えている。

「ごめんなさい。でも、なんとかしなくちゃって思って」

 そうしたら、自然と動いていたのだと説明するが、そんなものしたところで快い返事が戻ってくる訳がなかった。

「だから、それが無謀だと言うんだ! っつーか、精霊術を使うのもほとんど初めてだってーのに。なにを根拠に、魔物に立ち向かえるなんて思ったんだッ」

「やればできる。って、そんな感じで」

 火に油を注ぐとは、正にこのことなのかもしれない。

 再び振り上げられた手が、エルンストの怒りの強さを表していた。

 けれども、今度はそれをレイスが押しとどめることで、叩かれることなくなんとか済んだようである。

 ただし、アスピスを助け起こし、エルンストの手を抑え止めてくれたレイスも、実のところかなり怒っているようだった。

「目の前で、魔物が急に倒されるし。ここに来る途中も、倒された魔物がうじゃうじゃいるし。一体何が起こったのかと、本当にきが気でなかったんですからね」

 その辺は、ちゃんと分かってくださいと、レイスは語調強くアスピスに語り掛けてくる。

「ったく、本当だからな。俺の前にいた魔物も急に倒されるし、ここに来るまでにも倒された魔物がたくさんいるし。野営地の側に到着してみれば、大量の魔狼が倒されているしで。お前らになにかあったんじゃって、俺だってきが気でなかったんだからなッ!」

「ごめんなさい」

 他に言葉が見つからず、アスピスは恐縮するよう頭を下げる。

 実際に、自ら使い魔になってくれた聖狼が、物好きでなかったら。そう考えると、アスピスは完全に殺されていただろうことを思うと、とんでもない失敗をしたのだと実感する。

(私が死んだら、エルンストやレイス、カロエたちも巻き込んでしまうんだった)

 あの時は必死で、そんなこと考えている余裕なんてなかったのだが。そのことは常に頭に入れておくべき事柄なのだと、肝に銘じる。そして、アスピスが深く深く反省している様子が、エルンストやレイスに通じたようであった。

 溜息と同時に、エルンストがアスピスの頭に手を載せた。

「次から、こういうときは、必ず俺たちを呼べ。即刻飛んで行く」

「うん」

 実際、アスピスが前線に出て戦うよりも、無尽蔵にマナのあるアスピスならではの戦法ではあるが、絞り方を学んでいないこともあり、リンク率は以前のまま限りなく100%に近い状態のままなので、使い魔が怪我を負ったとしても即座に回復させることができる現状、使い魔を呼び出し戦ってもらう方が、正しい戦法なのだろう。

