荷物を届ける
今日は朝から天気が良くないと思っていたら、にわか雨が降ってきた。
小田はワイバーを動かしながら、荷物を届ける家を目指す。
小田は宅急便の従業員であり、これから行く家はたまに荷物を届けることがあった。
初めての客ではないので、あまり緊張しないでいると、雨が止まり、膨らんだ綿のような黒い雲が少しどけられる。
光が差し込み、小田は浮かんできた虹に、見惚れる。
ーいいことかもあるかも。
虹を見つつ、運転していくと、目的の家に着いた。
降りようとすると、黒猫がのっしのっしと、ゆったりした足取りで歩いていく。
ー何か貫禄があるな。
じっと眺め続けても、黒猫はどこ吹く風で、全然怖がっていない。
小田は30代前半だが、これでも強面として見られることが多いのだが、猫には関係ないようだった。
ー海外だと、黒猫に会うと幸運なんだよな。
そう思いつつ、小田は車から荷物を取り出す。
1つは衣類の会社で、もう1つは食品のようだった。
「よいしょ」
2つ持っても軽いもので、車のドアを閉めると、小田は家の階段をのぼる。
それからチャイムを押すと、インターフォンで、「はい」と声がする。
「小田急便です。荷物を届けに来ました」
「ちょっと待ってください」
そう言うと、中からバタバタと音がする。
こちらにやって来る足音が聞こえてきて、「どうぞ」と言われる。
「失礼します」
小田の言葉が少し驚いたものになったのは、出て来たのが高校生くらいの女の子だったからである。
初めて見る顔に、小田は見惚れる。
若い肌に、オシャレな格好。
学校でも、もてるんじゃないだろうかと思い、頬を赤く染める。
ーこれがいいことか。
なるほど思い、そういえば今日は土曜日だったなと頭を巡らせ、何故女の子が出て来たのが推測する。
「ハンコですよね?」
オルゴールのような美しい声に、小田は押され気味になり、「はい」と小さく答える。
いかん、いかん、しっかりしろと鼓舞すると、平然を装う。
「はい、こことここにお願いします」
荷物を玄関におろし、指さすと、女の子は言われたとおりにハンコを押してくる。
すれ違いさまにふわりといい香りがし、小田はまたつられそうになり、慌てて自制する、
「ありがとうございます。またのご利用をお願いいたします」
頭を深く下げると、女の子が「はい」としっかりした声で答えてくる。
ー本当はお近づきになりたいんだけどな。
仕事上、色んな人間と会うが、女の子は丁寧だった。
小田は惜しむように玄関から出ると、中から「宅急便屋さんが来たよ!!」と聞こえてくる。
どうやら元気な子らしい。
「また会いたいな」
ぼそりと呟くと、小田は運転席に回ろうとし、黒猫が待っているのに気づく。
「お前、どこの家の猫だ?」
つい話しかけてしまったが、黒猫はふいっと顔をそらすと、毛づくろいを始める。
おい、道路の真ん中でやるなと注意しようかと思っていると、女の子が追いかけてくる。
「宅急便屋さん!!」
「え…。な、何でしょうか?」
「その、あの、失礼なんですけど…」
女の子は言いにくそうに、口を開く。
「もう1つ荷物がありませんか?」
「え? もう1つ…? どうして」
「その、注文したものが届くと、メールがきたので、もしかしたらと思って」
「ちょっと待ってくださいね」
小田は不思議に思いつつ、車を開ける。
もう1つ荷物なんてあったっけと思いながらも、女の子とまた話せて嬉しかった。
早速、荷物を探してみると、女の子が心配そうに手を合わせる。
「えっと…ないですね。もしかしたら明日かもしれません」
「そうですか…。申し訳ありません。邪魔してしまって」
「いいんですよ。何でも言ってください」
年下相手だが、敬語を使うのは客だからで、今がチャンスだが、やめておくことにした。
ー本当は連絡先とか知りたいんだけど…。
客を相手にするわけにもいかず、車を閉じると、少女が言ってくる。
「気をつけてください。まだまだ暑いので」
「はい、ありがとうございます」
「どういたしまして」
女の子は笑顔を浮かべると、彼女を包み込むオーラが黄金色となった。
ああ、いい子だと小田は目を細めると、またこの家に来ようと決める。
「じゃあ、俺はこれで」
「はい、さようなら」
小田は車に乗り込むと、黒猫が女の子に近づくのが見えた。
顔見知りなのか、女の子が猫を撫で始める。
くそ、いいなと思いつつ、小田はエンジンをかける。
1度あることは2度とあると信じ、次の配達先へ向かったのだった。




