16話 翌日自宅にて 5
私の家はこの辺りでは一般的な、寄棟造りの平屋建て――古民家とかで紹介されるようなアレです――の母屋に、離れという造り。
母屋の間取りは田の字型を基本としている。字の通り、四つの部屋が田の字に並んでいる構造で、それぞれの部屋は基本的に襖や障子で仕切られている――襖や障子を外してしまえば、真ん中に柱が一本立った大きな空間として使える仕組みだ。
我が家の場合はもともと四部屋すべて和室だったが、うち一室――田の字の左上――をフローリングに改装した。足が悪くなってきたおばあちゃんの寝室として椅子やベッドを置くために。
田の字の右上の部屋の右に台所、右下の部屋の隣は広い土間を備えた――昔は雨天の時にここで作業を行っていた――玄関となっている。
田の字の下二部屋のさらに下に縁側があり、縁側の左端に洗面所とトイレ、右端にお風呂場がある。ちなみにお風呂場は、リフォーム前は五右衛門風呂――大きな金属の釜で、入浴の際は足を火傷しないよう板を足の下に沈めて入るもの。この板を足で沈めるのが意外とコツがいる――で、ご存じの通り今は庭で日向さんの住処として第二の釜生(?)を送っている。
台所と玄関の右側に、昔は竈の間、食器や食料品の納戸(土間)、農機具などの物置という三つの部屋があったのだが、これを竈を残した納戸と、土足のまま入れる通称‘談話室’の二部屋に改装した。
竈を残したのは、お餅つきの際にもち米を蒸したりするのに使うため。
談話室は外から直接入れるようになっていて、中には地元の干ばつ材を使った大きめのテーブルやベンチ等をおいてあり、お客さんにちょっと座ってもらったり、作業ができるようになっている。奥の扉は台所に通じているので、お茶を持ってくるのに便利である。
私が公子サマご一行を案内するのはこの談話室。
正式な客間はもちろん和室のほうなのだけれど、さすがに昨日の今日でまた足を痺れさせてしまうわけにはいきませんしね。
「こちらへどうぞ」
談話室入り口の引き戸を開けて右手で支えたまま、左手で中を指す。
先頭の公子サマが私ににっこり微笑みかけながら中へ入ろうと――。
あ、そういえば
「あの、頭上、注意――」
ゴツッ!
入り口の鴨居に盛大に頭をぶつけてしまい、頭を抱えてしゃがみこむ公子サマ。
「……してください」
あああ、間に合いませんでした。ごめんなさいーーー!
自分が全く問題ないので忘れがちなのだけれど、最初に建てたのが百年近く前で皆さん小柄だったのだろう、鴨居の位置はそんなに高くなかったりする。くぐってしまえば天井はもっと高いのだけれど。
リフォームした時も高さを変えたわけじゃないから、やっぱり昔仕様なワケで。
慶くんや祥くんも戸をくぐるときってやっぱり気になるのかちょっと屈んでるくらい。ましてや二人より背の高い公子サマなら……ぶつかるに決まってるじゃないですか!
あ~ん、どうして私ったらもっと早く気づかないの~!!
「だ、大丈夫ですか?」
今のぶつかり具合って、絶対、目から星が飛び出しましたよね?
冗談じゃなくほんとに目から星が出てチカチカするんですから!私も経験者ですから!昔、祥くんがシィさんに「取って来い」をさせようと投げた木の棒が私の頭に当たったことがあって、本当に目から星が散ったんですよ!
いやいや、今はそんな昔を思い出している場合じゃなかったです!
『~~~!?~~~~~!!』
『----!---,------!!』
お付きの四名サマも血相を変えてしきりに公子サマに話しかけています。たぶん私と同じように‘大丈夫ですか’とか聞いているのだと思うのですが。
「ぶつけたところ見せてもらえますか?」
頭の左側を手で押さえたままの公子サマに手を伸ばすと、逆に空いていた右手にガシッと手を掴まれた。
……は?
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~,~~~~~~~~~~~~~』
「心配していただいてありがとうございます。お優しいのですね」
やっぱりよほど痛かったのか、見上げる目にはうっすらと涙が滲んでいる。さらには健気に微笑もうとする口元に、白皙の美貌が相まって何とも言えない色っぽさ――艶って言うんでしょうか?――を醸しているようないないような……。
なんでしょう?胸がざわつくようなこの……
……
……
……
……はぁー。いくら美形だからって、男性にこんなに女子力で負けてるってどうなんでしょう、自分。
平々凡々な容姿と性格は自覚してますけど、こんなふうに突きつけられるとどうしてもヘコミますよね?
思わずガックリと項垂れてしまう。
「おい、何やってんだ?」
祥くんが鶏糞を運び終えて来たようです。
「…私が注意するのが遅れて、頭をぶつけちゃったの」
「…さやが手を挟んだとかじゃなくてか?」
祥くんの視線の先を見れば、私の右手が公子サマの両手に握られている。……いつの間に?
「す、すみません!!」
慌てて引き抜くと
チッ!
えっと、今のもしかして舌打ち……???
立ち上がった公子サマを見上げれば、やはり変わらない‘王子様’スマイル。
……空耳でしょう。
とりあえず、ぶつけたところは大丈夫そうなので、またぶつけたりしないよう注意してもらって皆さんに談話室に入ってもらった。
主人公の自宅については、作者の親戚の家がモデルです。
余談ですが、短編「忘れないで…」を投稿してますので、興味があればこちらも読んでみて下さい。




