39話 幕間:幼馴染の不運 1
祥二視点です。
男性視点ということで、ひょっとしたら不快に思われる表現が(幕間を通して)でてくるかもしれません。
どうぞご了承ください。
鉄筋コンクリートの車庫の中、4台入るスペースの、1台分だけ空いたそこに軽トラックを停めエンジンを切る。ヘッドライトを消しサイドブレーキをかけシートベルトを外すと、疲労感がどっと押し寄せ、大きなため息とともに思わずハンドルにうつ伏せた。
……マジ疲れた。
ちらりと車内の時計を見るともうすぐ7時――当然夜の――である。冬に比べれば日が長くなってきたとは言え、まだ5月の上旬、とっくに日は暮れ真っ暗である。
本来ならばとっくに帰ってきていたはずだったのだ。――予定通りならば。
もちろん、世の中予定通りにいくことばかりではないというのは重々承知している。社会人として――しかも“公僕”として時に税金泥棒などと貶されながら――2年やってきているのだ。嫌でもわかる。
しかし……。
いくら何でも今日のアレはねぇだろーよ!
あれか? 連休明けに休みを取った俺が悪かったのか?
それともてめーの彼女、昼飯に誘おうとしたのが彼女のいねぇ野郎どもの呪いでもかったってのかよ!!
* * ** *** ** * *
俺――豊嶋祥二、24歳――がゴールデンウイーク後半の三連休明けに休みを取るのは、かなり前から予定していたことだった。というのも、3日と4日に恋人との一泊旅行を企んでいたからである。
兼業農家の息子にとってゴールデンウイークなんぞは労働日に他ならないのだが、そこは年頃の男だ。田舎というご近所の目が厳しい地域で、一人暮らしの彼女のところにそうそう泊まり込むこともできない身としては、せっかくの連休を利用して“お泊りデート”としゃれ込んだって罰は当たらないだろう?
とはいえ、厳しい長男がきっちし作業のノルマを課してくれるのも分かっていたので、予め休みの予定を入れていたというわけである。
当日は、朝ゆっくり起きて呆れ顔のおふくろに急かされながら朝食をとり、道具の点検――油をさしたり錆を落としたり――をしてからのんびり家を出た。
ノルマが残っているといっても大型連休の前半で4分の3近くを済ませていたから、そう慌てることもない。畑を二枚ほど耕し、肥料を鋤き込み、畝立てして苗を植えるのが作業の内容で、耕作と鋤き込み、畝立ては農機具――農業機械なんて言い方もあるらしいが、この地域では“農機具”が一般的だ――でやってしまうからそんなに手間はかからない。
畝立てまでを午前中ですませて、午後の作業が早く済んだら山に入って蔦でも切ってやるか――そう考えていたくらいだった。
10時過ぎに、注文していた肥料を取りに農協へ車を走らせている途中、せっかくだから小夜子――恋人の篠宮小夜子、農協職員――と昼飯を一緒に食おうと思い立った。
服装はTシャツや作業着だったが、農家だらけのこの地域で“農作業スタイルお断り”な飯屋なんぞあるはずもない。
勤務時間中に携帯電話に出ないのは分かっていたから、農協の窓口で呼び出して直接伝えればいいやと、自分の思いつきに少しばかり浮かれながら車を走らせた。
あんなことになるとは夢にも思わずに。
これまでの本文中では祥二は“親戚”という名目で立ち会っていますが、サブタイトルでは敢えて“幼馴染”とさせていただきました。
(どっちも間違ってはおりませんので……。)