モブ紹介 第五十三話〜その2
本編はまだ章の途中ですが、本編投稿三周年なので、早めに投稿します。
ネタバレが嫌な方は本編が進んでからお読みください。
・シンシア・ヴォン・ガレット
三年十組、令嬢科。
自称極普通の家族思いな大家族の長女。
金で伯爵位まで買い取った大商会の商会長である父とメイドである母との間に産まれた。
血筋的な何かがあったり、神霊等の助けを得た訳でも無いのに普通に誕生した奇跡の女傑。どんな環境でも自称するように極普通に、何事も無かったかのように過ごせてしまう。
大家族なのは間違いでは無いが、その関係性は物語で語られる王族並みにどろどろで、寧ろ王族よりも金に群がった母親達で構成されている為に最低限の教養品性も怪しくえげつないどろどろ大家族。
彼女が長女である為に排除しようとする連中が殆どである。
そんな中でも何事も無かったかのように過ごせてしまうのが彼女である。
料理に仕組まれた毒には匂い等から調理法間違えたのかしらと気が付き味を調節するかの様に毒性を消し去り、贈られた呪具も炎を扱う様に怪しまず使いこなし、暗殺者もしょっちゅう来るからと訓練だと納得して薙ぎ払う。
人を疑わずに乗り越え、乗り越えられるからこそ更に危機感を抱かない。それが彼女。
そんな中を気が付かないままに乗り越えてきた結果、それが修行であったかのように実力を身に着け、狂った常識をも身に着けている。
善意でこないだの呪具ありがとう、お礼に自作した呪具を差し上げますわと返す。
自業自得であれば問題無いが、彼女の善意は狂って育まれている為に、野放しにするとヤバい人材である。家庭の借金も家業を善意で正した結果。
これでも基本善人であり、人の意見も聞ける事が唯一の救い。悪意を誤魔化す為の言い訳でない、中身ある話であれば納得して行動を変えてくれる。
しかし一般的にヤバい人材である事も確かである。
彼女が主人公の物語に題名を付けるのならば、【鈍感令嬢は悪意に気付かない〜結果、何故か悪役令嬢よりも酷くなってしまいました〜】である。
・メルダ・ミル・オルバーリュ
三年三十一組、令嬢科。
自称悲劇の美少女冒険者。父親は有力貴族だが母親が身分の低い妾である為に、継母や義兄弟姉妹からイジメられ命の危険まで感じたのでか弱い美少女の身でありながら冒険者になったと自称ている少女。
実際は間違ってこそいないが、かなり美談化している。故意でこそ無いが、原因は殆ど彼女にある。
彼女は遥か太古に忘れ去られた“現世の花嫁”と言う契約を受け継いだ先祖返りである。
この契約は精霊としての最たる力、司る属性を手放し莫大な魔力に変質させる事で精霊としての性質を下げ、人の身に近付けると言う人を愛した精霊の為に与えられた祝福であり、精霊では無いとする人と精霊とのけじめであった。
彼女は奇跡的にそれを受け継ぐ事で、属性魔法が使えなくなる代わりに神に等しき精霊の魔力をも上回る魔力を得ている。
彼女の生まれた世界では太古から間違った魔法の教育や魔術師同士による婚姻を進めた結果、貴族を始めとした特権階級にしか殆ど魔術を扱えなくなっている。
そうした流れの中で権力の象徴として魔術が使われるようになり、人を判断する基準として魔術が重要なものになっていた。
そんな中で彼女は魔法適性、正確には属性魔法適性が無いことから差別され、更には莫大な魔力によって魔力を測定出来ず魔導具を触れるだけで壊す為に、魔術に嫌われた者として忌み嫌われていた。
だが実際には膨大な魔力を持ち、属性魔術こそ使えないが、魔力頼りに望み通りの結果をもたらす文字通り魔法のような魔術を強引に扱えた。
その力で圧倒的格下を倒してストレスを発散しようとする輩を圧倒的力で下し、無能を初めから居なかった事にしようと企む連中を粉砕した。
そして膨大な魔力による攻撃は大概威力を抑える事が出来ないので地形ごと粉砕した。
やらかすと私は無能ですからと厚顔対応。
そんなのを繰り返して王城半壊、離宮全壊、神殿沈没封印解除、貴族街大火、霊峰崩落等々、歴史に残る制圧者でもやるやらない以前に出来ない惨事を引き起こしている。
冒険者になるきっかけは王侯貴族家族親族勢揃いで、どうか出てって下さいと半ば以上命乞いの土下座。
多額の借金を背負っているのは依頼中に生じさせた街への被害等の賠償である。
これでも割と善人なので無関係の街への被害はしっかり賠償する所存である。
彼女が主人公の物語に題名を付けるのならば、【無能と呼ばれた私は大魔術師〜うっかりやり過ぎる事が多いので、無能の肩書には大変お世話になっています〜】である。
