二人の実況者
新作始めました
よろしくお願いします
「よし、三十五階層突破……今日はこれくらいにするか」
「そうだねー。あっ、次回は三十六階層以外に三十五階層の隠し要素もやるんでお楽しみに! それじゃ! また見てね!」
空間ビット式カメラの録画を停止し、撮影を終了させた。
俺たちは今、とあるVRMMOゲームの実況プレイをしていた。
動画はもうPART.23に到達し、もうそろそろでエンディングといったところだ。
はぁ、そろそろ新しいゲーム探さないとなあ。
「みてみて! 昨日の単発動画もう二百万再生行ってるよ! まさかここまで伸びるとはねー」
「え、嘘だろ……今俺たちがやってるゲームのPART.1が百五十万再生だぞ。どこでバズったんだあのクソゲー……」
どの動画がバズるかなんて視聴者も投稿者にもわからない。
それがネットの世界では普通なのだが……いかんせん気楽に取った動画の方が再生数を稼げている現状には納得できない。
「相変わらずネットってよくわかんないよねー。METUBEは最近アルミホイル系の動画が流行っているみたいだし……俺達もやる?」
「なんで実写動画やるんだよ……俺達顔出しはNGだろ」
「えー手元と声だけならできそうじゃない? リスナーの人からも西山オフラインの実写動画みたい! って声多いし」
今、会話に出た西山オフライン、それはMETUBEという動画サイトで主にゲーム実況動画を投稿している実況コンビの事だ。
メンバーは俺、神城宗谷ことシンジョーと、幼馴染の琥珀響ことこっはーの二人で構成されており、活動してもう三年になる。
今やチャンネル登録者は三百万人を超えている大人気ミーチューバー(自分で言うのもアレだが)でイベントはもちろん多数の企業から新作ゲームの試遊を依頼される程だ。
そんな俺達だが顔出しNG(もちろんマスク有りも)であり、最近のアイドル化が進んだミーチューバーの中でも異質な存在だった。
まあ、その理由は同じ高校の奴にバレたくないっていう四極単純な物なのだが。
「そうだなぁ……まあそれなら時間空いてる時にやるか」
「え、マジでやるの?」
「え、ってなんだよ。そんなに驚くことか?」
「いやあ、まさか宗谷が乗り気になるとは思わなかったからさ……ギャップ凄いよ?」
「そこまでギャップはねえだろ……あ――、でも実写の機材とか大量のアルミホイルがないから今は無理だな」
「ちえー、結局ダメじゃないか」
落胆する響。
まあ前からゲーム実況以外の事がしたいって言っていたしなあ。
その意見を反映したのが最近、週一でやっている西山オフラインのネットラジオなのだが……それだけでは物足りなかったようである。
「そういや今日、二十三時からふぇりあすちゃんの生放送じゃないの?」
「うぉっ! そ、そうだった! 早くしねえと放送始まる!」
「そんな急がなくても……どうせふぇりあすちゃん遅刻するでしょ?」
「トウィッターで今日は遅刻しないって言っていたし! 今日は遅刻しねえよ!」
ふぇりあすちゃんというのはバーチャル空間(設定)で活動するミーチューバーの一人だ。
動画よりも生放送を中心に活動しており、毎日二十三時にライブ配信を行なっている。
しかし寝むっていたりコンビニに行っていたり、と遅刻が多くリスナーの間でも「一時間くらいの遅刻は許容範囲内」とまで言われるくらいだった。
だが、今日は昼くらいに「今日はちゃんと二十三時スタートだもん!」とツイートがあったので多分大丈夫だ。大丈夫ったら大丈夫なのだ。
「あっ、明日は事務所に行くから十一時までには準備終わらせてね?」
「おけ、それまでに準備しとくわ。んじゃ、今日はお疲れー」
「はいはいおつおつ――」
響に別れの挨拶をいい、俺はログアウトボタンを押した。
最近は充実しているといえば充実している生活だ。
実際、響とのゲームは楽しいし何より多くのファンが俺達を応援してくれるのが嬉しい。
しかし、最近新鮮な刺激が足りない気がしていた。
響もそう思っていたのか、最近ゲーム実況以外の事をやりたいと言い出すようになっている。