 そう考えを改め、再度反省するアスピスに、エルンストが謝罪の言葉を落としてきた。

「殴って悪かった」

「え? べつに……」

 そりゃ、痛かったけれども。

 でも、これはきっとエルンストやレイスが感じた心の痛みよりも、全然弱いものなのだろうと、2人の様子から感じ取る。

「それに、今回悪かったのは、あたしだし」

「本当だぞ。今度からはちゃんと、俺たちを呼べよ」

 反省していますと告げるアスピスへ、未だ不振を残すエルンストは念を押すように言葉を重ねた。



 叱責の場に一区切りつき、焚火を中央に、レイスが入れてくれたお茶をそれぞれが口にする。

「にしても、聖狼のレア種を使い魔にするとはな」

「魔の血が流れているとはいえ、人間の形をしたお主らには、マスターのもつマナの極上の味が分かるまい」

「いや。知りたくもねーけどさ」

「でも、怪我をしたときとか、アスピスのマナで回復するとき、とても心地いいのはたしかですね」

「そう、それじゃよ。他のマナを知らぬだろうお主らには分からぬだろうが、マスターの持つマナは、本当に貴重なのだぞ。しかも、量も際限なく生み出されるときている」

 これで感動せずに、なにに感動する。と、アスピスの傍らで伏せをしている聖狼が、力説しながら皆に説く。

 けれども、エルンストはそれを聞き流すことにしたらしい。

 付き合ってたら際限がないとでも思ったのかもしれない。

「それはそうとして、アスピスが倒した魔物だけどな。回収しようと思うんだが、お前、どれくらいのサイズの結界を作り出したんだ?」

「それが、とにかく魔狼を全部取り込まないとって思って、必死だったから……」

 覚えてないのだと、体裁悪げにアスピスは応じる。

 途端に、エルンストが大きなため息を洩らしてみせた。

「聖狼。お前になら分かるか?」

「気に食わぬな。そういえば、マスターに名付けてもらわねばならなかったか」

「使い魔になるの、初めてなの?」

「否。何度かあるが、その都度マスターに付けてもらうのが決まりだ」

 聖狼は、エルンストの呼びかけ方が気に入らなかったらしく、思い出すようにして、アスピスを軽く見上げた。

「良い名を頼むぞ」

「うーん。そうねぇ」

 名前を付けろと言われても、即座に思いつくはずもなく。しばらく悩み続けた後、ふと頭の中に浮かび上がった名前を、アスピスは口にした。

「アネモス」

 うん。と、改めて自分の中で納得しながら、言い直すように聖狼に向けて訊ねてみる。

「アネモス、ってどう?」

「ほう。なかなか良い名だ」

 なんとか気に入ってくれたようである。聖狼は自身に言い聞かせるよう「アネモス、か」と呟くと、アスピスのことを再び見つめた。

「よし、それにすることにしよう。我は今からアネモスじゃ」

「了解」

 名前ができたことに満足してみせるアネモスへ、エルンストは軽く両手を広げ掲げるようにして、承諾の意を表す。

「んで、アネモス。お前になら、アスピスの張った結界の広さと、倒した魔物の居場所がわかるか?」

「是。マスターの張った結界を食していいというのなら、我が集めてやってもよいぞ」

「だそうだ。アスピスかまわないだろ」

「あーッッ! そういえば。結界の解除忘れてた!」

 今更のように、アネモスや魔狼と対峙するために張った結界を、アネモスに一部崩されたとはいえ、そのままにしていたことを思い出す。

「結界をこいつが食らってくれるそうだから、解除は必要ないだろ。っていうか、解除してもらっちゃ困るっていうかさ」

 ここで解除しようものなら、アネモスが拗ねそうである。

「んじゃ、アネモス。結界は食らってかまわねーから、魔物の収集を頼む」

「マスターの意思なら、従おう」

 エルンストの頼みだけでは聞き入れがたいと、アスピスへ視線を送ってくるアネモスへ、アスピスは両手を合わせてお願いする。

「結界は好きにしていいから、魔物の収集頼める?」

「承諾した。これから行ってくる」

 そう告げると、焚火を中心にみんなが集まっている場所から少し離れた所で、アネモスは巨大化し、森の中へと消えていった。



 背中に大量の魔物を背負ってきては、野営地からそう遠くない所に落とし。そして、間を置くことなく、足取り軽く再びアネモスは森の中へ去っていく。そんなことを何度も繰り返し、一通り野営地からは見えない場所の結界を食し解除し終わったのか、最後は魔狼を十数体かき集めてくると、体をぶるぶるっと震わせ毛並みを整え直して、最後はアスピスの希望したサイズに戻り、アスピスの傍らに寄ってきて満足そうに伏せをした。

 しかし、持ってくる魔物の数やランクを確認していたエルンストとレイスは、感心するのを通り越して呆れ果てていた。

「まぁ、もともとやればできるとは思っていたんだけどな」

「でも、最初にして魔法生物のSランク数匹を含んでるって。末恐ろしいですよ」

「腐っても六聖人(赤)ってことだろ。魔法しか効かねぇ魔法生物には絶大な効果があるってことさ」

「まぁ、六聖人として契約する精霊は、レシピの数も熟練度もすごいらしいですからね」

 なにやら好き勝手に言ってくれている2人の会話を、焚火にあたりながら聞いていたアスピスは、ちょっとばかり複雑な気分になる。

(さすがに失礼なっていうか……)

 確かに、反射的に一番強い精霊術を使えるだろう六聖人(赤)の精霊と契約した印が刻まれている右手の薬指を使用したが、盗賊団に与えられた精霊だって、色々な人が使い育ててきたことで、六式ではあるがかなり強いし。アスピスが生み出した精霊も、10年間寝ている間にレイスとカロエが頑張ってくれたおかげで、アスピスがいかにへっぽこだろうといっぱしの精霊術を使えるくらいには、かなりの成長をみせていた。

 そんな、エルンストとレイスの会話から、ちょっとばかりずれたところに不満を感じていたアスピスの方へ、魔物の山を前に話し合っていたエルンストとレイスが寄ってきた。

「今回の冒険は、ギルドの掲示板を通じて受けた依頼でも、ギルドから受けた依頼でもをありませんから。なにより、アスピスがひとりで倒した魔物ですし。今回の魔物退治の功績は、すべてアスピスひとりのものということになりました」

「え? でも、パーティを組んでいる場合、均等に分けるんでしょ?」

「普通はそうなんだけどな。こんだけやっつけたとなると、普通に考えたら、冒険者のクラスが上がるはずだからさ。俺やレイスは既にSクラスだし。カロエもBクラスにはなってるからさ」

「アスピスは六聖人(赤)といっても、代役のフォルトゥーナが六聖人(赤)として行動しているので、表立ってはただの冒険者ですから。力量の目安となる役職に付随する免除は受けられませんから、Dクラスから地道に上げていくことになるので。一度の冒険でクラスがアップする人なんて、基本的にはいないんですけどね。ここは、実際にアスピスの実力のみであそこの魔物たちを倒したわけですし、一気にCクラスへ。いえ、もしかしたらBクラスへ上がれるかもしれないので。今回の魔物は、すべてアスピスの功績ということにしようとなりました」

