05 「……何しに来たんだろうね?」
「あら、退院って今日でしたのね」
彼女らに遅れて華やかな一団も現れた。
金色にも見える淡い髪をした、両目とも金の眼をした美しい少女を先頭に。
「無事にお帰りで、お喜ばしいこと。さすが田舎の方は滝つぼに落ちても頑丈ですわね」
「あ、はい。ありがとうございます」
さおりは無難に礼をいうことにした。
けれども先に来た三人と、景行が少しばかり強張る空気を。
それは怒りを。
そう、この美しい少女は「喜び」と言ったのだ。
新聞でも、神子しおりの家族が亡くなったことを報じている。
神子もこの大怪我――だというのに。
「……あら」
さおりのさらりとした様子に、少女は微笑みを浮かべた。
さおりには記憶がないからそんな反応だったのだが、思った以上に堪えていないことが彼女には予想外だったようだ。
「さすが神子筆頭ですこと」
そしてさおりが首を傾げることを口にした。褒めるようでいて、馬鹿にするような、器用な雰囲気で。
けれど、さおりがどんな反応を彼女にしたらいいかと悩んでいるうちに、綿菓子の少女が――言った。
「舞香ちゃん、いぢわるぅー」
直球。
こういうときの幼な子ほど、無敵はいない。
ぶふっ、と押さえていた紺色の髪の少女が吹き出し、紅色の少女ももっていた扇で顔を隠して震えている。
「な、な……っ……」
ぶーっ、と唇を突き出した幼な子に己の底意地の悪いところを明らかにされた金の少女は、怒りからか、それとも意地悪している自覚がなかったのか、顔を赤く怒りに染めていた。
「ぶ、無礼ですよ!」
「どちらが、だ?」
少女に侍っていた一団がその様子に声を荒げるが、さおりをかばうように前に出た皇子に問われて怯んでいた。
「神子に対して、どちらが無礼だ?」
そう、さおりだけでなく、素直な反応をした綿菓子のような子も、また神子なのだ。
「本当のことを言われて怒るだなんて、あらあら、なんて幼い子のよう。なんて可愛らしいことかしらぁ?」
とどめは紅色の少女が言った言葉だ。
幼いと、明らかに綿菓子の子と比較したのだ。そしてお前こそ言動が幼いと、馬鹿にして。
「さすが蘭子さん」
紺色の少女が小さく賛美をつぶやいたことに、さおりも小さくうなずいてしまっていた。
さあ、相対する金の少女はどう来るか。
皆が固唾を飲みこむ数秒があった。
「……景行さま。よろしければお茶でも如何でしょう? 良い茶葉がございますの。最近はお忙しそうですもの。少しでも癒されましてよ?」
金色の少女の選んだのは、返事を無視することだった。
紅色の少女はそれを鼻で嗤う。
――強い。
「悪いが婚約者のしおりを送ってきただけだ。本当に忙しい」
「婚約者」と「しおり」を妙に強く発音された。言外に、お前との時間は無い、と。
「そ、そうですか。では、またお誘いいたしますね」
彼女は引き下がることを選んだようだ。
その様子にさすがにさおりも察した。彼女は景行に対して好意があったのだろう。
彼が自分を送ってくる情報をどこぞから仕入れ、隙あらば――と。出陣してきたはずが。
「あら、それならばわたくしたちがご相伴いたしましょうか?」
さらに追い打ち。
紅色の少女はかなり強者である。
「はいはーい! 梨璃も良いよぉ?」
追撃まで。
ひくりと、金の少女は微笑みをひきつらせた。
「結構よ!」
そして彼女は――帰った。
「……何しに来たんだろうね?」
困ったように最後につぶやいた、紺色の髪の少女の言葉がすべてであった。
さおりは、実のところ呆気に取られていた。
彼女たちのことがまったくわからないところにいきなり喧嘩を振られたと思ったら、代打が打ち返してくれた。
あれよあれよと言う間に。
記憶喪失の彼女に、ポカーンとするなというのが無理だろう。
けれども、さおりにもわかる。
今はこの言葉だ。
「ありがとうございます」
どうやら妹は、良い友達に恵まれていたようだ。
悪役令嬢枠ぽい子も登場です。
赤青白黃、そして黒の主人公です。わかりましたかな?




