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自滅する最強魔法を13年間我慢した結果、俺の肉体は神の領域に達していた~極限の器で力を解放し、世界を終わらせた勇者を叩き潰す~  作者:


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第1話 息ができない赤ん坊は地獄から始まる

 ――熱い。

 視界いっぱいに広がる、最悪の朱色。


 キィィィィィィ――ッ!!


 鼓膜を突き破る急ブレーキ。

 次の瞬間、肺の中の空気を拳で叩き出されたみたいに、体の内側が全部ひっくり返った。


 ああ、これが終わりか。


 相沢恒一。冴えない男。28年。

 誰かの顔色を見て、空気を読んで、神経を擦り切らせて生きてきた。

 そんな俺の最期は――信号無視で突っ込んできた大型トラックの前で。


 俺の体は、思考より先に動いていた。

 目の前の妊婦を、反射で突き飛ばして。


 ……見ず知らずの誰かを守るための自己犠牲?

 笑える。皮肉ってレベルじゃない。


 意識が冷えていく。音が遠ざかる。世界が薄くなる。

 その最後の最後で、俺は祈った。

 身勝手だと分かってても、祈らずにいられなかった。


 ――次は、もっと丈夫な体に。


 俺はずっと病弱だった。

 重度の呼吸器疾患。肺は半分しか働かない。

 全力で走ることも、思いっきり息を吸うことも許されない。


 生きるためにできたのは、主治医に叩き込まれた特殊な呼吸法を――呪いみたいに、24時間繰り返すことだけ。


 だから、願った。

 今度こそ、息ができる人生を。



「おぎゃっ、……あ、が、っ……!」


 ……叶った。

 そう思った直後。

 俺は2度目の絶望に叩き落とされた。


 暗い。狭い。

 そして――息が、できない。


 喉の奥に、ぬめり気のある液体が詰まっている。

 酸素を求めて暴れる肺が、入口で拒絶されている。


 視界は霞み、触覚だけが異様に鮮明だった。

 小さい。柔らかい。頼りない。


 俺の体が、赤ん坊のそれだと理解した瞬間、背筋が凍りついた。


 ――まさか、また呼吸に殺されるのか?


「産婆さん! この子、息を……!」

「落ち着いて、エレナ! 今、詰まりを掻き出しますからね!」


 知らない言葉。聞いたこともないはずの言語。

 なのに意味が、直接脳に刺さってくる。


 誰かに逆さにされ、背中を叩かれる。衝撃が走る。

 でも空気は入ってこない。


 肺が焼ける。

 酸素がない。

 痛い。苦しい。怖い。


 ふざけるな。

 2度目の人生、開始1分で窒息死とか、冗談じゃない。


 俺は意識の底から、あのリズムを引きずり出した。

 前世で、壊れかけの肺を動かすために20年以上、寝ても覚めても続けた呼吸。


 鼻や口から吸うんじゃない。

 全身の細胞一つ一つへ、無理やり酸素を押し通すイメージ。

 横隔膜を、体の内側の熱を、ねじ伏せる術。


 吸って。

 止めて。

 一気に、押し出す――!


