03話 フェア会場にて 3
公子サマの国は架空の国です。但し、設定などは実在の公国のモノを参考にしています。
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜.〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』
「驚かせてしまって申し訳ありません。薔薇の香りに誘われて来てしまいました。」
そう言ってテーブルの上を見・・・ご覧になる。でも商品の中には薔薇モノは無いのでちょっと戸惑われたみたい。
「あの・・・たぶん、薔薇の香りはあちらのローズウォーターだと思います。」
私は後ろに置いてあるローズウォーターの入ったピッチャーを指さした。
『〜〜〜〜〜〜〜〜?〜〜〜〜〜〜〜?』
「ローズウォーターですか?あの香水の?」
「いえ、これはドリンクなんです。売り物ではなくって、台湾で買ってきたものなんですけれど、あの・・・」
ピッチャーと脇の紙コップを手にとって公子サマに見せた。
「これなんですけれど、よろしければ味見してみますか?」
すごくまじまじと見られたので、私としては話の流れで言ってみただけなんだけれど、
『〜〜〜〜』
「よろこんで」
とにっこり微笑み付きで言われてしまいました。
うう、やっぱり眩しいです。
「氷が溶けて薄くなっていると思いますが」
とおそるおそる紙コップを差し出すと、受け取る公子サマの指が紙コップを握る私の手に触れる。
ドキン。
触れたのはほんの一瞬だったのに、なんだか頬が熱い気が・・・顔が赤くなっていたら恥ずかしいかも・・・
いやいや、紙コップが小さいんだから、公子サマの大きな手が触れたって当然なんだから。
『〜〜,〜〜〜〜〜〜〜〜』
「確かに、薔薇の良い香りがしますね」
量が少ないからすぐに飲み干したらしい公子サマ。
紙コップを受け取ろうと両手を伸ばすと、思いがけないことに右手を取られた。
え?もしかして握手ですか?
とっさにそう思った次の瞬間、手の甲に柔らかな感触が。
ほえっ?一瞬固まってしまいましたヨ。
ええ、ご想像のとおり、公子サマが私の手の甲にくっ、唇を付けて下さったわけです。
慌てて手を引こうとしたら、思ったより強く握られていたみたいで、逆に私の身体がバランスを崩して前のめりに。
といっても漫画みたいにすっ転んだりはしませんでしたよ。すぐ前には長机があるのでそこに左手をついて支えましたとも。
でも、ホッとしたのもつかの間、「お見苦しいところをお見せしてすみません」と謝ろうと顔を上げたところに公子サマの顔がアップになって・・・・・・
えええええーーーーーー!!
今度は唇にキスされました。
一歩後ろに飛びずさって――いつの間にか手を離してもらっていたようで、今度は下がれた――唇を両手で押さえる私。
触れていたのはほんの一瞬ですけど、でもでもっ!
今度こそ顔が真っ赤に違いないでしょう。か、顔から火を噴きそう!
私は勿論、恭子さんも綾ちゃんも、それから通訳君も執事さんも――変わらずにこにこしている公子サマ以外みんなみんな――ぎょっとして固まっているような感じでした。
『〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』
公子サマの変わらず柔らかな声が通訳少年の硬直を解いたようで
「あ、あの・・・、びっくりさせて申し訳ありません。こちらのお国では、このような挨拶は一般的ではありませんでしたね」
そ、そうですよね、単なる挨拶ですよね?
周りからも「な〜んだぁ」という感じのほっとした雰囲気が漂った。
あれ?執事さんと通訳少年はなんだか微妙〜な表情しているみたい???
そこへ公子サマの後ろに立っていた黒いスーツの男性が声をかける。
今まで気づかなかったけれど、背後に同じような黒っぽいスーツの男性が四、五人立っていたらしい。
もしかして要人警護、エスピーとかいうお仕事の方!?
頭の中では状況認識しているのに、さっきからずっと口を手で押さえて固まったままの私に再度微笑んで、公子サマご一行は会場の奥へ進んでいった。
あと少しでフェア篇は終了ですが、きりが良いので話を分けることにしました。