・アリカ
三年六十組、令嬢科。
貧しい孤児院の家族思いな少女。これは本当。しかし二つ名は【奴隷商業界の女帝】。
別に彼女の育った孤児院が裏で奴隷商をしているとかでは無く、この二つ名は単純に彼女の所業で付いた。
彼女の育った孤児院は王国成立時から存在した由緒正しい孤児院で、王都の一等地に広大な面積を有していた。
その土地を狙った王侯貴族から無理難題を押し付けられ孤児院は困窮していたが、ある時、実力行使で裏組織を送り込んだ貴族が出たことで全ては変わった。
孤児院に負担をかけないよう早く働けるようにと努力していた彼女達、孤児院の家族達は戦闘要員が冒険者としても長続きしなかったチンピラである裏組織を圧倒した。
そして裏組織の放った罵倒から奴隷が高く売れる事を知ってしまう。
孤児院の困窮を心配していた彼女は、その途端、襲われた事を金が飛び込んで来たとの認識に変え、裏組織の構成員を狩りに狩った。
一フォンでも安く買い物をする主婦の如く、無駄の無いように一人残さず徹底的に構成員を割り出して狩りに狩った。協力者の衛兵も依頼者の貴族も動かぬ証拠を伴って徹底的に狩った。
その事を知った同派閥の貴族は奴隷商側に圧力をかけ、買い取らせない事で自分達の力の及ぶ衛兵の下へ構成員や貴族を導き、事件をあやふやにしようと企んだが、彼女はそこで誰もが予想しなかった狂気の暴挙に出る。
自分で奴隷にする事にしたのだ。
強制隷属の術式を刻める〈奴隷術〉も使えなければ、“奴隷の首輪”系統の魔導具も持っていないにも関わらずだ。
彼女は洗脳等の特殊な魔術すら使わずに、人力で奴隷化する試みを行った。
家畜や従魔の技術を参考に、従順になるまで鞭を振るい、実際の奴隷を参考に電撃を与え、奴隷紋と同じ形の傷を刻み、死にかけたら回復させ、従順になるまで何度も試行錯誤(酷化)しながら繰り返した。
孤児院が汚れるからと外で、つまり王侯貴族の往来が多くある国一番の一等地で。
王国の中心地から発せられる絶叫は、凄惨な現場は王侯貴族に確かな恐怖を刻み、彼らが恐怖に喚こうが最期まで調教しきり、彼女らをついに奴隷として売り払う。
この買い取り処置は彼女達の所業を止める思惑からであったが、彼女は売却益を得たことで味を占める。
奴隷にしてもいい悪人を探し周り、無理難題を押し付けて来た輩の不当性と別件の不正まで見つけて狩りに狩った。
王国全体の問題となった頃には彼女達は多くの実戦を経て強大かつ、奴隷と言う数の力まで併せ持つ存在となった事、また王国の戦力も減っていた事で歯が立たず、ついには黒幕であった第二王子の奴隷調教(馬的方法)と言う決着を持って影響力を盤石とした。
尚、結果的に本当に女帝扱いされるようになってしまったので、生まれ的には良いとこの御令嬢では無いが、礼儀作法を身に着ける為に令嬢科にいる。
彼女が主人公の物語に題名を付けるのならば、【奴隷商業界の女帝〜悪人を奴隷として売り払えば金になると知ったので、孤児院の為にも調教しまくります〜】である。
・テリオン・バリューダ
四年九十四組。操縦科。
魔導戦闘機パイロットの少年。
彼の生まれたリリデューラ世界は地上無き世界で、浮遊島や浮遊海などしか無い。落下した先にその世界における太陽が存在する。
人類の生存域は狭く、空の魔物である空魔を倒し必要物資を手に入れ、空魔の浮遊力源を利用することで人工浮遊島などを造り、生存圏を拡げている。
彼はそんな空魔を討伐する冒険者(リリデューラ世界にも冒険者ギルドが進出している)である。
魔導戦闘機はその空魔に対抗する為に発展してきた魔力を動力源とする戦闘機で、言ってしまえば乗り込めて飛ぶ機能のある杖、ちょっと複雑な杖と箒の間である。
戦闘職に従事する者達はその魔導戦闘機を発揮させるのに適したステータス構成をしている。そしてその例に彼も違わない。
農家の四男で中古の古い魔導戦闘機しか買えなかったが、実はそれは特定の者しか使えない大量の魔力を必要とするが、現代の魔導戦闘機とは一線を画す強さを持つ古代文明の造り出した魔導戦闘機であり、彼はそれを乗りこなす才能を有していた。
空魔核を利用した現代の魔導戦闘機のどれよりも、誰よりも高速で飛行し、誰よりも早く空魔を殲滅する。
空戦術(速さと飛距離を重視した空中戦用の魔術)の才能自体はそこまである訳では無い、寧ろ初歩的なものしか使えないが、大量の魔力により連射と魔力を込めることによる威力増強は得意。シンプルに強いが引き出しは多くない。
