レベリング
七話です
ちなみにグローイングの元ネタはクウガだったり
「こいつ……やった!」
「おー、やっと倒せましたか」
「シンジョー、お疲れ様」
「お疲れ……はぁ、これはかなりキツイぞ……」
戦闘開始から十分、ようやくシルバーウルフを倒すことが出来た。
シルバーウルフの動きは遅く、攻撃をかわす事自体は簡単なのだが、如何せん攻撃が通らない。
その為、かなり時間がかかったのだが……
「あー、何もドロップしてませんね。これも滅多におきないですよ」
「全然嬉しくねえ……」
なんと素材がドロップしなかった。
あれだけ苦労したのに成果は僅かな経験値のみ……割に合わなさすぎる。
「ちなみにグローイングって運……」
「最悪ですよ?」
「やっぱりか……」
運といえばゲームのランダム要素を左右する重要な要素だ。
クリティカルヒット、レア素材のドロップ、攻撃が外れる……運があればここぞというと時に役立つのだ。
しかし、その運ですら低いとなればランダム要素に頼った戦い方はもう出来ない。
……本当、グローイングって何が出来るんだ。
「シ、シンジョー元気出して! きっとグローイングにも何かある筈だからさ! それを一緒に見つけよ! ね?」
「こっはー……」
こんな絶望的な状況の中で、こっはーだけが救いだった。
万能なチート職業、魔法戦士なら俺の穴を埋めるくらい容易い。
一緒にレベル上げもできるし運も高いだろうからレア素材のドロップも見込める。
多分、俺の僅かな運はここに使われたんだなあ……。
「ま、最初は素材を集めて合成、そしてアイテムを集めていけば大丈夫です」
「それだけか? シアターの掃除とかどうするんだ」
「シアターの掃除は必要ないですよ? アイテムを合成してシアターをカスタマイズすれば勝手に綺麗になります」
「……なんで勝手に綺麗になるんだ」
「原理なんて知りませんよ。そもそも掃除なんて面倒くさい要素、プレイヤーが好むと思いますか? 時代は地味でリアルすぎる作業より夢が溢れるストレスフリーな体験です。それくらい、流行に敏感なミーチューバーなら理解してください」
「え、あ、はいなんかすみません……」
モモカの冷たい視線に怯え、何故か本能的にあやまってしまう俺。
唐突にメタいこと言うし、地味に長い説教するし、知るかボケとばかりに突き放すしなんだこいつ。
確かに壺割っても怒らない住人とか、子供だろうとバトルに買ったら金を巻き上げるモンスタートレーナーとかいるけど、ゲーム世界の真理に触れるってそんなにタブーなのかよ。
てか、サポートAIってこんな毒気ある存在だっけ?
「まあまあモモカちゃん、その辺で……」
「すみませんマスター。それじゃ、まずはウール草原を自由に探索して下さい」
「納得いかねえ……はあ」
相変わらずこっはーには甘いモモカ。
まあ俺に対しても素直に情報をくれるし優しい所は優しい。
俺もモモカに対して態度を変えていけばもしや……ないか。
いずれにせよ、ここからが本番だ。
スタシア完全攻略に向けて、俺達西山オフラインの本格的な活動が今、始まる。
◇◆◇
「こっはー! そっち行ったぞ!」
「オッケー、任せて!」
シルバーウルフをこっはーの所まで引き寄せる。
そうすればこっはーが一撃で倒してくれるし俺にも経験値が入る、完璧な作戦だ。
現にレベルも上がったしこのままいけば……
「主様、一つよろしいですか?」
「ん? なんだモモカ」
次のシルバーウルフを呼び寄せようとした所、モモカに話しかけられ足を止める。
「主様は縛りプレイヤーですよね?」
「ああ、確かにそう言ったが」
「なら、縛りプレイなのにマスターの手を借りるのはどうなんですか?」
「あー、なるほど……」
確かに縛りプレイとしてこれはどうなんだろうか。
全部ソロでやると宣言してないにしろ、こっはーに殆ど任せている現状というのはマズいのでは?