 小さな喉が、内側から爆ぜるような感覚。

 同時に、体の中で「何か」が弾けた。


「げほっ……! おぎゃああああああ!!」


 喉を塞いでいた羊水が、勢いよく吐き出される。

 代わりに、冷たくて――濃い。生命そのものみたいな空気が肺に流れ込んだ。


 俺は本能のままに泣き叫んだ。

 違う。ただの泣き声じゃない。

 これは咆哮だ。


 俺が、この世界で生きると宣言する、最初の叫びだ。


 ――アルト・シュタイン。

 それが、俺の新しい名前だった。



 それから5年。

 俺の日常は、ずっと「呼吸」と共にあった。


 あの日、命を掴み取ったあの特殊なリズム。

 それを止めると、肺の奥からあの窒息の感覚がせり上がってくる。

 少し油断すると、胸が締めつけられる。

 前世の病室の絶望が、牙をむいて戻ってくる。


 だから俺は、寝ている間も遊んでいる間も、24時間、呼吸法を続けた。


 ……その結果。

 俺の体は、驚くほど健やかに育った。


 走っても疲れない。

 冬の寒さでも体の内側がポカポカ熱い。

 スタミナが底なしみたいに湧いてくる。


 健康な子供って、こんなに世界が軽いのかよ。

 前世の俺からは考えられない。


 俺は信じた。

 これは、病を克服した証だと。

 丈夫な体を手に入れたんだと。


「アルト、お腹空いたでしょう? もうすぐお昼よ」


 声に顔を上げる。

 母――エレナは、村でも目立つ美人だった。

 透き通る肌。輝く金髪。深い湖みたいな碧眼。

 その笑顔を見るだけで、胸の奥がゆるむ。


 そこへ、外から力強い足音。


「はっはっは! 今日もいい汗をかいた! アルト、腹いっぱい食って大きくなれよ!」


 父――ルーカス。

 元騎士らしい、岩みたいな体格の男だ。今は村の警備と農作業を両立している、頼りがいのある大黒柱。


 ……ただ、俺だけが違った。

 両親は金髪碧眼。

 なのに俺は、髪も瞳も夜を溶かしたような黒。


 村では少し目立つけど、2人は変わらず言ってくれた。


「大事な息子だ」


 だから俺は、この家が好きだった。


「ほらルーカス、手を洗って。今日のお昼は焼きたてのパンとスープよ」


 母が竈の前に立つ。

 俺はこの瞬間が、たまらなく好きだった。


 エレナが白い指先をすっと掲げる。

 空気が、わずかに震えた。


 指先から陽炎のような揺らめきが立ち上り――琥珀色の光に変わる。

 小さな宝石が弾けるみたいな音。

 そして、赤い花のような炎が咲いた。


「赤き精霊の息吹を、ここに。――イグニス」


 呪文と共に炎は薪へ吸い込まれ、1瞬で燃え上がる。


 ……魔法。

 本物の魔法だ。


 前世、消毒液の匂いの病室で、酸素ボンベの残量ばかり気にしていた俺にとって――これは奇跡そのものだった。


 男の子のロマン。

 理をねじ曲げる力。

 指先一つで火を灯すとか、カッコよすぎるだろ……!


 やってみたい。

 俺だって――。


 父さんは「まだ早い」って言うけど、母さんの動きは毎日見てる。

 意識を集中させた時の、あの空気の張り詰め方。


 少しだけ。ちょっとだけ。

 真似するくらいなら、きっと――。



 昼食のあと。

 両親が午後の準備をしている隙をついて、俺はこっそり家を抜け出した。


 向かったのは村外れの小高い丘、古い納屋の裏。

 誰も来ない。

 もし小さな火が出せたら、驚かせてやれる。


 俺は右手の人差し指を立てた。

 体の中を巡る、健康な子供特有の心地よい熱。

 それを――ほんの少しだけ、指先に集める。


 大丈夫だ。

 俺はあの日、死の淵から呼吸を掴み取った。

 これくらい、できる。


 灯れ。

 母さんが見せてくれたような、小さくて温かい一輪の花。


「赤き精霊の息吹を、ここに。――イグニス」


 呟いた、その瞬間――

 指先から溢れたのは、可愛い火花なんかじゃなかった。


 ドクン。


 全身の血管が裏返るような衝撃。

 集めたはずの熱が、一瞬で『巨大な圧力』に変貌する。

 蛇口が壊れたみたいに、意志を無視して噴き出した。


 琥珀色ですらない。

 白銀。


 視神経を焼き切るような、熾火の塊。

 それが一瞬で、俺の背丈を遥かに超える球へと膨れ上がった。


「あ、あ……あああああああああ――っ!?」


 熱い? 違う。そんな言葉じゃ追いつかない。

 皮膚が焼けるより早く、周囲の酸素が――消えた。


 空気が、ない。

 俺の命綱である呼吸法を維持するための酸素が、その白銀の塊に全部喰われていく。


 肺が内側から潰れる。

 喉をかきむしっても、入ってくるのは熱風じゃない。

 真空の痛みだけ。


 轟音――ッ!!


 納屋の板壁が紙細工みたいに弾け飛んだ。

 積まれていた薪は燃える暇すらなく、灰も残さず蒸発。

 地面は熱量で溶け、不気味に赤黒く光る液体へ変質していく。


 ……これ、魔法じゃない。

 制御を失った、太陽の欠片だ。


 止まれ。

 止まれ、止まれ、止まれッ!!


 必死に願う。

 でも5歳の細い右腕は、白銀の光に呑み込まれていく。

 腕なのか、炎そのものなのか、境目が分からない。


 憧れ? 興奮? ロマン?

 そんなもの、一瞬で消し飛んだ。


 そこにあるのは、俺という存在を。

 この納屋を。

 そして――この村すら地図から消し去ろうとする、理不尽な暴力の輝き。


 白銀の太陽は、俺の絶望をあざ笑うみたいに――

 さらに、さらにと狂ったように膨張し、世界を白く塗りつぶしていった。



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