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「目的地に到着しました」

作者: 河東ちか

 知り合いのご夫婦の、奥さんから聞いたお話。


 Nさんは年の差夫婦で、ご主人は数年前に定年退職されてます。Nさんご自身は、まだパート現役。

 このご主人、車でちょっと遠出が好きなんですが、持病があって、車が運転できない。いえ、病気そのもののせいじゃなくて、飲んでいる薬が強い眠気を誘うことがあるのだそうで、それを飲んでしまうと運転ができなくなります。

 そのため、車で遠出となると、運転はずっとNさん。

 Nさん自身は家事にパートにと忙しいのに、そこにご主人の運転手役もこなさなければいけない。

 ちょっとした買い物にもかり出されて、家に一緒にいるだけで最近はストレスになるそうです。


 そのNさん、先日は、ご主人が勝手に行き先を決めた二泊旅行に行ってきたそうです。

 ご主人は、計画段階では、Nさんに一切相談しません。

 場所も日程も勝手に決めて、Nさんは「○月×日に休んで」といわれて初めて日程と行き先を知る。それもざっくりと場所を教えられるだけなので、結局出かけるまで、なんのために出かけたいのかさっぱり判らない。

 それに、自分ではもう運転をしないため、運転手のNさんの休憩時間等をまったく考慮しない計画を立てるそうです。

 ご主人は「連れて行ってやっている」つもりのようなのですが、Nさんは自分で行きたい旅行ではないわけです。それに年々の体力の衰えもあって、長距離の運転は楽しいよりも憂鬱さが勝るとか。


 で、Nさんが運転手をした今回の行程の中に、パワースポットとして一般常識的に有名な、とある神社がありました。

 渋滞を避けて深夜からかり出され、途中、ご主人の段取りの悪さにうんざりさせられての到着。

 参拝中、Nさんはふと、


「この人が早くいなくなってくれれば楽なのに」


と思ってしまったそうです。



 さて、このご主人、一応ナビ役は務めるそうで、最近やっと扱いを把握したタブレットの、GPSを使ったナビ機能を利用しています。

 しかし機械音痴で、最近まで経路の検索から、高速道路の選択を外せることもしらなくて、よくナビとケンカしていたとか。

 ナビを見ながらでも平気で道を間違うため、しまいにはNさんも自分のスマートフォンで同じナビを起動させて修正することも多いのだとか。


 その神社から出て、次の目的地に向かうときも、ご主人はタブレットで行き先を設定してナビ役をしていました。

 しかし、神社に来たときまではなんとか迷わず来ていたのに、そこからが大変。

 気がついたら反対方向に走っていたり、同じ所をぐるぐる回っていたり。

 仕方ないので路肩に車を止め、Nさんが自分のスマートフォンのナビを起動させると、ご主人のタブレットのナビも持ち直す。

 GPSの受信機能が弱くなっているのかな? 買ったばかりなのに変だなと思いつつも、なんとかその日の宿に到着したので、ふたりともすっかり油断していました。

 宿は朝食だけ頼んでいたので、晩ご飯は少し離れたレストランに食べに行こうと、部屋に荷物を置いて二人は再び車で宿を離れました。

 もう日は沈み、辺りは真っ暗。ナビは渋滞を避けて細い道路も通るので、知らない土地の外灯がない道で心細く思いながらも、目的のレストランに到着しました。

 ご主人がチョイスした割にセンスも良く良心的な値段のお店で、一日の鬱屈した気分もなんとか晴れたNさん。

 ご主人のタブレットのナビで、宿へ帰ります。

 しかし。


 指示通り走っているのに、どうにも来たときと道が違うような気がする。


 昼間で、景色が見えていればすぐに間違いに気づいたのかも知れませんが、初めての土地の、しかも灯りのない細い山道。やっと明らかに違うと確信できたのは、来たときには絶対通らなかった細い砂利道にさしかかったからでした。

 しかし、路肩に寄せて車を停められるほど道幅がなく、Nさんは自分のスマートフォンで確認できる余裕がない。暗い中、狭い道をバックで戻る勇気もありません。

 せめてUターンできる場所はないか、不安な気持ちで走っていたところ、道の先に古い電信柱にぽつんと外灯の灯った、開けた場所があるのに気がつきました。

 やっと停められる、とほっとしながら、道の先に出ると、そこは行き止まりで。

 車のライトに照らされるのは、もうだれからも忘れ去られてしまったのか、雑草が生い茂り、雨風で一部崩れた箇所も見受けられる、荒れ果てた墓地でした。

 どうしてこんな所に、と思う間もなく、ご主人の持つタブレットのナビが言いました。



『目的地に到着しました』



 そういえば、あの神社を出てから、ご主人のタブレットのナビだけが、変な方向に連れて行こうとする。

 気がついて、Nさんは心臓を掴まれたような気分だったそうです。



 Nさんは、翌日、別の場所に向かおうとしていたご主人に、理由は言わないままとにかく頼み込み、再びあの神社へ行き、

 昨日のお願いは魔が差したんです、本心ではありませんと散々謝り倒したそうです。


 その後、ナビは調子を取り戻したそうですが、Nさんは帰るまで、ナビが変なことをしないか、ひやひやしっぱなしだったそうです。


 神社の神様か、それを見ていた別の何者かの仕業か、やっぱりただの不具合か、未だに判らないそうですけど。

 なんにしろ、ああいう所でうかつなお願いをするものではないですね。

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