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偉人達のセカンドライフ  作者: ジャック
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第二章 秀吉

第2章 ―秀吉―

 

 信長が学園に登校しだして早くも一週間が経った。初日の試合の事もあり信長は学年を問わず、殆どの生徒が彼の名前を知るほどの有名人となった。

「動物園に来たパンダか俺は」

「あはは・・・」

 この一週間で信長の名を知る者が増えるのと比例して、京花の苦笑も増えていった。

 そして、今週から本格的に魔法体育祭の練習が始まった。鈴奏学園で行われる魔法体育祭では、通常の体育祭の競技と、この学園で一年に二度行われる魔法闘技祭の選手選出の為の全生徒参加型のクラス対抗試合が行われる。

 信長が来たことによりクラスは参加条件を満たし、信長の存在により一気に優勝候補となった。それと同時に、多くのクラスから警戒される事となったことは、すでに一組の全員がわかっていた。

 そして現在、食堂にて京花とふたりで食事をしている。ちなみに信長は和食セット、京花はパンとサラダだ。

「こんにちはー!鈴奏学園新聞部の『名取文世』でーす!織田信長君!インタビューに来ましたー!」

 信長と京花が昼食をとっていると、そこに新聞部が来た。どうやら信長の取材に来たようだが。

「断る、何度来ても答えは変わらねぇぞ、それに今は昼食中だ」

 彼女は先週の試合以降ずっと信長を取材に来ている、信長の同じ一年一組の新聞部員である。

「そこをなんとかっ!今話題の君の情報を多くの人が求めているの!だから、私には君を取材する義務がある!」

「俺にはそれを拒否する権利がある」

「ぐはっ、それを言われるとぐうの音も出ない…」

 信長の即答に項垂れる文世を見て、信長は大きくため息をついて京花に向き直った。

「悪い、ちょっとコイツに付き合ってやるから先に言っててくれ」

「え?あぁ、うん。別にいいけど」

 そう言うと京花は食器を片付け食堂のカウンターに食器を返しに行った。

「えぇっとー、ホントに良いの?」

 文世が恐る恐る聞くと信長が急に真顔になって口を開いた。

「あぁ、ただし条件がある。クラス対抗戦、確か四人でチームを組まなきゃいけないんだったよな?」

「そうだけど、それとこれと何の関係が?」

「お前、俺のチームに参加しねぇか?」

 そう言ってチームメンバーの申請書を出した。

「えぇ?!えっとそのえーっとー!ちょっと待って!?どうしてそうなるの?」

「大声出すな、只でさえ目線がこっちにあるのに余計に集めんな」

 若干疲れた様な顔をしてそう言ってジトッとした目で文世を見た。

「あ、ごめん…でもどうして私なの?信長君みたいに強くないし、京花ちゃんみたいな治癒魔法の才能もないよ?」

 心底困惑して文世は聞いた。

「あぁ、この前の索敵の授業の時にお前の索敵魔法を見たんだ、その時に多少魔力の波動を感じてな」

「あ、そっか。信長君って波動感知能力高いんだっけ、それでどうしたの?」

「その範囲が広く感じてな、それでお前をスカウトしようと思ってな」

「え?私の広かった?魔力も適性度も平均並なんだけど」

 信長が本気で言っているのがわかり、文世は緊張して多少おろおろしながら答えた。すると急に微笑みながら口を開いた。

「そんなに緊張するな、何もとって食おうという訳じゃ無いんだ。もっとリラックスしてもいいんだぞ?」

「へっ?あぁ、うん」

(急にその笑顔は卑怯だよー…信長君ってちょっと怖いイメージあったけど、結構格好いいな…って何考えてるの私は!)

 文世の脳内の葛藤を知りもしない信長は話を続けた。

「それでどうだ?もし他に誘いがあるならそっちでもいいぞ」

「あ、いや別に誘いは無いし別にいいよ。それに、チーム組んだら取材させてくれるんだよね?」

「最初に言った通りだ、なんなら契約書でも書くか?」

 信長は苦笑しながらそう答えた。

「いや、そこまでしなくてもいいよ。うん、わかった。じゃあよろしくね」

 そう言って文世は手を差し出した。

「あぁ、よろしくな」

(うわぁ、信長君の手大きいなぁ…って私はまた何考えてるの!?)

