38話 翌日お見送り 5
いつ終わるとも知れない状況の中。ため息が出るのも仕方のないことで。
ハァ……。
下手に身じろぎするとまた締め付けが厳しくなるかもしれないので、小さなため息(のハズ)だったのですが。
頭の位置が近いから聞こえたのでしょう、クラウスさんがピクリと動きました。
あ、これはもしかして解放の前触れでしょうか?
心なしか、私の背中に回っている両腕の力も緩んだような気がして、期待は更に高まります。
しかし、ここで焦って獲物に逃げられ……ではなく(獲物状態はこっちですorz)、締めなおされては元も子もありません。じっと、おとなしく、チャンスを待つのです!――と集中していると。
さわり。
腰の少し下、お尻のぎりぎり上あたりを何かが触ったと思った次の瞬間。
「!**?&$☆☆$★*##★!?」
ぞわぞわぞわぞわ~としか表現できない、いやいや、敢えて表現するなら虫が這い上がっていくような、そんなぞわぞわ感が、私の背筋を、背筋をーーー!?!?!?!!
どうやらそれの発生源は、公子サマの右手――腰に回されていたものが少し位置を下げた――らしいのだが。その右手が動くたびに、ぞわぞわが、ぞわぞわがーー☆#$%&☆!!!!
生まれて初めての感覚に、どう対処したら良いのかまったくわからず。体は硬直、頭は真っ白。
心の中で声にならない悲鳴を上げ続ける私。
その状態がどれだけ続いていたのか。
ふと気づくと、“ハグ(拘束)”状態はいつの間にか解かれていて。
固まったままの私の両頬を公子サマの手が挟み込み。
今にも鼻が触れ合わんばかりのどアップ&艶20割増しくらいの笑顔で。なのに翡翠色の瞳は怖くなるような光を湛えて。
『~~~~~~~~~~,~~~~~~~~~~~~~~~』
またしても背中にゾワリとくる声で何事かを囁いてくださり。(下がっているユーリくんの耳には届かなかったらしく、通訳してもらえなかった。)
チュッと音を立てて触れるだけのキスを私の唇に落とす(!?!?)と。
大きく数歩下がって普通(?)の公子サマスマイルに戻り
『~~~~~~~~~~~~~~~~.~~~~~~~~,~~~~~~~~~~~~~』
「本日は本当にありがとうございました。どうぞこれから末永く、よろしくお願いします」
そう言うと、皆様大きな黒塗りの車に乗り込んで去って行った。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お~い、さや~? 生きてるか~? 息してるか~?」
祥くんの声に我に返った途端に、へなへなとその場に座り込んでしまった私。
「しょ、い、いま、な、あ、あ…(祥くん、いったい今何があったのー!?)」
ヤンキー座りで見下ろす祥くんは、私のまともに声にならない声が聞き取れたのか、ともかく。
「あーよしよし。うんうん、経験値の低いおまえには厳しー試練だったなー。頑張った頑張った」
と頭をぽんぽんと叩いて慰めて(?)くれたのだけれど。
私があうあうと涙目で見上げると、何故かそっと目を逸らし、
「あー……首のとこ赤くなってんのは虫刺されじゃねぇから薬ぬっても無駄だぞ。まぁ、数日で消えるから心配すんな」
とよく意味の分からないことをボソボソと言った。
だ か ら いっ た い な に が お こっ た ん で す か ー !! (泣)
よ、ようやくここまで……っ(orz
いえ、もう何も言いますまい。
ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございます。
ここでようやく折り返し、かな~と(←すみません、あまり自信がありません
次は幕間として、祥二の視点に移ります。
清香の視点をなぞるわけではないので、数話で終わる予定です。
よろしければどうぞ今しばらくお付き合いいただければ幸いです。