「まぁ、報酬はみんなで均等に、でもいいけどな。功績だけは、アスピスにまとめちまおうって話さ。その方が、冒険者ギルドの依頼を受けるとき都合がいいからな」

 アスピスの疑問へ、エルンストとレイスが事情を説明するように言葉を重ねる。

「そうなんだ」

 都合がいい。と言われてしまうと、断る理由がなくなってしまう。

 でもやはり、パーティとして功績と報酬は平等にという約束事を破ることに、アスピスは抵抗を覚える。

「でも。冒険者のクラスってそんなに重要なの?」

「そりゃ、重要さ。今んところ王都。っつーかイシャラル王国内にある冒険者ギルドに登録している冒険者たちの中で、最上位クラスとされているSクラスのエルンストやレイス。それに、シェリス。その下のAクラスにフォルトゥーナやルーキスが名前を連ねているおかげで、冒険者ギルドの掲示板にある依頼は、オレたちのパーティに受けられないものがないって感じだけど。低クラスがいると、護衛依頼なんか特に、依頼主にいい顔されないっていうか。討伐だって、依頼を受ける際に窓口で、低クラスがいて大丈夫? って感じになるし」

「そうなんだ」

「あと、冒険者ギルドから直接依頼されるような仕事なんかだと、低クラス連れて行くのすげー嫌がられるな。オレは、それでもついて回ったけどな。おかげで今じゃBクラスになれて、嫌な顔されなくなってきたしさ」

「へー……」

 なるほど。と、アスピスはカロエの説明に、なんとなく納得する。

「そっか。そういうことなら、遠慮なく魔物退治の功績は、私がまとめてもらうことにするね」

「あぁ、そうしてくれ」

「でも、報酬はべつだよ。みんなで分けようね」

 初めての冒険である。気持ちよく終わらせたいという思いから出た台詞に、一同は笑みを浮かべて快諾してくれた。

 そしてこの日は、今は真夜中ということで、陽が明けるまでここで野宿をすることになり、アスピスの張った防御結界の中でのんびりと過ごすことになった。



 翌日、黄色い。正確には黄金色なのだが――村で噂になっていた魔物にまたがり姿を現したアスピスのせいで、朝になったというのに、村人たちはみんな、畑に向かったりせずに家の中に籠ってしまい、窓の隙間からアスピスたち一行の動向を見守るといった状況下、逃げ出すわけにいかない宿屋の主人のみが、アスピスたちの前に姿を現し、半ば怯えながら、清算を済ませることとなった。

 小さい村で、面している森も奥の方に入らなければ弱い魔物がたまに姿を現す程度なので、日ごろは静かに平穏に暮らしている善良な村民たちの集まりなのだろう。だから、森を目的に訪れる冒険者たちが落とすお金が収入源ではあるものの、森の大半は隣国のクレアルラ王国の土地となるので、訪れる冒険者はそう多くなく。騒動といったものが、特に起こらず過ごしてきたのではないだろうか。

 そんな中での、今回の出来事は、村人にとって想定外の大衝撃だったということである。

 まさか、噂の黄色い魔物を手懐けて、村に連れて入ってくるとは思っていなかっただろう――といっても、アスピスたちもそんなことは思っていなかったのだが。

(これで、あたしの魔物入れ用のアイテムボックスの中身を見せたら、すごいことになるだろうなぁ)

 ちょっとした悪戯心。

 実際に開くわけではないが、開いたときの村の反応を想像して、アスピスはクスクスと隠れるようにして笑みを零す。

「どうした? 出発するぞ」

 馬小屋から馬を出してもらい、その二頭を預かっていてもらった荷馬車に繋げて、アスピスがアネモスに騎乗した状態で待っていた、村の中央に築かれている広めの通路へ、荷馬車を引っ張り出してきたエルンストが、不思議そうに問いかけてくる。

「あ、うん」

「ところで、帰りは途中で野宿する予定だが。お前はそのままそいつに乗って移動を続けるつもりなのか?」

 それでもかまわないが。と、エルンストが尋ねてきたことで、アスピスは慌ててアネモスから下りてみせた。

「ううん。馬車の方にみんなと乗る」

「そうか」

 それならと、アスピスの腰をエルンストは両手で挟むようにして持ち上げると、荷馬車の中にアスピスを下す。

 それに続くよう、後ろの方から、カロエとレイスも乗ってきた。

「じゃあ、行くぞ」

 最初の御者はエルンストのようである。

 エルンストの声に合わせて、荷馬車は動き出し。そんな荷馬車の脇を、荷馬車の速度に合わせるよう走るアネモスと共に、みんなは村を後にした。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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