09話 連れて行かれたホテルにて 4
主人公のターン!……の前に、彼女の倫理道徳観の大本についての説明となっています。
価値観が多様化した現代で、「古臭い」とか「合わない」等と感じる方もいらっしゃるかと思いますが、彼女の今後の行動原理ともなっていますので、外せないと思い入れさせていただきました。
私は10歳の時に事故で両親を亡くし、母方の祖母――おばあちゃんに引き取られた。
祖父は既に他界しており、おばあちゃんは一人で田舎のささやかな土地――家や田畑や山――を守っていた。
自分の子供たち――私の母や伯父、叔母たち――が家を継がず外に出ていくのを許すという、保守的な田舎にしては開放的な考えを持つ一方で、倫理や道徳に関しては昔ながらの堅い人だった。
「世の中にはやむを得ずに水商売なんかの仕事に就かなきゃならない人もいる。でも、親に生んでもらった体は大事にしなきゃいけないもんだ。あんなふうに簡単に、安っぽく売るもんじゃない。自分で自分の価値を下げるようなマネを、おまえはするんじゃないよ」
テレビのニュースで出会い系や買春などの報道が流れると、おばあちゃんはそう私に言った。
「貞操はね、‘あげても良い’なんて相手にくれてやるもんじゃない。‘この人じゃなきゃ’っていう相手に捧げるもんだ」とも。
私の‘彼氏いない歴=年齢’については、こうしたおばあちゃんの薫陶の賜物だと思う。
まあ、高校まで田舎育ちでご近所さんの目が厳しかったっていうのもあるかもしれない。向こう三軒どころかご町内の皆さんが――物理的には田畑で隔てられているけれど――‘お隣さん’並みに強いネットワークで結ばれているのだから。
だけど、大学に通った四年間はさすがに交通の不便な田舎から通うのは無理で、部屋を借りて一人暮らしをしたのだから、それでも私が彼氏いない歴を更新したのは、やっぱり何よりおばあちゃんの教えの影響だったと思うのだ。
大学での女友達がする彼氏との話をまったく羨ましく思わなかったと言えば嘘になる。
ただ、それは「私も早く経験したい」とかじゃなくて「そんな相手と巡り会えて羨ましい」という気持ちだったと思う。ちょっと人見知りがちな私は、合コンとかで初めて会う男の子とお喋りするのは苦手で、それよりは女友達とお茶したりするほうがずっと楽しかったのだ。
「百姓がお天道様に顔向けできないようなことをしちゃあいけないよ」
それがおばあちゃんの口癖だった。
厳しくて、優しくて、大好きだったおばあちゃん。
去年亡くなるまでずっと、そして亡くなってからも、おばあちゃんが、私にとっての‘お天道様’だった。
だから。
‘愛人になって欲しい’だなんて、私にとっては、育ててくれたおばあちゃんを侮辱する、決して許せない言葉、だった。
予定ではあと二話ほどでホテル篇が終了しますので――本編の終了ではないのですが――なるべく早くお届けしたいと思います。
本当はすぐにアップしようと思っていたのですが、風邪をひきかけているのか頭痛・悪寒・のどの痛み等の諸症状が……季節の変わり目ですので皆様もご自愛ください。




