殺したい彼
愛する者の死に立ち会いたいのは普通のこと。
なら、愛する人をこの手で終わらせたいと思うのは?
異常なことだろうか。
俺にとっては当たり前の感情だとしか思えない。
誰か知らない第三者の手で愛する人の生が終わらせられたら?
そんなのは嫌だ。
だから殺す。
愛しているからこそ、殺すのだ。
そして彼女は愛しているなら殺して欲しいと言う。
利害の一致、愛の一致。
すれ違うことのない、完全にパズルのピースが揃ったような存在。
どうぞ?なんて両手を広げる彼女が愛おしい。
真新しいナイフをしっかりと握って彼女を見た。
愛してる、だから殺したい。
この思いを間違いだと思ったことは一度もない。
彼女の爛々と輝く瞳はこの愛を受け入れることを喜んでいた。
歪な笑みを浮かべる彼女と同じ笑みを俺は浮かべているのだろう。
引っかかることなく、彼女の肌の上を滑ったナイフ。
柔らかい柔らかい肉の感触。
溢れた言葉は愛している、でそれを何度も繰り返す。
俺の愛を受け入れて彼女は笑う。
俺と彼女の歪んだ笑顔が交差して、彼女は小さく愛を囁く。
真っ赤な血に塗れた体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
俺はこれから体温を失う彼女の体を抱いて満足感を得た。
愛の先には殺すことを望んだ俺がいた。