41話 幕間:幼馴染の不運 3
あらためて言うが、俺、豊島祥二の本業は公務員である。間違っても農協職員ではない。
今日は片づけなきゃならない作業があって有休を取っただけ、用があって農協を訪れただけであって、使いっ走りをするためでは断固としてない!
…………にもかかわらず、俺がこうしてパシリをさせられているのは、農協職員である恋人と兄貴からの“申し付け”であるからだ。……はぁ。
* * * * *
――応接室の中にいたのは、どう見ても日本人じゃねぇおっさんと一部日本人っぽい子供だった。
最初に兄貴に「佐原様へのお客人」と紹介されたときは、佐原様ってどこんちだ?と思ったが、耳元で「さやに会いたいらしい」と言われて分かった。大納得だ。
近所に住むさや――佐原清香――は、俺や兄貴にとっては再従姉妹(厳密にはちょっと違うが)兼幼馴染であり、俺の恋人の小夜子にとっては“貴重な女友達(小夜子談)”である。さらに言えば、長男意識の強い兄貴にとって、ばーさんが死んだ後一人で頑張るさやはもう一人の妹みたいに守るべき存在と位置づけられているらしく、こんな得体の知れない人物が急にさやを訪ねて来たとなれば警戒するのも当然だ。
しかし、本当に得体が知れない怪しい相手なら、この兄のことである。口八丁で追い返しそうなもんだが。
顔には出さず、心の中で首を捻っていると。
「国からのご紹介でお見えになったお客様方です。田舎道は分かりづらいので、よろしければ本日佐原様のお宅をご訪問予定の豊嶋様についでにご案内いただければと思いまして」
続く兄貴の言葉で、そこらあたりの疑問は解けた。
“国”というのは○○国とかではなく、この場合は日本の中央省庁のことである。農協の関係で言えばもちろん農林水産省。
大方、外国の政府関係者か、中央に顔の利く大手企業の関係者かなんかで、国のお役人が便宜を図るように言って来たに違いない。もちろん、こんな田舎の支店に直接ではなく、連合会や本部を通じてなんだろうが。
兄貴としても上からの命令ということで逆らえず、さりとてさや一人だけに会わせるわけにもいかないから、ちょうど休みを取っていた俺に“お目付け役”を任せようってトコだろう。
「さ――佐原さんのトコにですか…?」
だが、さやももう一人で仕事もしてんだし、そんなに過保護にしなくてもいいんじゃないか? まぁ、田舎とは言え一人暮らしの年頃の娘のトコへの客が心配なのは分からねぇでもねぇけどよ、爺さん手前のおっさんと子供だろ?
本当にそんな気遣い必要なのかと語尾を濁らせると。
「ええ。このお二人だけではなく、外のお車にあと何名様かいらっしゃいまして。たしか豊島様はご自身分と合わせて佐原様ご注文の肥料もお引き取り予定でしたよね? お届けされると伺っておりましたので、お願いできればと思いまして」
穏やかな口調と依頼の形式をとっているが、眼鏡の奥ですっと細められた目が「いいから行け!」と如実に言っている。
……だから口元だけ笑みを浮かべてても逆に怖いって言ってんだろ!!
応接室に居る二人だけではなく、まだ他に居るとなれば仕方がなく。
また、応接室を出たところで「お疲れ様です」と声をかけてきた小夜子の視線がこれまた「しっかりやらないとどうなるか解ってんでしょうね?」と語っており。
こりゃもう、昼食デートは無理だなと、小さな溜め息とともに少しだけ肩を落とした。
それから、軽トラックの荷台に俺の分とさやの分の肥料を積み込み、黒塗りの先導をして農協から近い広場――専らゲートボール場として使用されている――へ移動。
道が狭くて入れないので、俺の軽トラックに乗り換えるよう伝えると、こんな車にデンカを乗せるわけにはいかないとおっさんが騒ぎ。……俺としては怒って帰ってくれることを期待したのだが、デンカとやらが鶴の一声で鎮め、結局デンカが助手席に、おっさんと子供の他に護衛という屈強な男2名が荷台に乗って、さやの家へ向かうことになったのだった。
―――というわけで、祥二君が主人公と公子サマの対面に立ち会うことになったのは、この世で逆らえない(←逆らうと後が怖い)慶一にーちゃんと恋人の小夜子嬢からのお申し付けのせいでした。
祥二君の名誉のために言っておきますと、彼はヘタレではありません。
慶一さんには“兄(絶対上位者)”として幼い頃から刷り込まれ、小夜子さんは“惚れた弱み”ってことで(笑)
いつも更新が遅くて申し訳ございません。
季節替わりで体調を崩したら、テンションが下がりっぱなしで……
どうぞ気長にお付き合いいただけるとありがたいです。