 またも文世は葛藤するが、信長は全く気付く様子はない。

「あ、そういえばあと一人って誰なの?もしかしてもう決まってるの?」

「その事か、それならまだ決まってないな。だがスカウトする奴は決めてる」

「誰?クラス内で強い人って言えばこの前信長君が揉めた彼らだけど、流石にあれとは組まないよね?」

「まあ、あれはないな。役割で取り敢えずまとめて考えて決めた」

 そう言って信長はクラス名簿を取り出して一人の生徒を指差した。

「火力、回復、索敵と来たら最後は、策罠だな」

「え?その人?」

 そして信長はクラス名簿を開いて机に置きニヤリと笑った。

「さぁ、最後の一人をスカウトしに行くぞ」

 そう言って歩き出した。

 そして、机に置かれたクラス名簿の生徒名の欄に、赤いペンで丸が2つ書かれていた。

 1つは文世でもう1つは、

 

『豊臣秀吉』

 

 

 信長達が食堂を出る頃、教室は賑わっていた。

 既に開催まで二週間をきった魔法体育祭で行われるクラス対抗戦のチームを決めたり、既に決まっているチームは作戦等を考えたりで更に今年は信長という切り札があるため一部の生徒を除いては指揮が高まっていた。

 そして、その一部のグループの中にも属さずに一人で静かに本を読んでいる生徒がいた。

 そしてそこに信長と京花、そして先程チームに加わった文世が来た。

「お前、豊臣秀吉で合っているよな?」

「そうだけど、何?」

 信長の問いに対して本から目を離す事なく答えた。

「お前、俺とチーム組まないか?」

「どうして僕みたいな落ちこぼれなんて誘うのかい?他にも強い人はいっぱいいるよ。いくら校内に敵が多いからって僕じゃなくてもいいと思うけど」

 未だに無関心そうに喋る秀吉に対して京花は不思議そうな顔をした。

「敵が多いってどういう事?信長君って校内の人気者じゃん」

「信長君は強すぎるんだよ。それで今まで魔法適性度の高かった人達の地位が崩れる可能性がある。つまり魔法適性度の高さで地位を築いている生徒にとって信長君は邪魔者なんだよ、新聞部でもそういう記事を書こうとする先輩がいてさ、だから早く取材して私が記事を書こうと思ったんだよ」

 京花の問いに対して少し嫌そうな顔をして文世が答えると、今度は信長が苦笑混じりに話始めた。

「まあ、そういう事だ。て言うか別にそんなしょうもない理由じゃない、ただお前の力が必要なんだよ、豊臣秀吉」

「さっきも言ったよ、僕は落ちこぼれだ。このクラスどころか学年で一番魔法適性度は低いし君達三人みたいに特殊な何かがあるわけでもない。君が僕を誘う理由がわからない」

 自分を高く見ることをせずひたすら自分を卑下する秀吉に対して、信長はため息をつきながら話し出した。

「別に俺は魔力適性度で人選してる訳じゃ無いんだ、ただ俺にとって必要な人間を集めてるだけだ」

「どうして僕が必要なのさ」

「お前、いつも設置魔法の魔法書読んでるだろ、それもかなりの骨董品だ」

 そう言って信長は秀吉の持つ本を指差した。

「そして極めつけは設置魔法の授業の時にお前が使った魔法の数、そして持続時間だ。文世の索敵魔法で敵を見つけ、寄ってきた敵を俺の波動とお前設置魔法で倒す。そして疲労やダメージは京花の治癒魔法で補う。この作戦はお前の魔法の持続時間と数がないと成り立たない。だから俺には、いや…俺達にはお前が必要だ。協力してくれないか?豊臣秀吉」

「はぁ…そこまで言われちゃ断れないよ。でも、本当に僕でいいのかい?」

「あぁ、男に二言はないって事だ。よろしくな、秀吉」

 そう言って文世の様に手を差し出した。そして秀吉もその手をとった。

「よろしく、でも期待はしないでね。信長」



―翌日―


「さてと、今日は1日中一年一組が校庭とクラス対抗戦の練習様の裏山使っていいそうだ。本番は校庭に魔法で森を作ってそこで行われるって言ってたか」

 担任の弘太郎が生徒の前に立ってだるそうに説明すると信長が多少呆れた様な表情をした。

「無駄に大掛かりだな、それに本番と練習では場所が違うのか」

「あはは…仕方ないよ。この学園って結構優秀な生徒の排出率が高いから色々な業界の人が視察に来るんだよ。だから演出とかも凄いんだよ。去年なんて召喚魔法使って炎竜を擬似召喚したんだって」

 擬似召喚、それは召喚魔法の一種で実物ではなくその姿形を展開した魔方陣の上に写し出す、立体映像の様な物である。

 そして信長は京花の言葉を聞いて今度は驚いている。

「炎竜を擬似召喚だと?いくら擬似召喚だとしても、魔法使い数十人の魔力を全て注ぎ込むぐらいじゃねぇと炎竜の擬似召喚なんて不可能だぞ」

 本来召喚魔法はその規模により魔力の使用量が決まる。並の動物で有れば練習すれば召喚から操る事まで出来る。

 しかし竜族、それも炎竜となると人間一人の魔力では召喚できない。例えどれだけ魔法適性度が高くても、どれだけ体内の魔力の量が多くても、炎竜の召喚は不可能だ。

(そういえば一年と少し前に集団行方不明が起こったな、しかし一人一人に関係性が全く無いことから捜査が難航した。しかし7月になってから続々と見つかりだした。だが行方不明になっていた間の記憶がすっぽり抜けていた、か。ニュースを見て不自然には思ったが、まさかな)