そして魔導戦闘機を用い無いと、これは同じ世界に住む戦闘職全般に言える事だが弱い。
空魔を魔導戦闘機で倒しても問題なく経験値はもらえるので能力値は一般人よりも比較的高いが、地上での戦闘をあまり考えていないので活かしきれない。
空戦術はあるが魔導戦闘機の補助が前提であり、速さと飛距離を優先させた術である為に威力自体は弱い。
彼の場合は大量の魔力を持ち大量の経験値を得ているが、それでも魔導戦闘機抜きの力を考えた場合、弾数と弾速は凄いが身のこなしの悪い弓兵と言った強さで、魔術師程の活躍は出来ない固定砲台と言った微妙な立ち位置になる。
ゴブリンの群れを距離さえあれば一人で殲滅出来るが、オークが相手だと五匹でも危ないと言う判断し難い強さ。何にしろ相手が距離のある平原にでも居なければ危ない。
本編3章では、前章の魔物の大侵攻によって魔導戦闘機が故障してしまい、多額の修理費用を得るために困窮している。
前述のように魔導戦闘機抜きではそこまで強く無いので冒険者業で稼ぐ事も出来ず、だからと言って貯金でも足りず、そんな時に某依頼書に出会った。
魔導戦闘機は商売道具であると同時に魔の脅威から人々を守る為のものでもあるので、早く復帰できるのなら何でもする所存である。
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【箒星に願いを】である。
・マルスク・ウル・ユフトル
四年九十四組。行商科。
テルアヘナ世界において魔漠の民と呼ばれる民族の次期族長である少年。
魔漠の民は魔界と称される程に危険な魔境に唯一ある魔を一切寄せ付けない魔漠の地に住まう民であり、その魔漠の地は魔も寄せ付けないが植物の一つも育たない不毛の大地。
次期族長である彼は仲間の為に生活物資を外から補給する行商人にして、魔界を抜けられる戦士である。
魔界に存在する全てのものは全身に毒を含む為に、食料を確保するには魔物を狩って得た金銭で外から買ってくるしか無い。
しかし魔界の魔物はその毒故に、素材がその毒としてしか使えず高くは売れない。
燃料となる魔石すらも瘴気を纏っており、売れない事も無いが魔石としては格安。
その為日々大量の魔物を狩る必要に迫られており、日夜戦いに明け暮れている。
能力としては全般的に秀でている。しかし魔法は魔界がほぼ鬱蒼とした森林であり、範囲の広いものや被害の広がるものは使えずにいた為に不得意。反面、強化や回復などの魔術は大得意である。
また、長年隔離された特殊な土地に居た一族なので、人族であるのにも関わらず生まれながらの特殊な特性も持っている。
彼らは毒が効かない。無効と言う程でも無いが、吐血するような猛毒でも嘔吐する程度で済む。
そして毒を操る能力にも長ける。毒属性魔法と言う希少属性を当たり前のように有し、摂取した毒を一定時間自分のものとする事が出来る。ただこれら毒系の能力は、元々猛毒を有している魔漠周辺の魔物には通用しないので、才能があると言った状態で伸ばされてはいない。
また代償魔法に長ける。特に彼は一族の中でも飛び抜けて素質を持ち、テルアヘナ世界において彼以上に代償魔法を使いこなせる者は居ない。この能力は彼の先祖、魔漠を造った古代王朝ウル=テルアヘナの王、四百年もの間王朝を治めた半神ウルに由来する。
古代の神々は世界が完成しつつある中で地上に留まれなくなった。原初の力が世界完成に伴い拡散浸透したからだ。非常に残念な言い方をすれば神々にとっての食料危機である。
テルアヘナの神々はそれに対し、生贄を求めた。
初めは魔物を狩って捧げる事で生贄を用意していたが、次第に戦士達は疲弊し、人間を捧げるようになってしまう。
しかし神々の要求は留まる事を知らず、遂に王は決起する。人と神との戦争が始まった。
神々は生贄がなければ地上に留まれない程消耗していた事もあり、何とか戦いは拮抗した。
しかし結局は追い込まれ、最期まで人間に味方していた女神ユフトルは、ウルに自らを生贄にし代償魔法で神々に打ち勝てと提案した。
そして人間は神々に打ち勝った。
しかし女神ユフトルを失った事で都市のあった場所は不毛の大地へと変わり、打倒したものの神々の怨念で周囲は魔境へと変わった。
人々は各地に散らばり、その地には、魔漠と呼ばれる地には、ウルのみがユフトルの墓守として残った。
マルスク達、魔漠の民は女神が残された力により死後出産したウルとの双子の子孫。
死後出産したので神性の多くは受け継がれていないが、それでも失われた古代の力を身に宿す一族。