「……なあ、こっはー」
「ん? どうしたの」
「俺、しばらくレベリングはソロでやってもいいか?」
これはただのゲームプレイじゃない。
動画という物が絡んでいる以上、三百万人のリスナーを失望させる訳にはいかない。
なら、俺も苦労をするべきだろう。
「うん、シンジョーがそう言うなら止めないよ。でも無茶だけはしないでね?」
「ありがとうこっはー……」
そう言うと俺達は別れてレベリングをする事にした。
こっはー的にも、俺というお荷物を抱えるよりずっとスムーズな行動が出来る筈だ。
俺も……そこに少しでも追いつけたら。
いや、追いついて見せる。
俺だって西山オフラインのメンバーとしての意地があるんだよ……!
◇◆◇
「…………」
穴から這い登ってこようとするモンスターを蹴落とす。
こっはーと別れて二時間、俺はずっとこの作業をやっている。
「……楽しいですか主様」
「モモカ、一つ言っておく」
「なんですか」
「縛りプレイの基本はな……長時間、同じ作業をやる根気だ」
「それ、ゲームなんですか……」
様子を見に来たモモカですら呆れる始末。
グローイングは弱すぎて、真正面から立ち向かえばすぐにゲームオーバーになってしまう。
実際、俺は十回以上リスポーンしている。
そして死にまくった結果、最善策として導き出したのが……このモグラ叩き方式だ。
やり方は簡単。
1.穴をいくつか掘る。
2.モンスターを呼び寄せる。
3.何とか頑張ってモンスターを穴に落とす。
4.すると、這い上がってこようとするので蹴落とす。
5.これを繰り返す。しばらく蹴り続ければモンスターが勝手に死ぬ。
これだけである。
穴に溜まっているモンスター達はお互いを傷つけあうし、俺は蹴り落とすだけでいいので安全かつ効率がいいのだ。
「これを見るとやっぱりゲームの作業は悪だと思えますね」
「そうか? MMOって基本作業だろ? お、またこいつが……」
「まあ間違ってはいないですけど……あ、主様左の穴」
「ん、サンキュ。おらっ」
何気にモグラ叩きのサポートをしてくれるモモカ。
正直、このやり方は絵面的に地味だし面白みも何もない。
故に動画的には殆ど全カットされるだろうが……まあレベリングや素材集めなんてカットが基本だし問題ないだろう。
経緯はあっさり、結果は衝撃的に、だ。
レベルアップ!
「お、やっとレベルが上がったか。どれどれ……」
レベルアップのウィンドウが出たのでステータスを確認する。
が、
■■■■
PN シンジョー
レベル 2→3
職業 グローイング
HP 100/100 → 100/100
MP 0/0 → 0/0
STR 16 → 16
BIT 17 → 17
INT 12 → 13
MND 14 → 14
AGI 18 → 19
LUK 2 → 1
■■■■
「殆ど上がってねえ……」
「というかLUKに至っては下がっていますよ……どういう事ですかこれ」
「AIのお前にも予想外なのかよ……」
これは酷い。
レベルアップで上がったステータスも僅かだし、しかも逆に下がるステータスまである。
グローイング……思ったより厄介な職業だな。
「取り敢えずレベルも上がった事ですし、マスターと合流しましょう」
「そうだな……今日はこれくらいで切り上げるか……」
これ以上やってもいいがこっはーの様子も気になる。
あいつの事だ。
きっと、レベルもステータスも俺より遥か上を行っているに違いない。
こっはーに超えられることは内心、悔しいが同時に嬉しさもあった。
何故かって?
そりゃあれだ、“幼なじみだから”これで十分だろ?
まあ、この気持ちを共有するのは難しいか。
「しかし、えげつない方法ですねー。穴の中は一体どのように……」
モンスターの死骸がびっしり。
「……うわぁ……」
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