04 この国の神は、龍。
この国の建国に関わる話だ。
龍。
千年昔。何処より訪れた龍は、この国を護ると約束をした。
その引き換え。条件は。
龍が安らかに眠れるようにすること。
それは歌。
――神子による子守唄を。
そしてその神子の一人がしおりなのだ。
地方神殿にいたしおりは、いつの間にか都のこの大神殿に移動になっていた。
神殿。
龍殿とも呼ばれる。
この国の神は龍だからだ。
神子の支給されている普段着は流行りを取りいれた神子により羽織袴だが、その背中と袴の結びには神殿の紋章を刺繍されている。肌寒いときや外出時に掛ける上着の襟など、あちこちにもだ。
「……龍」
さおりは無意識に無くなった右目を押さえていた。
叔父さんは神殿への途中、遠方行きの馬車の出る駅にて別れた。
「私、体質なのかあんまり転移の門は得意じゃなくてね……」
「ああ、酔ってしまう方もいますね」
「はい、料金も安いですし数時間なら馬車を使います。すみません」
「いえ、体質ならば仕方ありませんよ。お気になさらず」
皇子は転移門を叔父に奢ってくださる用意もあったようだが。
これからまた一度、自分の今までの職場へ挨拶に行ってから、篠山子爵家へ向かってくれるという。
「そういえば……兄たちは何故転移門を使わなかったのだろう?」
彼らも同じように転移門が苦手だったのだろうか。
それに時には事故も起きる転移門を嫌うものもいる。
大事な神子を安全に神殿に帰さねばと思って――その上で転落事故ならば、哀しいことだ。
「叔父さまもお気をつけて」
そのあたりの記憶がないさおりは、また何も言えない。察して真三は微笑んだ。痛ましいと、思いやる微笑みだ。
彼は引き続き両親やさおりの荷物の片付けをしてくれるという。
「何か形見に欲しいものはあるかい?」
尋ねてから、叔父も悩まれた。
互いに子爵家で暮らした記憶がない。片や現在記憶喪失中で、長いこと神殿預かりとなっていた神子と。同じく実家にあまり帰ることがなかった叔父だ。
記憶喪失は間違いないさおりは、篠山家になにか思い入れがあるかと尋ねられてもピンとこない。
「何かみたら思い出すでしょうか?」
逆に尋ね返されて叔父と皇子が顔を見合わせたくらいだ。
「何か見繕ってくるよ」
発掘は、見つけることは仕事柄得意なのだと、叔父は優しく微笑んでくれた。
「皇家と神殿からも手伝いにひとを手配します」
「何から何まで、ありがとうございます」
篠山家は一度国に爵位をお返しするが、代わりの方が治めるか、それとも近隣の領主に領地を切り取って管理を任せるかとは、まだ決まっていないそうだ。
当面は国が管理するが――この皇子さまが婚約者の実家だから様々な手配をしてくださっていた。
そう、婚約者。
叔父が駅で別れて、その婚約者と車内は二人きりになった。
「……。」
「……。」
落ち着かないまま、車はあっという間に神殿に着いた。叔父が言っていたように、速い。
車が停められたのは一般の参拝客たちよりも奥。
さおりが降りてから気がついたが、車には神殿の紋章があった。その黒塗りの高級車は明らかに一般客が停められない場所に。
「……さぁ」
そう言って、先に降りた景行がさおりに手を伸ばす。
その手にきょとんとしていたさおりは、顔を赤くした。降りるのを手伝ってくれるのだとようやく思い至り。
「あ、ありがとうございます」
妹の婚約者さんに照れてどうすると、心の中で自分を叱りつけて。
けれどもまだあちこち痛い身体には手助けはありがたく。
景行はそのまま、さおりの左側に立って杖かわりになってくれた。右腕側もさりげなくかばわれていると、ゆっくりと気がついたのは、その「綿菓子」が突進――駆けつけてきたからだ。
「しおりちゃーん!」
いや、改めて綿菓子が突進してくる。
そう思ったさおりはちょっと失礼だった。
その綿菓子は真っ白いふわふわとした髪をした小柄な幼女だったからだ。人間の。
「待て、抱きつくのは待て!」
「相手はケガ人よ!」
大型犬が飼い主に飛びつくが如くと、あとから追いかけて来てくれた二人の少女たちがその綿菓子の幼女を止めてくれた。
「お、追いついた……」
背の高い方の少女が、綿菓子の襟首をつかみ、羽交い締めにして止めてくれた。でなければ突進して――さおりはまた病院にまわれ右だったかもしれない。
景行がそっとかばうように立ってくれていたことにさおりは気がついて。軽く頭をさげた。
「……いや」
当然のことをしているから気にするなと景行はさおりに言うが、さおりにしてみたら人違いされたまま親切にされているのだ。
まったく居心地が悪い。
「やー! 麗ちゃん、離してー!」
「ちゃんと落ち着けるならば! 抱きついちゃ駄目!」
背の高い紺色の髪の少女ががっしりと止めてくれているが。綿菓子の幼女はバタバタと手足を動かしてる。
「まぁ、梨璃の気持ちもわかりますわ。ちょっと実家に呼ばれたから行ってきますと出かけたら、一ヶ月近く帰ってこないわ、連絡もないわ。薄情ではなくて?」
全力で走ってきた息を整わせながら、それでも優雅さをまとう艷やかな紅色の髪の少女がじろりとこちらを。その視線でそれはさおりに向けられた言葉だと、少し置いてハッとした。
「あ、す、すみません」
「まぁ、大事故に遭われたのだし……お察ししますわ……」
痛ましいと優美な少女は目を伏せた。
さおりが事故に遭い、家族も失ったことをこの少女たちも知っているのだ。さおりが新聞で知ったように。
この少女たちも神子なのだ。
しおりと仲の良かった――妹の友達。
――三人とも右目が。
ぎぐしゃくという効果音の二人。
何故か初々しいw
鉄道は訳あってない世界です。
その代わりに魔術魔法はあります。五行あれこれ。転移門は別回に説明予定。(ファンタジーお約束だからむしろ説明いらないような気もする…)
龍もいます。しかも神様です。
そんな世界感で参ります。
女の子たちに羽織袴着て欲しかったが、今回和風に挑戦している理由…良いですよね、袴!
あと、ペンギンとドラゴンの方とちょっと変えて互いに書いて行きたくて。