最もその血を濃く受け継ぐマルスクは代償魔法を誰よりも使える筈なのだが、強めの力でも自分の血を代償とした代償魔法しか使用したことが無い。
本来、穢れなき乙女の心臓を代償にして気候を変える事も出来るのだが、既に生贄の風習が欠片も残っていないので、そもそも生贄を用意する発想が無い。
ただ才能は凄まじいので穢れなき乙女などの要素が強い存在と、心を通わすとふとした事で能力を一部発揮する事がある。心を捧げられたら半神並の力を出せる。アーク達にとって縁結びにちょうど良さそうな優良物件。
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【ウルの行商録〜太古の王族は未だ世界を守る〜】である。
・テオ
四年九十四組。採掘科。
一言で言って超人な少年。特殊な魔人族で炎の中を悠然と歩き、当たり前のように飛び、雷雲の中も突き進める。
かつて最強の兵士を造ろうとした国の失敗達の子孫で、通常の生命の営みの中で完成した彼らの造ろとした存在そのもの。
魔術として術式を用いなくても魔力をある程度変換出来る特性も有しており、魔光弾とシールド、魔刃を兵器の如く扱える。因みに外見は普通の人族と変わらないが、力を開放すると瞳や血が魔力で発光する。
親族は実験体の遺伝子を不完全なまま継いでいる為に病弱で、彼と弟妹は病弱でこそ無いが食料として大量の魔石を必要としている。
そして遺伝子が不完全だと力が強いほど病弱であった為に、彼が大黒柱として家族を支えている。
本人がかなり強い為に、魔石も薬も自前で調達出来ていたが、弟妹が成長期に入り、厳しい状況。高く売れるのが魔石であることも災いし、力に全く釣り合わない程に困窮している状態。
燃費以上の強さを持つが、国家でも雇えない程にコストがかかる。大国レベルでないと魔石を用意出来ない。
現実問題、そんな量の魔石を用意出来る戦力があるのなら、彼の力は必要無くもある。
そして彼にとっても大抵の場合報酬で魔石を買うよりも、戦って手に入れる方が効率が良い為に現金収入が入る事は少ない。人里離れた魔境で強い魔物と日々戦っている。
しかし、日々弟妹の成長期で魔石の必要量が多くなっている為に、魔石を買える現金も必要としている。高位の魔物も常に纏まっている訳では無いので、狩るごとに魔石を得られなくなってきている事もあり、現在高額の稼ぎを得られる仕事を探している。
自分の犠牲一つで済むのなら、何でもする所存。
尚、超人遺伝子が完成する要因として人の形に留めると言う要因が強く顕在化しており、外見等は実在しないレベルの普通さと言う矛盾した性質を持つ。
髪すらも特徴的にしようとすると急速に生え変わるなど、徹底した普通因子を持つ。
傷も高い再生能力を与えられた訳でも無いのに、普通の形を維持する為に急速に再生。
ただし通常の再生能力とは違い内蔵などの内側に対しては作用しない。外から見える程深く傷付けば再生するが、内側のみであれば通常よりも早い程度で終わる。そして目の欠損など明らかな傷を被った場合は巻き戻すように急速に再生する。
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【平凡な程主人公】である。
・カタストフ・フォン・クレムロ
四年三十六組。演武科。
美に重きを置く武術を駆使する少年?。物語にある、それにしか無い派手な魅せる武術に憧れそれを修めている。
生家のクレムロ家はルゼンレシム世界において、元々祭司の一族であった。その歴史は辿るのが難しい程古く、長い歴史の中でその司る祭や儀式も変わり多様化し、現在では演劇や舞を奉納する役割を継ぐ一族となっている。
彼はクレムロ家の奉納演技を誰よりも間近で、遊びを忘れて見るほど熱中していた。そして演じられる英雄に憧れ、成りたいと言う夢を持つようになる。
彼は魅せる演出としての武術を学ぶ傍ら、その技術を実際に魔物相手に実践した。だが、演舞は闘う為の技術では無い。それでもめげずに一つ一つの動きを意識しながら闘い続けた。そして、結果的には闘えない筈の技で魔物を圧倒出来る力を手にした。
実戦としては拙い技で闘い抜く為に相手の動きを読む力に長け、何処でも派手に動ける強靭な身体能力を手に入れている。
また、魔術も派手さを重視しているのに倒せるよう、魔力量の増大と他での無駄を無くす繊細な魔法技術も身に着けている。
つまり、結果としては常に修行しているような状態で力を身に着けるに至った。
