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龍は唄う 神子と子守唄を  作者: イチイ アキラ


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03 叔父さんと姪。


 当初の予定よりずれたが、さおりは退院して神殿へと向かうことになった。

 向かう――帰る。

 神子として「帰る」と皆は言うが、さおりはどうして皆が自分のことを妹であるしおりと勘違いするのかがいまだに不安しかなく。

 そしてその迎えはやはり第三皇子様が来てくださった。


「……すみません」

「……いや」


 車内の中で会話がない。


「車はやはり速いねぇ。そして揺れないねぇ」


 叔父さんが同乗してくれていて良かった。

 そう、お迎えは最近都にて走り始めた自動車だった。

 馬車は嫌だろうと気を使ってくださったのだ。

 さおりには馬車に乗っていた記憶すら、本当はないのだが。


 帝都は外つ国の技術がこんなにも進んでいるんだなと、叔父が驚いていたのだという。彼は考古学者だから、むしろ古いものには詳しかったのだけれど。

 彼は考古学と民俗学を両方修めている珍しいタイプなのだとか。

 彼は家の後片付けを引き続きしてくれている。

「しおりはまずはケガを治しなさい」

 確かに今のさおりには遠出は無理だ。

 彼自身は学者として生きる道をすでに選んでいた。だからこの第三皇子様が手助けしてくださっているとも。


 子爵位は国に返すことになった。

 さおりは入院中に叔父に相談され、自分が継ぐのは無理だと、答えていた。


 何せ子爵家で過ごし、学んだ知識も経験も――思い出も、ない。


 事故で失ってしまった。

 さおりが篠山子爵位を継ぐのは、叔父以上に無理だと思った。

 叔父は叔父で、彼は領地のあれこれは自分には解らない。申し訳ないと謝りぱなしだった。


 さおりが聞くには、叔父と父は仲が良くて。いや、父が何かと叔父を助けていたらしい。


「年が離れていたのもあったからねぇ。幼いころからかわいがってくれていたよ」


 どうりで。叔父はまだ三十路入ったばかりだとか。

 父は幼いころから歴史や考古学が好きでその道に進みたい弟を応援してくれていたのだとか。

「子爵家の後見があると、ずいぶん助かることもあったよ」

 考古学はやはりそれなりに大変らしい。

 ちっとも家に帰らない叔父を、家のことはまったく気にしなくて良いとすら。よって叔父は篠山家の領地のことはさっぱりだったのだ。


「姪の一人が神子になっているとは聞いてはいたのだけれど……」


 兄家族に正月くらいしか会っていなかったのだ。それも毎年ではないといったほどの。でもそれも父が赦していたのだとか。

「生存のためにたまに葉書はと言われていたから、それで連絡は……」

 父はずいぶんと叔父を自由にさせていたようだ。

 だからさおりは叔父のことを詳しくなかったのかと。

 叔父は今まで好きな学問の道を歩ませてくれた兄に感謝をしていて、これからは生き残ったしおり(・・・)のことを大事にすると泣いていた。


 何度か「さおりなのです。姉の方の……」と言っても、叔父はかわいそうにと泣くばかり。

「事故のせいで、記憶が混濁しているんだねぇ」

 と、医者に言われたことを信じてしまわれて。


 篠山真三(しのやままさみ)


 それが叔父の名前だと教えられても思い出せなかったさおりだから、どっちもどっち。

「叔父さんは、帝都で教職に就くことになったから。今度からは近くにいるからね」

 大恩ある兄の忘れ形見がもはやさおり一人。

 兄に今まで好きにさせてもらった分、これからは自分が何かと護るからと。叔父はさおりが住まう神殿のある帝都に、彼も住むことにしたのだとか。

 神殿の後見がある神子とはいえ、親類がいるといないとではやはり違いもあるだろう。

 しおりは子爵家という身分を失うのだ。

 その代わりにもなれはしないだろうが、わずかでも力になりたいと真三は決意していた。

 それに。

「篠山教授に教鞭をとっていただけるのはむしろ、帝都大の学生たちには光栄でしょう」

 叔父さん、兄に好きに過ごさせてもらっているうちに、その道ではなかなか有名となっていた。

 「篠山真三の姪」という、わずかなりとも力はあるだろう。

 兄の子爵家だけならず、真三にはその仕事により同好の士である友人もいた。何かあれば彼らも姪を助けてくれると、葬儀のときに。だから子爵位を手放すことにも決意した。


 一番の助けはこの第三皇子さまか。

 神子が婚約者になったのは新聞で知っていたが、まさか自分の姪だったとは。

「こちらに戻られる目安がつきましたら、またご連絡を。住まいの用意をしておきます」

「何から何まで、本当に……」

 第三皇子の手引きもあったのだろう。叔父は子爵家の後始末しだい、帝都大の職員寮で暮らし始めるという。

 これまで学んだことをこれからの若者たちに教える道を。

「もちろん調べものには行っていただいて構いません。むしろ今までのように活躍していただけたら」

 考古学の教授とはそういったものらしい。

「その時はちゃんとしおりに連絡してから行くからね」

 涙目で約束してくれた。叔父さんの葉書は今後さおりに――しおり宛てで届くようだ。

「あ、はい」

 思えば自由過ぎたと叔父さんも反省したらしい。

 だからそろそろ腰を据えるよいタイミングだったと、姪の負担にならないように言ってくださった。


「篠山教授が龍についての研究をされていたのは、神子にも良き事かもしれません」

 さおりはそしてまた知らないことを教えられた。知らないと言うより、忘れていると皇子にはため息をつかれたが。

「この国は「龍に護られた国」だと言われているのだよ?」

 叔父さんも子どもに教えるように。これから教鞭を振るう練習になれただろうか。


 この国は、龍の国。

 そしてさおりは――いや、しおりは。


「しおりは龍の神子に選ばれたのですから」

 



 しばらく説明回が続きますが、ついてきてやっておくんなせぇ。

 そしてこのお話を書いているやつがれはドラゴン好きです故に。


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