27話 翌日自宅にて 16
‘女嫌い’と言えば――
「“女なんて生き物は俺に近寄るんじゃねぇ!”とかいう、硬派なイメージのあれですか!?」
「“女が怖い”とか言って女に近寄られると怯えるアレか!?」
私と祥くん2人して叫んだけれど、見事に方向性がズレズレ。
そうですか、祥くんの考える‘女嫌い’って、恐怖症の方なんだ……。
「……日本で‘女嫌い’と言いますと、そのような意味になるのでしょうか?」
少しとまどったように聞き返してくるのはユーリくん。
と言う事は、私たちが言ったようなタイプの女嫌いというわけではないってことですね。
「う~んと、‘女の人を嫌う’っていう意味だから、どういう嫌い方をするかは結構個人差がある…かな?」
私の周囲にそういう人が居ないから――さっき言ったのは伽菜ちゃんの漫画に出てきたキャラです――一般論しか言えないけれど、ユーリくんは納得してくれたよう。
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「いいえ、そういうことではございません」
ユーリくんの説明を聞いたセパシウスさんはハンカチを目に当てたまま首を横に振った。
まぁ、昨日の様子だと、確かにどちらも当てはまらないよう……な……あれ?
よくよく考えれば、私、昨日公子サマに抱きつかれたりとか、キスされたりとかなんとかされましたよね?
でも、今確かに‘女嫌い’って……あれれ?それって……
「まさか……」
その時、祥くんが椅子ごと身を引きながら言った。
「男の方が好きって言うんじゃあ……」
「な……」
さすがのユーリくんも絶句。
そして私も絶句……と言うかショックを受けてます。
だって。
公子サマは男の方が好き+私に抱きついたりキスしたりした=私のことを男だと思った
――ということですよね?
ま さ か 女 と 思 わ れ て な か っ た な ん て !!
……自分でも意外なほどにショックです。大ダメージです。
そりゃあ体型はボン・キュッ・ボンじゃないし、顔だって華やかな人目を引く美人でもなければ今時の可愛い系でもないけど、けどっ!
男の人に間違われないくらいの曲線は(相当ささやかかもしれないけれど)あるし、顔だって平凡で十人並みなのは分かっているけれど平凡な‘女性’の顔だと思っていたのに…なのに…。私の勝手な思い込みだったんでしょうか?
学生時代に彼氏ができなかったのって、私が引いてたからじゃなくて、実は私が男の子にしか見えなくて男子のほうが引いてたとか?
いいえ、それより「下の豊嶋さんのお孫さん、女の子なのに男の子にしか見えないわねぇ」「ホントねぇ、あれじゃあお嫁の貰い手が無いわねぇ」とかご近所に思われてて、お祖母ちゃんが肩身の狭い思いをしたとか!?
そんな考えが後から後から湧いてきて、ダメージがどんどん追加されていきます。
……このままいくと2~3年後にお見合いして、こんな私でも良いって言ってくれる優しい人を探して結婚するのかなぁ…とか思っていたのだけれど。
そうですか、こんな私じゃ、それすらも夢物語……。
お祖母ちゃんが伝えてくれたみたいに、故郷を大切にして子供や孫に伝えていくという夢が……夢がぁ……ガックリ。
ふぇ~ん、泣きそうです。
――――と、そこで。
「何を無礼な!そんなことはありません!!」
バンッとテーブルを叩き、ようやく硬直が解けたらしいユーリくんが、会って初めて血相を変えて叫んだ。
何事かと戸惑っていた公子サマとセパシウスさんも、ここでようやく通訳されギョッとする。――あ、セパシウスさん、涙が止まったみたいです。ハンカチを下ろしました。
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「間違ってもクラウス殿下は男色ではございません!」
顔を赤くして、祥くんの‘女嫌い’=‘男好き’説を否定するセパシウスさん。
え?と言うことは、私はちゃんと女性に見えるということで良いんでしょうか?
今年はなかなか春が来ないですね。
これ以上寒気が来ないことを祈るばかりです。