そして進化へ
「ぐはぁ!」
「はっ、どうした? お前の実力はそんな物かよっ!」
地面に倒れ込んだ俺にコンバットが蹴りを加える。
さっきまで五分五分の戦いを繰り広げていたが、今では俺が一方的に痛めつけられているだけだ。
「くっ……オラァ!」
「はん」
爆弾を投げつけるも跳ね返される……いや、爆弾そのものが消えている。
コンバットに触れた瞬間、爆弾がポリゴンとなって空中に散るのだ。
間違いない……コンバットはスキルを使用している。
それも強力な奴を……。
「アンチアイテムか……!」
「ご名答。さっきまでは手加減して無効にしてたんだよ。ま、分かったところで意味はないがな!」
「うっ!」
マズいな……アイテムという唯一の攻撃手段を失った今、俺に出来る事はただコンバットに痛めつけられるのみ。
結局ハズレ職に勝ち目はないのかよ……!
【レベルアップ!】
「こんな時……にかよ」
突如聞こえるレベルアップの音声。
しかしステータスを確認しても一切の変化がない。
勝つのは絶望的だ……だが。
『進化を行います。ダウンロードまでしばらくお待ちください』
「え?」
身体光出し、メニューウィンドウにダウンロード中という表示が現れる。
もしかして勝てるのか……?
「お前ら、どれだけムカツク事をしているかわかってないだろ? 動画配信でたんまり金は稼げている、なのにまだ金を求めている」
「それは……わかっている……」
「はは、自分で理解しているのか。とんだクズ野郎だな。それともアレか? 金じゃなくて“五千兆円を手に入れた“という事実が欲しいのか?」
「……ああ」
「ほう、随分素直だな。ネットで素直な事言ってると、痛い目に合うってしらねえのか? はは」
そうだ、俺達が挑戦しているのは金の為じゃない。
その先にある達成感……それを求めて今までプレイしているのだ。
しかし、
「それとっ……目的はもう一つ……ある!」
「ほう、なんだ?」
「リスナーを……楽しませたいって思いだぁっ……!!」
「はっ、だから攻撃はっ……!?」
瞬間、力任せに振るったパンチが男の顔面にヒットし、その勢いで吹き飛ばした。
空中を数秒間ただよった後、男は勢いよく地面へダイブする。
「ぐぅ……ば、馬鹿な!? 俺のBIT(耐久)は340、それに対してあいつのSTR(筋力)はたった40だぞ!?」
「はぁ、はぁ……」
何が起きたのだろうか。
今まで物理的な攻撃は一切通らなかった筈。
しかし、俺は知っている。
あのパンチの瞬間、身体が軽くなった事を……。
「ふっ! はあっ! ぜぇやぁああ!!」
「くっ……何故だ! 何故お前の攻撃が通る!? 何故俺のHPが減っている!? お前は……お前は一体何をした!?」
倒れた隙を見逃さず、俺はパンチとキックの猛攻を繰り広げる。
男は咄嗟にガードの体制をとるが、徐々に押し込めれていく。
男には今この状況が理解出来ず、混乱しているようだ。
「このやっ……!」
「おるぁあぁあああああ!!」
「ぐおおおおおぉぉぉぉ!?」
ガードを諦め、反撃の体制をとろうとする男だったが、その前に俺のパンチがみぞおちにクリーンヒット。
男は再び吹き飛ばされた。
「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な! この俺が……こんな雑魚に負ける訳がぁ!」
「はぁ―――――」
攻撃を繰り出す度におきる、身体が軽くなる感覚。
それだけじゃない、全身から力がみなぎってくる。
これが何なのか、俺にはわからない。
勝つ可能性が……いや、勝たなければいけない。
何故なら俺は……俺は……!
「俺は逃げられねぇ……こっはーやリスナーを失望させない為にも……俺は戦う……!!」
覚悟が決まった瞬間、俺の中で何かが覚醒したような感覚が。
その覚醒は内側から溢れ、やがて光を放ちだす。
眩しい……でも暖かく心地良い……。
しばらく光に身を任せていると、どこからともなく声が聞こえた。
『欲深き挑戦者よ、貴殿の心意気を称して力を授けよう……』
瞬間、光ではない何かが、俺の身体を包んだ。
「っ!? 何だその姿は……!?」
「さあ、始めようぜ……」
倒れていている男の元へ、俺は歩み出す。
折角授かった力だ……無駄には出来ない。
欲深き挑戦者として、俺はこの戦いに勝つ!
俺達の戦いはこれからだ……!