06 友人たち。(姉の方です、再。
「……姉の方?」
まさかそんなと、少女たちが口に手を当てた。驚愕のあまりに口が開いてしまったのだ。
いや、梨璃という少女だけはポカーンと開けている。隣にいた赤毛の優雅な少女が慣れた様子で、お持ちになっていた扇の先で下から支えて閉じられた。
彼女らの様子に、さおりは恐縮するしかない。
ここは神殿の中の神子たちの居住区。
男子禁制――ではないが、基本的に少女たちの住まいであるということで景行は帰られた。本当にさおりの送り迎えの為だけに忙しい中、時間を作ってくださっていたらしい。
「痛む? 歩ける? 抱っこしようか?」
包帯が目立つ目と、腕の骨折だけでなく、袴の下の足、見えないところも負傷中と景行が説明したからか。部屋の中まで運ぼうとしてくれたのは紺色の少女。袴の着こなしといい、若武者と呼んでも違和感のない少女だ。馬の尾のように一つ結びにした髪型が、また凛々しい。何せ彼女は腰に刀さえ。
「だ、大丈夫です」
「あ、ごめんなさい。殿下の前じゃ余計でしたね」
婚約者さんが抱っこしてないのに自分がしてはと、彼女は察したと顔を赤くして笑った。
「い、いえその」
つられて顔が赤くなるが、婚約者じゃないんですと、さおりは心の中で叫んでいた。
「あとを頼みます」
「よろしくてよ。かわいい義弟の頼みです、万事任されませ」
「……かわいいは止めてくれ」
景行は紅色の美人に後のことを頼むとしおりに軽く目線を向けて後にした。
何か言いたげだったが、上手く言葉にならない。
さおりも同じく。お互いに、そんな目だ。
「しおりちゃん、どうしたの?」
二人の様子に不思議そうに綿菓子のような少女が尋ねてくれて、話の入り口となった。
「あの、実は……私はしおりではなく、さおり……姉の方なのです」
神子たちは神殿の奥、一般の参拝客が入れない奥まった場所に住まいがある。
そこは高台にもなっていて、物理的にも隔たりがあった。
神殿は山みたいだなと後から説明されたときにさおりは思ったのだが、まさに小さな山を神聖な場として神殿を作ってあるのだとか。
一般参拝客は麓と中腹まで。
神殿関係者はその上まで。神子たちの住まいもその辺りにあり。
山頂は神子と神官と神殿の上層部、その護衛士。そして皇族しか入れない。
護衛士も階級によって入れる場所が違うのだとか。
「神子だけがお山を自由に」
そんな場所に通されて、さおりは自分が流されるまま、神子しか入っては行けない神殿の中腹に来てしまったことに。今更ながらに冷や汗が出てきていた。
だって、何度「姉の方」と言っても信じてもらえない。
「何言ってるのぉ?」
綿菓子の幼女に、きょとんと尋ねられても。
凛とした紺色の髪の少女と、蜂蜜を混ぜたような艶やかな紅色の優雅な少女も、顔を見合わせている。
「記憶に混濁があるというのは……」
「なるほど、こういう……」
こそこそと話されるが、聞こえている。
まぁ、こんな近くでは。
神子の住まいの共用部の一つ。彼女らが暮らしやすくとされたためか。ソファーと卓が置かれていた。かなり座り心地も良く、高価な代物なのではとさおりは恐々していたが、のちにこれらはこの紅色の少女――蘭子の持ち込んだ私物と聞いて、また恐々した。
「では……さおりさん、の方がよろしくて?」
「あ、はい」
「では、わたくしたちも自己紹介もした方がよろしいわね?」
さおりが記憶喪失だということに三人ともショックを受けた。さすがにそこまでは新聞にもなかったし、知らせもなかった。
大事な友人が一ヶ月以上入院して心配していたのに。帝都の病院に移動になっても面会も許されなかった理由が、「記憶喪失」もあるからかと察しもした。
綿菓子の幼女は「がーん!」と口でもその度合いを表現してくれた。自分のことをしおりが――さおりなのだが、覚えていないことがよほどショックだったらしい。
先ほど飛びつこうとしていたくらい、しおりとは仲が良かったようだ。
「うえっ、えっ……梨璃だよう。嘉州梨璃ぃ。しおりちゃん、大変んんん」
「高清水麗。麗で良いですよ。今までもだったし。ほら、梨璃ちゃん。鼻チーンして」
「……花御堂蘭子ですわ」
しおり――さおりが自分のことを忘れていることに梨璃は顔からだせるものすべてだして悲しんでいた。
こんな幼い子も神子で、しかも大神殿の神子なんだなと、さおりは驚いていたのだけれど。
「そうやって甘やかさないのよ麗! 梨璃、貴方もう十七になるのだから! 麗の方が年下でしょう!?」
……しばらく、聞き間違いかと思った。
綿菓子の幼女はさおりより、年上だった。
しかも……。
「そんなので本当に嘉州伯爵家をお継ぎになるの?」
……しかも、高位貴族だった。
梨璃ちゃんのイメージはビションフリーゼ…の、仔犬。




