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アイスクリームの彼  作者: 香菜
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夏本番

天気予報は今日も快晴。最高気温は36℃。自転車のかごに箱入りのアイスを積んで溶けないうちに、と彼の家に向かう私。


「いらっしゃい。暑かったでしょ。」

かく言う彼は今日も涼しい部屋の中から声をかけてくる。外の暑さなんて知らないくせに、と言いたい気持ちを抑え、買ってきたアイスを冷凍庫に詰める。


「明日うち来るでしょ。おつかいお願いしたくて。ほら、暑いと俺外出れないし。」

昨晩の彼からの頼まれ事だ。これまでは気温が下がった夜に買いに行っていたという。だが最近は夜でも30℃を越える日が続いている。ついに本格的にひきこもりになったらしい。彼の暑さ嫌いにも慣れたし、まぁ会いに行く予定だったし、ということで素直におつかいを頼まれた次第であった。


「さんきゅーーーーー!」

皮肉でも言ってやろうかと思ったけど、アイスだけでこんなに喜んでくれるならいいだろう。

「これでしばらく生き延びれるわ」

そう言って彼は早速、冷凍庫から取り出したアイスを美味しそうに食べ始めるのだったーーー




しばらく経ったある日、私は実家を訪れていた。といっても今住んでいるところは実家の隣の市、電車で1時間程度しか離れていない。それでも学校とバイトと暑さ嫌いの彼の世話で、帰るのは久しぶりだった。


「そういえば海岸の花火大会、今年が最後だって。」

「えぇっ!?」

夕食中、母から唐突に言われた言葉に耳を疑った。

海岸の花火大会は、地元で唯一の大イベントで、小さい頃から毎年欠かさず見に行っている。私の人生が詰まったお祭りといっても過言でなはない。

勇気を出して初恋の人を誘い、帰り道で思いを伝えた中1の夏。当時の彼氏と誰もいない高校の部室から空を見上げた高2の夏…。時に甘酸っぱく、時にほろ苦い、私の青春とも言える花火大会が今年で終わるだなんて……。


「土地開発の一環で商業施設にするんだって。」

そんな母の言葉が耳に入らないほど私は悲しみに包まれていた。それなら今年も必ず行くしかないし、私の青春の最後のページを綺麗に綴らなければならない。ちょうど今年は彼氏もいるし一緒に浴衣で……って!思い出した!彼は暑さが苦手な引きこもり……誘ったところで行くと言ってくれるだろうか。いや、おそらく「そんな人の多くて暑いところに行ったら溶ける」みたいなことを言われるんだろう。でも今年は何としてでも行きたいし、彼と花火が見たい。とりあえず話してみるか……。


花火大会までのタイムリミットはあと1ヵ月。私の気持ちは、夕立前の雲のようにどんよりと重くなっていた。

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