08 蘭子さんは波乱万丈。
「これは私のことより、蘭子さんの説明を先にした方が良いのではないですか?」
「そう?」
麗がそう提案した。
さおりの様子に、失っている記憶がかなりあると彼女らも察したようだ。
何せ第三皇子の産まれのことは、一般人も知っていることなのだから。
さおりの今は、箸の使い方や文字の読み方といった、生活に必要な知識しかない、と改めて。
「わたくしは、花御堂蘭子。第二皇子の婚約者でしてよ?」
第二皇子。
それで流れで先に説明をと、麗がすすめたわけだ。
先ほど「義弟」と別れ際に言っていた謎も解けた。
確かにそれは第三皇子とは義理の姉弟という関係になろう。
「それと第三皇子とは母方の親戚ですの」
「あ、それで……」
蘭子の紅色の髪とその緋色の――左眼。
紅家の血筋を濃く引いた色だ。
花御堂家は紅家の中でも力あるお家だ。
そして第三皇子景行の母――正妃は、花御堂家の縁の方であった。
第三皇子の緋色の瞳をさおりも思い出す。
きれいな、緋色だった。
さおりをしおりだと思って心配そうに――そして愛おしいと。
申し訳なくてその想いに気がつかないよう必死にしていた。
その瞳は、さおりのものではないのだから。
この国には、大きく「五家」と呼ばれるものがある。
蒼家。紅家。榛家。珀家。墨家。
その字の色からわかるよう、それぞれの人々もその家の色を強く持って産まれてくる。
昔は青家と赤家など、直接に色を名乗ったそうだが、何やら御家騒動があった折に現在の呼び方に変わったと歴史にはある。
この国では黒髪の者が主であり、逆に色を持つものが貴族――そして明らかに濃い色は高位貴族と。
一目でわかるようだ。
けれども墨家や、皇族も黒髪であるし、黒もまた尊い色である。
一見黒髪だからと、平民と馬鹿にしたら己より高貴な身分であったと――良くある話しで、教訓めいたものもある。
榛家の二代ほど前が黒髪故に皇族縁の方を侮り、お叱りを受けた話もある。己より高貴な方を知らず傷つけたのだ。
故に黄色は当時の「橙家」という名から「榛家」へと下げられたともあり。
現在、正妃が紅家に縁なこともあり、勢力図は察しなとおり。
「もっとも、わたくしと第二皇子の峰明さまは相思相愛でしてよ!」
二人は政略ではなく。
それであれば紅家にばかり権力が集中すると待ったもかかろう。
けれども第二皇子峰行と蘭子は、愛の力でそれを乗り切る――ところだったのだが。
「そこに第一皇子の呪いです」
現在、第二皇子は帝都から離れているそうだ。兄皇子の呪いを――それを受けた梨璃をもとに戻すために。
兄を救ってくれた梨璃に感謝し、彼は現在その呪いを解くために。そもそも彼も母を通じて梨璃とは幼馴染。
兄が第一皇子として動けない分、頑張ってくれているそうだ。
けれどもそれはなかなか進まず難儀をしていて、峰行からの連絡も途絶えがち。
最近では第二皇子は行方不明説までではじめている。
「そのため、わたくしも神殿に参りましたの」
帝都に住まいがある神子は、別に神殿に常駐しなくても良いらしい。
――筆頭がしおりであるために。
そこは説明をあとにしようと、蘭子と麗はひっそりと頷きあった。
「蘭子ちゃんはねー、家出してきてるのー」
家出。
さおりがびっくりしていると、蘭子は梨璃の頭をもっていた扇の先でつん、とつついた。
「家出だなんて、外聞の悪い。愛する峰行さま以外に嫁がされるところだったから避難してきているとおっしゃいな」
「えへへへへ、そうでしたー」
「蘭子さんてなかなか波乱万丈で、そのぶん思い切りもいいよね」
麗はいっそ蘭子を尊敬する目で。
「まあ、タイミングよく避難先ができてありがたかったですわ」
「避難、ですか?」
言い方をかえられてもびっくりだが。
紅家はもともと蘭子を違う家に嫁がす予定であった。皇家との繋がりはすでにあり、これ以上は紅家が力を持ちすぎると他の家からも来ていたからだ。
それを峰行と蘭子が説得し、ようやく婚約を認められたところで――第一皇子が呪われた。
峰行は自分の婚約どころではなくなってしまった。
蘭子も父親により他の男に嫁ぐよう言われた。
正式に婚約を結べるのがいつになるかわからない第二皇子より、今の花盛りな娘を売りに出さねば――と。
けれども運命は。
「私に《龍の眼》が発現したのです」
蘭子はその右目を煌めかせた。
その金色に輝く瞳を。
そう、梨璃も、麗も。神子は皆、右目に龍を宿す。
それは始まりの神子が。
龍より分け与えられし眼――魂とある。
さおりは包帯の中――失った右目をそっと押さえた。
蘭子さんはそういうことだったのです。ジャンル恋愛を背負う蘭子さん…。
お母さまと伯母様が味方についてくれていて、無事に家出できたのを少し省いてますが。
次はお目々の説明に。