既に演劇の元となった英雄よりも色々と凄い。
尚、オネエ系だが、これは役者としても化粧をする内に何時の間にかそちら側になっていた。
化粧技術を磨く為に、ある意味本職の女性陣と仲良くしていたら意気投合し、男もイケると気が付いた。
但し、明確に同性を好きになった事は無く、とりあえずのスタンスがあるだけでもある。しかし青少年の童貞を卒業するの感覚がそちらに寄ってしまっている。
また余談だが常にしている化粧を取ったら、俳優らしく二枚目と言う結構な残念系。
化粧を取って身に着けた技術で大物を倒したらすぐさま誰から見ても英雄として駆け上がれる。
しかし本人としては止めないが英雄を倒すなど子供の夢だと現実的に考えており、戦士方面としての活動は一人隠れての鍛錬しかしないので、世間からは変わった役者としか見られていない。かなり残念な人物。
因みにもはや誰も覚えていない事だが、演じられている英雄はクレムロ家の家名が無い頃、太古の先祖であらゆる意味で力が継承覚醒する可能性がある、と言うよりも必要な場面が現れれば何時でも顕在化し、世界を救いに動く運命の下にある。
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【劇の英雄は本物を超える〜役作りの結果本物以上になった件〜】である。
・バルグオルグ
四年二十七組。美容科。
美容を己の肉体を鍛える事で成す少年?。始めは彼の住む国の姫騎士、世界一の美女とも言われる絶世の美女に幼少の頃助けられて、シンプルに憧れた。
しかしヒーローになりたいと言う夢の像の彼女は美し過ぎた。その在り方を目指す内に、美を求めるようになる。
彼の家は裕福では無く、嗜好品である化粧品を買えなかった。そこで物が無くても出来る健康法を実践する事にした。つまりは身体を鍛える事になる。そして肉体を鍛える内にその道の先達と出会い、今度はその肉体美に惚れる事となった。
そうして結果的に同性を好きになる。因みに彼は美しいものが好きなのであって、彼にとっての美しいものとは強さ、その象徴が見て分かる肉体美が好きなだけであって、対象数が少なくなるが普通に異性も愛せる。
尚、それを愛し求めるだけあって、鋼のような肉体を持つ。外見通りその防御力は自然体でも砲弾を幾度も跳ね返し、そのパワーはロープを周せば引くだけで街の外壁を薙ぎ払える。更には健康法として鍛えてきた結果か、猫のようにしなやかに動ける。
また健康食品と称して伝説の霊薬の探索や服用を多数しているので、言葉通りの超人にもなっている。自在に鱗を生やしたり獣化したり水中でエラを出しだして呼吸出来たりと、超生物と化している。
ただし肉体はあまりにも強靭だが、実は武術を身に着けている訳ではない。魔術も多少は使えるがその全てが健康法美容法であると、戦闘面では鍛錬していない。そしてする気も無い。自称荒事は苦手でか弱いらしい。それにも関わらず、そこらの国家には傷一つ付ける手段が無い。
また、美を極める一環として美しい心でいようとも心掛けている。外見はインパクト過大だが、困っている人は見捨てず、人望が厚い。近所の子供達からは大人気なほど好かれている。
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【武王の鍛錬? いえ美容師の美容法です】である。
・シュナイゼル・クレイア
四年九組。風紀委員。司法科。
【契約の守護者】と皆から呼ばれる真面目で規則正しい少年。
契約の履行を対価に力を得る契約を、先祖から受け継ぎ結んでいる。
因みに契約相手はいない。加護と同じようにステータスに現れる契約であり、強いて上げれば契約相手は世界、もしくは自分自身である。仕組みとしては魔力を対価に現象を引き起こす魔術のように、ある種の等価交換である。
契約内容は人々を守る事。
契約は通常、自らの行動を一部縛る事で成され力を得るが、彼の場合は災厄が封印された地を維持する事により人々を守る為に、その場から動けないと言う対価で成されている。因みに封印する力と封印で得る力は相殺される為に彼の力とはなら無い。
しかし彼の力は強大である。そしてアンミール学園に所属している。何故なら彼は殺意を持っていたから。
彼は真面目で規則正しい、曲がったことの許せない人間であった。
そして、彼の守る人々は曲がった人間であった。許容範囲以上に。彼の一族が封印を維持する為に与えられた特権を奪い、何百年にも及ぶ彼らの犠牲と努力に敬意の欠片も払わず、寧ろ御伽話を信じる馬鹿や異端者として嘲笑する、そして彼らから奪ってきたものを他人を蹴落とす為に使う、そんな人間であった。