西山オフラインは今、新たな刺激を欲していた。
別にゲームに飽きたわけではない、ただ少し……「物足りない」と思っただけだ。
そんな事を仮想空間からログアウトする時、俺は考えていた。
「……まあ、充実ならそれでいいか」
これ以上なんて少し欲張りすぎだ。
今を楽しく生きられるのならそれでいい、それでいいじゃないか。
ま、どこかに刺激が転がっていたら別だが………………。
ちなみに今日のふぇりあすちゃんは大遅刻をやらかし、放送が開始されたのは十二時半だった。
本人曰く『寝て起きたら気持ち悪くなって嘔吐してしまった』とのこと。
おい、大丈夫かよふぇりあすちゃん。
最近体の節々が痛い、殆ど寝むれないとリスナーに言っていたし体調関連で不安になるぞ。
今度プレゼント出来たら龍角散を送ろう……。
◇◆◇
ピンポーン
「お、もう来たか」
次の日、午前十一時五十分。
神城家にインターホンの音が鳴り響いた。
「おはよー、宗谷いるー?」
「はいはい、いますよーっと」
ドアを開けると仕度を整えた響がいた。
綺麗に手入れされたオレンジ色の髪。
Tシャツの上に黒色のフード付きパーカーを羽織り、首にはヘッドホンを掛けた若者感ある恰好。
だが同年代の男子より低めの身長が、中性的な容姿と相まって可愛らしさを演出させていた。
「んじゃ、そろそろ行く……」
「宗谷、寝ぐせ付いてるよ」
「あーいいってこれくらい。どうせすぐ終わるだろ?」
というか面倒くさい。
しっかりした場でもないし別に、と言うのが俺の言い分だったが……。
「ダメだよ、身だしなみくらいしっかりしないと。また住吉さんに怒られるよ?」
「うぐっ、確かにそれは……」
そうか、事務所だからあの人もいるのか……。
住吉さん真面目だからかこういう所に口うるさいしなあ。
前もシャツが出ていただけで注意されたし仕方ない。
「じゃあ直してくるからちょっと……」
「ま、大体予想はしてたから……くしと霧吹き持ってきた。はい、頭下げて」
「……先読みされたか」
言われた通り頭を下げる俺。
俺達二人は家が隣同士だ。
だから私物を持ち込んだりする事自体は珍しい事でも何でもない……が。
「なんで寝ぐせを直さないとわかった?」
「んー、幼なじみだから?」
「答えになってねえ……」
響の場合、俺の行動を予想しピンポイントに役立つ物を持ち込むのだ。
確かにもう十年以上の付き合いになるが俺にはそんな事出来ないぞ。
何か未来予知の能力でも宿っているんじゃないか。
「はい、終わり」
「ん、ありがとな響」
「にへへ、どういたしまして」
自分の髪を触る。
うん、寝ぐせも収まっているし完璧だ。
「……それじゃ、行くか」
「そうだね、よーし事務所に向けてレッツゴー」
荷物を持ち、俺達は目的地へと歩き出した。
今日は事務所へ行くのと……あ、昼に新作ゲームの生放送か。
なんでも世界を変える発表だと銘打っていたがまあ期待しないでおこう。
宣伝というのは過剰にすればする程、肩透かしを食らいやすい物だしな。
◇◆◇
「到着!」
「あー早く終わらせて帰りてえ……」
「まだ、来たばかりでしょ? 相変わらず、宗谷は貧弱もやしなんだから」
大都会の中心部、巨大ビルの二十三階に俺達は来ていた
ここはミーチューバー専門事務所【シード】。
手厚いサポートはもちろん、ミーチューバーを起用したイベント事も積極的に行っており、今や業界最大手と言っても過言ではない。
一年前から所属している俺達、西山オフラインもかなりお世話になっている事務所だ。
「取り敢えず入ろ……おはようございます!」
「おはようございまーす」
事務所へと入る俺達。
巨大ビルの中、というだけありかなり広い仕事スペース。
壁には所属ミーチューバーの写真がびっしり張りめぐらされており、棚にはミーチューバーのグッズや掲載雑誌が飾られている。
隅の方を見ればカメラや三脚等の撮影機材、そして、奥のテレビモニター付近にはなんと最新ゲーム機とソフトが置いてあるのだ。
会社、というには少し異質な場所だが、そんな場所でも社員の人たちは黙々とデスクワークをこなしていた。
