10 麗かにして強い少女。
「けれど五人も同時期に神子が現れるのは、ちょっと多いらしいね」
麗が説明してくれる。
「候補はだんだんと減ってきたのにね」
だから代わりに、普通に働き手を募集したりして、神殿はなかなかの優良な就職先なのだとか。
ちなみに護衛士たちはかなり厳しい資格試験を受けるらしいのだが。
何より身綺麗さが。
神殿が神子を頭に、女性メインである以上なるほどである。
「まあ、時代が平和になってきて良かったて見方もあるよね」
「昔は様々な受け入れ先でしたから、神殿は」
今現在家出中で、神殿に受け入れてもらっている蘭子のように。
神子の候補として神殿に預けられる娘のうち、実のところそうした娘が《龍の眼》を発現させる方が稀らしい。
けれど候補たちの中にも少なからず発現者は現れているから、候補とて大事に。
神子とならない候補はやがて進路を決める。嫁いだり、神殿の下働きや、やがて神官となる準備である。
「まあ、行く当てのない孤児たちも候補として神殿に放り込まれていた過去がまだ残っているのよね」
「神殿のおばあちゃんは昔口減らしされそうになったときに、その時の神子さまに拾ってもらったって言ってた」
「梨璃ちゃん、それ大神官さまだから……」
さおりは覚えていないが、この神殿で神子についで偉いお方なのだとか。
そして満を持して麗の説明になった。
「私もある意味、行く当てが無くなった……て、やつかな? 蘭子さんと同じかも」
高清水麗。
れっきとした「蒼」の名家、高清水家の令嬢であるが。
「私は四女なんだ。女姉妹ばかりの、四番目の末っ子」
そして高清水家は武門の家でもあった。
「男の子が欲しかった父様は、四人ばかり女で、私であきらめたらしいんだけど」
跡取り息子が欲しくて頑張ったが、待望の男児は得られなかった。
「それで私は、父様によって跡取りになれるよう……ね? 男の子みたいに育てられたんだ。名前も本当はもう少し……厳つくなる予定だったみたい」
彼女の若武者のような雰囲気は、そういうことであったらしい。
「名前だけは母や姉様たちが頑張ってくれたんだけど、父様は「麗」って頑なに呼んでいた」
麗。
蒼の家に似合う美しい響きは、母や姉たちの愛でもあるわけだ。
彼女の名前を役所に届け出るときに。姉たちが父を妨害している間に、母が先に役所に駆け込んだらしい。そのとき父がつけようとしていた名前があんまりだったので。「なんて名前だったの?」と幼い頃に麗は姉たちに尋ねたが、聞かない方が良いと皆、微笑むばかり。青筋を立てながら。
当の父も、友人や周囲に女の子にそれはないわぁと散々言われたために、自分には名付けの才がないと、とうとうその辺りは認めたらしい。男の子が産まれたら付けたいと胸に秘めていた名前だったのらしいのだが。
「毎日、武術の修行だったけど……その辺りは、なんというか、嫌じゃなかったんだけどね」
本人の生まれ持った才能もあったのか。
「高清水家の麗様といえば、武芸大会で優勝もされてましたわね」
「子供の頃ですよう」
高位貴族のお家同士。蘭子も麗のことを知っていたらしい。
麗は腰に刀を差している。護衛士でもないが、許可されているという。
いざとなれば護衛士たち不在の場合に、神子たちの護りにと期待されているとあり。高清水家とは、本来それほどの家格の武家であるらしく。
もしかしたら麗は護衛士として神子たちの近くにいる、そんな人生もあったのかもしれない。
蘭子も懐剣を持っていたり、神子の所持はある程度許されている。
何より、神子を傷つけようという恐れ多きものがいるほうが、おそろしいのだが。
けれどもそんな麗がなぜ神子として神殿にいるというと。
「父様の隠し子が……お妾さんに男の子が産まれてね?」
……あー。
そんな空気が部屋に落ちた。
「父様がその子を跡取りとして引き取るとしたものだから、さすがに母様が怒っちゃった」
でしょうね。
母にしてみたら女の子なのに今まで厳しく武術を鍛えていたのは何のためだったのか、となる。跡取りと決めたから、口出しもあまりしないで我慢していたのに。
男児が産めなかったことを悪いとも思っていたから……なのに。
女の子なのに。稽古でついた傷を治療するたびどれほど泣いただろうか。跡が残ったらとどれほど心配しただろうか。
しかも隠し子――浮気。
「私は武術も鍛錬も嫌いじゃなかったんだけど、そういうことじゃないって姉様たちに口ふさがれてた」
「お姉様たちが正しいわ」
「梨璃もそう思うー」
「……私も」
さおりもうなずいた。
「そうこうしてけっきょく、父様は強引に弟も鍛え始めたんだけど、弟はあんまり身体が丈夫じゃなかったり、才能もあんまり……そうしたらやっぱり私が跡取りに、とか言い出しそうで……ばたばたして」
……ああー。
空気がさらに重たく。
「お妾さんも父様が酷いと、なんか怒っちゃったし……」
お妾さんもやはり我が子が可愛いかったのだろう。
「母様が離婚して私たちを実家に連れて帰ると言えば、そうしたら今度は父様が離婚は許さないとか、私だけ置いていけとか、なんかいろいろあって」
そんなばたばたしているうちに、麗に《龍の眼》が発現したらしい。
「そうしたら姉様たちに神殿に行った方が良いと……それで」
今ここ。
それが高清水麗の理由。
そしてこれにて神子たちの自己紹介となった。
これにて大まかな説明終了。ついてきてくれました?
麗さんはゴエモンとかゴロベエとか、そうした名前をつけられるところでした。ある意味キラキラ…逆キラキラ…。