だから彼は強い。何故なら、彼はその人々を滅ぼし得る力とその行為を肯定する怒りがあったから。
それを責任感や正義感で抑えていた彼は、それだけで人々を守る行いをしていた。人々を虐殺しない事で。その契約によって得た力は彼に力を与え、更に彼が強くなる事で契約の履行幅が広がり、加速的に彼は強大な力を手にした。
そしてある時彼は、事故死と伝えられていた両親の死の真相が、土地を手に入れる為だけの謀殺であった事を知り、遂に我慢するのを辞め封印の地から離れた。契約の代償が彼自身の中に有る事で、問題なく離れられた。
解き放たれた災厄、古のダンジョンからは膨大な数の魔物が溢れ、その地の人々は蹂躙された。
そしてその蹂躙の中、自分が助かる為に他者を蹴落とす人々の姿を見た事で人間への信用を完全に無くす。
規律こそが獣である人間を人と成すと考えるようになる。
そして良き規律を守らぬ者は魔物と変わらぬと考え、常に殺意を内に秘めている。
ぎりぎり国は始めの場所以外滅ぼしていないが、滅ぼした街の数は覚えていない程。近くに守るべきと考えたものが存在すれば躊躇なく動く。その事によって契約は成され続け、彼の力は上がり続けている。
因みにアンミール学園の生徒に関しては、そもそも人間じゃないと考えており、殺意までは覚えない事の方が多い。しかし違う理由で殺意が湧くことは多々あり、全力で対処しようとする。何だかんだアンミール学園が一番落ち着ける。
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【人類を守る契約は、彼が動かない事で成される】である。
・メービス
三年三十六組。風紀委員。聖女科。
魔女族の少女。魔女のイメージと違い聖属性魔法に高い適正を持つ。運命的に選ばれたのでもなく、実力で“聖女”のジョブにまで就いている。そして魔女のイメージに違わず御伽話にしか無いような魔術の数々を使える。
魔女族は外見的特徴は人間と同じだが、女性しか居らず皆一様に高い魔術への適正と大量の魔力を持つ。そして魔力を高める程に寿命が長くなる特性を持ち、その代わり子が生まれにくい種族である。そして、人間から稀に生まれる、先祖返りの確率が他種族に比べて高い、何世代経っても生まれる可能性の残る種族である。
彼女の住んでいた国で魔女は忌み嫌われていた。宗教色の強いかの国では魔女を人に化ける悪魔とし、魔女を匿う事は異端とされた。そして彼女の村は焼かれた。ただ魔女が生まれたと言うだけで。
幸いにして彼女は魔女を保護して周る同族に保護されたが村は全滅。その後同族の元で育てられる。そして決意する。もう二度と大切なものを奪わせないと。
そして聖女になった彼女は決意する。新たな宗教を作ろうと。差別と言う一括で人を殺戮する邪教を滅ぼそうと。人は善性のものであると信じている彼女は、人が悪いのでは無く、宗教がそうさせるのだと考え、聖女たる自分が救おうと考えた。
そして、そう思うからこそ、復讐譚を超える残酷な殺戮を開始した。何故なら、人は善性なのだから。
新たな教えを施しても信じない、悪人でも何でも無い人を殺さないと言う誰でも正しいと分かる善き教えを理解しようともしない存在は、彼女からしたら人間では無かった。
これこそが人を悪へ引き摺り込む悪魔だと信じて疑わず、それこそ得体の知れない者を魔女と呼んで狩る魔女刈りが如く狩った。
仲間を吐き出させるように聖女としての回復の力まで存分に駆使し拷問し、悪魔の断罪で悪魔に惑わされていた人々を安心させようと、盛大に公開処刑した。
魔女であることを隠さず獲物が自分から来たと逃げもしない彼女を騎士の軍は討伐に何度も赴くが、全滅どころか悲鳴を民衆に聞かせる見世物に加工され、幾つもの街が彼女に焼かれた。
単純に彼女は強かった。聖女のジョブに就いているだけで、最高峰の素質。そして魔女と言うだけでも宮廷魔術師並の才能。
それが村単位で容赦なく刈り取り経験値を得ていく事で抑えられる者などかの国には居なかった。そして遂には首都も血祭りに上げる。
そんな彼女でも、アンミール学園では常識枠。まず同じ人であると断言できる者すらいない程、突き進んだ彼等は一々種族なんかを気にしなかったから。あくまで聖女のように人の善を信じる彼女は、人を虐げようとする者が居なければ聖女であった。