「おー、神城。今日は身だしなみしっかりしているようだなあ……」
突如、後ろから現れた人物にポン、と肩に手を置かれた。
その威圧感溢れる声でどんな人物か大体察し、恐る恐る後ろを振り返ると……
「っ!? す、住吉さん……お久しぶりっす……」
「お久しぶりです、住吉さん!」
ガリガリとココアシガレットをかじりながら、青い瞳でギラリと睨み付けてくるスーツ姿の麗人。
我らが西山オフラインのマネージャーにして俺が親より恐れている人物、住吉冬歌である。
「お前は依頼をしっかりこなす反面、他が適当でなあ……」
「は、はは……今日はしっかりしていますから……これも住吉さんの熱い指導のおかげで……」
「宗谷、今日寝ぐせのまま事務所に来ようとしていましたよ」
「響!? お前何を……」
「ほほう、どうやら私の熱い指導とやらが伝わってないようだな……」
「ひぃ!?」
威圧が増し、後ろから鬼のような物が見える。
ヤバい、これは地獄の一時間説教コース突入か!?
響により嘘が割れてしまった今、俺にはどうする事も……。
「はあ……ま、今日はこれくらいにしとくか。他に適当な部分もなさそうだし」
「ほっ」
「ただし、次同じ事をしたら……どうなるかわかっているよな?」
「は、はい……十分承知しております……」
今日は難を逃れたがまた同じことをしないよう気をつけないと。
住吉さんも常識的な行動をとれ、と言っているだけで理不尽に怒っているわけではない。
ちゃんとしていたら何も言わない些細な問題だ。
ま、どうせまたやらかすのが俺という人物なのだろうが……。
「じゃあ、本題に入るぞ。と、言ってもYES、NOを答えてもらうだけだが……」
そういうとタブレットを取り出し一つのデータを表示させる。
「あー事務所のフェスイベントですか。俺達顔出しNGだけどこの時期なら……な、響」
「うん、この頃なら高校も卒業しているし問題ないです」
「そうか……なら西山オフラインの初顔出しとして大体的に宣伝出来るな……二人共ありがとう。今日はこの件について聞きたかっただけだ」
フェスイベント……それは年に一回、シード所属のミーチューバーがライブ会場に集結する事務所の一大イベントである。
俺達、西山オフラインは高校卒業まで顔出しをNGにしている為、今までフェスイベントのような顔出しイベントは不参加だったのだ。
「しかし大丈夫なんですか? 安易な顔出しはリスナーを幻滅させる可能性があるのでは?」
「安心しろ。琥珀はミーチューバー全体で見てもかなり顔立ちがいいし喋れる。幻滅どころかむしろが好感を持たれる筈だ」
「にへへ、お褒めの言葉ありがとうございます」
なるほど、確かに響なら問題ない。
素人離れした容姿に明るい性格、女性ファンの心を掴むには十分すぎる要素だろう。
……ん? 琥珀“は”?
「あの、俺は……?」
「んー? ああ、神城は……………………ブサイクではないと思うぞ?」
「なんですかその無言の間は。そんなにマズイんですか俺」
「いや、何というかお前は響程……まあ、少しは指示してくれる奴も……あーでも、うーん……」
なんか失礼な反応だな。
確かに俺は響程、容姿がいいわけではないし積極的に喋らない。
でも、そこまで酷くはないと思う。
フェス物販の時、俺のグッズだけ若干売れ残って「西山オフラインで不人気の奴wwww」
とまとめサイトに取り上げられたけどちゃんとファンだっている……筈だ。
「大丈夫だよ宗谷! 俺達は二人一緒で評価されているんだから安心して!」
「それって響の引き立て役って事じゃないんですかね……」
「え、それは……ま、まあ宗谷だって縛り実況時代の根強いリスナーがいるし多分……うん」
おい、なんで後半自信を無くした。
やっぱ引き立て役って事じゃないのか?
俺ってそんなに価値がないの?
二人のあんまりな対応に俺は段々自信を無くしていった……。
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