「どうしたの?信長君、難しい顔して」

 信長が考え事をしていると京花が信長の顔を覗きこみながらそう言った。

「いや、何でもない」

 その返答に京花が首を傾げていると弘太郎が説明を再開した。

「ほらほら、お前ら静かにしろよ。練習の時間減ってもいいのか?ダメだよな?よし、という事で今からクラス対抗戦のメンバーで集まれ」

 弘太郎の指示を聞いてそれぞれのチームで集まった。

「どうするの、信長。流石に本番様の作戦使うとは言わないよね?」

「あぁ、取り敢えずなるべく木とかが少なく見通しのいい所に陣取るぞ」

 秀吉の質問に答えつつ作戦を考えていると、京花と文世が杖や短剣、防具等を装備しだしたのを見て、信長と秀吉も準備を始めた。

「あれ?信長君の武器って刀だけなの?」

「あぁ、基本は此で十分だ」

 信長はそう言って刀を納めた鞘を、ベルトに通した。

 そうやって数分たった頃、弘太郎が拡声器を持って集合の合図をかけると全員が集合場所に集まった。そしてそこには三年生の章を着けた生徒が四人いた。

「えーと、今日急遽決まった事なんだが、本番はこの三年生の四人も参加する事になった。じゃあ四人は挨拶を」

 弘太郎がそう言うと、一番右側にいた男子生徒が前に出た。

「それじゃあ僕から。皆さん初めまして、知ってる人もいるかもしれませんが僕はこの学園の生徒会長を勤めている『飯島和真』です。入学式では少し諸事情により出席出来なかったので、公式に顔を合わせるのはこれで初めてですね。ちなみ、今日の練習に参加して今期の生徒の実力の視察を行うつもりです」

 最後の言葉にざわめきが起こると、和真は苦笑いしながら一年一組の生徒にもう一言言った。

「参加と言っても、僕達は基本攻撃しませんから大丈夫ですよ。それじゃあ次お願い」

 和真がそう言うと、隣に立っていた男子生徒が怠そうに一歩前に出た。

「あー、生徒会副会長の『木野礼二』だ。以上」

 短すぎる挨拶に、呆気にとられた一組に次の生徒が前に出て満面の笑みで自己紹介を始めた。

「私はさっきの無愛想なツンデレ王子と同じの「誰がツンデレ王子だ」…あーもうわかったよ。さっきの木野君と同じの生徒会副会長の『相原瑠衣』です!皆よろしくね!」

 ニコニコと笑い、一組の男子の心を軽く掴んだ。……一部を除き。大半の生徒がオォォォォ!と盛り上がっているのを見て、女子は呆れたような、信長と秀吉は興味が無いような、そして弘太郎は苦笑いをしながらその光景を見ていた。が、流石に時間が遅れるので生徒を黙らせる。

「おーい!お前ら静かにしろ!アイドルのライブ会場かここは!」

「突っ込みがおかしいと感じるのは俺だけか?」

「信長、激しく同意」

 やがて静かになり、最後の一人が一歩前に踏み出した。

「生徒会書記の『有村和花』です。本日はよろしくお願いします」

 最後の一人、和花の自己紹介が終わると和真がもう一度前に出た。

「以上四人で、今日皆さんの練習の視察と少しの手合わせを行います。それでは先生、よろしくお願いします」

 そう言って、話を弘太郎に繋いだ。

「よし、それじゃあ説明するぞ。練習は午前と午後で二回ある。今回はクラスの戦略を考える為に一度目は全員参加、そして二度目は一度目の成績がトップ5に入ったチームでやってもらう。尚、三年の生徒会チームは無条件参加だから合計すると6チームで競ってもらう。武器は全て刃を落としたものを仕様するように、銃火器等の場合は弾丸は魔法で精製して、あくまでも人体に致命傷を与える様な攻撃は禁止とする。それでは準備を始めろ!集合は10分後だ!解散!」

 弘太郎の号令で全員が素早く準備に取りかかる。そして、誰も不敵に笑う生徒会長に、和真に気付かなかった。

 

 

-十分後-

 

 学校の裏手にある山、その山頂に転移魔法の魔方陣が開く。そしてそこに一瞬で一年一組の生徒と生徒会のメンバーが出現した。

「それでは、各チームで解散。通信用魔方陣を耳に当てて俺の開始の合図を待て。それでは、各自解散!」

 全チームが一斉に走り出した。生徒会チームも同時に動き出した。

「さてと…生徒会と織田のチーム、どちらが勝つか。コイツは面白い物が見られそうだな」

 誰も居なくなった山頂で一人ニヤリと笑ってそう呟いた。

 

「そろそろか、それでは全チームに継ぐ!試合……開始!」

 

 

 数々の思惑が交差する戦いが始まる頃、山の土の下で、何かが目覚めた。

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