そんなこんなで風紀委員入りをする。周りは彼女の狂気を、そして彼女自身も自分の怖ろしさを知らない。
彼女が主人公の物語に題名をつけるならば、【魔女の魔女刈り〜異端者による異端審問は大虐殺〜】である。
・アバウルス・ディメロン
四年三十一組。風紀委員。魔術科。
神聖ゼルベンドラ帝国に代々仕える抑止の家と呼ばれる、貴族と同等の権限と地位が与えられているのに名が与えられていない特殊な家系に末裔として産まれるが、祖父の代からはその地位と権限は何故与えられていたかの記録が無かった為に没収され、父の代で貴族から貴族じゃないのに貴族と同等の財があるのにそれを守る力は無いいいカモとして目を付けられ、完全に没落した。
その後彼の両親は家を再興させようとする過程で過労で亡くなり、彼は生活費を稼ぐ為に冒険者となった。
そして冒険者となった事で、彼は自分力に気が付く。
彼は生まれながらにして〈広域魔法〉と言うユニークスキルを有していた。このスキルで彼は儀式でしか再現出来ないような大規模な魔術を普通の魔術のように扱い習得する事が出来た。
更には家に遺されたアーティファクトにより他の魔法が使えなくなる代わりにその大規模魔法を早く習得し習熟させる事が、そして魔力量を多く上げる事が出来た。
その力こそが抑止の家が誕生したきっかけとなった、抑止力となりうる強力な力。一撃で敵軍を壊滅させ都市をも陥落させられる、しかし大き過ぎる被害をもたらす使えない切り札となる力。
そんな力を持つ彼は、その価値や立ち位置を考えもせず普通に冒険者として働いた。
ホーンラビットの討伐に赴けば森ごと焼き払い、ゴブリンの討伐に赴けば山ごと洞窟を崩した。たった一匹が相手でも広域魔法ぐらいしか戦闘技術を持たない彼はその他多数ごと粉砕し続けた。
その事はすぐさま噂となり、皇帝を始めとした権力者達の耳にも届き元通り仕えさせようと使者を送ったが、先の没落で完全に王国を嫌っていた彼は取り付く島も与えず拒否。
逆上した使者は剣を抜き斬りかかって来たが、彼は防御魔法、街一つ覆うタイプの結界を自分を起点として発動し、身を守った。
その結果、街を覆おうと広がる結界は使者もろとも建造物を押し流し街一つを壊滅させる。
その事件で権力者達は彼を犯罪者として捕らえ自分達の手駒にしようとしたが、彼は常に自衛し続けた。
唯一使える範囲魔法と言う自衛手段を。数人の騎士を倒す為に範囲爆撃魔法を用いて騎士の後ろにあった砦ごと爆砕し、山で暗殺者に襲われれば洪水魔法で土石流を生み出し麓の街一帯ごと押し流した。上記のように最も穏当でも防御魔法で街は瓦礫に。
彼は巻き込まれる者達を含め容赦せずに敵を滅ぼした。
その事を責められても殺しにかかってきたお前達のせいだと平然と言い払い。その事で剣を向けるものには、元凶である帝国を打て、ここで戦い巻き込まれる者達がいたらそれはお前達の責任だと気にも止めなかった。と言うよりも彼は帝国を絶対の悪とどこまでも信じ、巻き込まれた者達も帝国の哀れな被害者とし、自分が悪いと言う思想は欠片も持ち合わせていなかった。
そして彼が襲われる事に被害は何処までも拡大していき、討伐隊が増えれば増えれる程、加速度的に帝国は甚大な被害を受け続けた。
やがて彼の討伐を不可能とみた人々は、彼を襲撃させた者達を反乱で討ち取り、彼に首を捧げここで戦う必要は無いと必死に説得した。一つそれが成功を納めると加速度的に反乱が広がり、遂には帝国は滅びた。
そんな抑止力として使ってはいけない力を、自衛の為なら当たり前に使う少年。
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【抑止力は民間人になる〜広域魔法しか使えませんが、冒険者になろうと思います〜】である。
・ユーサス・ベルトン
三年八十組。風紀委員。軍事科。
自称愛国主義者。ただしその国の形は言葉だけの理想と彼の頭の中に在り、実在していない。
リレーシ世界バルガロン王国、ベルトン騎士爵家の嫡男。四代続く領地無し専業騎士の嫡男として、ほぼ一般家庭と経済状況は変わらない環境に生を受けた。
数十年続く戦乱の中で、一族の男達は倒れ、最後に父も倒れた事で彼の家は没落する。更には母が病を患い、幼いながらも家計を支える為に働きに出るようになる。
ここまではよく有ると言えば有る話だが、彼は愛国主義者であった。騎士として代々国に仕える父達に騎士道を教わり、如何にここが良い国なのかを教えられてきた。
ある種宗教の善の定義に全て当て嵌まる聖人よりも理想でしか無い、国の在り方、王の在り方、貴族の在り方、民衆の在り方を真に受け信じていた。
