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fateful encounter

作者: 橘 蒼穹

光が届かない深海よりも深い夜の底、風さえも届かず黒い霧がうごめくような闇の底


     ・・・・・コツコツコツコツ・・・・・・


鬼火を頼りに、たどり着いた場所には鎖につながれた彼女が私の目をじっと見ていた。


何十年 いや 何百年このような場所ですごしてきた彼女。


いつでも狂えそうなそんな場所にいた彼女からの発声は凜と澄んでいた。


「このような場所に客人が来たようだ。ほぅ、どこぞでみた顏よのぅ。」


僕は彼女の人離れした美しさに、息をのんだ。


「なにゆえに、このようなところにまいった。おぬしが来るような場所ではあるまいに。おぬしのような輩には日の光がほんにお似合いじゃ、はよ、このような場所からいね。」


その、突き刺さる視線と言葉に僕は当初の目的を思い出した。


「父さんが死にました・・・。貴方のことは父さんから最後にききました。貴方を解き放ってくれと・・・。」


僕の父の死という言葉に彼女は感情をあらわにしだした。


「奴が死んだというのか・・わらわを解き放てと・・・何をいまさら・・・わらわをこのよな場所につなぎとめた奴が何をいっておる・・・。」


感情の乱れからか、彼女をつなぐ鎖が、ガシャン ガシャンと耳障りな音を紡ぐ。


「父さんは僕に解放の言葉を・・・。」


「やめれ、わらわに必要ないわ。」


彼女は僕の言葉を勢いよくさえぎり、何かを思い出したかのように彼女は話し出した。


「奴がわらわよりさきに逝くとわ・・・。皮肉よのう・・・おぬしは知っておるのかぇ・・おぬしの母を滅したのはわらわだというにぃ・・・今、ここでおぬしがわらわを滅しても誰も文句は言うまい。いっそ、おぬしの力で終わらせてくれぬか・・・。」


彼女はそういうとの力の抜けた表情をし、僕に背中を向けた。好きにしろとでもいうように。その表情と背中があまりにもせつないので、僕は父さんから聞かされた話を語りだした。


「僕は知っているのですよ。全部ね。父さんから聞きました。あの時、貴方がとった行動も全部。僕はね、貴方を責めることができない。できないんです。むしろ感謝のほうが強い。母さんも貴方でよかったと思っていると思います。なのに、このような境遇は僕も母さんも望んでいない。だから、」


「やめれ、知っている?何を知っているというのじゃ・・・。ええい、この血塗られた躰を見るがよい・・・罪の証じゃよ・・・。おぬしの母が望んでおっただと、本人でない限りわかりゃせんであろう・・・いい加減なことはぬかすでないわ。」


そういって、こっちを振り向いた彼女は僕を見ると愕然とした表情を表した。


「なぜじゃ・・なぜゆえにおぬしが泣く。同情か・・ここまで堕ちたわらわに・・・。」


「僕も母さんも貴方に同情もなにもしていません。望むのはここからの解放のみです。」


「開放など必要ない。これはわらわが望んでしたこと、おぬしやおぬしの母がなにも感じる必要などないわ。それに、もう、ここで終末を迎えたところでかまわん。誰もわらわを望んでおらんゆえにな・・。」


「僕では、貴方を望むのは僕ではだめですか・・貴方が父さんに抱いていた感情は知っています。でも、あの人はもういない。僕ではかわりにならないですか?」


父さんから聞いていた通り、意志の強い貴方。僕は彼女の切ない表情を見たときに心に決めたことを実行にうつすことに決めた。後で、どう罵られようが・・・僕は、彼女が・・・。


「おぬしだろうが、誰だろうが、関係ないわ、わらわはここから出んぞ・・って、あぁ・・もう・・・泣くな。あやつの子が簡単に泣くではない。仕事を手伝えとな。いやじゃ わらわはやらんぞ。こら、泣くではないというに・・ああ・・わかった わかったから・・・。のってやるのは癪にさわるが・・・おぬしを手伝ってやるわ。そのかわり手段は選ばぬゆえに覚悟しておくことじゃ。」


涙も策略の一部だということに、いつもの彼女なら気づいたであろうが、父を亡くした悲しみとあまりの僕の泣きっぷりに度肝をぬかれた彼女はしぶしぶ僕の提案にのってくれた。


「解放と契約を・・・。」


「わらわにニゴンはないわ。古からの名をそちに託そう。わらわの名は・・・」






あの日、僕の家族になってくれた彼女と僕の父さんから引き継いだ事業をどうにか軌道にのせたものの休む暇もない僕に彼女はあきれていた。


そんな僕に見切りをつけ、僕の事務所でのんびりと茶菓子とお茶を楽しみながら、


「約束が違うではないか、ここまで、わらわをこき使うとは・・・あやつに名を託したことをはやまったわい。」


僕のもう一人の家族に愚痴を言いながら談話していると,


「あのころからぼっちゃんは、大変でした。旦那様が突然たびたたれ、周りからのプレッシャーもさることながらお命まで狙われていたのですから・・・。」


「そんな話はきいておらんぞ。」


「私ともう一人のほかは、誰も信じられずにいましたし、ぼっちゃん、ああ見えてプライドもさることながら腹黒・・・いえいえ、策士ですから・・・。」


「あやつが策士とな、それはないわ。」


「それもぼっちゃんなりなんですよ、私の時も騙されましたから・・・。」


「なに?おぬしどのがか?」


「ええ?あのころから嘘泣きがお上手でして・・コロッとやられました・・・。」


「なんとな・・嘘泣きとな・・・まさか・・・。」


「あっ・・・私は何も話しておりません。」


あわてて、台所に退散するも、彼女は気づいたようで、心の中でぼっちゃんで平謝りし、何事もないように祈るのでした。


「あの時、もしや・・・わらわは冷静さをかいていたのか・・・。にごんはないが、だが、このままでは腹の虫が収まらぬ。」


っと、彼女は静かに怒っているようで・・・。不幸中の幸いか、この時、僕は仕事で席を外し、もし、この場にいてたなら罵られようが彼女を全力でとめれたのに・・。




その日の晩御飯が豪華なことに僕は不思議でしたし、新しい呉服を着た彼女は、今までとは違ってうれしそうに仕事に励んでいました。のちに、請求書の額に、再び泣き出しそうになったことは言うまでもありません。。。。


いかがでしたでしょうか。誤字脱字などありましたらお知らせくださいませ。最後までありがとうございました。

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