平民と対して権力差のない、寧ろ没落して弱い立場の彼は差別された。ある時は片親だからダメだと、ある時は騎士の癖に死んで役に立って無いのに金を貰うのかと、謂れの無い差別を受けた。
そして激怒する。単に馬鹿にされたからでは無く、彼は愛国主義者であったから。
戦争に行きもしないから生きているのだと、行ったとしても死力を尽くして仕えて無いから今生きているのだと、そんな非国民とその家族が国に命を捧げた家族を馬鹿にするのかと。
延々と並べる狂気の愛国精神に、抗える者は誰一人も居なかった。
黙らせようとした者は、幼少期より騎士の鍛錬を欠かさず続け、更には優れた素質を持った彼に黙らされ、言葉では長年の疲弊により軍国主義の強くなった国では、愛国主義の理屈の前では無力であった。
止めようとしてお前も非国民かと言われてしまえば、それは治安を司る者達にとっても、いやそう言う者達にとって致命傷であった。
理性では反対していても実際に止められる者は居なかった。
そんな中で、彼は差別した者を滅多打ちにした。
気が済むまで延々と。
そして忠義者である我が家よりも非国民が富を持ってはならぬと、財産も奪った。
その罪を問い、奪った財を奪おうとする騎士や貴族に対しても、何故父より弱かったお前が生きて俺に指図する?と非国民と決めつけ滅多打ち。更に財産没収の過程で不正の証拠を発見、それに繋がる者達も同様の目に合わせた。
そして愛国精神だけでなく不正の証拠まで見つけ出すので、誰も彼を止められなかった。
強制的に墜された貴族と同派閥の貴族達が遠回しに報復しようと、彼を戦場に送り込むも、今度はそこで大活躍。
自称愛国主義者な彼は国の為の戦では大人しかったが、そこでも当然曰く非国民を許さず、まともな上司になるまで処分するなどもし、その悪名を隅々まで轟かせる。
自称国を想う彼は大変な努力家であり、時間の許す限り戦い続けた。一人でも多く敵を打倒し、一人でも多くの非国民を炙り出す。
今までの行動も実を結び、彼は相当に強かった。
例えるならダンジョンで一匹も魔物を逃さずに仕留めながら進んできたから。訓練の頻度と同じくらいに実戦を繰り広げて来たから。
また奪った財は国の為に使おうと、自分が国に尽くす為に使おうと、後先考えずに全て装備とポーションに費やしていた。
魔法の袋を買い、いつの間にかアイテムボックスを使えるようになりながら、莫大なポーションで回復を続けながら戦う彼は強過ぎた。
傷を負いながらもすぐさま回復させ、決して退かない戦い方は〈再生〉や〈魔力回復〉、〈治癒魔法〉の才能まで開花させ、止まらない戦士と化した。
何度も様々な攻撃をその身に受けながらも進む事で各種耐性スキルを身に着け、無理矢理肉体を酷使する事で強化スキルまで身に着けた。
彼を止められる者が居なくなるまで、大して時間はかからなかった。
途中、アンミール学園にまで通う事になり、その驚異の成長スピード故に対応が間に合わず、彼はその後も変わらず行動を続けた事で、遂には王としての在り方にそぐわない国王までも排除すると言うとんでもない事をしでかす。
その後継者達も皆、王の器で無かったので、結局王朝を滅亡させる。
その結果政治体制は大きく変わり、事実上バルガロン王国を滅ぼす。
これでも尚、彼曰くこれは愛国主義の結果である。
悪いとは欠片も思っていない。
彼の愛国主義とは、国を愛せる形に変える主義であった。
現在は周辺の敵国も戦争の結果滅ぼし、新たな王権を握ろうと元の国境関係なくあちらこちらで自称王が彼の目に止まらないように静かに乱立し、もはや国がどこにも見当たらなくなったので、偶に様子を見に行くくらいでアンミール学園に移住している。
アンミール学園では全員理想に向かい突き進んでいるので、その中で彼は比較的まともな普通の理想主義者、その一環として風紀委員を務めている。
尚、元バルガロン王国のあった地域は、長く続けた戦乱が無くなり、圧倒的力によって理想を強制させられているのて、王が乱立するなどかつて無い大混乱にも関わらず、何故かリレーシ史上屈指の平和な時代を築いている。
最終的にはとんでもない理想爆弾に監視された共和制に落ち着く。
彼が主人公の物語に名前を付けるならば、【愛国主義者は愛国主義で国を滅ぼす】である。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
他話のモブ紹介はもう少々お待ちください。